ペルーにおけるペスト発生

汎米保健機構(PAHO) 2010年8月04日

本年第28週(7/12-7/18)の間に、ペルー保健省はLa Libertad県、Ascope郡、Chocope地区で29歳の肺ペストの患者を確認しました。この患者には腺ペスト病変はありませんでした。その後、引き続き3例の患者が確認されました。この3例は迅速検査で、ペスト菌感染が確認されました。

第30週(7/27-8/2)の時点で、17例のペスト患者が確認され、このうちの4例が肺ペストで、12例が腺ペストでした。そして、1例の敗血症ペスト患者が死亡しました。最後に肺ペストを起こした症例は7月11日に発症しました。調査によって、10種のペスト菌(Y.Pestis)がヒト、げっ歯類、家猫で検出されました。

Ascope郡で最後のペストのアウトブレイクが報告されたのは、2009年8月から9月にかけてで、Casa Grande地区のSanta Clara地域で起こっています。この際には、15例の報告があり、9例が検査室診断されたものでした。

今回のアウトブレイクを制御するため、ペルー国家当局、地方当局は次のような手段をとっています。
・接触者や二次発生に対する積極的調査;接触者に対しては予防的な抗生剤投与を始める。
・医療従事者が対病原体安全処置を実行しているか、厳格なモニタリングを行う。
・臨牀検体の収集および処理について、検査室のネットワークを強化する。
・環境整備計画を実行する。
(情報源:ペルー IHR - National Focal Point)
この状況を鑑み、汎米保険機構は動物間感染のフォーカスに対する積極的なサーベイランスを強化する必要性について、注意を呼び掛けています。またこのようなフォーカスから病原体が播種されるリスクを減らすために、環境整備計画の準備をし、実行することを呼び掛けています。

はじめに

ペストは依然として自然界に病原体が存在する場合、公衆衛生学的な脅威となっています。ペストは主として農村地帯の疾患ですが、都市部でもアフリカのいくつかの国ではアウトブレイクを起こした報告があります。このため都市部での感染のリスクを過小評価してはなりません。
WHOによって行われた2004年から2009年にかけてのペストの症例記録をレビューしてみると、この期間に世界中では12,503例のペスト症例が見られました。そのなかでアフリカ、アジア、アメリカの16の国で843例の死亡が見られています。このうち、アメリカ地域に関連したものは1.2%で、症例死亡率は4.4%でした。この期間に症例記録のあるアメリカ地域の国は、ペルーおよびアメリカ合衆国です。
国際保健規則IHR2005によって、肺ペストは付加条項2決定過程によって評価を受けなければならない事態の一つと位置づけられています。これはこの疾患の公衆衛生に対する重大な影響と、この疾患が急速に世界に拡散する可能性があることによっています。

検査室診断

ペストの診断および確認のためには検査室診断が必要です。確認診断は患者からの検体を培養することによって、ペスト菌を分離し、同定することで行われます。この疾患の臨牀表現型によって、検査をしなければいけない検体は、腺ペストの吸引物、血液、あるいは喀痰などが考えられます。
ペスト感染は疾患初期と後期に採取された血清を検査することで確認することもできます(セロコンバージョン)。
現在、迅速検査も施行可能で、患者にペスト菌が存在するかどうかを早急に検査しなければならない場合に有効です。

患者治療および医療施設での感染防御手段

早期の診断と治療が、合併症と死亡率を減らすために重要です。適切な時期に診断すれば抗生物質治療と支持治療で患者を治癒させることができます。
肺ペストの場合には、患者を隔離することが推奨されます。治療開始後48時間までは、この注意を守らなければなりません。
医療施設での感染を防ぐために、通常の注意事項を厳密に実行することが強く推奨されます。この中には、手指を石鹸と水、あるいはグリセリン含有アルコールで洗うこと、そして粘膜や創傷部位に触れる前に、また体液や分泌液に触れる前に手袋を着用することなどがあります。
挿管、心肺蘇生、気管支鏡、手術や解剖といったエアロゾルが生ずるような作業では、感染するリスクが非常に高くなりえます。現場の医療従事者はすべて、飛沫核を防御するように、N95マスクを使用しなければなりません。

推奨事項

・動物間のアウトブレイクに際して暴露の危険性を減らすために、動物間流行のフォーカスについて積極的なサーベイランスを実行し、強化すること。
・その地域のペストの動物間循環に関連しているノミの種類およびその他の動物について同定するために調査を行うこと。
・動物間流行のフォーカスが拡大するリスクを減らすために環境整備計画を準備し、実行すること。
・ペスト症例が発生した場合には、適切な衛生処置、防御処置を講じるために、最も可能性が高い感染型を同定することが重要である。
・ペストの流行が見られている地域では、医療従事者に対して、ペストの臨床症状および症例定義について注意を喚起すること。

ペストについて

ペストは動物間流行を起こしている疾患で、病原体は細菌であるYersinia pestisです。
この疾患は主として、小動物およびそれにつくノミに感染します。人も感染したノミに咬まれることで感染することがあります。これが最も多く見られる感染経路ですが、感染患者との直接接触、病原体の吸入、まれに汚染されたものを摂取することで感染することもあります。ペストは公衆衛生上重大な脅威となります。治療しない場合のペストの死亡率は30%から100%にわたります。
潜伏期間は3日から7日間で、最初は突然の発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、嘔吐や悪心といった、インフルエンザ様の症状で始まります。
これに引き続いて、感染経路によって、ペスト菌感染によって起こる3つの臨牀型が生じえます。
腺ペスト:この病型は最もよく見られる型です。ペスト菌は感染したノミに咬まれることによって、皮膚に侵入し、リンパ系をたどって最も近いリンパ節に到達します。その内部でペスト菌が増殖し、リンパ節の炎症が起きます。これによって、非常に痛みの強い感染進行にともない化膿性病変となる、bulboが生じます。
敗血症ペスト:血流によって感染が拡大すると生じます。通常腺ペストが進行した段階でこの臨牀型に至ります。
肺ペスト:最も悪性の高い病型で、臨床的には少ない病型です。この病型は腺ペストが進行した場合の二次的な播種性病型として見られる傾向があります。また、病原体を含んだ呼吸器飛沫を吸入した結果として生じたり、直接ヒトからヒトへ感染することもあります。治療を行わない場合には確実に死に至ります。

図,報告のあった地域,ペルー,La Libertad県,Ascope群,チカマビーチ