アメリカ地域でのデング熱

汎米保健機構(PAHO) 2010年9月08日

2010年上半期を通して、デング熱の流行状況は非常に危惧されるものになっており、この地域の国の中には、非常に大規模なデング熱のアウトブレイクの起こった国がみられました。気候条件はベクターである熱帯シマカが増殖するのに非常に都合の良いものであり、今年初めからデング熱の季節性が通常みられない変化を見せていることが観察されており、中央アメリカやカリブ海諸国では、デング熱の流行が通常ではみられない期間に起きていることが報告されていました。

現在、中央アメリカおよびカリブ海諸国は雨期であり、この結果、デング熱が以前には問題にならなかったような地域で増加しています。通常気候が寒いために問題がなかったと考えられた地域で問題が生じていること、寒気が訪れるのが遅れている地域があることなどがその理由として挙げられます。
これに加えて、特にデング熱の土着流行地域では公衆衛生上のインフラストラクチャーが整っておらず、例えば水の供給が不安定なため不適切な方法で貯水していたり、地域の衛生状態が悪く、プラスチック製のごみ箱に雨水がたまっていたり、使用済みタイヤが適切に廃棄されず多量に放置されることなどが起きています。前述した問題に加えて、このような条件が熱帯シマカの増加を招いており、これによってデング熱の出現や、その流行拡大を起こしていると考えられます。
この流行警報によって、PAHOおよびWHOは、この地域の諸国に対して、デング熱を制御するための手段を強化し、より組織だった対応をとり、それらを協調して行うことにより、疾患制御の努力が大きな成果をもたらすよう求めます。保健部門はデング熱による患者死亡が起きないように、ベクターの制御手段を強化するとともに、デング熱の診断や治療に対してあらゆる努力を払わなければなりません。このような対応は、総合的な方法によって解決策を提供すべきである、という原則に基づいて行われなければなりません。つまり、ある部局だけでなく、すべての保健機関、保健関連省庁、NGO、個人組織、一般市民のすべてを含む、包括的な努力によって解決策がもたらされるべきです。
同時に、デング熱の予防や制御を進めるために、国家的統合的戦略を実行する努力を続けるように、最も弱点があると考えられる部分を強化するように地域各国に強く求めます。PAHOおよびWHOは、各国に対して地域のデング熱アウトブレイクの予防および制御のため、デング熱専門家グループ(国際GTデング熱専門家グループ)を介して、特に疫学的サーベイランス、ベクター制御、臨床管理、検査室診断、環境および社会的コミュニケーション、リスクコミュニケーションについて援助を提供しつづける予定です。
疾患およびアウトブレイクの状況を直ちにPAHOに提供することにより、PAHOは感染が起きた国に十分対応できるように、いち早い国際協力を促すことができます。
このアメリカ大陸でのデング熱アウトブレイク更新情報は、PAHOの加入国の保健省によるPAHO/WHO対する文書通告か、ウェブサイトへの掲載情報からえられたものです。
この報告書の日付までに、この地域の各国でのデング熱症例の総数は、1,432,410例で、そのうちの30,820例が重症例でした。全部で710の死亡例が報告されており、この地域での症例の致死率は2.3%でした。
デング熱発生地図は、第34週の時点での国別累積感染症例数を示したものです。現在のところ、活動性の感染がみられる地域は、メキシコ、中央アメリカ、カリブ海です。

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中央アメリカおよびメキシコ

コスタリカ
症例数:2010年第33週までに、コスタリカ保健省は20,675例のデング熱症例を報告しております。この国で2010年第1週から第33週の間に報告された症例数は、前年度の同じ時期に比べて621%増加しており、過去の30週以降は症例数の減少がみられています。しかし、各地域で状況は均一ではなく、地域よってまた地域内でも差が見られています。
重症度: 10例の重症デング熱が報告されております。デング熱が死因となった可能性がある症例が4例あり、Abangares地域、Santa Cruz地域、Liberia地域にそれぞれ1例でした。この地域で現在調査が行われています。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3
流行地域:Chorotega(Cañas, Carrillo, Abangares, Santa Cruz), Pacifico Central(Peninsula, Canton de Puntaneras, Rural), Central Norte(Alajuela), Huetar Atlantica, Central sur, Brunca地区で全症例の98%を占めています。
エルサルバドル
症例数:2010年第33週までで、エルサルバドル保健省は18,082例のデング熱症例を報告しています。このうち7,558例は検査によって確定されたものでした。
重症度:検査によって確定した重症デング熱症例は91例でした。今のところ致死例は報告されていません。
流行している血清型:DEN-1, 2
流行地域:健康システムによって確認されたところ、症例罹患率が最も高かったのは、Santa Ana(270.7), Chalatenango(261.3), Cabañas (256.4), Oriente de San Salvador(239.7), Cuscatlan( 235.4), La Paz(195.3)でした。
対応:雨季になって熱帯シマカの幼虫指数(larval index)が増加するリスクが高くなっています。蚊が生育する環境をなくすように制御をおこなっており、また、諸施設による「施設間健康コミッション」の協力のもとに、流行の追跡調査が現在行われています。8月26日木曜日。エルサルバドル国民は、法律で制定された「デング熱国民デー」を開催しました。また同じ週に、この国の17の基本健康システム改善センター(SIBASI)が、蚊の生育環境および制御に関する動員活動を催しました。
グアテマラ
症例数:2010年第33週までにグアテマラ保健省は11,873例のデング熱症例を報告し、このうち1,939例が検査で確定されたものでした。
重症度:123例の重症デング熱症例が確定しており、25例が死亡しました。重症化率は20%です。
対応:感染が起きている自治体のほとんどで、ベクターを制御するための活動が続いています。8月にはPAHO/WHOは患者ケアの領域で技術援助を提供しました。保健省は医療従事者に対して、デング熱患者管理のため、訓練を続けています。また、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルの保健省によって、国家間でのデング熱制御協力を目的とする会議が催されました。
ホンジュラス
症例数:2010年第33週までにホンジュラス保健省は、この国の歴史で最大となる53,796例のデング熱臨床症例を報告しました。第19週から第29週にかけてデング熱は指数関数的に増加する傾向を示しました。その後、2週間は同程度で持続し、ここ3週間は減少傾向にあります。
重症度:1,791例の重症デング熱例が確認されており、60例が死亡しました。症例死亡率は3.3%です。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3, 4
流行地域:Metropolitan area of the capital district28,114 (52%)、Metropolitana SPS(San Pedro Sula) 5,121 (10%)、Olancho 5,111 cases (10%) およびCholuteca2,641 cases (5%)、El Paraiso2,043 cases (4%)
これらの4地域で症例の81%を占めています。
対応:6月22日のホンジュラス政府による国家非常事態を宣言の後、アウトブレイクに対する制御手段が強化されています。PAHO/WHOのホンジュラス地域事務局は、2010年3月にホンジュラスに派遣されたデング熱対応チームの行った勧奨に基づいて援助を行っています。
この2か月の間に組織管理、リスクコミュニケーション、昆虫学、検査、患者管理に関して、恒久的な援助がおこなわれています。
現在、PAHO/WHO GTデング熱専門家による、重症デング熱患者管理についての新たな支援対策のために、Ernesto Pleites医師が来訪予定です。
メキシコ
2010年第32週までにメキシコ保健局は57,971例の臨床デング熱症例を報告しています。
重症度:2,520例の重症デング熱確定症例があり、20例の死亡が報告されています。疾患死亡率は0.79%です。
流行している血清型:DEN-1, 2 このうちDEN-2が優位に流行しています。
流行地域:最も感染者の多い州は、Guerrero, Yucatan, Quintana Roo, Colima, Jaliscoです。国全体での確定症例数は、昨年および一昨年に比して少数ですが、過去5週間は増加傾向をみせており、この国で最も強い流行がある時期の症例数と同等です。
対応:ベクター制御、環境整備、地域住民の啓蒙が現在行われています。
アメリカ合衆国(フロリダ)
症例数:2009年フロリダ州モンロー郡キーウェストで27例のデング熱土着発生例が確認され、DEN-1型によるものとされました。フロリダで最後に土着性のデング熱流行がみられたのは40年前のことでした。2010年8月13日に、保健当局は再度26例の土着流行例を確認しました。今回はこのうち3例にDEN-3型が分離され、そのすべてがフロリダ州モンロー郡キーウェストの症例でした。
流行している血清型:DEN-1およびDEN-3
重症度:すべてのデング熱と確定した症例に合併症はみられませんでした。
対応:ネッタシシマカ、ヒトスジシマカが生息しており、フロリダで多数のデング熱患者がみられていることから、感染サイクルが持続している恐れが強くなっています。現在とられている対策は、ベクターの制御および地域住民に対する啓蒙活動です。

アンデス地方

コロンビア
症例数:2010年第33週までに、国家サーベイランスシステムには全部で126,378例のデング熱疑い症例が報告されました。この中で59,350例が検査で確定されたものでした。
重症度:これらの症例のなかで8,422例が重症デング熱で、そのうちの4,370例が検査で確定されたものでした。デング熱によって死亡したとされる症例は149例で、その他31の死亡症例で、現在調査が行われています。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3, 4 DEN-2が優勢です。
流行地域:国全体のレベルで、流行曲線は流行閾値を越えています。しかし、この10週は減少傾向にあります。流行第33週に症例の増加傾向があるのは、Antioquia, Barranquilla, Cartagena, Sucre州です。
対応:ベクター制御が現在も行われています。
ベネズエラ
症例数:2010年第31週までにベネズエラ保健省は全部で68,753例のデング熱症例を報告しました。症例数は流行とされる閾値を超えていますが、21~31週にかけて落ち着く気配をみせており、多少減少しています。
重症度:6,418の重症デング熱症例が確認されています。保健当局からは致死例の報告はありませんが、2例について現在調査中です。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3, 4 DEN-2が優勢です。
流行地域:国全体の罹患率は人口100,000に対して238.4です。しかし13の行政地域(Amazonas, Merida, Tachira, Monagas, Nueva Esparta, Miranda, Trujillo, Guarico, Barinas, Federal District, Apure, Lara y Aragua)ではこれよりも高値です。
対応: PAHO/WHOとベネズエラ保健省の間で技術援助協力が引き続き行われています。

アメリカ大陸南部

ブラジル
RoraimaでDEN-4が分離:2010年7月30日、Roraima保健長官は、健康サーベイランスおよび監視事務局にDEN-4によるデング熱疑い症例について注意を促しました。この症例はこの週の首都であるBoa Vistaでの土着症例で、ウイルスサーベイランスレファレンステストユニットで確認されました。診断は最初にRT-PCR法およびウイルス分離法によって、Roraima中央試験所で行われ、Evandro Chagas Instituteで確認検査が行われ確定しました。長年にわたってブラジル国内でDEN-4がみられていなかったことを考慮すると、この症例がデング熱流行の中で大きな意味を持っていることがわかります。
対応:9例のDEN-4土着流行症例の感染経路を疫学的に調査したところ、8症例が州都であるBoa Vistaに、1例がCatoで生じていました。患者の平均年齢は23歳で、すべて合併症がない症例でした。
症例が検出されたBoa vistaおよびCanto市街地での、地域住民に対する情報提供、疫学的サーベイランス、ベクター制御などが行われています。1984年以降DEN-4はブラジルでは検出されていませんでした。一方、その他のアメリカ各国、アルゼンチン、コロンビア、ペルー、ベネズエラ、プエルトリコ、ドミニカ共和国、ホンジュラスなどではDEN-4の流行がみられています。

スペイン語圏カリブ海諸国

プエルトリコ
症例数:2010年第31週までにプエルトリコ保健局は9,719例のデング熱症例を報告し、その4,811例が検査診断されたものでした。流行曲線によると、アウトブレイクはさらに増加傾向にあり、まだプラトーに達していません。
重症度:27例の重症デング熱がみられ、このうち8例が死亡しました。
流行している血清型:DEN-1, 2, 4
対応:健康局は引き続き制御活動を行っています。また、住民に対しては、ベクター制御に有効であると考えられる防御方法の指導を行っています。
ドミニカ共和国
症例数:第33週までにドミニカ共和国保健省は8,587例のデング熱症例を報告し、その後4,288例が検査診断で確定したものでした。
重症度:729例の重症デング熱が確定しており、このうち38例が死亡しました。疾患死亡率は5.2%です。
流行している血清型:DEN-1, 2, 4
流行地域:症例報告が最も多いのは以下の13の州です。Santiago, Santo Domingo National District, San Cristobal, La Vega, Espaillat, Monte Cristi, Monsenor Noel, Puerto Plata, Salcedo, Peravia, Duarte, Valverde。発生数が国全体の傾向を上回っているのは、頻度の高い順に、Monte Cristi, Salcedo, Santiago, Espaillat, San Jose de Ocoa, Monsenor Noel, Peravia, Hato Mayor, Da jabon, La Vega, Valverde, Puerto Plataです。
対応: すべての州で、事態の重要性を知らせ、ベクターの生育環境をなくすために、一戸ごとを対象とするキャンペーンが行われています。Santo Domingo州および首都地域では、7月から通り、教育施設、ショッピングモールで教育用のパンフレットが配布されています。5つの州で地域社会ネットワークが形成されており、その規模は達成目標の50%に至っています。現時点で、症例数の多い州で昆虫学的な調査が行われており、12の州で収集されたデータが解析されています。この国のすべての基礎教育、中等教育の学校で、保健省および文部省の賛同の上、蚊発生場所撲滅デーが、教師および生徒を対象に設定されました。デング熱死亡症例については、監査検討会が開かれています。今週、デング熱評価に対するデング熱専門家による技術援助が、保健省と共同で行われます。

フランス語圏

要点:アンティル諸島地域疫学部門(La Cellule d'Epidemiologie interrégionale des Antilles(CIRE))が疫学ニュースレターで、フランス領ガイアナ、グワドループ、マルティニークでデング熱アウトブレイクについて報告しました。
グワドループでは33週までにデング熱の疑い症例36,000例が報告され、4,400例が検査室診断されました。入院を要した症例は297例でした。DEN-1およびDEN-4が現在流行しており、5例の死亡が報告されています。
マルティニークでは33週までに29,200例のデング熱症例が報告されており、そのうち1,593例が確定症例でした。入院を必要とした症例数は401例で、今までにデング熱により12例が死亡しました。流行している血清型はDEN-1, 4です。
ガイアナでは32週までに8,100例のデング熱が報告されており、そのうち2,200例が確定症例です。流行している血清型はDEN-1, 2, 4でした。1例の死亡例が確認されています。
対応:健康局は制御活動を引き続き行っています。また、住民に対しては、ベクター制御に有効な防御手段の指導が行われています。

デング熱のアウトブレイクおよび流行制御に重要な技術上のコメント

アメリカ地域で、現在デング熱のアウトブレイクが生じ、デング熱の予防及び制御に体制を強化している国があることを踏まえ、私たちは次のような技術的要素について考慮するように推奨します。
○デング熱は根本的には地域衛生環境の問題です。蚊が生育できる環境をなくすことが最も重要です。
○感染リスクのある地域を特定し(リスクの階層化)、人の密度が高い地域(学校、駅、病院、健康施設など)に対して、優先して対処する必要があります。少なくとも直径300メートルの範囲で蚊を撲滅する必要があります。
○活動性感染がある地域では、生息している蚊成虫を殺虫剤散布で殺し、感染を断ち切ることが非常に重要です。
○成虫に対する殺虫剤散布(燻蒸)を効果的に行うため、非常に重要な要素としては、次のようなものがあります。
・適切な殺虫剤、その構成成分を選ぶこと、そして殺虫剤に対する蚊の感受性について知っておくこと。
・配合薬剤の薬剤量と調製法をチェックすること。
・スプレーの粒子サイズを確かめること。MVD (粒子の平均直径) 8~15mμが最適であり、それ以外であれば蚊に対する効果がない。
・計画を実行する時間帯は、蚊が最も多い時間帯でなければならない。
・もっともよい気候条件を選ぶこと。降雨時や風が強い場合には屋外で散布しないようにする。
・各自が家屋に殺虫剤を散布することが、もっとも高い効果をもたらす。
・人および蚊から完全にウイルスを除去するためには、7日間の間隔をおいて少なくとも3回、燻蒸処置を行うことを強く勧奨する。
・流行が終わったかどうかを確かめるためには、メスの成虫数の減少率や生存数を評価する必要がある。
・燻蒸計画の施行に誤りがあった場合、都市の未感染地域に蚊の成虫が拡散することになる。
○フィールドワークを実行するに当たっては、局地的な対策や殺虫剤の使用(燻蒸)に際して、行動計画をモニターし制御すること(品質管理)が重要である。
○社会的コミュニケーションにより、住民の目がベクターが主として生育し最も繁殖する場所に向けられるよう、戦略を立てなければならない。朽ちた木材や木屑といった、蚊の生育に関与しないものに時間を費やしてならない。
○ベクターの制御に関して、行動計画が時間的、空間的に適切に行われることによって(熟練者による殺虫剤使用、幼虫制御、衛生管理、コミュニティーによる活動の推進など)、その効果はより大きく、より短時間で出ることになる。
○臨床的かつ疫学的に高水準にサーベイランスを維持していかなければならない。地域住民に対して、重症デング熱の症状について、その徴候に関する情報を広めることが重要である。これによって、診断が遅れて重症化し、死亡に至る可能性を避け、早期に治療することが可能となる。
○治療の諸段階について、デング熱疑い症例あるいは重症デング熱症例に対する適切な管理方法を記した、手順書や最新のフローチャートを準備しなければならない。これは個人による活動にとっても必要である。これによって、直接死亡例を防ぐ効果がえられる。
○対策に必要とされる活動の多くが、他の省庁や組織を通じて行われる可能性があることから、他部門の関与が必要であり、また重要でもある。このような部門には環境部門、教育観光部門があり、また、その他自治体組織として、警察、地方行政機関、消防部門などがある。