アジア、インド洋地域のチクングニア熱の流行状況

情報源:CDC(Travelers'Health:Outbreaks)  2010年12月06日

チクングニア熱についての流行情報

2006年以降、ヨーロッパの一部、アジアおよびインド洋地域ではチクングニア熱の活動性が高いことが報告されてきました。国によっては、チクングニア熱に対するサーベイランスを強化しており、この地域全体で報告される症例数は増加しています。

チクングニア熱は感染した蚊が人を刺すことによって広がる病気です。症状としては、突然の発熱、関節痛(腫れがある場合とない場合があります)、悪寒、頭痛、悪心、嘔吐、下背部痛、そして発赤やかゆみをともない、ある部位からその他の部位に拡がる発疹や皮膚の違和感などがあります。チクングニア熱は、主に、アフリカとアジアの地域でみられます。2007年、イタリアでチクングニア熱の局地的な感染が起こりました。

以下の例は、最近のヨーロッパ、アジア、インド洋地域におけるチクングニア熱の流行について特に記したものです。

2010年9月フランス、プロバンス地方ヴァール県のフレジュス(Fréjus)で、インドに旅行して間もない旅行者が、チクングニア熱を発症したとの報告がありました。同じ月に、さらに2例の患者がチクングニア熱と同定されました。この2例は地域感染症例とみられ、1例目の患者の住居から近いところに居住していました。フランスでは普段チクングニア熱の報告はなかったため、このアウトブレイクは憂慮される事態でした。この地域でさらに積極的なサーベイランス活動と感染制御が行われており、その後チクングニア熱と同定された症例はでていません。詳細情報についてはこちら(フランス語)をご参照ください。

中国からの情報によると、中国南西中央部に位置する広東省で、チクングニア熱の地域感染症例が10例確認されています。これは、中国国内でチクングニア熱が流行した初めての事例になります。さらに、90の疑い症例の調査が行われています。今までに、死亡した症例はありません。この群発症例のすべてが広東省東莞市内の1地域からの報告です。

2009年、マレーシア保健省は4430例を超えるチクングニア熱がみられたと報告しました。死亡例は報告されていません。もっとも感染が多かった地域はSarawak Kedah、続いてKelantan, Selangor, Perakなどの北部の県でした。チクングニア熱の活動性は2010年に入り低下しました。8月28日の段階でさらに751症例が報告されており、主としてSarawakおよびSabahで発生しました。

2009年の間、タイでは49,069例のチクングニア熱の症例報告がありました。2010年のチクングニア熱の活動性は低い状態で持続しています。ほとんどの症例が、この国の南部で報告されています。2010年8月31日の段階で、インドでは14の州から16,870例のチクングニア熱疑い症例が報告されました。ほとんどが、Karnataka, Maharashtra, Tamil Nadu, Kerala, Gujarat州の症例でした。2009年にはインドネシアでも43,000例以上が報告されています。

活動性は限られてはいますが、チクングニア熱の流行は、インド洋にあるフランス領レユニオン島でも持続しています。2010年9月1日の時点で、110例の確定症例と38例の疑い症例が報告されました。ほとんどの症例はSaint-Paulの西部地域で同定されています。健康当局はこの島でのチクングニア熱のサーベイランスを強化しています。

旅行者に対する推奨事項

チクングニア熱になることを防ぐ薬剤やワクチンはありません。CDCはチクングニア熱が報告されている地域に旅行する人に対して、蚊に刺されないように、次のような注意を守るように推奨しています。

  1. (1)屋外にでかける場合や、十分な網戸がない建物の中では、昆虫忌避剤を皮膚の露出部につけてください。日焼け止めが必要な場合には、昆虫忌避剤を使用する前につけてください。
    • 以下の有効成分のいずれかが含まれている忌避剤を使用してください。DEET、ピカリジン(picaridin: KBR 3023)、レモンユーカリの木の油(PMD)、IR3535忌避剤を使用する場合には、必ず添付文書に書かれた使用法を守ってください。
    • 通常、忌避剤の蚊に対する防御効果の持続性は、どの成分であっても有効成分の濃度が高くなると長くなります。しかし、50%を超えた場合、持続時間の延長はあまりみられなくなります。有効成分の濃度が10%未満の場合、1から2時間以下といった短い防護効果しかえられないかもしれません。
    • アメリカ小児科学会は2ヶ月を超える小児について、DEET濃度が30%までのDEET含有忌避剤使用を認可しています。
    • 2ヶ月未満の乳児の場合には、ベビーカーを、すそ部分の伸展性がある、ベビーカーにぴったりと合う蚊帳で覆うようにください。乳児、小児に対する忌避剤の使用については、「乳児小児と安全に旅行するには」の「昆虫およびその他の節足動物に対する防御」のセクション、CDCの「昆虫忌避剤に関するFAQ(小児)」をご参照ください。
    • 昆虫忌避剤についてさらに情報が必要な場合には、ウェブページの「蚊やダニから自分を守るには」をご参照ください。
  2. (2)屋外に出る際にはゆったりした、すその長いシャツやズボンを身につけてください。
    • さらに防御効果を高めたい場合には、衣服に対して、permethrinあるいはその他のEPAに登録されている昆虫忌避剤を含んだ忌避剤をスプレーしてください。(permethrinを直接皮膚に使用しないでください。)

あなたが発熱性疾患にかかり、チクングニア熱にかかったかもしれないと心配な場合には、必ず医療機関を受診してください。この疾患に対する特異的な治療はありませんが、医師は症状に対して治療することができるかもしれません。チクングニア熱になったら、それ以上蚊に刺されないように注意してください。それは、この疾患にかかっている場合、あなたを刺した蚊によって、他の人に疾患が拡大する可能性があるからです。

さらに旅行情報をお求めの場合には、CDC旅行者健康情報「目的地別情報」のセクションから、旅行を計画している国を選んでください。

他の蚊媒介性疾患

チクングニア熱がみられる地域の多くでは、蚊に刺されることによって、デング熱マラリア日本脳炎黄熱などの病気が流行しています。熱帯地域や亜熱帯地域を旅行するようならば、蚊に刺されないような手段を講じなければなりません。

臨床医に対する助言

臨床医の方は、現在、地球規模でチクングニア熱の活動性が高くなっていることを認識しておいてください。チクングニア熱は、発熱、悪寒、全身の筋肉痛などのマラリア、デング熱などと同様の症状で発症する可能性があります。しかし、急性期が過ぎた後にも、チクングニア熱の患者は関節痛や関節炎が長引くことがありえます。このため、医療従事者がリューマチ性疾患の可能性を考え、検査を始めてしまう可能性があります。チクングニア熱による関節痛や関節炎は、数ヶ月間に渡り持続する可能性があります。さらに情報が必要であれば、CDCの「海外旅行のための健康情報2010」の「チクングニア熱」のセクションをご参照ください。

さらに情報が必要な場合

チクングニア熱の潜伏期間(感染してから発病するまでの期間)は通常3~7日ですが、最大幅は2~12日までです。チクングニア熱は通常数日から2週間持続します。しかし、中には倦怠感が数週間持続する患者もみられます。ほとんどの患者は、強い関節痛と関節炎症状を訴え、それが数週から数ヶ月に渡って持続します。症状はデング熱と似ていますが、デング熱の一部でみられる出血やショック症状は、チクングニア熱ではみられません。通常チクングニア熱の患者は自然に回復し、この疾患で亡くなることはほとんどありません。

チクングニア熱に対する治療では、チクングニア熱による症状に対して重点が置かれます。安静にし、水分を補給し、基礎疾患のために薬剤が禁忌でなければ、イブプロフェン、ナプロキセン、アセトアミノフェン(パラセタモール)といった軽めの鎮痛薬を使用することによって、発熱や疼痛などの症状を軽減することができます。入院しなければならないほど状態が悪くなる人はあまりいません。チクングニア熱になった人は、このウイルスがそれ以上伝播しないように、蚊に刺されることがないよう注意しなければなりません。

詳しくは、こちらをご覧ください

チクングニア熱(CDC)についてのデータ
子どもと旅行する場合に(CDCウェブサイト 旅行者健康情報)