警報:アメリカ地域でのデング熱 更新情報
汎米保健機構(PAHO) 2011年2月2日
この警報により、関係各国は、アメリカ地域の現在のデング熱の流行状況について情報を入手し、デング熱に対する組織だった制御戦略に基づき国および地域に対する計画を積極的に実行するようにしてください。
この更新情報は、PAHOの加入国の保健省によるPAHO/WHOへの文書通告か、ウェブサイトの掲載情報からえられたものです。
2010年中に180万例を超えるデング熱症例が通告され、その中の44,656例が重症例で、1,167例が死亡しました。2010年アメリカ地域でのデング熱致死率は4.6%でした。2010年、アメリカ地域のいくつかの国で、過去のデータを上回るデング熱症例数が記録されました。アウトブレイクが報告された国は、ブラジル、コロンビア、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、メキシコ、プエルトリコ、ドミニカ共和国、ベネズエラで、英語圏、フランス語圏カリブ海諸国および他のいくつかの地域でも報告がありました。また、アメリカ合衆国フロリダのキーウェストでもデング熱の地域内流行がありました。
2011年の初めには、ペルーのLoreto県、ボリビアのBeni県で、大規模な財政援助や人的援助が必要となるデング熱のアウトブレイクが報告されました。また、この数週間にわたって、ブラジルでも16州でデング熱がアウトブレイクするリスクが上昇しつつあることに対応して、国家中枢機関によって社会動員キャンペーンが強化されています。
南半球では、1年の前半が最もデング熱の流行がみられる期間と考えられています。前述の3か国でアウトブレイクが報告されましたが、その他の、アルゼンチン、チリ(パスクア島)、エクアドル、パラグアイ、ウルグアイにもリスクがあると考えられます。デング熱はアメリカ各国で地域性流行をしています。アメリカ地域でのデング熱の流行状況は多くの要因によって影響を受けます。これには、環境要因(エルニーニョ、ラニーニャなど)、人の移動、急激な人口増加、ポータブル水・衛生施設などの必要とされる設備への財政投資の不足、アメリカ地域のすべてで観察されている、異なるデング熱ウイルス亜型(DEN1, 2, 3, 4)の拡大傾向といったものがあります。また、加入各国がデング熱に関する通知やサーベイランスを改善させていることも、記録症例数の増加に寄与していることも念頭に置かなければなりません。
PAHO/WHOは、デング熱予防および制御の領域で、総合的な観点から、疫学や症例管理、検査診断、包括的ベクター制御、リスクコミュニケーション、社会動員活動などの重要項目に重点を置きつつ、今後も技術協力を提供して行きます。また、この問題に対しては総合的対応も推進されており、これは保健部門にのみに関連したものではありません。国においては、他の省庁や部門、あるいは私的部門、また一般社会に関しても、デング熱対応の枠組みに参加してもらうことが極めて重要です。われわれは可能な範囲で、デング熱の主要な媒介蚊である、ネッタイシマカに対して自ら対処する責任を持っています。
本年の対策では、患者管理と疾患予防に関する新しいデング熱ガイドラインの配布に重点が置かれるべきです。この新ガイドラインは、死亡例をなくすため、危険徴候に陥らせないことを主眼に、策定されることになるでしょう。
現在の地域内アウトブレイクについて
以下はボリビアおよびペルーのアウトブレイクに関する、更新情報を含むデータです。
ボリビア
分布:デング熱が高率に発生しているのは、9県の中3県、Beni、Cochabamba、Santa Cruz県です。
症例数:2011年4週までに、国全体では1988症例の報告があり、その中の5.8%、115例が確定症例でした。加えて、重症デング熱の疑いがある死亡症例が8例記録されており、全員がBeni県在住者でした。2010年40週から2011年3週までのBeni県の報告症例数は1513例で、66例が確認症例でした。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3
ペルー
分布:2010年51週、すべての保健施設でデング熱症例のサーベイランスが強化され始めて以来、症例増加が加速しています。これはLoreto県の首都Iquitosで特に目立っています。
症例数:2010年51週から2011年3週までに、重症徴候のない症例が533例、重症徴候を示した症例が209例、重症例が13例報告されました。重症例13例は死亡したことが確認されており、そのほとんどが5歳未満の小児で、続いて妊娠女性と高齢者でした。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3, 4 すべての血清型が流行しているため、重症デング熱のリスクが高くなっています。
デング熱の防止および制御に関する推奨事項
2011年には、気象現象としてラニーニャ現象が持続しており、降雨量が増加し、この地域でのデング熱発生のマクロ要因が持続するリスクがあることを考慮し、PAHOは加入各国が、すべての政府機関および非政府機関、また特に地域共同体を巻き込んだ、予防および制御活動を強化し、続けていくように推奨します。
以下はデング熱アウトブレイクの防止および制御について重要と考えら得る推奨事項で、関係各国はこれらを引き続き実行していく必要があります。
- 地域レベルのみならず全国レベルで事前準備した効果的な対応がとれるように、臨床疫学的、昆虫学的に高水準のサーベイランスを行い、症例数増加やベクター増加に関する情報のすべてを、適切な時期に共有する。
- 組織化かつ連携化された方法による、ベクター除去を目的とした活動。
- 重症デング熱の増加が危惧されるが、その際には保健医療設備の迅速な充実化が図れるようにする。これはとりわけ、実験室診断で新しい血清型のデング熱が検出された国や地域で重要である。
- すべての医療従事者のために訓練を行うこと。特に一次医療施設で重要。医療施設の最優先課題は、死亡例の回避である。
- 殺虫剤噴霧設備(燻蒸設備)が適切に操作できるように訓練し、十分な殺虫剤を備蓄する。
- 噴霧処理を行っている場所だけではなく、成虫を対象とする噴霧殺虫処理の期間についても、品質管理およびスタッフの現地作業のモニターを行う。これによって、時間的にも空間的にも、ベクター制御への対応が互いに一致して行われるようになり、より少ない時間で最も高い効果が得られる。
- 社会的コミュニケーション戦略として、夥しい数のネッタイシマカ成虫の成育場所を根絶するために、それまでの住民の環境への対応を変えさせることがある。
地域住民に対する具体的なアドバイス
自分の家や周囲、また、職場や学習環境についても清潔を保ち、ネッタイシマカの幼虫が成育しないようにしてください。これには水を溜めている、あるいは水が溜まる可能性がある容器すべてを対象にしなければなりません。適切に覆いがかかっていないと、蚊が卵を産み付け成虫蚊が発生し、やがてはデング熱を媒介する可能性があります。以下は、どうすればこれを実行できるかについてのアドバイスです。
- 雨水が溜まる可能性がある缶、ボトル、タイヤ、およびその他の容器を取り除いてください。
- 家の樋の掃除と修理をしてください。
- 花瓶、また水を溜めた植木鉢を使用しないでください。その代わりに、水か土で満たすようにしてください。水を溜める場合には、7日間未満の間隔で水をきれいにし、蚊の幼虫が成虫になるのを防いでください。
- ペット用の水皿はブラシで洗って下さい。
- 常に家の庭をきれいにしてください。雨水が溜まる容器が捨てられているごみ収集箱は使用しないでください。
- 家や近所に水がよどんだところがないようにしてください。
- 飲用水や家庭用水を溜めておく容器は、必ずしっかりと覆うようにしてください。
- ゴミ箱には覆いをつけ、屋根の下に置くようにしてください。
デング熱の予防および制御に有効な手段
ほとんどの国は、Integrated Management Strategies for the prevention and control of dengue(IMS-dengue)で提唱されている到達目標や行動計画を、各国の計画の中に実行可能なレベルで、国が行うべきルーチン作業として組み入れています。
この項目では、デング熱によってもたらされる健康被害や死亡、社会経済的負担を減少させることを目的とした総合管理モデルに必要とされる、国の実行目標について、PAHOとして特に強調すべきものを記述します。
コミュニケーションおよび地域参加についての提案
- 詳細なコミュニケーション計画および社会動員計画をたてること。
- この問題に関し、事情通の政治家や組織に対して注意を促していくこと。
- デング熱が生じる基礎となっている社会的要因を改善していくため、リスク地域でデング熱に関する防止および制御計画を実行していくこと。
- 医療従事者に対して、保健関連の教育とコミュニケーション法のトレーニングを行うこと。
昆虫学分野に関する提案
- 地域を巻き込んだ、物理的、生物学的、化学的手段による幼虫生息地の制御手段を実行すること。
- 中古タイヤ請負に関する標準的手続きに則って規制をすること。
- 昆虫学的サーベイランスシステムとベクターコントロールを、効率的かつ適切な方法によって強化していくこと。
疫学的サーベイランスに関するいくつかの提案
- 住民および他の地域共同体構成要素(社会保障部門、警察や軍隊その他、医療施設および私的診療所など)のすべてを対象としたサーベイランスネットワークの強化を図る。
- 様々な構成要素を含み、情報の流れに関して確固とした分析を行う。
- 様々なレベルの状況に対応できるようにしていく。
- アウトブレイクおよび流行状況に対応した緊急時対策を練っておく。
- その国の地理条件を念頭に置きながら、都市、地域、地方レベルのリスク分類に関して、詳細で整合性のある判断基準を設ける。
患者対応に関する領域での提案
- 包括的な治療を可能とするため、トレーニングモジュールの中で、医療専門家に対する構成要素を含むものに対して細かい検討を加える。
- アウトブレイク時の臨床対応に関する緊急時計画の評価。
- 国家標準に従った、適切な患者治療についての評価。
検査室関連領域での提案
- 加入国および準加入国において、レファレンス検査室におけるデング熱感染に対する検査診断能力を評価認識し、流行状況に対応できるようにすること。
- 国の研究所において、デング熱のアウトブレイクと流行への対応能力を強化すること。
- サーベイランス、患者治療サービス、検査室診断それぞれの相互連絡を強化すること。
以下は、現在アウトブレイクがみられている国によってとられている対応です
ボリビア
- Trinidad 市によって、地域共同体が参加し、幼虫が生息している可能性がある地域の清掃を目的に、1日休日を設けることが宣言されました。
- デング熱の疑いがあるすべての死亡例について、調査および分類を行うために、医学科学委員会が設立されました。
ブラジル
- ブラジル保健省は、Fight Dengue( http://www.combatadengue.com.br/ )と命名した活動的なウェブサイトを続けています。このウェブサイトでは、毎日更新されるニュースや印刷物とともに、デング熱対策活動の中で提供される、様々な人がダウンロード、使用できる視聴覚資料や印刷物を更新し続けています。
- 社会的な良心的活動を促すため、「デング熱キャラバン」のリーダーであったDilma Rousseff大統領がデング熱の話題を優先事項としています。
- 特に、報道機関、自動車産業、食料品店、食物、メディア、旅行代理店に属するビジネスマンが参加する集会で、(対デング熱)活動支持を目的とする誓約を行いました。
- 2010年9月に保健省が新たな分析に着手、それによって詳細に記述された新しい災害予測図が発表されました。その中で、6つの基本的指標が考慮されています。この中の4つは保健関連の指標で、現時点での発生率、過去数年の新症例の発生率、ネッタイシマカの生着状況、デング熱の血清型です。5番目は環境要因で、水がきれいかどうか、ゴミが収集されているかどうかについて、6番目は人口統計(人口密度)です。
ペルー
- Loreto県の地方政府は、地域共同体によって清掃が行われるように、1日休日を設けることを宣言しました。この決定に関する地域の受け入れは良好で、幼虫の生息地になるリスクのある中庭や公共地にあった700トンもの使用できない家庭用品が収集されました。
- デング熱が疑われる患者が呈しうる「危険徴候」について、メディアによって広報されました。
- これまでとは別のデング熱作業部会をサポートするために、新たに市当局者によるミーティングが行われました。
- 公共機関のスポークスマンを対象に、リスクコミュニケーションに関するワークショップが開催されます。
- Loretoでのアウトブレイクをモニターするために、危機管理室が設けられました。また、重症例や死亡例で血清型を同定できるように、急性期サンプル収集のためのサーベイランス部が設けられた。
- 発熱外来が強化され、疾患管理のガイドラインおよび外来患者、入院患者のためのフローチャートが配布されました。
- 地域レベル、地方レベル(Iquitos)、国家レベル(国立保健研究所)で検査室の処理能力の強化が行われました。この結果、ウイルス分離のための迅速検体の受け入れが可能となりました。また、Den-2およびDen-4が確認されました。