農場での感染予防に、ハンドジェルを手洗いの代替策として考えることはできません

2011年04月21日 HPA

The Health Protection Agency(HPA)は、イースター(復活祭)期間中、農場に遊びに立ちよる人たちに、農場に行った際に、付近に散らばる動物の糞に含まれている可能性がある病原菌から自分や子どもを守るためには、ハンドジェルやハンドワイプによる消毒だけに頼らないようにと提言しています。

毎年農場を訪れる人が何百万もいることを考えると、健康リスクはとても低いと言えますが、動物のいる農場へ訪れたことに関連して、消化器系疾患がアウトブレイクする事例が、年間約三件みられます。このようなアウトブレイクは、通常、動物の糞に含まれる病原菌との接触による感染経路で生じます。病原体は、特に子どもの場合で言えることですが、人が指をくわえた際に摂取されている可能性が高いです。

病気のリスクを減少させるために、農場で動物と触れ合ったり、土壌に触れたりした後は、大人も子どもも石けんと水を使って丁寧に手を洗うべきです。ハンドジェルでは、石鹸と水で汚れを取るようには、汚れを取ることができません。

HPAが1992年から2009年にかけ、動物のいる農場に関連した消化器疾患のアウトブレイク55件を再調査したところ、手を洗うかわりにハンドジェルに頼り切っていたことが疾患に関するリスクを上昇させた要因の一つであることが分かりました。17年間で、1328名が農場訪問の後病気になったとの報告があり、うち113名が入院しました。病状としては、かなり軽度のものから激しい下痢を起こすもの、時にはさらに深刻な状況をきたすものまでありました。

ハンドジェルは、一般に、会社や病院のように清潔な場所で使用するものであって、動物の糞や汚染された土壌に存在する大腸菌やクリプトスポリジウム原虫といった微生物を殺すには有効でありません。

HPAにおける消化器系疾患の専門家Bob Adak医師はこのように述べています。
「農場に行くことは、大人にとっても子どもにとっても、とても楽しい経験ですが、農場の動物と触れ合うということは、動物が持っているバクテリア(病原体)による感染症にかかるリスクがあることを意味しているということを覚えておいてください。
動物の糞に直接触れるのを避けたり、手指の衛生状態を保つことに注意することが重要です。動物に触れたら、すぐに石けんとお湯を使って手を洗い、完全に乾かすことがとても重要です。子どもは大人に比べて重症の病気にかかるリスクが高いので、子どもがちゃんと手洗いしているか、注意して見る必要があります。農場に行った場合には、手を洗う代わりに消毒用ジェルを用いてはいけません。消毒用ジェルでは、石けんと流水で汚れを取るようには、汚れをとれない可能性があります。石けんと水で手を洗った後に消毒用ジェルを使用すると、非常に高い効果が得られます。このことに気をつけ実行にうつすと、病気にならずに楽しく過ごすことができます。」

  1. 1.下記の調査における55件のアウトブレイクの半数以上、30件(55%)はベロ毒素産生大腸菌O-157、他の23件(42%)はクリプトスポリジウム原虫、残りの2件(3%)はサルモネラ菌によって引き起こされました。
    この調査で指摘された他のリスク要因として、子ヒツジに哺乳瓶でミルクを与えたこと、子どもの指しゃぶりなどがありました。完全な調査報告は、Emerging Infection Disease 2010Gormleyらによる報告を参照してください。
    Transmisson of Cryptospolidium spp. At petting farms, England and Wales
    http://www.cdc.gov/ncidod/eid/
  1. 2.Cryptosporidiumは、原虫の寄生虫です。感染したヒトや動物の排泄物に汚染された土壌や食べ物、水、モノの表面と接触することで感染します。よくみられる症状として、水様便(おだやかなものから激しいものまで)があります。Cryptosporidiumは、1歳から5歳までの子どもで最もよく見られますが、誰にでも生じる可能性があります。免疫機構が弱っている人々で、最も重症化しやすい傾向があります。
  2. 3.Escherichia coli(E.coli):大腸菌は、恒温動物の腸に共通してみられる細菌です。E.coliには、健康なヒト・動物の腸でよく見られる、病気をもたらさないのタイプあるいは株ががあります。疾患の原因となるE.coliは数多くみられますが、病原性大腸菌O157は、非常に重症な疾患に関係します。大部分の人では7日以内に症状が治まりますが、5歳未満の子どもは、もっと重症になりやすい傾向があります。症状は、穏やかなものからひどい下痢まで様々ですが、重症の場合、溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし、血液・腎臓・さらに重症の場合には中枢神経にまで影響が及びます。
  3. 4.The Health and Safety Executive(HSE)は、2009年イングランド・サリー州にあるGodstore村の農場で発生した病原性大腸菌O157のアウトブレイクを独自に調査し、2010年に報告した後、新たな手引き書を出版しました。この手引書では、農場に来訪する人のアトラクションを所有していたり、運営したりしている人を対象に、アトラクションで動物と接触をする際に病気を予防し健康を守る方法が書かれており、子どもの遠足の計画を立てる教師や様々な人に対しても補足事項が書かれています。手引きの完全版は、HSEのウェブサイトからダウンロードできます。
    http://www.hse.gov.uk/pubns/ais23.pdf[PDF形式:488KB]
  1. 5.HPAと保健省・Defra(The Department for Environment,Food and Rural Affairs)が協力して、一般用にリーフレット「農場訪問における感染症を避けるために」を作成しました。この中で、農場訪問を安全に楽しんでもらうための情報を記載しています。リーフレットの全内容は、HPAのウェブサイトからダウンロードできます。
    http://www.hpa.org.uk/Publications/InfectiousDiseases/Factsheets/0410farmvisits/
    リーフレットの手引きの概要は、以下の通りです。
    • 動物に触れたり農場を歩き回っている間は、顔に手を置いたり、指を口の中に入れないこと。
    • 動物とキスをしたり、子どもに自分の顔を動物に近づけさせたりさせないこと。
    • 動物に触れたり農場を歩き回ったりしている間は、飲食しないこと。甘いもの・ポテトチップス・チューイングガムも駄目です。
    • 床に落ちたものは食べないこと。
    • 石けんと水を使って手を洗う代わりとして、ジェルやハンドワイプを使わないこと。
    • 動物やフェンス・動物がいる場所に触れた後は、石けんと水を使ってしっかり手洗いをすること。
    • 飲食の前には、石けんと水でしっかり手洗いをすること。
    • 土で汚れた可能性のあるブーツや靴を脱いで清潔にすること。乳母車も清潔にしておくこと。それから石けんと水でしっかり手洗いをすること。
    • 子どもがしっかり手洗いできているか、そばで見ておくこと。
    • ピクニックエリアやカフェだけで飲食すること。
  1. 6.The Health Protection Agency(HPA)は、2003年、感染症や環境上の危険など、公衆衛生を脅かすものから人々を守るために、政府によって設立されたイギリスの独立機構です。HPAは、一般大衆や医師・看護師といった医療専門家・国家ないし地方行政機関に対して、提言を行ったり、情報を提供したりしています。
    さらに詳しくお知りになりたいことがあれば、以下のHPAのウェブサイトをご参照ください。
    http://www.hpa.org.uk