EUおよびEEA/EFTA加盟国での麻しん 最新流行情報
ECDC 2011年5月12日
麻しんは、非常に感染力が高く悪化する可能性が高い疾患であり、安全で有効なワクチンで防止できる疾患です。2回の接種を受けると、少なくとも98%のワクチン被接種者には、この疾患に対して感染防御免疫が生じます。EUとEEA/EFTA国を含む、世界保健機関ヨーロッパ地域の諸国は、2015年までに麻しんを根絶することを公約としました。 麻しんの根絶のためには、麻しんワクチンを含有しているワクチンの2回接種で、ワクチン接種効果が95%以上持続していることが必要です。
麻しん感染は、ヨーロッパで再興しています。2010年には、30,000件以上の麻しん症例がEUとEEA/EFTA国によって報告されました。これ以前の5年間の年平均と比較して、5倍の増加率です。 報告された症例の85パーセントはワクチン接種が施されていませんでした。 この急激な増加は、主として、2009年から2010年の24件の死亡例を伴う24,000の症例をもたらした、ブルガリアでの大規模な集団発生のためでした。しかし一方で、フランス、ドイツ、イタリア、アイルランド、ルーマニア、およびスペインを含む多くの他の国が、2010年において、かなりの症例数の増加を報告しました。EUでのアウトブレイクは、主に加盟国間での伝播の結果生じました。2010年に発生した輸入例は、別のヨーロッパの国から輸入されたものが大部分(71%)でした。
2011年現在、高い麻しんの発生率が、フランス、スペイン、およびベルギーで進行中のアウトブレイクという形で続いています。2011年5月12日現在、10,000の症例以上と4件の死亡事例が、EUとEEA/EFTAの31か国のうち18か国から報告されました。症例の中には、数人のワクチン接種を受けていなかった医療従事者が含まれています。
フランス
フランスでは自国内での麻しんの伝播が増加しており、2008年1月初頭から、5件の死亡例を含む14,500件以上の症例報告がみられています。
流行第3波で、これまでで最も大きい増加が2010年10月に始まりました。それ以来、9,000件以上の症例報告がありました。3,000を超える症例が2011年3月(図1)だけで報告されました。2件の死亡例と13件の神経系合併症(12件の脳炎と1件の脊髄炎・ギランバレー症候群)が2011年に報告されました。
(図1):2008年1月1日から2011年3月31月までに通知されたフランスにおける発疹の発生月ごとの麻しんの症例数
2010年で最も高い発生率を示したのは、ワクチン接種の対象とはならない1歳未満の乳児でした。2009年と比べて、0か月から12か月の年齢層における症例数は、2010年に3倍になりました。フランス南東部から最も多くの発生が報告されていますが、実際にはフランス全土が感染の影響を受けました(図2)。
(図2)フランス各県における2010年10月から2011年3月までの麻しん症例と発生の分布
スペイン
スペインは、2011年にこれまで786の症例(685件が実験室で確定)を報告しました。 アウトブレイクの影響は、国のほとんどの地域に及んでおり、17の自治体のうちの9、2つの自治都市の1つで現在進行中です。マドリード、バルセロナ、およびセビリアといった大都市でも、アウトブレイクの報告があります。 クラスター規模は2例から200例以上と異なっており、2つの遺伝子型(B3とD4)が同時に流行しています。
感染は以下のグループに生じているという特徴があります。
- 初回のMMRワクチン投与を受けていない15か月未満の乳児
- 小児期の麻しんワクチン接種の導入の後に生まれた25歳から40歳の成人
- 経済力が低い地域に住んでいるワクチン接種を受けていないすべての人
- ワクチン接種率が低い低所得の国から移住してきた人々
- ワクチン接種を受けていない医療従事者
とられている制御措置としては、接触者の追跡、6か月以上の乳児に対する麻しんワクチン含有ワクチンの追加接種、暴露後72時間以内のワクチン接種、医療専門家に対するワクチン接種、および一般大衆向けおよび学校での情報キャンペーンなどがあります。
ベルギー
情報源:Measles resurgence in Belgium from January to Mid-April 2011:a preliminary report.Eurosurveillance, Vol16, Issue16, April 2011
ISP/WIV, Measles in Belgium update
ベルギーでは、2011年の初め以来、2009年の40症例、2008年の33症例に比して、実験室で確定した122症例を含む、少なくとも231症例が数回の麻しんのアウトブレイクの中でみられました(図3)。
最初のアウトブレイクは、フランダースにあるシュタイナー学校で始まり、後に他の学校やロマ人の共同体に広まりました。症例の大部分(87%)がワクチン接種を受けていませんでした。 ワクチンの受けなかった主な理由として報告されたものは、シュタイナー信念によるもの(55%)、小児科医がワクチンを接種しないようにアドバイスしたもの(26%)、合併症や旅行予定のためにワクチン接種を遅らせるたことによるものです。
また、現在、アウトブレイクは、他の州からも報告されています。2011年5月11日現在、アントワープ以外のすべての州で、症例が報告されました。流行しているウイルス株は、麻しんウイルス遺伝子タイプD4です。136件の患者に関して、合併症について報告されています。このうち、26件(19%)は入院を必要としました。合併症としては、7例の肺炎(1例にはその後敗血性ショックが発症)と1例の脳炎症例が含まれています。20症例が他のフランスから旅行するか、またはフランスなどからの麻しん患者と接触がありました。麻しんの報告義務は2009年に導入されたばかりで、実際の麻しん発生率は、現在報告されたものより高いでしょう。
(図3)ベルギーにおける、2007年1月から2011年4月までに報告された麻しんの症例数
サマリー:EUとEEA/EFTA国における麻しんの状況
情報源:EUVAC.Net[PDF形式:287KB](麻しんに関するサーベイランスデータ),WHO,ProMed
2011年5月11日現在、WHO、EUVAC.Net、加盟国の保健機関、ProMedの記事、メディア(図4)などの種々の情報源に基づく情報集積による、ECDCの疫学情報収集活動によって、EUとEEA/EFTAの各国から10,000例以上の麻しん症例が検出されています。フランス、スペイン、およびベルギー以外のいくつかの他のEUとEEA/EFTA国でも、主としてワクチン接種を受けていない個人の中で、昨年の同時期と比べて多くの症例が報告されています。スイス(337)、デンマーク(54)、スウェーデン(13)、ルーマニア(254)、ノルウェー(18)、フィンランド(9)。
(図4)2011年5月11日段階における麻しんの報告症例数
EUとEEA/EFTA加盟国での麻しんの発生および増加と地理分布からは、麻しんに暴露されるリスクが、ヨーロッパへの訪問者、ヨーロッパ内での訪問者に増加したことが窺われます。アメリカ疾病管理予防センターによる旅行者に対する助言によると、ヨーロッパを訪問する予定のある旅行者については、6か月以上の小児への予防注射を奨励しています。また、WHOヨーロッパ地域事務局は、保健当局者や旅行医療専門家に対し、旅行者がヨーロッパへ旅行する場合、ヨーロッパから旅行する予定のある場合、ヨーロッパ内で旅行する予定のある場合には、予防接種を推奨するように、また、麻しんへの免疫があるかどうか証拠のない旅行者に対して、麻しんワクチン接種を提供するようにと促しています。
ECDCは、EU、EEA/EFTA加盟国、およびヨーロッパ内の近隣諸国での麻しんのアウトブレイクに関する報告を密に監視しており、2015年までの根絶という目標に向かって、加盟国および世界保健機関との密接な共同作業を続けます。
航空機内でうつされた伝染病に対するECDCのリスク評価指針(RAGIDA)
http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/1012_GUI_RAGIDA_2.pdf[PDF形式:769KB]