パキスタンにおける急性灰白髄炎について

WHO/GAR 2011年7月7日

パキスタン政府は、2011年7月9日に連邦直轄部族地域(FATA)のカイバル地区紛争地域で麻痺を発症した生後16カ月の小児から3型のポリオ野生株(WPV3)が分離されたことを報告しました。この症例は2011年にアジアで検出されたWPV3の唯一の例です。アジアにおけるWPV3伝播は、根絶の寸前の状態にあり、前回の発生は6カ月前の2010年11月18日のことでした(これもFATAのカイバル地区で起こったものです)。

パキスタンの部族地域でWPV3の伝播が継続していることが確認されたことは、WPV3を根絶することを世界全体で進めているという状況(特にアジアではこの系統のポリオウイルスの循環はなくなる寸前の状況)においてとても重要な意味があります。パキスタンでWPV3が検出されたことは、伝播の中心が他のアジアのWPV3清浄化地域やアジアを超えたさらに広範囲の地域に拡散するかもしれないリスクがあるということになります。世界全体では2011年のWPV3の伝播は歴史的にも低いレベルにあり、この系統が循環している他のエリアは、西アフリカ(コート・ジボワール、ギニア、マリおよびニジェールにおける17症例)、ナイジェリア(5症例)、およびチャド(3症例)に限定されていました。世界保健機関(WHO)は、WPVがさらに広く拡散していくリスクは高いと考えており、特にパキスタン国内やパキスタンとアフガニスタン間での大規模な人口移動があることや、ウムラと間もなく来るべきハッジ(サウジアラビア王国のメッカへの巡礼)でここ数カ月に大規模な人口移動が予測されていることを考慮すると一層リスクは高いと考えられます。

2011年にパキスタンにおける追加ワクチン接種活動(SIAs)は、重要なハイリスク領域で不十分な質の活動しか行われておらず、部族紛争地域における小児の大半が接種を受けられない状況にあります。FATA領域、特にカイバル地区において、過去2年間のSIAsで50%近くの小児がいつも接種を受けていない状況です。さらに、カイバル・パクトゥンクワとFATAの危険な領域の小児にワクチン接種を行おうとする試みが困難であることに加え、数多くの危険地域における接種活動が困難であるため、カイバル地区やパキスタン国内のその他の重要な伝播地域のうち到達可能な領域でのSIAsの活動の質が損なわれており、特にバローチスタンとシンドで顕著にその傾向が見られます。2011年のアジアにおけるWPV3症例が確認されたのみならず、パキスタンでは全土で1型ポリオ野生株(WPV1)が伝播しており、2011年(7月5日現在)にWPV1症例が57例で、2010年の同時期にWPV1が14症例であることと比較すると増加しています。

事態を緊急に処理するため、パキスタン政府は今年に大統領閣下の直接指導による国家ポリオ緊急対策計画を発動しました。しかし、独立モニタリング委員会(IMB)は、2010年の世界保健会合(WHA)の要請によりポリオの根絶に向けて独自の監視を行っており、同委員会は、パキスタン政府の計画について実行に時間がかかりすぎていると警告し、2011年の6月に東地中海で行われたテクニカルアドバイザリーグループ(TAG)でもこの結論を繰り返しました。

2つのポリオ野生株に対する免疫を迅速に樹立するため、二価OPVを使用し、短間隔追加投与法(SIAD)によるSIAがカイバル地域で進められており、第一回目は、7月4日に実施され第二回目は7月12日に実施されることになっています。ごく最近の6月中旬に行われたSIAでカイバル地域の対象となった小児の45%(89,449人:バラ・テシルの80%すなわち約73,000人を含む)が今後もSIADによる接種を受けることができないであろうと見られています。全国ワクチン接種デー(National Immunization Days; NIDs)が、7月18日~20日にパキスタンで行われることになっており、二価OPV(血清型1と3を含む)が使用されます。しかし、目的達成のために重要なことは、完全にアクセス可能な領域における活動の実施上の困難を克服すること、自治体の十分な支援のもとであまり安全ではない地域に居住する人たちに特別にワクチン接種の普及活動を行うことです。アフガニスタンでWPV3の感染が再び発生するリスクを最小限とするために、地域ワクチン接種デー(Subnational Immunization Days: SNIDs)が、パキスタンの国境エリアを含む地域で7月10~12日に実施される予定であり、同様に二価OPVが使われます。

全てのポリオウイルスの輸入を迅速に検出し、輸入が起こった場合に迅速に対応できるよう備えるためにアジアから東地中海に渡る各国で急性弛緩性麻痺(AFP)のサーベイランスの強化を行うことが重要です。同時に各国は、どのウイルス系統が輸入されたとしてもその影響を最小限にするために、ポリオの全ての系統をカバーする定期的な免疫ブーストを継続して行うべきです。

WHOの”International travel and health”に概説された提言のように、パキスタンへ渡航するまたはパキスタンから渡航する旅行者はワクチン接種によって完全に防御しておく必要があります。OPVを三回もしくはそれ以上過去に接種しているパキスタンへの渡航者は、出発前にもう一回ポリオワクチンを摂取しておくべきです。パキスタンへ渡航しようとするワクチン未接種者は全て、フルコースのワクチン接種を受ける必要があります。パキスタンからの渡航者は、パキスタンを出発する前にフルコースのワクチン接種を受ける必要があり、出発前に最低一回のOPV接種を受ける必要があります。ポリオ清浄国によっては、パキスタンからの渡航者が入国ビザを取得するときにワクチン接種を要件としていることがあります。

ハジとウムラの季節がすでに始まり、ウムラの巡礼者はラマダンの期間(8月)、ハジの巡礼者は11月上旬に増加するものとみられており、サウジアラビア王国はウムラとハジの全ての年齢の渡航者にワクチン接種を求めています。これらのワクチン接種要件は、WHOの”International travel and health”に概説された提言に沿ったものであり、このような要件に加えて、ポリオ流行国からの全ての年齢の渡航者はサウジアラビアへの渡航の6週間前にOPV接種を受けたことの証明を提示し、さらに、到着時に1回、OPV接種を受ける必要があります。

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