ブラジルにおける黄熱の周産期伝搬(垂直感染)について(2009)

2011年9月 CDC(EID)(原文〔英語〕へのリンク)

ブラジルでは都市型の黄熱症例は1942年以降報告されていないものの、森林型黄熱はまだ北部と中西部の州に流行しています。ここ十年間で、流行地域は南部と東部に拡がり、最も人口の多い州に近づいています(1)。2009年には、サンパウロ州で森林型黄熱が流行し、28例が発症し11例が死亡しました。この流行地域では、1930年代以降、黄熱の症例は報告されていませんでした(2)。この流行では、周産期の黄熱母児伝搬が診断されました。

母親は30歳でBotucatuから100Km離れたPiraju市に近い森林地域で妊娠後期に黄熱に罹患しました。患者は、黄熱ワクチンを受けておらず、また過去数ヶ月間に黄熱流行地域への渡航歴もありませんでした。黄熱への暴露は、妊娠後期まで続いた習慣である森林地域の散歩をしている間に起こりました。彼女は2009年3月14日に発熱、頭痛、および黄疸で発症しました。3日後の3月17日に、故郷の病院で経膣分娩で女児を出産しました。

母親の症状は軽度で、出産7日間後にBotucatu医科大学病院に入院しました。症状は発熱、頭痛、黄疸及び結膜の充血、また肝酵素の上昇がみられました(AST 246 U/L, ALT 324 U/L, γ-GTP 221 U/L, ALP338 U/L)。彼女は軽度の貧血(ヘモグロビン10.2g/ dL)でしたが、白血球と血小板数は基準値内でした。他の検査値の異常はありませんでた。彼女は完全に回復し7日後に退院しました。

女児は3月17日、出生児体重3800g、アプガースコア9-10で無症状で生まれました。女児は2日間母乳のみ与えられ退院しました。生後3日目に、発熱とチアノーゼがみられ肺炎疑いにて地元の病院に再入院しました。抗菌薬が投与されましたが、改善はみられませんでした。生後8日目に、吐血、メレナ(下血)、静脈穿刺部位からの出血、低血糖、乏尿がみられました。

新生児はBotucatu医科大学病院の新生児集中治療室(NICU)に転送されました。入院時、低血圧、頻脈、皮膚蒼白、黄疸、肝腫大、メレナ(下血)の症状がありました。初期診断は先天性または院内感染敗血症と推測されましたが、母親の診断から黄熱の可能性も視野に入れて検査することになりました。女児は気管内挿管、補液、血管作用性アミン、抗菌薬、血液成分(赤血球、血小板、新鮮凍結血漿、凍結血漿)、および止血剤投与などがなされました。当初肝酵素値が高値でしたが(AST 4072 U / L、ALT 1420 U / L)、3日間で突然下がりました(AST 150 U / L、ALT 114 U / L)。

治療効果なく、新生児は肝不全、腎不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、痙攣をおこし、最終的に昏睡状態になりました。生後12日目(NICU入院後4日目)にこの女児は死亡しました。剖検標本は、広範囲にわたる肝壊死、肺出血、および急性尿細管壊死があったことを示しています。

母親は発症11日目に血清学的検査(免疫グロブリンM抗体補足ELISA)が行われました。検査結果は、デング熱陰性で黄熱陽性でした。新生児は、発症後5日目の血清サンプルから同様の結果がRT-PCRにより確認されました。RT–PCRはDeubel氏らの方法で実施しました(3)。ヌクレオチド配列は、Vasconcelos氏らのが提案している分類によると、南米の遺伝子型1EのI型に属する野生型黄熱ウイルスでした(4)。RT–PCRでは母親の血清サンプルから、黄熱ウイルスの配列の増幅はありませんでした。しかし、血清の採取は検査の感度が低い発症後11日目でした。

アルボウイルスは垂直感染が報告されています。Pouliot氏らはデングウイルスの垂直感染に関する直接的および間接的なエビデンスについて述べています(5)。垂直感染はまた、ウエストナイル脳炎および西部ウマ脳炎でも報告されています(6)。黄熱の症例では報告されておりません。妊娠中の黄熱に関する報告書は少なく、新生児への垂直感染について記載したものはありませんでした(7)。しかし、17Dワクチンが誤って投与された妊婦が出産した無症状の新生児からワクチンウイルスが分離されました(8)。この新生児の感染により妊娠後期あるいは分娩中の母子感染を説明できる可能性があります。ブラジルでは都市型黄熱病の症例が過去50年間発生しておらず、現在の流行でも報告されていないため、今回の新生児は蚊にさされウイルスに感染した可能性はなさそうです。

新生児の発症のタイミングも、蚊による感染の可能性に対して否定的です。黄熱ワクチンウイルスで報告のあったように母乳からの感染を除外することは出来ません(9)。しかし、今回の症例では、短い潜伏期間が前提にあります。結論として、この症例は黄熱の垂直感染の可能性を指摘しています。黄熱流行地域では同様のケースが発生する可能性があることが考えられ、サーベイランスの改善により識別することができるかもしれません。

※(1)~(9)は出典の原文参照

出典

CDC;Perinatal Transmission of Yellow Fever, Brazil,2009

http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/17/9/11-0242_article.htm