サル痘について

2011年10月7日WHO(原文[英語]へのリンクp448~451)[PDF形式:997KB]

サル痘は、ウイルス性の動物由来感染症(動物からヒトへとうつるもの)で、ヒトに見られる症状が、過去にあった天然痘の患者にみられた症状とよく似ています。しかし、天然痘が1980年に世界中から根絶されたのに対し、サル痘は、今なおアフリカの一部で散発的に発生しています。サル痘は、ポックスウイルス科のオルソボックスウイルス属に属します。ウイルスは、デンマークのコペンハーゲンにある州立血清研究所(SSI)で、サル間で発生していた天然痘類似疾患の調査をおこなっていた1958年に同定されました。

アウトブレイク

ヒトでのサル痘は、1970年、コンゴ民主共和国(当時:ザイール)で初めて確認されました。それ以降、症例の大多数は、コンゴ盆地や西アフリカの地方地域、特にコンゴ民主共和国で報告されています。1996年から1997年にかけて、大規模なアウトブレイクが、コンゴ民主共和国で発生しました。2003年の春には、サル痘がアメリカの中西部で確認され、アフリカ大陸以外での初の症例報告となりました。2007年には、サル痘が、スーダン(南スーダン)のユニティ(Unity)州で報告されました。

伝播

最初の感染は、感染動物の血液、体液、発疹に直接接触することでおこります。アフリカでは、ヒトの感染は、感染したサルやガンビアラット、リスを取り扱う過程で発生したと報告されています。

ヒトからヒトへ感染する二次感染は、感染したヒトの呼吸器官系の排泄物や皮膚病変部、汚染物への濃厚接触によりおこります。飛沫感染もまた報告されています。伝播はまた予防接種や胎盤を介して(先天性サル痘として知られています)おこることがあります。ヒトの集団においてヒト-ヒト感染だけでサル痘が維持されている証拠はありません。

所見と症状

サル痘の潜伏期間(感染から発症までの間隔)は、6日から16日までとさまざまです。
病気は、2段階に分かれます。

・侵入期(0から5日間持続)は、発熱や激しい頭痛、リンパ節腫脹(リンパ節の膨れ)、背部痛、筋肉痛、強い倦怠感(エネルギー欠乏);

・発疹期:さまざまなステージの発疹が顔(症例の95%)、手のひらや足の裏(症例の75%)、ほぼ同時に全身に出現する時期です。この期間はおよそ10日間で、発疹は斑状丘疹(平坦な基部をもつ病変)から小水疱、膿庖、かさぶたへと変化します。かさぶたが完全に消えるまで3週間ほどかかります。

発疹数は数個から数千個までと様々で、口腔粘膜(症例の70%)、生殖器(30%)、結膜(まぶた)20%、角膜(眼球)20%に影響を与えます。
患者の中には、発疹が現れる前に重症なリンパ節腫脹が出現する者もいます。リンパ節腫脹は、天然痘や水痘にはない特徴なので、サル痘を同定する手助けとなります。
サル痘の症状は、一般的に14日から21日間続きます。
致死率は流行により幅広く様々ですが、報告症例の10%以下です。死亡者の大多数は小児です。加えて、天然痘の世界的な根絶のための種痘の定期予防接種が終了したため、小児はサル痘に感染しやすくなっているかもしれません。

診断

鑑別診断には、通常、天然痘や水痘、麻疹、細菌による皮膚感染症、疥癬、薬物アレルギー、梅毒が含まれます。
サル痘は、検査室検査によってのみ診断されます。多数の異なる検査方法があります。

・酵素抗体(ELISA)法
・抗原検出テスト
・PCR法
・細胞培養によるウイルス分離

治療とワクチン

治療のための薬剤やサル痘を防ぐのに有効なワクチンはありませんが、天然痘ワクチンでサル痘を防ぐのに85%効果があったことが判明しています。

ウイルスの自然宿主

アフリカでは、多くの動物種でサル痘感染が見つかっています。ロープリス、キリス、ガンビアネズミ、ストライプマウス、ヤマネ、霊長類などです。
ウイルスの生態については疑問が残っており、サル痘ウイルスの正確な保有動物(宿主)についてまた自然界でどのように維持されているかを特定する更なる調査が必要とされています。
アメリカではアフリカ産の動物から、ウイルスが、プレーリードッグのような非アフリカ種の動物へ一緒に飼育された際に感染したと考えられています。

予防

動物貿易制限によりウイルスの拡散を防ぐ

アフリカ産の小動物やサルの(貿易による)移送を制限・禁止することは、アフリカ外部にウイルスを拡散させることを遅らせるのに効果的かも知れません。
捕獲された動物は、絶対に天然痘の予防接種を接種すべきではありません。代わりに、サル痘に感染している動物をほかの動物から隔離し、すぐに検疫を実施すべきです。感染した動物と接触したかもしれないどんな動物も、隔離しサル痘の症状が出ないか、30日間観察すべきです。

ヒトへの感染リスクを減らす

サル痘のアウトブレイクの間、他の患者との濃厚接触は、サル痘ウイルスに感染する最も重大なリスク要因です。特異的治療法やワクチンがないため、ヒトへの感染を減らす唯一の方法は、リスク要因の知識を高めウイルスへの暴露を減らす方法を教育することです。

教育上の公衆衛生のメッセージは、以下の点に重点を置くべきです。

・ヒトからヒトへの伝播のリスクを減らす。サル痘ウイルス感染者との身体的な濃厚接触は、避けるべきです。患者の世話をする際は、手袋と防護服を着用すべきです。患者の世話をしたり、病人の見舞いのあとは、通常の手洗いを実施すべきです。

・動物からヒトへの伝播のリスクを減らす。流行地域で感染を防ぐ取り組みは、全ての動物製品(血液や肉など)は、食べる前に完全に調理されたものでなければならないことを強調すべきです。病気の動物や感染した組織を扱ったりと殺を行う際は手袋と適切な防護服を着用すべきです。

医療施設での感染制御

サル痘ウイルスに感染した疑いのある患者や感染した患者のケアをする医療従事者、あるいは患者の検体を取り扱う人々は、標準的な感染防御策をとるべきです。
医療従事者やサル痘の患者の治療や接触した人、あるいはその検体を扱う人々は、天然痘のワクチン接種について考慮すべきです。しかし、天然痘のワクチン接種は、免疫不全者に対しては行うべきではありません。
サル痘ウイルスの感染が疑われるヒトや動物からの検体は、適切な設備のある検査室内で訓練をうけたスタッフが取り扱うべきです。

WHOの各国の事務所は、影響のある国々のサーベイランスやアウトブレイク時の活動を援助します。

出典

WHO:「Weekly epidemiological record No.41,2011,448-451」
http://www.who.int/wer/2011/wer8641.pdf[PDF形式:997KB]