マラリアについて(ファクトシート)
2011年10月18日 WHO (原文〔英語〕へのリンク)
概要
- マラリアは生命に危険のある疾患で、感染蚊の刺咬によりヒトに感染する寄生虫感染症です。
- 2009年には推定で781,000人がマラリアで死亡し、そのほとんどがアフリカの小児でした。
- マラリアは予防可能な、治療できる疾患です。
- さらなるマラリア予防と制御対策で、多くの場所でマラリアによる負担を劇的に減らしています。
- マラリアは罹患率の高い国々で国民総生産(GDP)を約1.3%減少させています。
- マラリア清浄国の免疫のない渡航者は感染すると大変発症しやすいです。
世界マラリア報告書2010によりますと、2009年のマラリア患者数は2億2500万人で推定781,000人が死亡しており、2000年の患者数2億3300万人、死亡者数985,000人より減少しました。死亡者のほとんどはアフリカに住む小児で、アフリカでは45秒に一人がマラリアで死亡しており、全小児死亡原因の約20%を占めています。
マラリアはマラリア原虫(Plasmodium)によって引き起こされる疾患です。原虫は、感染したマラリアベクターと呼ばれるハマダラカ(Anophelesmosquitoes)に刺されることでヒトに感染拡大していきます。ハマダラカは主に夕暮れから明け方に吸血します。
ヒトマラリア(の病原体)には4種類のタイプがあります。
- 熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparum
- 三日熱マラリア原虫Plasmodium vivax
- 四日熱マラリア原虫Plasmodium malariae
- 卵形マラリア原虫Plasmodium ovale
熱帯熱マラリアと三日熱マラリアがよくみられます。熱帯熱マラリアは最も致死的です。
近年、いくつかのマラリア症例ではPrasmodium knowlesi(東南アジアの森林地帯でおこるサルマラリアの病原原虫)が原因となっていました。
伝搬
マラリアはもっぱらハマダラカの刺咬によって伝搬されます。伝搬の程度は、原虫、ベクター、ヒト宿主と環境要因に影響されます。
世界中の約20種類のハマダラカが地域的に重要です。重要なベクター種は全て夜間吸血性です。ハマダラカは水中に産卵し、それぞれの種により産卵様式は特徴的です;例えば、いくつかの種は浅い新鮮な水たまり、水田、蹄の跡などに好んで産卵します。蚊の寿命の長い場所(そのため蚊体内で原虫が成熟するのに十分な時間があります)や動物よりもヒトの血液を好んで吸血する蚊の多い場所ではマラリア伝搬がより深刻となります。例えば、アフリカのベクター種は寿命が長く、好んでヒトの吸血をするため、世界のマラリア死亡の85%以上がアフリカで起こっている主な理由です。
伝搬は降雨パターン、気温や湿度など蚊の個体数や生息に影響を与える気候条件にも影響を受けます。多くの場所で、伝搬のピークは雨期又はその直後の季節的なものです。人々がほとんど又は全くマラリアに免疫を持たない地域で天候や他の条件がマラリア伝搬に突然有利に働いたとき、マラリア流行が起こることがあります。また免疫の低い人々がマラリア伝搬の高い地域に、仕事を求めたり難民として移り住んだときにも起こることがあります。
特にマラリア伝搬が中等度から高度な地域の成人の免疫ももう一つの重要な要素となります。
何年にもわたり曝露されることで免疫がつきますが、その免疫により完全に予防できるものではなく、重症化するリスクを低減するものです。このため、アフリカでのマラリア死亡者のほとんどが小児で、一方伝搬性が低く(マラリア常在ではなく)免疫が低い地域では、すべての年齢層がハイリスクとなります。
症状
マラリアは急性熱性疾患です。免疫のないヒトでは、蚊に刺された後、7日以上(通常は10-15日)たってから発症します。初発症状(発熱、頭痛、悪寒、嘔吐)は、軽度でマラリアとは気づかない程度です。24時間以内に治療しなければ、熱帯熱マラリアでは重症化し死亡することもあります。小児の重症マラリアでは、以下の症状の一つ以上を呈します:高度の貧血、代謝性アシドーシスに伴う呼吸不全、脳マラリア。成人では多臓器不全がしばしばみられます。マラリア常在地では、不完全でも免疫ができ、不顕性感染が起こる可能性があります。
三日熱マラリアと卵形マラリアでは、初感染後、マラリア地域を離れていても数週間から数ヶ月後に再発することがあります。この症状は原虫が肝臓での休眠期(熱帯熱マラリア原虫や四日熱マラリア原虫では存在しません)から、再増殖を始めることで起こり、これを完治するためには特殊な治療法(肝ステージを標的とする)が必須です。
リスクのある人
世界人口の約半数でマラリアのリスクがあります。マラリア患者、死亡者のほとんどがサハラ以南のアフリカで発生しています。しかしながら、アジア、ラテンアメリカ、より少ない範囲ですが中東やヨーロッパの一部もリスクがあります。2009年には108の国と地域にマラリアがみられました。
特にリスクのあるグループは以下の人々です。
- 小児;伝搬が日常的に起きている地域でマラリア重症化に対する免疫がほとんどできていません。
- 免疫のない妊婦;マラリアは高率に流産を引き起こし(熱帯熱マラリアで60%)、妊産婦死亡率も10-50%です。
- 部分免疫を持つ妊婦;高伝搬地では流産や低出生体重児の原因となり、特に第一子や第二子妊娠時に起こりやすくなります。妊娠時のマラリアが原因で死亡する新生児は年間200,000人と見積もられています。
- 部分免疫がありHIV感染のある妊婦;伝搬が日常的な地域ではマラリアの胎盤感染とともに、新生児にHIVを感染させるリスクがさらに高くなります。
- HIV/AIDS感染者
- 非流行地からの渡航者;免疫がないため
- 流行地からの移民とその子供たち;非流行地に移住した人たちが祖国の友人や親戚を訪れる時は、免疫が低下していたり、免疫がないために感染リスクが高くなります。
診断と治療
早期診断と早期治療が患者数と死亡者数を減少させます。さらにマラリア感染の縮小につながります。
最もよい治療法は、特に熱帯熱マラリアでは、アルテミシニンをベースにした併用療法(ACT)です。
マラリアを疑う全ての症例は治療の前に、寄生虫学的診断に基づく診断学的試験(顕微鏡学的または迅速診断法)を用いて確定診断されることをWHOは推奨します。寄生虫学的診断は数分で結果が得られます。症状だけに基づいた治療は寄生虫学的診断ができないときだけに限られるべきです。さらに詳しいことはマラリア治療のガイドラインに記載されています。
薬剤耐性
抗マラリア剤への耐性は急速に拡大し、マラリア制御への取り組みを弱体化しています。アルテミシニンをベースにした単剤療法では、患者は急速に症状が改善すると、治療が完了する前に止めてしまうことがあります。その結果不完全な治療となり、そのような患者の血中には原虫が残存し続けることになります。第2剤を使って併用治療(ACTと同時に投与)されなかった場合、耐性化し残存した原虫は生き残り、蚊を介して別のヒトに感染することができます。そのような単剤療法はそれ故、アルテミシン耐性拡大の誘因の一つです。
以前クロロキンやスルファドキシン-ピリメサミン(SP)で起こったように、アルテミシニン耐性化がすすみ地理的に拡大すると、少なくとも5年間は別の抗マラリア剤は利用できないので公衆衛生上、悲惨な結果となるでしょう。
WHOは日常的な抗マラリア剤耐性モニタリングを推奨しており、それが重要な地域で(モニタリングを)強化するために対象の国々へ必要な支援を行っています。
さらにわかりやすい説明はアルテミシニン耐性封じ込め計画(GPARC)でみることができます。
予防
コミュニティーレベルでマラリア伝搬を減少させる要はベクターコントロールです。それが非常に高いマラリア伝搬をゼロに近づけることのできる唯一の介入方法です。
各個人での蚊刺咬防御方法はマラリア予防のための防御方法の最初に提示されています。
ベクターコントロールには2つの方法が広範囲な環境下で効果的です。
殺虫剤処理された蚊帳(ITNs)
長期作用殺虫剤含浸蚊帳(LLINs)は公衆衛生普及計画のためのITNsとして好ましい形態です。WHOはリスクのある全ての人へ分配されることを推奨します;高伝搬地域でだれもが毎晩LLINの中で寝ることができるように、LLINを普及させることは、大部分の場所において最も対費用効果が高い方法です。
屋内での残留殺虫剤噴霧
屋内残留殺虫剤噴霧(IRS)はマラリア伝搬を急速に抑制するために最も威力のある方法です。ターゲットとされる地域の家屋の少なくとも80%で噴霧した場合にその威力が確認されています。使用される殺虫剤や噴霧される家屋の表面の状態にもよりますが、3-6ヶ月の効果があります。いくつかの場合でDDTは9-12ヶ月効果があります。効果の長いIRS殺虫剤の開発が続けられています。
マラリア予防としていくつかの薬剤が使われます。渡航者では、血中ステージのマラリアを抑制し発症を予防する化学予防内服によってマラリアを予防することができます。WHOは高伝搬地に住む妊婦に対しサルファドキシン・ピリメサミン(SP)の間欠療法を妊娠中期、後期に行うことを推奨します。同様に、アフリカの高伝搬地に住む乳幼児にもSPでの間欠予防投薬を3回、定期予防接種と平行して行うことを推奨します。
殺虫剤抵抗性
マラリア制御において強調すべき成功のほとんどはベクターコントロールによるものです。ベクターコントロールは高い割合でピレスロイドによるものです。ピレスロイドは現在推奨されているITNsやLLINsで使用されている殺虫剤の唯一の種類です。現在のところ、明らかな制御失敗は1~2例しかありませんが、ピレスロイドに対する耐性が(特にアフリカで)出現してきました。
今のところ対費用効果がありかつ安全な、代替の殺虫剤はありません。新しい代替の殺虫剤開発が第一の優先順位となりますが、高価で長期にわたる事業です。蚊帳に使用する新しい殺虫剤が特に至急望まれます。
殺虫剤耐性の確認は、最も効果的なベクター制御を行うために国家マラリア制御対策の必須の構成部分です。IRSに使用する殺虫剤の選択は、ターゲットとなるベクターの直近の、その地域での感受性データの情報に基づくべきです。
経済的、保健システムへの影響
マラリアは甚大な経済的損失をもたらし、高伝搬の国々では国民総生産(GDP)を1.3%減少させることがあります。長期にわたるこの年間損失の累積は、マラリアの常在する国としない国の間(特にアフリカで)にGDPの格差を生じさせました。
マラリアの保健費用には、個人的及び公衆学的なマラリア予防と治療に関する支出が含まれます。支出の重圧に苦しんでいるいくつかの国々では、マラリアは以下の原因となっています;
- 公衆衛生支出の40%
- 入院患者の30-50%
- 医療機関を受診する外来患者の60%
マラリアは、治療を受けられなかったり、医療機関の受診が困難な貧しい人々を不公平に襲い、その家族や共同体を貧困の負のスパイラルへと落としていくのです。
根絶
多くの国々(特に温帯地域や亜熱帯地域)は、マラリアの根絶に成功しています。1955年にWHOが展開した全世界的マラリアの根絶キャンペーンは、いくつかの国では成功しましたが、最終的なゴールには達しませんでした。そこで20年たたないうちに中断し、新たに規模を縮小したマラリア制御のゴールを設定しました。しかしながら最近、長期的なマラリア根絶のゴールが再び注目されてきています。
大規模なWHO推奨戦略、現在使用可能なツール、確固たる国家責任、パートナーとの協力態勢で臨めば、もっと多くの国が(特にマラリア伝搬が低いか不安定な国では)マラリア根絶に向けて前進することができるでしょう。
マラリアワクチン
現在マラリアや他のヒト寄生虫に対する認可されたワクチンはありません。RTS,S/AS01として知られている熱帯熱マラリア原虫に対するワクチンの研究が最も進んでいます。このワクチンは現在アフリカ7ヶ国で大規模臨床試験の評価中です。3ステージ毎の臨床試験の結果が、それぞれWHO外部の顧問委員会で検討されます。このワクチン使用に関するWHO推奨は大規模臨床試験の最終結果待ちです。最終結果は2014年になる予定です。他のマラリアワクチンは研究の早期段階です。
WHOの対応
WHO全世界的マラリア計画はマラリア制御と根絶の課程を以下の方法で示す責任があります;
- エビデンス(証拠)に基づく方針をたて戦略を記述すること
- 全体的な進展を独立して評価すること
- 能力確立、組織強化、サーベイランスへの取り組みを推し進めること
- マラリア制御への脅威を感知、除外し行動のための新たな分野を開拓すること
WHOは、マラリアに対し共同で行動する全世界的な機構であるマラリア抑制パートナーシップ(Roll Back Malaria partnership)の共同創立者であり主催者でもあります。この機構は行動や資源を動員し、構成機関の統一した見解を作り出します。マラリア流行国、開発部門、個人部門、非政府団体、共同体単位の機関、基金、研究、研究所を含む500以上の構成機関から成りたっています。
詳細については
WHO media centre
電話: +41 22 791 2222
E-mail:mediainquiries@who.int
出典
WHO:Fact sheetOctober 2011http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs094/en/index.html