ポリオについて (Fact sheet)

2011年10月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

概要

  • ポリオ(急性灰白髄炎)は主に5歳以下の小児が罹患する疾患です。
  • 感染者200人に1人が不可逆性の麻痺を起こします。麻痺を起こした患者の5~10%は呼吸筋が機能せず死亡します。
  • ポリオ患者は1988年には推定35万人いましたが、2010年には99%以上減少し1,349人の報告でした。この減少はこの疾患の撲滅のための世界的な努力の結果です。
  • 2011年では4ヶ国(アフガニスタン、インド、ナイジェリア、パキスタン)のみがポリオ常在国ですが、1988年には125ヶ国以上ありました。
  • ポリオ伝播が続いている北部ナイジェリアと、アフガニスタンとパキスタンの国境地域が現在ポリオ撲滅イニシアチブの焦点です。
  • 小児一人でも感染していれば、全ての国々の小児がポリオに罹る可能性があります。2009-2010年に、かつてはポリオ清浄国だった23ヶ国で輸入ウイルスよる感染が再発生しました。
  • 多くの国で、効果的なサーベイランスと予防接種システムを確立することにより他の感染症へ取り組む能力を高めるよう包括的な努力がなされています。
  • 成功は世界的撲滅イニシアチブの次段階への財源の確保にかかっています。

ポリオとその症状

ポリオはウイルスによる非常に感染力の強い疾患です。ウイルスは神経系に侵入し数時間で全麻痺を起こすこともあります。ウイルスは経口感染し腸内で増殖します。初期症状は発熱、全身倦怠感、頭痛、嘔吐、頚部硬直や四肢の痛みです。感染者200人に1人の割合で不可逆性の麻痺(通常は下腿)が起こります。麻痺を起こした患者のうち5~10%で呼吸筋が麻痺し死亡します。

リスクの高い人

ポリオは主に5歳以下の小児で起こります。

予防

ポリオの治療方法はなく、予防のみ可能です。複数回にわたるポリオワクチンの投与が小児の命を守ります。

世界での発生件数

1988年には125ヶ国以上の常在国がありポリオ患者は推定350,000人いましたが、2010年には99%以上減少し1,349人の報告でした。全世界で4ヶ国の一部地域(過去最少の地域)のみに常在しており、野生株ポリオ3型の症例数は今までの最低レベルまで減少しています。

世界ポリオ撲滅イニシアチブ

開始

1988年に、166ヶ国の代表者が参加した第41回世界保健集会でポリオを全世界で撲滅する決議が採択されました。そこでWHO、国際ロータリー、米国疾病対策センター(CDC)、国連児童基金(UNICEF)が主導する世界ポリオ撲滅イニシアチブが始まりました。これに続いて、1980年の天然痘撲滅宣言後、1980年代中にアメリカにおけるポリオウイルスの排除に向けて国際ロータリーは全ての子供をこの疾患から守るため基金を設立しました。

経過

世界ポリオ撲滅イニシアチブが発足して以来、最終的にこの疾患の患者数は99%以上減少しました。2011年には世界で4ヶ国のみがポリオ常在国です。ポリオ伝播の源となっている北部ナイジェリアと、アフガニスタンとパキスタンの国境地域が疫学的課題の要です。1994年にWHOアメリカ地域(36ヶ国)はポリオ撲滅を宣言し、2000年にはWHO西太平洋地域(中国を含む37の国と地域)、2002年6月にはWHOヨーロッパ地域(51ヶ国)がそれぞれ宣言を出しました。2010年にヨーロッパ地域で宣言後初めての輸入ポリオの症例がでました。2011年に西太平洋地域も輸入ポリオウイルスを確認しました。

2009年には40ヶ国での273の追加接種活動(SIAs)で3億6100万人以上の小児がワクチン接種を受けました。世界的にみて急性弛緩性麻痺症例が適時に確定されていることからポリオサーベイランスは歴史的にも高水準です。

目標

世界ポリオ撲滅イニシアチブの目標は:

  • 野生株ポリオウイルスの伝播を可能な限り遮断することです。
  • 世界的なポリオ撲滅宣言を達成することです。
  • 保健システムの発展に寄与し、組織的な方法で定期予防接種や伝染性疾患サーベイランスを強化することです。

戦略

ポリオによる影響を受けたり、再流行が起こる危険性の高い地域で野生株ポリオウイルスの伝播を食い止めるために4つの中心となる戦略があります:

  • 生後1年以内に4回の経口生ワクチン(OPV)を投与する乳児接種の接種率を高めること;
  • SIAs期間中に5歳以下の全ての幼児にOPV追加接種をすること;
  • 15歳以下の小児の全ての急性弛緩性麻痺(AFP)症例の報告と検査室検査を踏まえた野生株ポリオウイルスのサーベイランス;
  • 野生株ポリオウイルスの伝播が特定の地域にまで封じ込められた地域での“モップアップ(掃討)”キャンペーン

WHOがポリオフリー(清浄化)を宣言するためには、3つの条件が満たされなければなりません:

  • 野生株ポリオウイルスによるポリオ症例ゼロが少なくとも3年続いている;
  • 国内の疾病サーベイランス活動が国際基準に達している;
  • 各国は輸入ポリオ症例の検出、報告、対応の能力について明らかにする

世界がポリオフリーになるまで、(野生株の)検査室保存がなされ、不活化ワクチン(IPV)製造会社で野生株の安全な管理が確実になされなければなりません。

独立監視委員会(IMB)は四半期毎に世界ポリオ撲滅イニシアチブ戦略計画2010-2012の重要な段階において進捗状況を評価し、必要と思われる中途修正の影響を判定し、追加された対策について助言を行います。

連携

世界ポリオ撲滅イニシアチブ(GPEI)はWHO、国際ロータリー、CDC、UNICEFが主導しています。ポリオ撲滅は健康、及び利用可能な医学的対応の対象である全ての小児への倫理責務において公正なものです。

ポリオ撲滅の連携はポリオ発生のある国々の政府をはじめ、民間セクター基金(例えば国連基金、Bill & Melinda Gates基金);開発銀行(例えば世界銀行);援助国政府(例えばオーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルグ、マレーシア、モナコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、オマーン、ポルトガル、カタール、韓国、ロシア、サウジアラビア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ);欧州委員会;人権団体やNGO(例えば国際赤十字、赤新月社、世界貧困プロジェクト)そして提携パートナー(例えばサノフィパスツール、ワイエス)を含みます。

開発途上国のボランティアも重要な役割を担っています。2000万人の人々が大規模ワクチンキャンペーンに参加しました。

ポリオ根絶のための優先順位

ただ1人の子供でもポリオに罹っている限りは、全世界の子供たちがポリオに罹る危険性があります。

野生株ポリオウイルスの伝播を食い止め、ポリオ撲滅の有益性を最大限にするための世界的な優先順位は:

常在国での野生株ポリオウイルスの伝搬を阻止すること

現在ポリオは以前と比較し地理的に、より限局されてきました。最優先事項は、ポリオ伝播が未だ阻止されていない4ヶ国のSIAs期間中に全ての小児にワクチンが行き届くようにすることです。成功させるために、高度の政治的責務が国、州・省、自治区レベルで維持されなければなりません。2010年には新しい戦略計画が、過去の教訓やポリオ伝播を止めるための主な課題の評価に基づき開始されました。この戦略計画はそれぞれの感染地域ごとに特徴的な課題に焦点を当てた地域特異的な計画であり、2価経口ワクチンなどの新しいツールを充分に利用し、保健システムを強化しています。

伝播の再流行を終息させること

アンゴラ、チャド、コンゴ民主共和国の3ヶ国は12ヶ月以上にわたり伝播が続いているので“再確立された伝播”の状態にあると区分されます。これらの国は常在国と同レベルの優先順位で取り扱われます。2011年当初に、3ヶ国はその状況に取り組み、対策の隙間を埋めるため緊急行動計画を開始しました。

新たな流行を防止すること

ポリオウイルスはワクチン接種が不十分な小児に定着する性質があります。中国、コンゴ、ロシア、タジキスタンで経験されたように、ポリオウイルスは国境を越えて侵入します。輸入による流行を最小限にするため、各国は接種率を高い割合で維持しなければなりません。

資金供給の格差を解消すること

ポリオ撲滅を支援するためには、十分な資金源が必要です。しかしながら、人権的な恩恵に加え、経済的な数理モデルでもポリオ撲滅は少なくとも400億-500億米ドルの恩恵をもたらすと見積もられています。必要とされるワクチンキャンペーンを成功させサーベイランスを成功させられるかは財政面において出資者からの十分な資金提供次第です。

イニシアチブの課題

現在歩くことのできる800万人以上の人々がワクチン接種がなかったら麻痺していたかもしれず、これはイニシアチブによって1988年に始まったポリオワクチンのおかげです。

障害を残す疾患を予防するために、世界ポリオ撲滅イニシアチブは貧困を減少させることを支援し、子供やその家族が健康で生産的な生活が得られる機会を増やしています。

子供たちがどこにいても接触する手段を駆使したことにより、SIAsの期間中に世界中で20億人以上の子供たちがワクチン接種を受けることができました。このことは、よく計画された保健介入は僻地や紛争地域や最も貧困な地域であっても到達できることを示しました。

SIAs計画は、遠く離れた村や家に住む小児を初めて見つけ出し、さらにその後の保健サービスのための地図作りといった人口統計データも提供します。

ほとんどの国で世界ポリオ撲滅イニシアチブは鳥インフルエンザやエボラなどの他の感染症への取り組みへ活動を広げており、効果的な症例報告やサーベイランスシステムを確立し、地域の疫学者のトレーニング、世界的な研究機関ネットワークの構築などを行っています。この活動は2010年のパキスタン洪水、2011年のアフリカの角での大干ばつで展開されました。

定期予防接種はコールドチェーン、輸送や情報システムを充実させることで強化されてきました。これらのサービスの改善は、数百万人もの若年者の命を守るための麻疹ワクチンキャンペーンを高いレベルで成功させるための基礎作りに貢献することになります。

ポリオSIAsの際、ビタミンAもしばしば投与されます。1988年以来、120万人以上の幼児死亡がポリオSIAsの期間中のビタミンA投与により防止されました。

平均すると、一ヶ国の国民250人に一人がポリオワクチンキャンペーンに参加したことになります。2000万人以上の保健関係者、ボランティアがOPVやビタミンAの配送の訓練を受け、疾病予防の文化をはぐくんでいます。SIAsに同調して、多くの国々が国境を越えた主な健康戦略を調整する新しいメカニズムを確立しています。それは全ての人々に行き渡るという、地域や国際保健協力のモデルを目指したものです。

ポリオ撲滅のさらなる利点

ポリオがひとたび撲滅されると、どこに住んでいる人々にとっても世界的な公衆衛生上の大きなよい成果をめでたく供与することになります。経済学的な数理モデルでは向こう5年間でポリオが撲滅されるとほとんどの低所得国で少なくとも400億から500億米ドルの出費削減になると見積もられています。

出典

WHO:Fact sheet October 2011
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs114/en/index.html