マラリア死亡の減少について

2011年12月13日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

WHOが発表した世界マラリア報告書2011〔英文〕によりますと、マラリア死亡の割合は全世界で2000年の25%以上減少し、WHOアフリカ地域では33%減少しました。過去10年間、蚊帳の使用が広く普及、診断の向上、効果的な治療薬が広く利用可能になったことを含めマラリア予防と制御対策が著しく向上した結果です。

しかしながら、予測される基金不足がかすかな成果への脅威となり、治療薬と殺虫剤への耐性化という2つの課題へ前もって取り組むことが必要であるとWHOは警告します。

マラリア発生率と死亡率の減少

WHO事務局長のDr.Margaret Chanは“大きな公衆衛生上の問題との戦いで著しい進展がありました。リスクのある人々へのマラリア予防と制御対策の普及が2010年にも拡大したので推定マラリア患者数と死亡者がさらに減少する結果になりました。しかし、進展を減速させる懸案事項があります”と述べました。

報告によりますと、過去10年間、マラリアの発生率と死亡率は世界の全ての地域で減少しました。2010年には世界106の流行国と流行地域で推定2億1600万人の患者が発生しました。この症例の推定81%と死亡者の91%はWHOアフリカ地域で発生しています。全体では、死亡者の86%は5歳以下の小児です。

2010年には推定655,000人のマラリア死亡者がでましたが、その前年より36,000人減少しました1)。前年度比で5%の減少は大きな進展ですが、この死亡率は完全に予防可能で治療可能な疾患としてはかなり高い数値です。

“アフリカでのマラリア死亡者数は2000年から減少し、マラリア死亡をなくすための投資へのリターンは私が経済界にいた頃経験した何よりも大きな成果です。しかし未だに毎分1人の子供がマラリアで死亡しており、子供一人も一分もあまりに大きな数値です。”と、国連マラリア特別顧問Raymond G. Chambers氏は述べています。

“現在の経済危機による損失は今までの利益を喪失させるか、進歩を鈍化させるに違いありません。バンキムン事務総長の2015年の終わりまでに死亡数をゼロに近づけるという指令があるので、今、後戻りさせるわけにはいきません。”とも述べています。

マラリア制御のためのたゆまぬ歩み

長期作用殺虫剤含浸蚊帳は最も廉価で最も効果的なマラリア対抗策です。新しい報告によりますと、サハラ以南アフリカのマラリア常在国に届けられた蚊帳の数は2009年の8,850万から2010年には1億4,500万に増加しました。現在サハラ以南アフリカの世帯の推定50%が少なくとも1つの蚊帳を保有し、入手した96%の人がそれを利用しています。

診断的検査方法の開発でも大きな進展がありましたが、他の熱性疾患からマラリアを鑑別することは非常に重要なことです。製造会社から届けられた迅速診断キットは2008年の4,500万キットから2010年には8,800万キットに増加しており、WHOアフリカ地域の公共部門での検査割合は2005年の20%から2010年は45%に増加しています。

世界中で、公共部門に届けられた抗マラリア薬の量も増加しました。アルテミシニンをベースにした併用療法(ACTs)が2010年には1億8,100万コース分が調達されていますが、2009年は1億5,800万コース、2005年にはほんの1,100万コース分でした。ACTsは最も致死的な熱帯熱マラリアの治療で第一次選択として推奨されています。

予測される基金不足

2010年の著しい進展にもかかわらず、マラリア基金の不足が予測され、苦労して手に入れた過去10年間の成果が脅かされています。

マラリア制御のための国際基金は2010年には17億米ドル、2011年には20億ドルに達しましたが、最終的なマラリア目標に到達するため必要とされる年間50~60億ドルには届いていません。報告書の見積もりでは、英国からの支援が増強されたにもかかわらず、基金は2012年と2013年にはわずかに減少し2015年にはさらに減少して15億ドルになるということです。

AIDS、結核、マラリアとの戦いのための世界的基金の中で使うことのできる資金の減少が端緒となり、この基金不足はマラリア制御の展望をかなり変化させ、この疾患への多方面からの取組みの継続を脅かすものとなるでしょう。その取組みの継続は、蚊帳や屋内散布、診断検査、治療、研究や新制度への投資にかかっています。

“充分な世界的基金、あらたな資金提供者、そして(マラリア)常在国の参加が必要で、行く手に横たわる大きな課題に取り組む必要があります。多くの蚊帳が今後も必要ですし誰もが診断的検査や効果的治療を受けられるという目標は実現させなければなりません。至急行動を起こし、5ドルの蚊帳、1ドルの抗マラリア薬、50セントの検査キットが手に入らないためにマラリアで死亡する人を無くさなければなりません。”とWHO世界マラリア対策本部長のDr Robert Newmanは述べています。

緊急の脅威

アルテミシニン耐性の熱帯熱マラリア原虫は、2009年カンボジア-タイの国境地域で確認されていますが、現在はさらにミャンマーやベトナムでも確認されています。WHOは全ての国に対して、アルテミシニンベースの単剤経口治療薬の販売を禁止するように勧告しています。単独での治療は耐性出現とその拡大を助長する因子の一つです。国際的な圧力にもかかわらず、25ヶ国が経口アルテミシニンをベースにした単剤治療薬を販売しており28ヶ所の製薬会社(2010年には39ヶ所)がこの商品を製造販売し続けています。

殺虫剤耐性蚊の問題も大きくなってきています。ただし、マラリアベクターコントロールの成果を広く損ねるものではありません。世界マラリア報告書2011によりますと、世界中の45ヶ国でマラリアベクターコントロールに使われている4つの殺虫剤のうち少なくとの1種類に耐性の蚊が初めて確認されました;このうち27ヶ国はサハラ以南アフリカの国でした。WHOヨーロッパ地域を除く全てのWHO地域で耐性が報告されています。インドとサハラ以南アフリカのマラリア常在国は耐性が広く広がっているという報告があり最も心配な地域です。そのいくつかの地域では全ての殺虫剤に対して耐性があり、同時に高いマラリア感染率です。

現在のマラリア制御の取り組みはピレスロイドという一種類の殺虫剤に大きく依存しており、これは屋内残留散布薬として最も普通に使用され、唯一推奨されている殺虫剤で、長期作用殺虫剤含浸蚊帳として現在使用されているものです。この脅威の出現に対して、WHOは関係者と共にマラリアベクターの殺虫剤耐性対策のための世界計画を策定しています。2012年早期に発表される予定です。

メモ

世界マラリア報告書2011はWHOの年間報告書です。これはマラリア常在国、マラリア制御パートナーからの報告やわかりやすい指標に基づく予防や対応の解析結果をまとめたものです。今年の報告書は主に2010年に各国から報告されたデータに基づいています。報告書はマラリア伝播が継続している99ヶ国の概略を初めて掲載しています。

1) 世界マラリア報告書2011の中で示されている推定マラリア死亡者(655,000人)は世界マラリア報告書2010で示された死亡者(781,000人)よりかなり減少しました。この一つの原因は実際にマラリア死亡者が減少(36,000人)したことと、また別には推定で全ての原因と疾患による過去10年間の乳幼児死亡率-国連機関である乳幼児死亡率推定班による-が下方修正されたことによります。この修正で推定マラリア死亡率がWHOアフリカ地域でおよそ11%減少しました。

出典

WHO:Malaria deaths are down but progress remains fragile
http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2011/malaria_report_20111213/en/index.html