野生動物から感染するヒト狂犬病について-中南米

2011年12月22日 PAHO(原文〔英語〕へのリンク

現在の状況

アメリカ大陸では、犬から感染するヒトの狂犬病はほとんど排除されています。それにもかかわらずここ数年で、コウモリから感染するヒトの狂犬病は、アメリカ大陸で公衆衛生問題として再浮上しています。このウイルスは家畜と野生動物に感染し、感染した唾液に暴露されることでヒトに感染します。
2011年に、コウモリから感染したヒトの狂犬病が、エクアドルとペルーで発生し、狂犬病ウイルスに感染したコウモリがアルゼンチン、ブラジル、チリ、キューバ、コスタリカ、ホンジュラスで検出されたと報告されました。また、犬から感染したヒトの狂犬病の症例はボリビア、ブラジル、グアテマラ、ハイチ、ペルーで報告されました。
今年の疫学週(EW)49週に、エクアドル保健省はモロナ・サンティアゴ県のTaisha地域のHuasaga区から先住民族のコミュニティでコウモリからの感染によるヒトの狂犬病の流行の発生を報告しました。2011年11月3日から2011年12月7日の間に、狂犬病に起因する死亡例が11人がありました。死亡者の年齢は5~30歳(中央値11歳)の範囲でした1)。
このような状況の中で、汎米保健機関/世界保健機関(PAHO/ WHO)は2010年8月30日疫学アラート2)を通じてなされた勧告を改めて表明しました。それはリスクのある地域(コウモリの中でウイルスが循環していることを検査結果でリスク地域として確認することを含め)を決定するより先に、狂犬病に感染したコウモリや他の野生動物の咬傷を受けるリスクのある人々(特に熱帯雨林に住む人々やそこへ訪れる人々)に暴露前接種を確実に行うための戦略を進展させる必要性に関する勧告です。

加盟国は監視活動とウイルスの循環を監視することに加えて、動物に咬まれたヒトの症例の調査を強化し、継続することを奨励します。各国はヒト症例発生のリスクを減らすために予防と制御のための横断的な努力を継続すべきです。

検査での診断

検査室による検査は狂犬病の決定的な診断を得るために行われなければなりません。バイオセキュリティは高い致死率をもたらす狂犬病のリッサウイルスを扱うときに重要な対策となります。
レベル2のバイオセキュリティ検査室は、狂犬病を診断するための安全かつ適切なものです。しかし検査技師は適切なレベルの中和抗体ができるまで、ワクチン接種を受ける必要があります。
リスクへの暴露を防ぐために、分析用の検体は国内および国際的な基準に従い取り扱うべきです。検体は、感染物輸送規制のガイダンスに従い、冷蔵しなければなりません。
診断は蛍光抗体法で確定されますが、この検査法は狂犬病の診断をするのに迅速かつ感度のよい方法です。この検査は組織切片を蛍光イソシアネートで標識した抗狂犬病血清またはグロブリンで処理し紫外線下で顕微鏡観察します。

脳幹、視床、視床下部、小脳、及び海馬組織のサンプルが、感度がいいので推奨されます。

確定のための別の検査は、マウスや培養細胞におけるウイルスの分離です。それは分離株の抗原性と遺伝的特性評価のための国際リファレンス研究施設で行われる必要があります。

推奨事項

野生動物の狂犬病の再出現に直面してPAHO/WHOは、加盟国(特に野生動物の狂犬病が報告されたアマゾン地域)へ以下のことを推奨します。

  • WHO推奨のヒトへ使用するための免疫生物学的(ワクチンおよび血清)の可用性と危険地域で使用する物資と物流などを確認してください。
  • アマゾン地域の吸血コウモリによる狂犬病について専門家と協議しながら、リスク地域の優先順位をつけて吸血コウモリ被害のモニタリングを強化し、その地域での吸血コウモリの生息数管理の必要性を評価する(参考文献9参照)。
  • WHO推奨(参考文献8参照)とREDIPRA第10版(参考文献6)の報告書に含まれる内容について留意してください。
    1. A.昨年コウモリに襲われたすべての人は、WHO推奨する暴露後のワクチンの狂犬病の予防スキームと必要な場合は免疫グロブリンを受けるべきです。
    2. B.住民の習慣や住んでいる環境でコウモリ曝露のリスクがあるすべての人は、暴露前の予防療法を受けるべきである。

特に乳幼児や高齢者などの年齢層、妊娠、他の疾患を有している人は、暴露後の予防接種は禁忌ではないことに注意することが重要です

参考文献

  1. 1.Rabies.World Health Organization Fact Sheets.Available at:http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs099/en/index.html
  2. 2.World Health Organization Expert Consultation Meeting on rabies.Primer Report,2005.WHO technical report, Series931.Available at:http://whqlibdoc.who.int/trs/WHO_TRS_931_eng.pdf[PDF形式:772KB]
  3. 3.Transport of Infectious Substances. Geneva.World Health Organization,2010 WHO/HSE/IHR/2010.8.Available at: http://whqlibdoc.who.int/hq/2010/WHO_HSE_IHR_2010.8_eng.pdf
    http://www.who.int/csr/resources/publications/biosafety/WHO_HSE_EPR_2008_10/en/
  4. 4.Rabies vaccines WHO position paper.Weekly Epidemiological Record. No 32, 2010, 85 309-320.Available at:http://www.who.int/wer/2010/wer8532.pdf[PDF形式:281KB]
  5. 5.Report on the13th Meeting of Latin Americas Rabies Directors,2010.Available in Spanish at:http://fos.panalimentos.org/LinkClick.aspx?fileticket=OguzqhFJDdc%3d&tabid=554&mid=1242&language=en-US
  6. 6.Report on the10th Meeting of Latin Americas Rabies Directors,2004.Available in Spanish at:http://bvs1.panaftosa.org.br/local/File/textoc/X-redipra-esp.pdf[PDF形式:120KB]
  7. 7.Ecuador Ministry of Health Epidemiological Bulletin, No. 1 and 2:Human rabies outbreak.Friday, December16th, 2011.Available at in Spanish at:
  8. 8.WHO Guide for rabies Pre and Post-exposure Prophylaxis in Humans (revised 15 June 2011).Available at:www.who.int/rabies/PEP_prophylaxis_guidelines_June10.pdf[PDF形式:766KB]
  9. 9.Rabies Transmitted by Vampire Bats in the Amazon Region:Expert Consultation,10-11 October 2006.Summary available at:http://www.paho.org/english/ad/dpc/vp/rabia-murcielagos.htmFull document in Spanish available at:http://www.paho.org/spanish/ad/dpc/vp/rabia-murcielagos.pdf[PDF形式:776KB]

出典

PAHO:22December2011Human rabies transmitted by wildlife
http://new.paho.org/hq/index.php?option=com_content&task=view&id=6284&Itemid=2291