インフルエンザA(H3N2)v伝播とガイドライン

2011年12月23日 CDC(原文〔英語〕へのリンク

2011年8月17日から12月23日までにCDCは12例のインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスのM遺伝子を持つインフルエンザA(H3N2)vウイルス感染症の報告を受けました(それぞれ以前にはパンデミックインフルエンザA(H1N1)2009ウイルス、ブタ由来インフルエンザA(H3N2)と呼ばれていました)。12症例は5州から報告されていて(インディアナ、アイオワ、メイン、ペンシルバニア、ウェストバージニア)、11人は小児です。12人の患者のうち6人はブタとの接触はありませんでした。12人のうち3人は入院し、全員が完治しています。

12人のうち1人はインディアナ州の成人男性で職業上ブタへの曝露があり、ウェストバージニア州の2人の小児は最近報告された症例児が通っていたデイケアへ定期的に通っていました。この報告書はその症例と農務省(USDA)の行ったブタインフルエンザウイルス(SIV)サーベイランスについての報告です。

症例報告

インディアナ州

2011年10月28日、CDCはインディアナ州保健省から成人男性でのA(H3N2)vウイルス感染疑いの報告を受けました。患者は10月20日に発熱、咳、息切れ、吐き気、嘔吐、体の痛みで発症し、4日間入院しました。男性は抗インフルエンザウイルス薬の治療は受けませんでしたが完治しました。

10月22日に、病院での患者の呼吸器検体でインフルエンザが陽性でした。10月28日にはインディアナ州立公衆衛生研究所でのリアルタイムRT-PCR(rRT-PCR)で、ウイルスはインフルエンザA不確定、かつ最近のA(H3N2)v感染で見られた結果とよく一致していました。10月31日にCDCでの遺伝子配列でこのウイルスはA(H1N1)pdm09由来のM遺伝子を持つA(H3N2)vと同定され、2011年の8月からアメリカ国内でヒト症例から分離同定されたウイルスと類似していました。

患者は発症前週の仕事中にブタと直接接触があったと報告しています。患者はブタが症状を呈していなかったので個人防護装備(PPE) は装着していなかったということです。患者の同居家族や他の濃厚接触者のいずれにも臨床症状のあった人は報告されていません。

ウェストバージニア州

11月19日、5歳以下の小児が咳と鼻づまりの1週間後に急な発熱で発症しました。その子は発熱の2日前に関係のない別症状で入院していました。11月21日、呼吸器からの検体が採取されました。病院で簡易検査が行われインフルエンザとRSウイルスは陰性でしたが、インフルエンザAが病院のrRT-PCRの変法で確認されました。検体はウェストバージニア検査サービス事務所へ送付され、そこでの検査でインフルエンザA (H3N2)vウイルスが疑われました。さらにCDCの遺伝子配列でA(H1N1)pdm09由来のM遺伝子を持つA(H3N2)vウイルスと同定されました。患児は最近の旅行やブタとの接触はなく、11月21日に退院し、その後インフルエンザ症状は回復しています。

11月9日から12月19日の間にその患児と接触した人の呼吸器症状についての調査が行われました。その患児と一緒にデイケアへ定期的に参加した子供たちを含めて複数の接触者がその期間に呼吸器症状を呈していました。11月29日、先の患児と同じデイケアへ定期的に通っている5歳未満の小児が、最近の旅行やブタへの曝露はありませんでしたが2例目の症例で、発熱、咳、下痢、鼻漏で発症しました。2例目の患児は医療機関の受診はなく完治しました。呼吸器からの検体が12月7日に採取されウェストバージニア検査サービス事務所でのrRT-PCRでは確定できませんでした;しかし、CDCの遺伝子配列解析でA(H1N1)pdm09由来のM遺伝子を持つインフルエンザA(H3N2)vと同定されました。

他のデイケア通園者やどちらかの患児への接触者でA(H3N2)症例は確認されていません。これらの症例の引き続き調査の一環として、ウェストバージニア州と隣接するメリーランド州でインフルエンザ様疾患のサーベイランス強化と呼吸器からの検体の診断的検査の増加が行われています。現在までにコミュニティー内でのさらなるヒト-ヒト感染の証拠はありません。

アメリカ国内のブタでのインフルエンザサーベイランス

アメリカ国内でインフルエンザ様症状を呈しているブタについて広く、ブタインフルエンザウイルス(SIV)のサーベイランスがUSDAによって監視されています。2009年7月、USDA動植物検疫所と養豚産業は国内養豚場でのSIVの広がりを調べるためにSIVサーベイランスプログラムを実施しました。今日まで150の分離SIVの3種類遺伝子(ヘマグルチニン、マトリックス、ノイラミニダーゼ遺伝子)について配列を調べGenBankへ登録しました。USDA農業研究所によるGenBankへ登録されたデータの簡易解析によりますと、30検体がA(H3N2)ウイルスと同定され、そのうち8検体がインフルエンザA(H1N1)pdm09由来のM遺伝子を持っていました。さらに調査解析は続いており、診断学的作業が終了したので新たな登録が追加されました。

報告者

Shawn Richards, Mark Glazier, Katie Masterson, Michael Denton, Indiana State Dept of Health; Cheryl Miller, DVM, Indiana Board of Animal Health.Carl Liebig, MD, Andrew J.Root, Cynthia Whitt, Mineral County Health Dept, Julie Freshwater, PhD, Sherif Ibrahim, MD, Danae Bixler, MD, Christi Clark, Loretta Haddy, PhD, West Virginia Dept of Public Health.Swine Influenza Virus Team, U.S.Dept of Agriculture.Douglas Jordan, MA, Matthew Biggerstaff, MPH, Scott Epperson, MPH, Lynnette Brammer, MPH, Lyn Finelli, DrPH, Susan Trock, DVM, Michael Jhung, MD, Joseph Bresee, MD, Stephen Lindstrom, PhD, Alexander Klimov, PhD, Daniel Jernigan, MD, Nancy Cox, PhD, Influenza Div, National Center for Immunization and Respiratory Diseases.Rachel Radcliffe, DVM, Career Epidemiology Field Officer Program, Office of Public Health Preparedness and Response; Tegwin Taylor, DVM, EIS officer, CDC.Corresponding contributor:Douglas Jordan,dejordan@cdc.gov, 404-639-3747.

編集ノート

現在ブタの中で循環しているインフルエンザウイルスの人への感染はまれです。2005年からアメリカでは35症例のみが報告されていますが、分離同定される頻度は2011年に増加しました。単一の宿主(ヒトまたはブタ)で異なるインフルエンザウイルスが同時に感染した場合、遺伝子の交換が起こり新しいウイルスが発生する原因になります。その新しいウイルスと最近流行している季節性ウイルスとの間の抗原的な差異によりヒト集団の中で免疫がほとんど、又は全くない可能性があります。インフルエンザA(H3N2)vはインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスとブタインフルエンザA(H3N2)ウイルスの再集合の結果です。この再集合の図解はCDC公衆衛生イメージライブラリーのオンラインで入手可能です。このウイルスは新しく確認された組換え遺伝子を持っているので、ブタの中での感染力、ヒトの間での感染力、ブタ-ヒト間の感染力についての情報はあまりありません。しかし最近のブタへ曝露のあったヒト感染例やSIVサーベイランスの結果から、このウイルスも現在養豚場内で循環していることが示唆されました。

インディアナ州での職業上ブタと接触したインフルエンザA(H3N2)v患者とウェストバージニア州のデイケアに通園していた明らかに限定的なヒト-ヒト感染症例はこのウイルスの伝播に関して2つの異なるシナリオを提示しています。以前にもその関係が指摘されていましたが、ヒトがブタへ曝露される職場ではインフルエンザ伝播が種を超えて起こる職業上のリスクが明らかになりました。職業上のインフルエンザが種を超えて伝播するリスクを最小限にするため、CDCと労働安全健康管理部(OSHA)は養豚作業者へ以下を薦めます。1)ヒト季節性インフルエンザワクチンの接種、2)適切なPPEの装着、3)ブタと接触した時、特にブタに症状が見られるとき接触した後は石けんと流水でよく手を洗うなどの衛生管理。全国豚肉協会は製造業者に対して獣医と共にブタインフルエンザワクチンを含めインフルエンザ対策をとりブタの感染を予防するように勧奨しました。ヒトと同様ブタもインフルエンザウイルス感染があっても症状がいつも出るわけではありません。インフルエンザ様症状がでる1週間前にブタと接触したヒトは医療機関を受診したとき主治医に接触があったことを知らせるべきです。ブタと接触後インフルエンザ様症状のでたヒトは充分に免疫がつくまで他のヒトに接触したり、ブタに接触したりしないよう可能な限り家にいるよう推奨します。

ブタと接触のある職業のヒトに対する手引きがOSHAからでています。さらに全国豚肉協会、CDC、全国州公衆衛生獣医委員会はブタへ接触する人たちへの手引き書を発行しました。臨床家は職業上、または農業祭や出し物などの催し物でブタに近づいたことのある発熱性呼吸器疾患患者の鑑別診断として変異インフルエンザウイルス感染を考慮すべきです。

ウェストバージニア州のA(H3N2)v感染症例は同じデイケアに通園していた2人の子供でしたが、最初の患者が次の患者へウイルスを伝播したのではないようです。なぜなら2人の発症は10日以上あいていたからです。このことは限定的なヒト-ヒト感染がデイケア内で起こっていたと推察されます。それ故、臨床家はブタへの曝露のないヒトの場合でも、特にインフルエンザA(H3N2)v症例が報告された州の小児の場合はインフルエンザA(H3N2)vの可能性を考慮すべきです。変異インフルエンザウイルス感染を疑った場合、鼻咽頭拭い液を採取し、ウイルス輸送培地に入れ、州や郡の保健部に連絡を取り輸送診断が適宜に行われるようにするべきです。今日までに分離されたインフルエンザA(H3N2)vウイルスはインフルエンザ治療薬であるオセルタミビルやザナミビルに感受性です。患者で変異インフルエンザ感染を疑った臨床家はもし臨床的にそれが示唆された場合はこれらの薬剤で治療することを考慮すべきです。このウイルスはインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルス由来のM遺伝子を持っているので、アマンタジンやリマンタジンに耐性です。CDCは州公衆衛生研究所が変異インフルエンザAを疑った検体についてCDCへ至急連絡し、CDCインフルエンザ課ウイルスサーベイランス診断室へ検体を送付するよう要請します。確定患者はさらに調査し、迅速にブタ-ヒト感染か、ヒト-ヒト感染が起こっているのか明らかにし、さらにヒト間での曝露やブタへの曝露を制限するべきです。そのような調査は州、郡、国の公衆衛生と動物保健機関との密接な連携が必要です。

CDCはこれらの症例のでた地域でそれぞれの症例を充分に調査し、変異インフルエンザウイルス感染患者を確定するためのインフルエンザサーベイランスを強化するためにUSDA、州の保健専門家や動物保健専門家と一緒に対応しています。CDCのrRT-PCR検査は2011年9月にFDAで認可され推定インフルエンザA(H3N2)v患者の確定診断をすることができます。この診断学的検査キットは国内の公衆衛生検査機関やWHOに登録された他国の国立インフルエンザセンターへ配置されています。さらにインフルエンザA(H3N2)vウイルス確定診断を改善するためのrRT-PCRが追加で開発中です。

今日までに行われた限局的な血清学的研究で、若年者はインフルエンザA(H3N2)vウイルスに対する免疫はほとんどないことが示唆されました。このウイルスのヘマグルチニン遺伝子は1990年代に循環していたヒトのインフルエンザA(H3N2)に関連したものなので、年長の小児や成人ではこのウイルスに対する限局的な免疫をもっているかもしれません。若年者、妊婦、喘息や糖尿病や心肺疾患などの基礎疾患を持つ人、65歳以上の人を含め一部の人はインフルエンザA(H3N2)vウイルスのような変異インフルエンザウイルスで重症のインフルエンザ関連合併症にかかるリスクが高いようです。インフルエンザA(H3N2)vウイルスは現在のヒト季節性インフルエンザとは異なるので季節性のワクチンでは十分な予防効果は期待できません。

CDCはインフルエンザA(H3N2)vウイルスや他の変異インフルエンザウイルスに関して公的パートナー、州、郡の保健機関や関係者と定期的また適宜に情報を提供しますA(H3N2)vウイルスに関連した更新情報や手引き書はCDCのサイトhttp://www.cdc.gov/flu/swineflu/influenza-variant-viruses.htm. で入手できます。

参考文献

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出典

CDCMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)
:Update:Influenza A(H3N2)v Transmission and GuidelinesFive States,2011
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm60e1223a1.htm?s_cid=mm60e1223a1_w