オハイオ州での神経学的疾患や神経発達障害のある若年者における重症インフルエンザ

2012年1月6日 CDC(MMWR)(原文〔英語〕へのリンク

神経学的疾患や神経発達障害のある小児は死亡を含めインフルエンザが重症化するリスクが増大します(1-3)。2011年4月オハイオ州健康局とCDCは、神経学的疾患や神経発達障害のある小児、若年者130人の入所施設で2011年2月に起こったインフルエンザ発生について調査しました。この報告書はインフルエンザ疑いまたは確定診断された13人の重症患者(10人が入院し、7人が死亡)についてまとめたものです。このような集団に対しては診断が重要課題であり、コミュニティでインフルエンザが循環している場合、主治医は神経学的疾患や神経発達障害のある患者で呼吸器症状や医学的状態が基準より低下した場合にはインフルエンザを考えるべきです。これらの患者では迅速な検査、早期の積極的な抗ウイルス剤での治療、抗ウイルス剤の予防投薬が重要です(4,5)。インフルエンザが疑われたら、発症後できるだけ早く、理想的には48時間以内に抗ウイルス剤を投与すべきです。検査でのインフルエンザ確定診断の結果を待つべきではありません(4)。インフルエンザが流行発生したら、入所機関(養護施設や長期療養所など)の入所者全員に、ワクチン接種の有無にかかわらず抗ウイルス剤の予防投薬をすべきです(5)。神経学的疾患や神経発達障害のある患者の入所施設は、入所対象者やスタッフ全員にインフルエンザのワクチン接種をすべきです。

調査の一部としてオハイオ州健康局とCDCは施設の入所者全員の医学記録(カルテ)を確認しました。確定インフルエンザ症例とは施設で検査確定診断(RT-PCRや迅速診断テストRIDT)された者です。入所者のほとんどは神経学的に重度の障害があり問診することが困難なので、疑い症例は広く次のように定義しました。入所者でインフルエンザの確定診断がなくても1)呼吸異状の頻度が増加または、状態が悪化した(努力性呼吸、咳、喘鳴など)場合、2)異常な体温に加え、てい泣、易刺激性/気むずかしさ、摂食拒否、嘔吐、下痢のある場合。体温異状は発熱(≥100.4°F、38.9℃)や四半期毎に記録された体温の直近3ヶ月の平均体温より2°F変化のあった場合を含めます。インフルエンザ重症例とは確定診断症例か疑い症例で、入院したか死亡した例です。症例定義のため、流行期間は2011年2月1日から28日(確定診断症例全員が含まれ最初の確定診断症例が同定される少なくとも1週間前)に設定しました。

入所施設は神経学的疾患や神経発達障害のある小児、若年者へ、医学的、娯楽的、教育的なサービスを提供し、基本的な日常生活スキルを獲得できるよう働きかけます。流行時には施設は長期療養用ベットを130床提供しました。2011年2月1日の年齢中央値は21歳(年齢分布2~41歳)でした。入所者に多い診断名は、重症から重度知的障害、てんかん、脳性麻痺、脊柱側湾症、四肢麻痺、視覚障害、反復性肺炎、胃食道逆流などです。

流行期間中、76人の入所者が急性呼吸器疾患を発症しました;13人が重症で、7人がインフルエンザ確定診断を受け6人がインフルエンザ疑いでした(Figure)。重症入所者の年齢中央値は22歳(年齢分布14~33歳)でした。重症入所者の罹病期間中央値は18日(分布6~35日)でした。重症インフルエンザ13人は、身体的な制限(側弯症、半身麻痺や四肢麻痺、脳性麻痺など)を含め、重症から重篤な神経学的疾患や神経発達障害があり(Table 1)、9人は“蘇生無し”の指示が出ていました。重症の13人全員が2010-11季節性インフルエンザワクチンを2010年10月から11月に接種していました。入所者が接種を受けた2010年10月から11月の間ワクチンが保存されていた冷蔵庫の温度記録はありませんでした。しかし調査期間に記録されていた平均温度は27°F(分布10°~42°F)(-2.8℃、分布-12.2℃~5.6℃)でした。発熱が最も多い臨床初発所見で、呼吸障害が最多の死亡退院の診断でした(Table 2)。検査された重症患者9人のうち、6人がRIDTでインフルエンザAウイルス感染陽性、1人がRT-PCRで2009インフルエンザA(H1N1)陽性の診断でした。13人の重症患者のうち8人(62%)はオセルタミビル治療を受けました;4人(31%)は発症から48時間以内に治療を開始されました。2月28日までオセルタミビルの予防投薬を受けた施設入所者はいませんでした。13人の重傷者のうち10人が入院し7人の死亡が出ています。

選択症例

患者A

2011年2月19日、101.2°F(38.4℃)の発熱があり、ルームエアーでの酸素飽和度が88%でした;経験的にシプロフロキサシンによる治療が開始されました。患者は神経学的障害で声を出すことはできますが、話したり意志で動いたりすることはできませんでした。誤嚥性肺炎や胸部レントゲン像で異状陰影があるなど以前に何回かの入院歴がありました。第2病日に中程度の咳そうと喘鳴があり酸素吸入を行いました。第3病日に多呼吸になり、呼吸器吸引が増えました、第5病日、101.3°F(38.5℃)、呼吸数が毎分24回となり入院しました;経験的治療としてピペラシリン/タゾバクタムとバンコマイシンで治療が開始されました。第6病日、RITDによりインフルエンザAが陽性となりオセルタミビル(60mg2回1日)で治療が開始されました。同日、患者は急性呼吸促迫症候群で人工呼吸器装着、敗血症で低血圧を伴い昇圧剤投与がおこなわれました。第7病日、胸部レントゲン像の、びまん性肺非透過陰影が両肺野の完全非透過性へ進展しました。患者は第8病日に死亡しました。

患者B

2011年2月24日、102.2°F(39.0℃)の発熱、乾性咳そう、ラ音、多呼吸、気管切開部位からの吸引増加、ルームエアーでの酸素飽和度84%で発症しました。神経学的障害により患者は動けず、声を出せず、話ができませんでした。第2病日、喘鳴が出現し、左下肺野の呼吸音が消失しました。入院時体温98.8°F(37.1℃)、血中白血球数増加、多呼吸、呼吸不全で人工呼吸器を装着しました。胸部レントゲン像で下肺野の低肺気量を伴う透過性の低下が認められました。検査でインフルエンザAが陽性となったため、オセルタミビル(75mg1回1日)の治療が開始されました。患者は急性呼吸器症状から回復し、入院8日後に施設へ退院していきました。

報告者

Mary DiOrio, MD, Sietske de Fijter, MS, Mindy Schwartz, Shannon L.Page, Ohio Dept of Health.Michael A.Jhung, MD, Lyn Finelli, DrPH, Influenza Div, National Center for Immunization and Respiratory Diseases; Georgina Peacock, MD, Lorraine F.Yeung, MD, Margaret A.Honein, PhD, Cynthia A.Moore, MD, Div of Birth Defects and Developmental Disabilities, National Center on Birth Defects and Developmental Disabilities; Alejandro Azofeifa, DDS, Loren Rodgers, PhD, Samuel E.Graitcer, MD, EIS officers, CDC.Corresponding contributors:Alejandro Azofeifa,aazofeifa@cdc.gov, 404-498-3858; Loren Rodgers,lrodgers@cdc.gov, 614-728-5976

編集ノート

今回の流行で神経学的疾患や神経発達障害のある13人の重症インフルエンザ患者は、本来なら早期に抗インフルエンザウイルス剤で治療を受けることができたはずです。8人が抗ウイルス剤の治療を受けましたが、4症例のみ、発症から48時間以内にオセルタミビルが開始されました。ノイラミニダーゼ阻害剤での治療は発症から48時間以内に開始されるのが最もよいとされます;しかし、最近のデータ調査によりますと、発症後48時間以降に開始されても治療により、インフルエンザ関連合併症やリスクの高い患者や重症患者での死亡を防御する助けになることが示唆されています(4)。この報告書の中の13症例は、神経学的疾患や神経発達障害のある人のインフルエンザについて2つの重要な考察を強調しています:1)早期診断早期治療の勧め、2)このような集団では重症化する高いリスクがあるということ、です。

神経学的疾患や神経発達障害のある人では、医学的状態の基準値からの変動がごくわずかであったり、症状について効果的な問診がとれなかったりするので、主治医はこのような患者でのインフルエンザ診断を積極的に行うべきです。神経学的疾患や神経発達障害のある患者では同時に筋異状や重度の側弯症のような障害による呼吸機能の障害が存在するかもしれません。そのため肺分泌物を喀出しにくく、二次的な下気道感染症のリスクが増大するかもしれません(1,5)。このような患者の主治医はインフルエンザシーズン中、可能性のある所見や症状について注意し、インフルエンザが疑われたら早期に積極的な抗ウイルス剤治療を開始すべきです。インフルエンザは非特異的呼吸器感染症様症状なので、根拠があれば経験的な抗ウイルス剤と抗生剤の混合療法を考慮すべきです。抗インフルエンザウイルス剤使用で悪心、嘔吐、めまい、鼻汁・鼻閉、咳そう、下痢、頭痛、いくつかの行動異常などの副作用がありました;しかしこれらはまれであり、抗ウイルス剤での治療はそれでも、特にこのようなハイリスク集団では、推奨されます。

13人の重症患者は全員が2010-11インフルエンザシーズン用に推奨されたワクチンを接種されたと報告されています。ワクチン接種はインフルエンザ予防と、合併症の予防に最適な方法ではありますが(4,5)、その効果はワクチン株の一致性とワクチン接種を受けた人の年齢と健康状態に依存します。2010-11インフルエンザシーズンの暫定的なデータでは、インフルエンザワクチンは全年齢層をあわせて約60%の効果で、分離された全インフルエンザウイルスがワクチン株(CDC、非公開データ2011)とよく一致していました。しかし、インフルエンザワクチンの効果は免疫低下状態の人や医学的基礎疾患のある人ではかなり低くなります(6,7)。インフルエンザは施設内で入所者やスタッフの中で急速に拡がることができますが、流行は通常あまり起こりません。医療従事者のワクチン接種は長期療養所入所者のインフルエンザと関連死亡を減少させることになります(8,9)。神経学的疾患や神経発達障害のある人では合併症のリスクが高く、ワクチン接種で完全に防ぐことはできないので、このような施設ではワクチン接種はインフルエンザ予防の大きな取り組みの中の一部分と考えるべきでしょう。この取り組みには長期療養所入所者、介護者、その他入所者にインフルエンザを伝播する可能性のある人々へのワクチン接種も含めるべきです。この取り組みには同時に感染予防策の使用、インフルエンザ疑い又は確定患者の治療に早期に抗インフルエンザウイルス剤治療を開始し、発生が判明したらすぐに他の入所者やスタッフへの感染を防ぐために抗ウイルス剤を使用することも含めるべきです(4)。

ワクチン保存の低温度は、ワクチンの至適効果に満たないことがあります。インフルエンザワクチンは35°~46°F(2~8℃)で保存すべきです。入所者がワクチン接種を受けた時期のワクチン保存温度のデータはありませんでしたが、調査の期間中の温度は至適温度よりかなり低温でした。ワクチンは製造されてから接種するまで適切に保存されるべきです。多くのワクチンは33°F(0.6℃)以下の温度で不活性化される可能性があります(10)。ワクチン保存の全ての冷蔵庫や冷凍庫の温度は1日に2回測定記録されるべきです。

この報告には少なくとも2つの制約があります。一つ目は、広義の症例定義が疑い患者に適応されており、症状のある入所者全員に診断学的検査が行われたわけではなかったことです;つまりインフルエンザ以外の呼吸器病原体が今回の流行に関与していたかもしれません。二つ目は、この施設の入所者は中等度の神経学的疾患や神経発達障害のある患者と比べ医学的にかなり虚弱であることです;それ故、この報告は神経学的疾患や神経発達障害のある患者全てまたは入所型療養所の全ての患者に当てはまるものではありません。

神経学的疾患や神経発達障害のある患者の主治医は早期の呼吸器疾患を疑わせる所見や症状に警戒し、特にインフルエンザシーズンには根拠があればすぐに抗インフルエンザウイルス剤での治療を開始すべきです。このような患者ではインフルエンザが疑われたらインフルエンザ迅速診断や経験的な抗ウイルス剤療法が推奨されます(4,5)。インフルエンザ流行時には、長期療養施設の感染しやすい入所者に対して抗ウイルス剤の予防投薬もまた推奨されます(4,5)。介護者はワクチン接種を受けるべきで、また主治医はこのような患者に対して、診断から生じる課題、重症インフルエンザ関連疾患の高リスクであることからワクチン接種を勧め続けるべきです。

謝辞

Rosemary E.Duffy, Brian Fowler,Kim Quinn, Kathleen Duffy, David Feltz,Ohio Dept of Health; Sally Ann Iverson, Shayna Rich, CDC Epi-Elective students; Jessica Citronberg, Emory Univ Rollins School of Public Health; Yvette Dominique, Jean B.Kamgang, National Center on Birth Defects and Developmental Disabilities; Miguel H. Torres-Urquidy, National Center for Immunization and Respiratory Diseases, CDC.

参考文献

  1. 1.Cox CM, Blanton L, Dhara R, et al. 2009pandemic influenza A(H1N1)deaths among childrenUnited States2009–2010.Clinical Infec Dis2011;52(Suppl 1):S69–74.
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図表

原文参照

出典

CDC(MMWR)
Severe Influenza Among Children and Young Adults with Neurologic and Neurodevelopmental Conditions-Ohio, 2011
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6051a1.htm?s_cid=mm6051a1_w