世界におけるインフルエンザ流行状況(10)

2012年1月20日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域の国々ではインフルエンザの活動性は全体的には低いままですが、カナダの一部、ヨーロッパの数カ国(トルコ、スペイン、イタリア、マルタ)、北部アフリカ(チュニジア、アルジェリア)、中国、中東(イラン)で地域的に活動性の著しい増加が報告されました。
  • 熱帯地域の国々では、一般的には低レベルの報告か、活動性が検知できないレベルです。例外的に中国南部ではB型インフルエンザが増加してきており、コスタリカでは主にインフルエンザA(H3N2)の報告が継続していますが減少傾向になります。
  • 南半球温帯地域での伝播はシーズンオフレベルですが、チリ、パラグアイ、オーストラリアでは夏季にインフルエンザA(H3N2)伝播が低レベルで報告されています。
  • 北半球温暖地域で最も多く検出されているウイルスはインフルエンザA(H3N2)亜型ですが、メキシコではインフルエンザA(H1N1)pdm09亜型が優勢に循環しており、中国ではB型の報告が優勢です。メキシコ以外での世界ではほんのわずかなインフルエンザA(H1N1)pdm09が報告されているのみです。
  • 各国からの抗原性の報告は、検査されたほとんど全てのインフルエンザAウイルスが現在使用されている3価ワクチンの抗原性と関連性があると示唆しています。一方B型ウイルスの多くは山形系統で、現在のワクチン株には含まれていませんが、全体でのB型ウイルスの検出数はA型と比較すると大変低い値です(ただし上述したように中国は例外です。)
  • オセルタミビル耐性は大変低いレベルで検出され続けていて、前シーズンで報告されたレベルを超えて特に増加はしていません。

北半球の温帯地域

北半球のほとんどの国々ではインフルエンザの活動性はまだ国の基準値以下ですが、継続した増加傾向が温暖地域で報告されており、いくつかの地域では明らかにインフルエンザシーズンが始まりました。

北部アメリカ;カナダ国内でのインフルエンザ様疾患(ILI)での受診率は、例年同時期の予測範囲内ですが、数週間前と比較すると増加し続けています。2州3地域での(ブリティッシュコロンビア、サスカチュワン)から限局的なインフルエンザの活動性が報告されており、5州18地域(ブリティッシュコロンビア、アルバータ、オンタリオ、ケベック、サスカチュワン)から散発的な発生が報告されています。今週インフルエンザに関連した入院が14例(6例が小児、8例が成人)報告されました。特に、今シーズンの全小児入院の30%が2歳以下の小児で、全成人入院の57%が65歳以上の患者です。1月第1週の検査室確定診断109例のうち77%がインフルエンザA型でした。亜型同定されたインフルエンザAウイルスの88%がA(H3N2)でした。2011年8月から検査室確定診断されたインフルエンザA(H1N1)pdm09全症例の50%と、全B型症例の35%は5歳以下の小児でした。

アメリカ合衆国ではILI受診率は低く(1.7%)、基準値(2.4%)以下のままでした。インフルエンザ陽性の臨床検体の割合は3%以下と低値でしたが、ILIと陽性率とも12月中旬から増加し続けています。ILI活動性は1州(アラバマ)で中等度ですが、他州では低値かごくわずかのままです。1州(コロラド)で地域的(regional)な活動性が見られました;限局した地域(local)での活動性が4州(テキサス、バージニア、ニューハンプシャー、マサチュウセッツ)で見られ、その他の州での報告は散発的に続いているか活動性は認められていません。122都市の定点調査で報告される肺炎やインフルエンザでの死亡割合は前年と比較すると低いままです。2012年第1週に検出されたウイルスの94%がインフルエンザA型でした。亜型同定されたインフルエンザAウイルスの92%がA(H3N2)でした。特徴を調べたA型ウイルスの99%が抗原的に、現在の季節性インフルエンザ3価ワクチンに使われているウイルスと関連していました。検査されたB型インフルエンザウイルス17株のうち9株はB/Yamagata系統ウイルスでした;他の8株はB/Victoria系統で北半球ワクチンウイルスと抗原的に関連がありました。

メキシコではカナダやアメリカとは対照的に2011年12月下旬から検査室確定診断されたインフルエンザ全症例の90%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。限局されたインフルエンザA(H1N1)pdm09の発生が確認されています。

ヨーロッパ;ヨーロッパでのインフルエンザ活動性は低いままですが、呼吸器疾患活動性とインフルエンザウイルス検出率はいくつかの地域で増加し始めました。ヨーロッパ疾病対策センター(ECDC)は、全体的なILI受診と重症急性呼吸器感染症(SARI)での入院はシーズンオフのレベルのままですが、大陸でのインフルエンザシーズンが始まり現在優勢なのはワクチンタイプのインフルエンザA(H3N2)であると発表しました。インフルエンザ活動性の地理学的な分布について報告のあった44ヶ国のうち16ヶ国では活動性は見られず、21ヶ国で散発的な活動性が報告され、4ヶ国で限局地域的(local)な活動性が見られ、3ヶ国(トルコ、イタリア、マルタ)でこの数週間地域的(regional)な活動性が報告されています。特にウイルス検出の増加傾向が数週間以上にわたって、スペイン、トルコ、スウェーデン、ノルウェー、イタリアで見られています;トルコだけは昨シーズンの同時期より多くの症例数を報告しています。トルコとマルタではインフルエンザ活動性は中等度で両国の保健サービスにおける影響は中程度です。全死亡率はシーズン同時期で低いままです。2012年第1週の定点におけるインフルエンザ検査の16%が陽性で、数週間増加し続けています。2012年第1週はインフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されたウイルスでした。10月上旬から検出されたインフルエンザウイルスの92%がインフルエンザA型でした;そのうち93%がインフルエンザA(H3N2)でした。2012年第1週では、インフルエンザA型で亜型検査された全130検体がH3N2亜型でした。

北部アフリカと東部地中海地域;これらの地域、特にアルジェリア、チュニジア、イランでは10月からインフルエンザ陽性検体数が増加しています。ウイルス検出の増加は拡がってきていますが、全域ではありません。ヨーロッパと同様に、亜型検査されたほとんど全てのウイルスでインフルエンザA(H3N2)が優勢な亜型として検出されています。

アジア;中国北部でILIで受診する外来患者の割合とインフルエンザ検査検体での陽性率の両方が前回報告から増加しています。他の報告地域と比較すると、中国ではB型インフルエンザウイルスが優勢です。韓国と日本ではここ数週間、インフルエンザ陽性検体が継続して増加しており、そのほとんどがA(H3N2)でした。日本ではILIの受診率も増加していると報告されています。

熱帯地域

アメリカ;コスタリカ以外のカリブ海地域、中米のほとんどでインフルエンザの活発な伝播は報告されていませんが、コスタリカではインフルエンザA(H3N2)の検出が2011年末にピークに達した後、減少傾向です。

サハラ以南アフリカ;散発的な検出と低レベルでの伝播のみが報告されています。カメルーンではインフルエンザA(H3N2)の伝播が2011年12月中旬のピークの後減少しているようですが、最近B型の検出の増加が見られました。ケニアでは昨年インフルエンザ伝播の継続が報告されましたが、過去4週間陽性検体数が減少し続け、現在はごく低レベルです。

アジア;熱帯アジアにおける全体的なインフルエンザ活動性は低いままです。インドでは9月から低レベルでのインフルエンザB型の循環の報告が続いています。中国南部ではB型インフルエンザの増加が報告されており、ILIでの病院受診率が3.7%まで増加し、この数週間で最も高く、昨年同時期よりも高率です。他のアジア熱帯地域の国々では少数のA(H3N2)とB型の両方の報告が続いています。

南半球の温帯地域

この地域のインフルエンザ活動性はシーズンオフレベルです;しかしながら、チリ、パラグアイ、オーストラリアでは低レベルのインフルエンザA(H3N2)の報告が続いています。同様に南アフリカでも季節外れの低レベル伝播が少し前に見られましたが継続はしていません。

出典

WHO:Influenza update20January 2012Update number151
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html