うなずき症候群-南スーダン、2011

2012年1月27日 CDC(MMWR) (原文〔英語〕へのリンク

2010年11月、独立予定の南スーダン保健省はCDCに対し、その頃増加し地理的に群発していた頭部うなずきやてんかんを起こす疾患の調査支援を要請しました。その発生はうなずき症候群を疑わせました。
うなずき症候群は解明されていない神経学的症状で、繰り返す頭部の前屈(うなずき)にしばしばけいれんや意識障害などのてんかん様症状を伴います。この症状は5~15歳の小児でよく見られ、南スーダンのウェスタン、セントラルエクアトリア州(1)と北部ウガンダ、南部タンザニア(2,3)で報告されています。ビザと安全性の関係でCDC調査官は2011年5月まで南スーダンへ渡航しませんでした。渡航後、うなずき症候群と疑わしいリスク因子との関連を評価するため、曝露情報収集と生物学的検体の収集を含めた症例対照研究が開始されました。
38組の症例-対照群が2つの異なるコミュニティー(MaridiとWitto)で登録されました。全体で皮膚生検からOnchocerca volvulus(回旋糸条虫)感染症と診断されたのは患者群(76.3%)が対照群(47.4%)より高頻度でした(オッズ比mOR=3.2)。この差はMaridiの25組(患者群の88%、対照群の44%、mOR=9.3%)によるものです;Wittoの13組ではonchocerciasis(オンコセルカ症)(河川盲目症river blindnessとして知られる)との有意な関連は見られませんでした。オンコセルカ症は患者群で多く見られましたが、感染がうなずき症候群に先行するのか、後続なのかはわかりませんでした。うなずき症候群の調査で重要なのは、患者数や地理的な広がりを監視するためのサーベイランスを向上させることと、疾患の原因を解明する研究の継続を含めたものです。うなずき症候群の疑いのある患者は対比可能性な対照者と共に主治医によって研究サイトへ届けられ、調査官のスクリーニングのあと、症例定義を満たす最初の38組が研究登録されました。

調査と結果

発生調査の一部として、症例シリーズ研究とリスク因子の評価のための症例対照研究が、うなずき症候群患者が報告された南スーダンのウェスタンエクアトニア州の2ヶ所(Witto村とMaridi町)で行われました。Witto村は国内で強制移動させられた人々が居住する田舎の居住環境で、Maridi町は大きく準都市的な人口が住んでいます。臨床的な症状が他の東アフリカの国々で見られたものと同じものかを確認するために、完全な理学所見、神経学的検査、臨床学的疫学的既往歴、家族歴の調査、関連した検査室検査を含む臨床症例シリーズ研究がなされました。うなずき症候群の患者は初発症状として繰り返す頭部前屈(うなずき症状)がみられます。看護者の報告によりますと、うなずき症状は他の症状に先行して起こり、それ以前には発達障害のなかった18歳以下の小児で少なくとも一つ以上の、(調査官の観察や治療者の情報に基づく)神経学的または精神学的異状やてんかんがその3年以内に起こっています。

症例対照研究の10人の患者は、3症例毎に選んで行われる症例シリーズ研究に含まれました。うなずき症状の発症年齢以外は症例対照研究での症例定義にあてはまる14例が、追加で症例シリーズ研究に登録されました。疾患の自然経過と進行を理解するためのこの14人の小児患者は、(症例定義より)早期にうなずき症状を発症しそれ故長い罹病期間にある患者を代表するものとして選び出されました。

症例シリーズの患者の平均年齢は13.1歳で、その91.7%は発症時の年齢が5~15歳と報告されています。主治医による報告によると臨床所見は、典型的なうなずき症状発作、他のてんかん様症状、明らかな認知障害がありますが、局所神経障害は比較的ないようです。これらの臨床症状の詳細な分析と他のうなずき症候群報告との比較については現在進行中です。

可能性のあるリスク因子を同定するために、症例対照研究で症例定義に合致する患者と年齢、場所の同じ対照者を比較しました。ウガンダで以前に行われた調査の出力計算(power calculations)に基づいて、38人の対照者が2箇所の離れた地域から登録されました。症例の発見はコミュニティーを動員して行われました。うなずき症候群の疑い患者は対比の可能性のある対照者と共に主治医によって研究サイトへ届けられ、調査官のスクリーニングのあと、症例定義を満たす最初の38組が研究登録されました。38人の患者群のうち18人(47.4%)、対照群のうち20人(52.6%)が女性でした。患者群の平均年齢は11.1歳(分布:7~16歳)、対照群の平均年齢は10.6歳(分布:6~17歳)でした。

全体的に、皮膚生検で現在オンコセルカ症と診断されたのは、対照群(47.4%)に比べ患者群で有意に多い(76.3%)人数でした。オンコセルカ症はMaridiの25組の患者群でより優勢でした(患者群で88.0%、対照群で44.0%);Wittoの13組ではオンコセルカ症の関連性において有意差は認められませんでした(Table※)。予備的な解析で、うなずき症候群と他のリスク因子、例えば軍需品への曝露、患者の両親の職業と人口統計上の特徴の間に関連性は認められていません。症例シリーズデータの追加的な解析と栄養に関連する追加的な曝露についてさらに解析が進められています。検査室での検査結果(ビタミンA、B6、B12;抗オンコセルカ抗体;重金属[尿分析];遺伝子マーカー)が未解決です。

公衆衛生対応

うなずき症候群の原因は不明なままですが、上記のような予備的な結果に基づいて、南スーダン保健省に対し、CDCはオンコセルカ症の治療のための駆虫剤ivermectinの集団投与の強化、抗てんかん剤によるけいれん発作の管理を推奨しました。患者が発生したとき、発生した新患者の同定、発生場所、患者の発症年齢を明らかにするサーベイランスの強化は、疫学的パターンの解明を可能にするでしょう。うなずき症候群とオンコセルカ症との関連を調査し、栄養不良の関与を評価することは将来的な優先順位の中で重要なことです。

報告者

Lul Reik, MD, Ministry of Health, Government of South Sudan.Abdinasir Abubakar, MD, South Sudan, World Health Organization, Martin Opoka, MD, Eastern Mediterranean Region, World Health Organization.Godwin Mindra, MD, South Sudan, United Nations Children's Fund(UNICEF).James Sejvar, MD, Div of High-Consequence Pathogens and Pathology, National Center for Emerging and Zoonotic Infectious Diseases; Scott F.Dowell, MD, Carlos Navarro-Colorado, MD, Curtis Blanton, MS, Jeffrey Ratto, MPH, Div of Global Disease Detection and Emergency Response, Center for Global Health; Sudhir Bunga, MD, Jennifer Foltz, MD, EIS officers, CDC.Corresponding contributor:Sudhir Bunga,sbunga@cdc.gov,678-314-1380.

編集ノート

この報告書の中で記述された南スーダンでのうなずき症候群発生おける臨床所見、神経学的所見、症例患者年齢分布はその他の特徴と共に、以前に隣接するウガンダで報告されたものと一致します。うなずき症候群は新しいてんかん疾患かもしれません(2)。しばしばけいれん発作や意識障害(staring spells)のようなてんかん様行動を伴い、うなずき発作は食べ物や寒さなどが引き金になることが何人かの看護者によって報告されています。発作時に患児は食事を止め、意識の有無にかかわらず反応がなくなります(2)。ウガンダとタンザニアでのうなずき症候群の報告は、南スーダンの報告に加え、認知力の低下と栄養不良を伴い頭部うなずきが次第に悪化しています(2,3);しかしながら自然経過の研究はまとめられていません。

公表された12人のうなずき症候群患者報告では、頭部MRI(磁気共鳴画像法)での脳所見は正常か非特異的な変化しかなく、うなずき発作のない時の患者10人の脳波は6人の患者で異常波、2人の患者ではてんかん無症状発作の波型を示していました(2)。うなずき症候群が完治した患者はなく、疾患の長期予後については不明です。看護者の報告では、患児は時にけいれん発作中の転倒で重傷をおったり死亡したりするそうです。

記述的にうなずき症候群と類似の疾患がタンザニアでこの数十年報告されています;しかし、うなずき症候群はつい最近南スーダンとウガンダの地理的に限定された地域で報告されています(1,2,4)。この通常とは異なる予想外疾患はてんかん発作と一致しますが、典型的ではなく、一時的、地理的なクラスター発生は国際公衆衛生機関の注意を引きました(5,6)。CDCは南スーダン保健省を支援し調査を進めています。

感染、栄養、環境、精神的原因を含めたいくつかの疫学的因子が討議されています。これまでの研究で、軍需品、麻疹、サル肉、救援用種子、救援用食品(レンズ豆やモロコシなど)などが検討されました。しかしこれまでの調査にもかかわらず、この疾患の原因と病態生理学は不明のままです(1,2,4)。これまでの研究でオンコセルカ症との関連も判明しましたが、O. volvulus(回旋糸条虫)の感染が神経学的疾患を引き起こす病態生理のメカニズムは明らかではなく、その関連性は疑わしいという結論もいくつか出されています(1,2,4)。さらに、オンコセルカ症は西アフリカ、中央アフリカの大部分で地域流行(endemic)しており、中南米地域でも見られます;しかし、うなずき症候群はわずかな限局した地域のみで報告されています。

WHOと南スーダン保健省の一連の調査が、2001年、2002年、2010年にウェスタンエクアトニアで行われましたが、うなずき症候群の原因を特定することができませんでした(1,4,7,8)。南スーダンのうなずき症候群は以前に東アフリカの他の地域で報告された臨床症状と同様なもののようですが、病因が不明のままです。うなずき症候群のさらなる調査での協力関係が、原因、予防法、治療を特定するために必要です。

謝辞

Robert Breiman, Eric Gogstad, John Neatherlin, CDC Kenya; Christi Murray, CDC South Sudan; Michael Leju, US Agency for International Development(USAID)South Sudan; Kenya Medical Research Institute; Romanos Mkerenga, United Nations Children's Fund(UNICEF)South Sudan.

参考文献

  1. 1.Nyungura JL, Akim T, Lako A, Gordon A, Lejeng L, William G.Investigation into nodding syndrome in Witto Payam, Western Equatoria State,2010.Southern Sudan Medical Journal2010;4:3–6.
  2. 2.Winkler AS, Friedrich K, Konig R, et al.The head nodding syndromeclinical classification and possible causes.Epilepsia2008;49:2008–15.
  3. 3.Winkler AS, Friedrich K, Meindl M, et al.Clinical characteristics of people with head nodding in southern Tanzania.Trop Doct2010;40:173–5.
  4. 4.Lacey M.Nodding disease:mystery of southern Sudan.Lancet Neurol2003;2:714.
  5. 5.CDC.CDC responds to nodding disease in Uganda[Video].http://www.cdc.gov/globalhealth/video/nodding/nodding.htmAccessed January20, 2012.
  6. 6.Wadman M.African outbreak stumps experts. Nature 2011;475:148–9.
  7. 7.Kaiser C.Head nodding syndrome and river blindness:a parasitologic perspective[Letter].Epilepsia2009;50:2325.
  8. 8.Ministry of Health, Government of Southern Sudan.Nodding disease/syndrome. In:Neglected tropical disease in Southern Sudan.Ministry of Health, Government of Southern Sudan;2008:45.

出典

CDC MMWR
Nodding SyndromeSouth Sudan,2011
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6103a3.htm?s_cid=mm6103a3_w

※Tableは原文参照。