世界におけるインフルエンザ流行状況(11)

2012年2月3日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域の国々ではインフルエンザの活動性は全体的には低いままですが、北アメリカ、ヨーロッパの西部、中国北部で地域的に活動性の著しい増加が報告されました。
  • 熱帯地域の国々では、中国南部、コロンビア、エクアドルを除いて一般的には低レベルの報告です。
  • 南半球温帯地域での伝播はシーズンオフレベルです。以前インフルエンザA(H3N2)伝播が低レベルで報告されたチリ、オーストラリアでの伝播は減少してきているようで散発的な発生です。
  • 北半球温暖地域で最も多く検出されているウイルスはインフルエンザA(H3N2)亜型ですが、中国ではB型の報告が優勢で、メキシコではインフルエンザA(H1N1)pdm09亜型が優勢に循環しています。メキシコに加え、アメリカ合衆国南部の数州と南米の北部のコロンビアでもこの数週間インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢に報告されています。
  • 新たに特徴が調べられたインフルエンザAウイルスの全てが現在北半球で使われている3価ワクチンウイルスに関連したものです。わずかに検出されているB型ウイルスの約半数は山形系統で、現在のワクチン株には含まれていません。
  • オセルタミビル耐性は大変低いレベルで検出され続けていて、前シーズンで報告されたレベルを超えた増加はしていません。

北半球の温帯地域

継続した増加傾向が温帯地域で報告されており、軽症、重症の患者数ともに今までのところ少数です。

北部アメリカ;カナダでは、1月第3週のインフルエンザ活動性は増加しましたがいくつかの地域ではまだ低いままです。国内のインフルエンザ様疾患(ILI)での受診率は、わずかに減少しましたが、検査の陽性率は増加して3.4%になりました。7地域で限局的なインフルエンザの活動性が報告されており、16地域で散発的な発生が報告されています。8件のインフルエンザ流行発生が報告され、3件は病院、5件は長期療養施設でこれまでの数週間より増加しています。ILI受診率と一般的なインフルエンザ活動性は例年同時期に比較し中等度か低いレベルです。今週インフルエンザに関連した入院が18例(3例が小児、15例が成人)報告されました。今シーズンの始まりからインフルエンザ入院全小児患者の38%が2歳以下で、全成人入院の45%が65歳以上の患者です。この期間、検査室確定診断症例の79%がインフルエンザA型で、21%がB型でした。亜型同定されたインフルエンザAウイルスの90%がA(H3N2)でした。特記すべきことは、ウイルスの型、亜型の分布は全年齢層で同じではないことです。インフルエンザA(H1N1)pdm09と診断された症例の53%、インフルエンザBの36%は5歳以下の小児でした。5歳以下の小児でインフルエンザAと診断された全症例の33%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でしたが、65歳以上では(インフルエンザAウイルスと診断された)3%だけがインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。今シーズンカナダで分離同定された全インフルエンザAウイルスは、現在北半球で使用されている3価ワクチンウイルスに抗原的に関連しています:しかしながら、35検体のインフルエンザBウイルスのうち21検体(60%)のみが現在のワクチンに含まれるウイルス株と抗原的に関連しています。他のインフルエンザBウイルス14株はインフルエンザウイルスB/ウイスコンシン/01/2010-likeで、山形系統に属していました。抗ウイルス剤抵抗性について検査したインフルエンザAウイルス79株全てがオセルタミビルとザナミビルに感受性でした。

アメリカ合衆国国内では、ILI受診率は低く(1.4%)、基準値(2.4%)以下のままでした。インフルエンザ陽性の臨床検体の割合は増加して4.9%でしたが、14%と高い地域も1ヶ所ありました。ILI活動性は全ての州で低いかごくわずかでした。122の都市での定点報告では肺炎やインフルエンザでの死亡者は、数週間季節的閾値以下でしたがシーズン開始後初めて疫学的閾値を超えました。2011年10月から、166件の検査室確定診断されたインフルエンザ患者の入院が報告されています。このうち120症例(72.3%)はインフルエンザA、38症例(22.9%)がインフルエンザB、2症例(1.2%)がインフルエンザAとBの混合感染でした;6症例(3.6%)についてはウイルス型についての情報はありませんでした。インフルエンザAの診断を受けた52人の入院患者の亜型情報は、48症例(92.3%)がA(H3N2)、4症例(7.7%)がA(H1N1)pdm09でした。インフルエンザで入院した成人患者の最も多い基礎疾患は慢性肺疾患、喘息、肥満でした。インフルエンザ入院小児患者の最も多い基礎疾患は神経学的障害と肥満でした。入院小児患者の3分の1以上では医学的基礎疾患は認められませんでした。USA内で循環しているウイルスはもっぱらインフルエンザA(H3N2)ですが、6州(アーカンソー、ルイジアナ、ニューメキシコ、オクラホマ、テキサス)では過去3週間A(H1N1)pdm09 が優勢でした。精査されたインフルエンザA(H3N2)ウイルスの99%とA(H1N1)pdm09ウイルスの97%が抗原的に現在の季節性インフルエンザ3価ワクチンウイルスと関連性がありました。検査されたインフルエンザBウイルス28株のうち14株がビクトリア系統ウイルスに属し、2011-2012北半球インフルエンザワクチンのBコンポーネントであるB/Brisbane/60/2008-likeでした。2011年10月から検査された全ウイルスがノイラミニダーゼ阻害の抗ウイルス剤オセルタミビルとザナミビルに感受性でした。

メキシコではカナダやアメリカとは対照的に、2011年12月下旬から検査室確定診断されたインフルエンザ全症例のほとんどがインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。限局されたインフルエンザA(H1N1)pdm09の流行が国内一部、ほとんどが南部州で確認されています。メキシコ保健省は、従来のインフルエンザシーズンと同様の状況で、ウイルス生態が変化したという証拠はないと報告しています。

ヨーロッパ;ヨーロッパ、特に西部でのインフルエンザ活動性は徐々に増加してきており、現在インフルエンザA(H3N2)が優勢です。西ヨーロッパ地域の中では、27ヶ国の報告の中で23ヶ国が低いインフルエンザ活動性を報告している一方、ブルガリア、アイスランド、イタリア、スペインが中程度の活動性を報告しています。8ヶ国が地方、地域での拡散を、9ヶ国が前週と比較して臨床的な活動性の増加を報告しています。ウイルス検出の顕著な増加傾向が数週間にわたり継続しているのは、スペイン、イタリア、トルコ、ベルギー、スウェーデン、ノルウェーで、ヨーロッパの外来クリニック定点調査で検体の29%がインフルエンザウイルス陽性で、この数週間増加し続けています。ブルガリア、アイスランド、イタリア、スペインは中程度のインフルエンザ活動性を報告しています。イタリアはまた保健ケアサービスで中程度の影響が報告されています。全死亡率の中でも例年同時期と比較して低いままです。東ヨーロッパでは、11ヶ国が重症急性呼吸器感染症(SARI)の入院症例数報告について前週と比較して大きな変化はみられていませんが、カザフスタンでは主に0~4歳の小児でSARI入院患者数の増加が報告されています。検出されたインフルエンザウイルスの95%がA型で、亜型同定されたインフルエンザAウイルスの99%がA(H3N2)でした。56株のインフルエンザウイルスの抗原検査がなされました:46株がA(H3N2)で2株がA(H1N1)pdm09でした;全ウイルスが抗原的に現在北半球で使用されている3価ワクチンと関連がありました。8株のインフルエンザBウイルスのうち、4株がB/Brisbane/60/2008-likeでワクチンに含まれるB/Victoria系統でしたが、4株は山形系統でした。35株ウイルス(27株のA(H3N2)と4株のA(H1)pdm09、4株のB型)についてノイラミニダーゼ阻害剤に対する感受性を調べた結果、全て感受性がありました。

北部アフリカと東部地中海地域;これらの地域では、インフルエンザ陽性検体数の減少傾向が報告されていますが、ウイルス検出はまだ広く認められています。ヨーロッパと同様に、亜型検査されたほとんど全てのウイルスでインフルエンザA(H3N2)が優勢な亜型として検出されています。

アジア;中国北部では、ILIで受診する外来患者の割合とインフルエンザ検査検体での陽性率(13%)の両方が前回報告から増加しています。他の報告地域と比較すると、中国ではB型インフルエンザウイルスが優勢です。2012年第1週中国北部で型同定されたウイルスの89%がB型でした。韓国と日本ではここ数週間、インフルエンザ陽性検体が継続して増加しており、A(H3N2)が優勢でした。韓国では全国的にインフルエンザが拡大してきています。

熱帯地域

アメリカ;コスタリカ、コロンビア、エクアドルではインフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザA(H3N2)の循環が報告されています。コロンビアとエクアドルではインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されたウイルスですが、コスタリカではインフルエンザA(H3N2)がわずかに多く報告されています。エクアドルとコロンビアでは数週間にわたりウイルス検出の顕著な増加傾向が続いています。

サハラ以南アフリカ;散発的な検出と低レベルでの伝播のみが報告されています。トーゴではインフルエンザA(H3N2)とB型の散発的な循環が報告されていますが、カメルーンではインフルエンザA(H3N2)が報告されています。ケニアでは過去2週間インフルエンザB型の症例数増加が報告されています。

アジア;熱帯アジアにおける全体的なインフルエンザ活動性は低いままです。インドでは9月から低レベルでのインフルエンザB型の循環の報告が続いています。中国南部ではB型インフルエンザの増加が報告されており、ILIでの病院受診率が3.7%まで増加し、この数週間で最も高く、昨年同時期よりも高率です。インフルエンザ陽性検体の割合が34%で、その95%がインフルエンザB型でした。他のアジア熱帯地域の国々、特にラオス、ベトナム、インドネシアでは少数のB型とA(H3N2)の両方の報告が続いています。

南半球の温帯地域

この地域のインフルエンザ活動性はシーズンオフレベルです。前回報告のあったチリ、オーストラリアでの季節外れのインフルエンザA(H3N2)の伝播は減少しているようです。パラグアイではA(H3N2)が優勢なインフルエンザ陽性の検体数増加が報告されています。

出典

WHO:Influenza update03February2012Update number152
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html