世界におけるインフルエンザ流行状況(12)

2012年2月17日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域の国々ではインフルエンザの活動性は全体的には低いままです。アメリカ合衆国、カナダでは全体的には低い活動性ですが、増加を続けています。ヨーロッパ西部の数ヶ国、北アメリカ、中国北部で伝播のピークに達しましたが東ヨーロッパでは活動性の増加が続いています。報告のある多くの国で軽症、重症のレベルが例年に比べ比較的少数です。
  • アメリカ地域、南アジアの一部の数ヶ国を除いて、熱帯地域の国々ではインフルエンザの活動性は一般的には低レベルの報告です。
  • 北半球の温帯地域の国々で検出されるウイルス型、亜型の多くはインフルエンザA(H3N2)ですが、例外的にメキシコではインフルエンザA(H1N1)pdm09亜型が優勢に循環し、中国ではインフルエンザB型の報告が優勢です。
  • 重症例、年齢グループ別に報告されるウイルス型には顕著な違いがあります。カナダでは5歳以下で検出されるA型ウイルスの27%がインフルエンザA(H1N1)pdm09ですが、65歳以上では5%のみです。ヨーロッパでは重症呼吸器感染症で入院する患者をインフルエンザ様疾患で外来を訪れる患者と比較するとインフルエンザA(H1N1)pdm09が不均衡に多く認められました(13-20%対~1.5%)。
  • 検出されたインフルエンザAウイルスのほとんどが、北半球温暖地域で現在接種されている3価ワクチンンと抗原的に関連しています。
  • オセルタミビル耐性は大変低いレベルで検出され続けていて、前シーズンで報告されたレベルを超えて特に増加はしていません。

北半球の温帯地域

継続した増加傾向が温帯地域で報告されていますが、西ヨーロッパの数ヶ国と北アフリカの全ての国ではピークに近づいているようです。全ての指標において今シーズンは軽度のようです。

北部アメリカ;カナダでは、1月第3週のインフルエンザ活動性は全体的に増加しましたがいくつかの地域ではまだ低いままです。国内のインフルエンザ様疾患(ILI)での受診率は、わずかに減少しましたが、検査の陽性率は増加して3.4%になりました。7地域で限局的なインフルエンザの活動性が報告されており、16地域で散発的な発生が報告されています。8件のインフルエンザ流行発生が報告され、3件は病院、5件は長期療養施設でこれまでの数週間より増加しています。ILI受診率と一般的なインフルエンザ活動性は例年同時期に比較し中等度か低いレベルです。今週インフルエンザに関連した入院が18例(3例が小児、15例が成人)報告されました。今シーズンの始まりからインフルエンザ入院全小児患者の38%が2歳以下で、全成人入院の45%が65歳以上の患者です。この期間、検査室確定診断症例の79%がインフルエンザA型で、21%がB型でした。亜型同定されたインフルエンザAウイルスの90%がA(H3N2)でした。特記すべきことは、ウイルスの型、亜型の分布は全年齢層で同じではないことです。インフルエンザA(H1N1)pdm09と診断された症例の53%、インフルエンザBの36%は5歳以下の小児でした。5歳以下の小児でインフルエンザAと診断された全症例の33%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でしたが、65歳以上でインフルエンザAウイルスの3%だけがインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。今シーズンカナダで分離同定された全インフルエンザAウイルスは現在北半球で使用されている3価ワクチンウイルスに抗原的に関連しています:しかしながら、35検体のインフルエンザBウイルスのうち21検体(60%)のみが現在のワクチンに含まれるウイルス株と抗原的に関連しています。他のインフルエンザBウイルス14株はインフルエンザウイルスB/ウイスコンシン/01/2010-likeで、山形系統に属していました。抗ウイルス剤抵抗性について検査したインフルエンザAウイルス79株全てがオセルタミビルとザナミビルに感受性でした。

アメリカ合衆国国内では、ILI受診率は低く(1.4%)、基準値(2.4%)以下のままでした。インフルエンザ陽性の臨床検体の割合は増加して4.9%でしたが、14%と高い地域も1ヶ所ありました。ILI活動性は全ての州で低いかごくわずかでした。122の都市での定点報告では肺炎やインフルエンザでの死亡者は、数週間季節的閾値以下でしたがシーズン開始後初めて疫学的閾値を超えました。2011年10月から、166件の検査室確定診断されたインフルエンザ患者の入院が報告されています。このうち120症例(72.3%)はインフルエンザA、38症例(22.9%)がインフルエンザB、2症例(1.2%)がインフルエンザAとBの混合感染でした;6症例(3.6%)についてはウイルス型についての情報はありませんでした。インフルエンザAの診断を受けた52人の入院患者の亜型情報は、48症例(92.3%)がA(H3N2)、4症例(7.7%)がA(H1N1)pdm09でした。インフルエンザで入院した成人患者の最も多い基礎疾患は慢性肺疾患、喘息、肥満でした。インフルエンザ入院小児患者の最も多い基礎疾患は神経学的障害と肥満でした。入院小児患者の3分の1以上では医学的基礎疾患は認められませんでした。USA内で循環しているウイルスはもっぱらインフルエンザA(H3N2)ですが、6州(アーカンソー、ルイジアナ、ニューメキシコ、オクラホマ、テキサス)では過去3週間A(H1N1)pdm09 が優勢でした。精査されたインフルエンザA(H3N2)ウイルスの99%とA(H1N1)pdm09ウイルスの97%が抗原的に現在の季節性インフルエンザ3価ワクチンウイルスと関連性がありました。検査されたインフルエンザBウイルス28株のうち14株がビクトリア系統ウイルスに属し、2011-2012北半球インフルエンザワクチンのBコンポーネントであるB/Brisbane/60/2008-likeでした。2011年10月から検査された全ウイルスがノイラミニダーゼ阻害の抗ウイルス剤オセルタミビルとザナミビルに感受性でした。

メキシコではカナダやアメリカとは対照的に2011年12月下旬から検査室確定診断されたインフルエンザ全症例のほとんどがインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。限局されたインフルエンザA(H1N1)pdm09の流行が国内一部、ほとんどが南部州で確認されています。メキシコ保健省は、従来のインフルエンザシーズンと同様の状況で、ウイルス生態が変化したという証拠はないと報告しています。

ヨーロッパ;インフルエンザ活動性はスペインとイタリアでレベルオフになったようで、西ヨーロッパの数ヶ国ではシーズンがピークに達したようです。東ヨーロッパ、ロシア、ルーマニア、ブルガリアでは数週間にわたってインフルエンザ活動性に増加傾向が認められますが、全体的にはまだ比較的低レベルです。ヨーロッパ死亡率監視プロジェクトの参加国である西ヨーロッパ20ヶ国での全死亡数の中でも例年シーズン同時期に比較し低いままです。2012年第5週、ヨーロッパでの定点外来患者の検体の37%でインフルエンザウイルスが陽性で、この数週間増加し続けています。このうち96%がインフルエンザA型で、4%がインフルエンザB型でした;A型検体の98%の亜型がA(H3N2)でした。重症急性呼吸器感染症(SARI)による入院はほとんどが0-4歳のグループで、比較的安定な状態が続いています。SARI入院症例の検体の19%がインフルエンザ陽性で、全部がA型でした。SARI症例で報告されるインフルエンザウイルス型、亜型の分布は、ILI症例で検出されるウイルスの分布とは異なっていました。西ヨーロッパの亜型情報では、SARI159症例の80%はA(H3N2)で、13%はA(H1N1)pdm09、7%がB型ウイルスでした。東ヨーロッパでは、SARI患者から採取された150検体の25検体が亜型検査されました:20検体(80%)がA(H3N2)、5検体(20%)がA(H1N1)pdm09でした。12ヶ国でインフルエンザウイルス103株の抗原検査が行われました。検査されたA型ウイルスの全てが現在の3価ワクチンのウイルスと抗原的に関連がありました;B型ウイルス8株のうち4株がワクチンに含まれるビクトリア系統でしたが、他の4株は山形系統でした。15株のA(H1N1)pdm09、46株のA(H3N2)、7株のB型についてノイラミニダーゼ阻害剤に対する感受性を調べた結果、シーズンの初めから耐性のある株はありませんでした。

北部アフリカと東部地中海地域;これらの地域では、インフルエンザ陽性検体数の減少傾向が報告されていますが、ウイルス検出はまだ広く認められています。ヨーロッパと同様に、亜型検査されたほとんど全てのウイルスでインフルエンザA(H3N2)が優勢な亜型として検出されています。

アジア;中国北部では、ILIで受診する外来患者の割合とインフルエンザ検査検体での陽性率(13%)の両方が前回報告から増加しています。他の報告地域と比較すると、中国ではB型インフルエンザウイルスが優勢です。2012年第1週中国北部で型同定されたウイルスの89%がB型でした。韓国と日本ではここ数週間、インフルエンザ陽性検体が継続して増加しており、A(H3N2)が優勢でした。韓国では全国的にインフルエンザが拡大してきています。

熱帯地域

アメリカ;コスタリカ、コロンビア、エクアドルではインフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザA(H3N2)の循環が報告されています。コロンビアではインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されたウイルスですが、コスタリカとエクアドルではインフルエンザA(H3N2)がわずかに多く報告されています。

サハラ以南アフリカ;散発的な検出のみが報告されています。

アジア;熱帯アジアにおける全体的なインフルエンザ活動性は低いままです。インド、中国南部でのインフルエンザBの循環は減少を続けています。中国南部でILI受診の割合は3.4%まで減少し、ここ数週間、また例年同時期よりも低くなっています。ラオス、ブータン、シンガポールでのインフルエンザB型の検出が増加しました。

南半球の温帯地域

この地域のインフルエンザ活動性はシーズンオフレベルです。前回報告のあったチリ、パラグアイ、オーストラリアでの季節外れの伝播は減少し、これらの国でのウイルスの検出も現在は散発的です。

出典

WHO:Influenza update17February2012Update number153
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html