世界におけるインフルエンザ流行状況(16)

2012年4月13日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域の多くの国々では、インフルエンザの活動性はピークを越え、減少しています。北米では、米国で、インフルエンザの指標が高い地域がありますが、この2~3週間は減少しています。カナダでは、活動性が高い地域がありますが、減少傾向がみられています。同様に、ヨーロッパとアジア北部では、ほとんどの国で、ピークを越え、活動性が減少していると報告されています。
  • ヨーロッパと北米(メキシコを除く)で検出されるウイルス型、亜型のほとんどはインフルエンザA(H3N2)でしたが、北米では、インフルエンザB型の割合も増加しています。メキシコでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢に流行しています。中国と周辺の国々では、依然として、インフルエンザB型が優勢であると報告されています。
  • H3N2ウイルスの遺伝子変異、抗原変異の増加がインフルエンザシーズンの後半に報告されました。
  • ●今シーズンは、抗ウイルス薬耐性の大きな増加は報告されていません。

北半球の温帯地域

地域によって異なりますが、全般的には、インフルエンザの活動性は減少しています。カナダでは、国全体の傾向は減少していますが、インフルエンザの活動性が増加している地域があります。ヨーロッパの数か国(エストニア、ラトビア、ロシア、スウェーデン、スイス)では、インフルエンザ様疾患の受診率が季節性の閾値を超えていますが、減少しています。アジア北部では、全体的にインフルエンザ様疾患の活動性は減少し続けています。北半球のインフルエンザの活動性の指標の多くは例年通りか、それを下回るピークのレベルに達しました。

北米

カナダでは、インフルエンザの活動性が高い状態が続いている地域と前週に比べて増加した地域もありますが、国全体としては活動性のレベルが下がり始めたようです。前週と同様に、ほとんどの地域では、インフルエンザの活動性は、限局的または散発的であると報告されており、2つの地域で活動性が広範囲であったと報告されました。インフルエンザウイルスが陽性になった呼吸器検体の割合は、先週、24%から20%に低下しました。インフルエンザ様疾患(ILI)の受診率は、3月18日から24日の週では、受診者1,000人あたり36.7でしたが、直近の報告週では、受診者1,000人あたり22.1に減少しました。集団感染事例数は、過去3週間、高い状態が続いており、各週に50件以上の集団感染事例が報告されています。過去のインフルエンザシーズンに比べると、ILI受診率は、1996年から2010年の平均と同様であり、集団感染事例の数は昨シーズンと同様です。今週、新たに126例のインフルエンザ関連入院が報告され、先週の133例に比べて若干減少しました。確定診断された小児のインフルエンザによる入院患者の36%は2歳未満でした。また、成人のインフルエンザ関連死亡は11例報告されており、そのうち8例はインフルエンザB型に関連していました。小児のインフルエンザ関連死亡は、今シーズン中、2例のみが報告されています。小児のインフルエンザ関連入院のうち、67%はインフルエンザB型によるものであり、インフルエンザA型の8例のうち、2例はA(H1N1)pdm09で、6例はA(H3N2)でした。米国とは対照的に、2012年3月10日から外来患者でのインフルエンザB型の陽性検体の割合は、A型の陽性検体の割合を超えました。今シーズンの初めから検出された166株のインフルエンザA(H3N2)ウイルスのうち、90%はA/Perth/16/2009と抗原的に類似していましたが、10%はA/Perth/16/2009に対して産生される抗血清の力価が低下していました。143株のA(H1N1)ウイルスのうち、99%は推奨されているワクチンに含まれるA/California/07/2009と抗原的に類似しており、1%未満のウイルスでA/California/07/2009に対して産生される抗血清の力価が低下していました。インフルエンザB型と同定された511株のうち、52%はワクチン株のB/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統)と抗原的に類似しており、48%のインフルエンザB型は山形系統に属するB/Wisconsin/01/2010-likeと抗原的に関連がありました。シーズンの初めからオセルタミビルとザナミビルの耐性を検査したインフルエンザウイルスは731株であり、そのすべてがオセルタミビルとザナミビルに感受性がありました。

米国では、インフルエンザの活動性が高い状態にある地域がありますが、ほとんどの州では減少しています。国全体では、ILIの受診率は1.7であり、2012年1月末以降で最も低い値であり、季節性の閾値(2.4%)よりも低い値です。インフルエンザ陽性検体の割合は3月11日から17日の週は26.6%でしたが、3月末には20.5%に減少し、3週間減少傾向にあります。広範な活動性が報告された州は、最近の2週間で16州から10州に減少しました。米国のほとんどの地域(44州とニューヨーク市)では、ILIの活動性は最小と報告されていますが、6州では低い活動性と報告されています。前のシーズンと比べ、122市のサーベイランスシステムで報告された肺炎とインフルエンザによる死亡は、シーズンを通して比較的低く、流行閾値を超え(季節性の平均の90%信頼区間を超え)たのは、1週のみでした。ILIの受診率は、シーズン中、国のベースラインを超えませんでした。検査で確定診断されたインフルエンザに関連した入院患者は先週から(人口100,000人あたり5から5.5に)増加しました。インフルエンザに関連した入院率が高かったのは65歳以上の成人(人口100,000人あたり18)と4歳未満の小児(人口100,000人あたり約11)で、最も低かったのは、18歳から48歳の成人(人口100,000人あたり3)でした。成人の入院例に多かった基礎疾患は、慢性肺疾患(44%)と肥満(35%)でした。同様に、小児の基礎疾患で最も多いのは慢性肺疾患(25%)で、喘息(20%)が続きました。小児の入院患者のうち、46%に基礎疾患がありました。米国では、2011年から2012年のインフルエンザシーズン当初から、インフルエンザA型ウイルスが優勢ですが、過去数週間で、インフルエンザB型陽性検体数が徐々に増加しています。前週に検査された932検体の86%(800)はインフルエンザA型陽性で、14%はインフルエンザB型陽性でした。前週に検査されたインフルエンザA型ウイルスの67%がA(H3N2)であり、A(H1N1)pdm09は33%でした。抗原性を解析されたインフルエンザウイルスのうち、インフルエンザA(H3N2)の79.5%、インフルエンザA(H1N1)ウイルスの99.2%は、現在の季節性の3価インフルエンザワクチンに含まれるウイルスに抗原的に関連性がありました。

メキシコでは、先週、インフルエンザ陽性検体の割合は11.9%から14.8%に増加しましたが、インフルエンザの活動性は減少しているようです。インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢なウイルス亜型でした。

ヨーロッパ

ヨーロッパのほとんどの国では、インフルエンザの指標は前回の報告以降、減少を続けています。WHO欧州地域の加盟国46か国のうち30か国がインフルエンザの活動性に関する指標を報告しており、季節性インフルエンザの流行はピークを越え、過去数週間減少していると報告しています。ILIと急性呼吸器感染症(ARI)の外来受診率は、13週に1か国(スロバキア)で増加しましたが、全体的に低いです。デンマーク、英国、リトアニア、オランダの6か国では、変化がないと報告されています。エストニア、ロシア、ラトビア、スウェーデン、スイスでは、インフルエンザの活動性は減少しているものの、ILIの受診率は閾値を超えているままであると報告されています。インフルエンザの検査が行われた検体数とインフルエンザ陽性検体率は、過去4週間、着実に減少しており、3月の第1週は45%(1,878検体のうち851検体)でしたが、4月初旬には30%(657のうち199)に減少しています。重症急性呼吸器感染症(SARI)症例数は減少しています。2011年から2012年のインフルエンザシーズン当初から、7か国(スロバキア、アイルランド、ルーマニア、スペイン、ベルギー、フランス、英国)の定点病院から報告されたSARIの症例数は1,638例です。SARIの36%は65歳以上の高齢者で、17%は2歳未満の小児でした。SARIの5%(87例)が死亡しました。ヨーロッパ東部では、SARIの患者の呼吸器検体が、合計126検体採取され、このうち22検体(17%)がインフルエンザ陽性でした。ヨーロッパ死亡率監視プロジェクトによる報告では、65歳以上の高齢者の全死亡率の増加と死亡率の超過は、インフルエンザの活動性の増加と2月初旬にヨーロッパで起こった寒波と一致していました。インフルエンザA(H3N2)ウイルスが最も多く分離され続けているインフルエンザウイルスで、ILIやARIでインフルエンザが陽性となった症例の72%で検出されています。ヨーロッパでの流行に関して、過去数週間でインフルエンザB型の検出割合が増加しており、3月中旬ではインフルエンザ感染のうち18%がインフルエンザB型ウイルスでしたが、28%となっています。ヨーロッパの他の国とは対照的に、トルコでは、先週インフルエンザB型ウイルスのみが流行していました。先週、インフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスは検出されませんでした。ヨーロッパでは、このシーズン中、流行しているH3N2で遺伝子変異の増加がみられ、ワクチン株が現在流行しているウイルスと完全には一致していないことを示唆しています。ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビルとザナミビル)に対する耐性は、現在まで報告されていません。前週までの結果と同様、インフルエンザA(H3N2)ウイルス110株とインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルス10株のスクリーニングの結果、アダマンタンには耐性であると判明しています。

アフリカ北部と地中海地域東部

アフリカ北部と地中海地域東部のほとんどの国では、インフルエンザの活動性はシーズンオフレベルまたはそれに近い状態であると報告されています。アルジェリア、イラン、エジプトは、2012年の初めにピークに達した後、最近の数週間はインフルエンザ症例数が減少し、少数であり、そのほとんどがインフルエンザA(H3N2)であると報告しています。オマーンとチュニジアは、先週、インフルエンザ陽性検体数が増加したと報告しています。オマーンで流行しているインフルエンザウイルスはB型です。

アジアの温帯地域

アジアの温帯地域のインフルエンザの活動性は、韓国を除き、全体的に減少し続けています。韓国では、3月25日から31日の週に、ILIの症例数が1000人の外来患者あたり20.3となり、前週(18.0)に比べて若干増加しました。2月までは、インフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されていましたが、3月4日から10日の週にはインフルエンザB型が優勢になりました。中国北部では、定点病院から報告されるILIの外来患者の割合は、3月26日から4月1日の週は2.8%でした。前週(3.1%)よりも減少し、2~3週間、減少傾向が続いています。中国北部のILIの割合は例年並みです。今シーズンは、インフルエンザB型が最も多く検出されましたが、数が減少するにつれ、インフルエンザA(H3N2)ウイルスの割合が増加しました。直近の報告週では、インフルエンザが陽性であった285検体のうち、165検体(58%)がインフルエンザA型でした。亜型の情報が得られたインフルエンザA型ウイルスのうち、86%がA(H3N2)でした。検査された流行しているインフルエンザウイルスは、すべてノイラミニダーゼに感受性がありました(検体数は不明)。モンゴルでは、3月26日から4月1日の週で、ILIの活動性は減少し、検体の多くはインフルエンザA(H3N2)であり、インフルエンザB型も少数検出されています。

熱帯地域

アメリカ大陸

南米の熱帯地域では、インフルエンザの活動性と急性呼吸器疾患の活動性は、グアテマラを除き、低い状態が続いています。グアテマラでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が増加し、インフルエンザB型とともに流行しています。検査データによれば、3月18日から24日の週に、104検体が検査され、呼吸器感染症を起こすウイルスが陽性になった検体は53%であり、主にインフルエンザA型でした。そのほとんどは、インフルエンザA(H1N1)pdm09でした。

サハラ以南のアフリカ

サハラ以南のアフリカでは、検出数は低いと報告されています。マダガスカルでは、インフルエンザ陽性検体数が過去6週間で増加し続けています。マダガスカルで確定されたインフルエンザウイルスのほとんどがインフルエンザA(H3N2)で、インフルエンザB型は非常に少数です。

アジア

アジアの熱帯地域では、ほとんどの地域で、インフルエンザの活動性は減少しているか低い状態が続いています。中国南部では、3月26日から4月1日の週に、定点病院から報告されたILI受診者の割合は3.1%であり、前週(3.2%)よりも若干減少しました。インフルエンザ陽性の検体の割合も、2月初旬に40%を超えるピークがありましたが、過去5週間で1,541検体の30%と減少しています。先週、中国南部で検出されたインフルエンザウイルスの多く(66.7%)がインフルエンザA型であり、亜型の情報があるものは、すべてインフルエンザA(H3N2)でした。香港では全体的なインフルエンザの活動性は高いままですが、減少しています。香港で検出されたインフルエンザウイルスの約半数(53%)はインフルエンザA(H3N2)であり、残り半分(47%)がインフルエンザB型でした。インフルエンザに関連した集中治療室への入院例と死亡例(18歳以上)のモニタリングデータによれば、2012年1月13日以降、インフルエンザに関連したICU入院例または死亡例は106例あり、4月3日時点で、このうち61例が死亡しています。インフルエンザに関連した入院例と死亡例は例年並みです。東南アジア(ベトナム、カンボジア、ラオス)では、インフルエンザB型が、ごく少数報告されています。シンガポールでは、ARIの活動性は3月25日から31日の週に、前週に比べてわずかに減少しました。総合診療所のARI症例のうちILIの患者の割合は低く、1%でした。過去4週間で、ILI患者から192検体が集められ、43%(暫定値)がインフルエンザ陽性でした。2012年3月に集められ、分離されたインフルエンザのうち、インフルエンザB型は74%、インフルエンザA(H1N1)pdm09は15%、インフルエンザA(H3N2)は11%でした。インドでは、プネーの周辺地域で数人の死亡者が出ているという未確認のメディアの報道があるとともに、インフルエンザA(H1N1)pdm09の感染が報告されています。

南半球の温帯地域

南半球では、インフルエンザの活動性はシーズンオフレベルで、低いままです。

出典