世界におけるインフルエンザ流行状況(17)

2012年4月27日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域のほとんどの国々では、季節性インフルエンザの活動性はピークを越えました。
  • 北米では、全体としては、インフルエンザの伝播は低く、米国では4週連続、カナダでは3週連続で減少しました。今シーズン、米国ではインフルエンザA(H3N2)ウイルスが優勢ですが、カナダではインフルエンザB型ウイルスが優勢です。A(H1N1)pdm09は、カナダ、米国、メキシコで、他のウイルスとともに流行しています。
  • ヨーロッパのほとんどの国では、この数週間でインフルエンザシーズンのピークを越え、インフルエンザ様疾患(ILI)や急性呼吸器感染症(ARI)の発生が連続して減少しており、重症急性呼吸器感染症(SARI)の症例数も減少しています。今シーズンは、インフルエンザA(H3N2)ウイルスが優勢ですが、インフルエンザB型ウイルスが検出される割合も増加しています。
  • アジアの温帯地域のインフルエンザの活動性は、全体的に減少しています。中国北部とモンゴルでは、インフルエンザA(H3N2)ウイルスの検出割合が増加し、インフルエンザBの検出割合を超えました。日本では、今シーズンを通じて、インフルエンザA(H3N2)ウイルスが優勢です。韓国では、依然として、インフルエンザB型ウイルスがインフルエンザA型ウイルスよりも優勢です。
  • ヨーロッパ西部の9か国でノイラミニダーゼ阻害薬の感受性をスクリーニングされたインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスは、すべて感受性がありました。しかし、米国では、検出されたインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスのオセルタミビル抵抗性は2%となり、若干増加したと報告されています。

北半球の温帯地域

北半球のインフルエンザの活動性は、全体的に減少しています。米国や英国などの数か国では、2011年から2012年のシーズンは、例年に比べて穏やかでした。ヨーロッパやアジア北部の他の国では、インフルエンザの活動性は例年同様のレベルに達しました。

北米

インフルエンザシーズンは、例年よりも遅く始まり、北米におけるインフルエンザの活動性は全体的に減少しています。カナダでは、インフルエンザの活動性の指標のほとんどが下がり続けており、インフルエンザの活動性はピークを越えたようです。先週は、ほとんどの地域で、インフルエンザの活動性は散発的でした。集団感染事例数は、3月中旬には55件ありましたが、4月中旬には44件に減少しました。ILIの受診率は、3月18日から24日の週が最高(受診者1,000人あたり36人)でしたが、今週は、受診者1,000人あたり27人に減少しました。受診率が最も高かったのは、5歳から19歳(受診者1,000人あたり59人)であり、次いで、5歳未満の小児(受診者1,000人あたり55人)でした。4月8日から14日の週に検査された4,400検体のうち、19%(841検体)がインフルエンザ陽性であり、過去2週間で若干減少しました。今週、新たに118例のインフルエンザ関連入院(小児が24例、成人が94例)が報告され、先週(89例)に比べて29例増加しました。今シーズンは、1,219例のインフルエンザ関連入院が報告されており、その31%は65歳を超える成人でした。インフルエンザ関連死亡は10例報告されており、そのうち1例は先週報告された小児の死亡事例です。呼吸器検体のうち、合計841検体がインフルエンザウイルス陽性でした。インフルエンザB型ウイルスは、そのうちの63%を占めており、カナダでは、今シーズン当初から流行している優勢なウイルスです。インフルエンザ関連死亡のほとんどは、インフルエンザB型に関連していました。先週、検出されたインフルエンザA型ウイルス308株のうち、亜型の解析が行われた株は55%でした。亜型の解析が行われた株のうち、69%がA(H3N2)で、31%がA(H1N1)pdm09でした。今シーズンの初めから、900株のインフルエンザウイルスが抗原解析されました。A(H3N2)ウイルスの182株のうち、90%はワクチン株のA/Perth/16/2009と抗原的に類似していましたが、10%のウイルスはこのワクチン系統に対して産生される抗血清との反応性が低下していました。解析された161株のA(H1N1)ウイルスのうち、99.4%はA/California/07/2009と抗原的に類似しており、A/California/07/2009に対して産生される抗血清との反応性が低下していたウイルスは1株のみでした。解析された557株のインフルエンザB型ウイルスのうち、52%はワクチン株のB/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統)と抗原的に類似しており、解析された291株のうち1株で、B/Brisbane/60/2008に対して産生される抗血清への反応性が低下していました。残りの48%のインフルエンザB型ウイルスは山形系統に属するB/Wisconsin/01/2010-likeと抗原的に関連がありました。

米国では、インフルエンザの活動性は、全国的に減少しており、インフルエンザに関するデータによれば、2011年から2012年のインフルエンザシーズンは例年に比べて穏やかであったようです。ILIの受診率は、国の季節性の閾値(2.4%)を超えることなく、ピークを越えたようです。インフルエンザ陽性となった呼吸器検体数は、3月中旬以降減少しており、今週は17%でした。2週間前には、6州で低い活動性と報告されましたが、4月8日から14日の週では、2州(アラスカとオレゴン)のみで、低い活動性と報告されています。ニューヨーク市と48州では、ILIの活動性は最小と報告されています。最近の数週間で、広範囲な活動性と報告された州は10州から6州に減少しました。122市のサーベイランスシステムで報告された肺炎とインフルエンザによる死亡は、流行閾値よりも低い状態が続いています。先週、2例の小児死亡が報告されました。1例はインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスに関連しており、もう1例はインフルエンザA(H3N2)ウイルスに関連していました。2011年から2012年のシーズンは、インフルエンザに関連した小児の死亡は合計15例報告されましたが、2010年から2011年のシーズンに報告された122例、2009年から2010年のシーズンに報告された282例と比べると、極めて少ない報告数です。2011年10月1日から2012年4月14日までの間で、検査で確定されたインフルエンザに関連した入院は1,926例でした。このうち、1,692例(87.9%)はインフルエンザA型、215例(11.2%)がインフルエンザB型、4例(0.2%)はインフルエンザA型とB型の重複感染、15例(0.8%)はウイルス型の情報がありませんでした。インフルエンザA型と判明したもののうち、A(H3N2)が73%(664例)を占め、A(H1N1)pdm09は26%(238例)を占めました。成人の入院例に多かった基礎疾患は、慢性肺疾患、肥満、代謝性疾患でした。小児の基礎疾患で最も多かったのは、慢性肺疾患、喘息、神経疾患でした。米国では、シーズン当初から、インフルエンザA(H3N2)が優勢ですが、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザBもともに流行しています。検査された3,730検体のうち、653検体(17.5%)がインフルエンザ陽性でした。そのうち、インフルエンザA型は81.6%で、インフルエンザB型は18.4%でした。1,219株のインフルエンザウイルスが抗原解析され、現在の季節性の3価インフルエンザワクチンに含まれるウイルスに抗原的に関連性があったのは、インフルエンザA(H1N1)pdm09の98.1%、インフルエンザA(H3N2)の81.3%、インフルエンザB型の50%未満でした。抗ウイルス薬に対する耐性検査では、609株のインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスのうち2.1%がオセルタミビル耐性でしたが、200株のインフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型ウイルスには耐性はありませんでした。

メキシコでは、カナダや米国と同様に、インフルエンザの活動性は減少しており、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザBがわずかに検出されています。

ヨーロッパ

ヨーロッパでは、この3週間、ILIとARIの受診率は全体的に低く、インフルエンザの活動性の減少傾向がみられています。4月9日から15日の週に増加傾向を示したのは、ベラルーシとポーランドの2か国のみです。地理的な拡大は、先週とほぼ同様です。クロアチア、エストニア、スウェーデンでは、インフルエンザの活動性が広範囲と報告されています。17か国では、インフルエンザの活動性は散発的と報告されています。また、12か国では、インフルエンザの活動性は一部の地域に留まっていると報告されています。ロシアでは、地理的に拡大していると報告されましたが、8か国では、インフルエンザの活動性はないと報告されました。インフルエンザ陽性検体率は、過去数週間、着実に減少しており、定点の外来診療機関で採取された482検体のうち27%がインフルエンザ陽性でした。ヨーロッパ東部の10か国(アルメニア、ベラルーシ、グルジア、カザフスタン、キルギスタン、モルドバ、ルーマニア、ロシア、セルビア、ウクライナ)から報告されたSARIによる入院症例数は、ほぼ安定していますが、SARI患者から採取された検体のインフルエンザ陽性率(95検体のうち12検体)は、過去数週間、減少しています。2011年から2012年のインフルエンザシーズン当初以来、ヨーロッパ西部の7か国から1,710例のSARI患者が報告されており、そのうち死亡例は101例でした。4月9日から15日の週にこれらの国から報告された、インフルエンザウイルスに関連したSARIの症例数は、前週より1例減少して、2例のみでした。ヨーロッパ死亡率監視プロジェクトによる報告では、高齢者の死亡の傾向は通常のレベルに戻っています。しかし、65歳以上の高齢者の超過死亡は、2011年から2012年のシーズン中に著しく増加し、この増加はヨーロッパでのインフルエンザの活動性に一致していました。定点で採取された482検体でインフルエンザの検査が実施されました。インフルエンザ陽性検体のうち、64%がインフルエンザA型で、37%がインフルエンザB型でした。亜型が解析されたインフルエンザA型ウイルスのうち、94%はA(H3N2)ウイルスで、6%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。定点で採取されたものではないインフルエンザ陽性検体1,122検体では、インフルエンザA型が優勢であり、83%を占めました。亜型が解析されたインフルエンザAのうち、96%はA(H3N2)ウイルスで、4%がA(H1N1)pdm09でした。SARI患者から採取された検体で、亜型が解析されたインフルエンザA型ウイルスのうち、9例がインフルエンザA(H3N2)で、A(H1N1)pdm09は1例のみでした。今シーズンに遺伝子解析が行われた株のうち、950株(88%)がインフルエンザA(H3N2)ウイルスで、そのうちの65%(617株)はA/Victoria/208/2009のクレードと、A/Stockholm/18/2011に代表される遺伝子グループ3に属するものでした。この遺伝子グループに属するウイルスは、抗原的に多様であり、現在のワクチン株のA/Perth/16/2009と完全には一致していないことを示しています。今シーズン、ヨーロッパでは、オセルタミビルに対する耐性は報告されていません。前週までの結果と同様、M2阻害薬であるアダマンタン系製剤に対する感受性をスクリーニングされたA(H1N1)pdm09とA(H3N2)ウイルスは全例耐性であると判明しています。

アフリカ北部と地中海地域東部

地中海地域東部とアフリカ北部のインフルエンザの活動性は、2011年の年末にピークに達した後、最近数週間は低く、減少がみられています。オマーンでインフルエンザの活動性が高まったことにより、この地域では、現在、インフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスが優勢です。インフルエンザA(H3N2)の検出が報告されている国(アルジェリア、チュニジア)やインフルエンザB型ウイルスの検出が報告されている国(アルジェリア、イラン、オマーン、チュニジア)もあります。

アジアの温帯地域

アジアの温帯地域のインフルエンザの活動性は、全体的に減少し続けています。中国北部では、定点病院から報告されるILIの外来患者の割合は、4月9日から4月15日の週は2.7%であり、前週に比べ、若干減少しました。最近数週間で、インフルエンザの陽性検体の割合も減少しています。4月9日から4月15日の週には、293検体が検査され、55検体(18.8%)がインフルエンザ陽性でした。今シーズンは、インフルエンザBが優勢でしたが、インフルエンザAの割合がさらに増加し、4月9日から4月15日の週は、インフルエンザ陽性検体のうち67.3%を占めています。亜型の情報が得られたインフルエンザA型ウイルス34株のうち、23株がインフルエンザA(H3N2)であり、11株がインフルエンザA(H1N1)でした。モンゴルでは、過去数週間で、ILIの活動性は減少し、国の流行閾値の上限(80%)を下回っています。ILIの活動性のほとんどは、4歳未満の小児で報告されています。入院患者のうち肺炎患者の占める割合は、過去数週間減少していますが、依然として国の平均を上回っています。肺炎患者から採取されたインフルエンザ陽性検体数も減少しています。中国北部と同様に、優勢なウイルスはインフルエンザBからインフルエンザAに移行しており、主にA(H3N2)が検出されていますが、最近の数週間は、インフルエンザA(H1N1)pdm09も検出されています。韓国では、3月25日から31日の週に、ILIの活動性が増加しており、依然として、インフルエンザB型が優勢です。日本では、インフルエンザの患者数は、2012年の初めにピークを越えた後、減少しており、シーズンオフのレベルに達しています。この地域の他の国とは対照的に、今シーズンはインフルエンザAが優勢でした。

熱帯地域

アメリカ大陸

南米の熱帯地域では、過去数週間、インフルエンザの伝播が低いか検出されないレベルであると報告されています。中米とカリブ海諸国も、インフルエンザの活動性は低い状態が続いていますが、ドミニカ共和国ではインフルエンザA(H3N2)の増加が報告されています。

サハラ以南のアフリカ

サハラ以南のアフリカのうち、ブルキナファソ、カメルーン、エチオピア、ケニア、マダガスカル、ルワンダ、モーリシャスでは、2012年4月2日から8日の週と、4月9日から15日の週に、インフルエンザの活動性が報告されましたが、低いレベルです。年初から、コンゴ民主共和国、ケニア、モーリシャスでは、インフルエンザA(H3N2)が優勢であり、コートジボワールでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢です。また、ニジェールとウガンダでは、インフルエンザBが優勢となっています。エチオピア、ガーナ、タンザニア、マダガスカル、トーゴでは、2012年は、インフルエンザAとインフルエンザBが同程度の割合で確認されています。

アジア

アジアの熱帯地域では、インフルエンザの活動性は減少しているか低い状態、または検出されないレベルです。この地域では、依然として、インフルエンザB型が最も多く検出される型ですが、インドとバングラデシュでは、過去数週間、インフルエンザA(H1N1)pdm09の検出割合が高くなっています。中国南部では、4月9日から4月15日の週に、1,074検体が検査され、16%(174検体)がインフルエンザ陽性でした。インフルエンザ陽性検体のうち、67%はインフルエンザA(H3N2)であり、17%は亜型不明のインフルエンザA型でした。インフルエンザBは17%のみであり、この地域におけるA(H3N2)の増加を示しています。2011年10月以降、抗ウイルス薬に対する耐性が検査されたウイルスでは、インフルエンザA型ウイルスはすべてアダマンタンに耐性でノイラミニダーゼ阻害薬には感受性がありました。また、インフルエンザB型ウイルスはすべてノイラミニダーゼ阻害薬に感受性がありました。香港では、インフルエンザの活動性は減少しています。2012年1月13日から4月18日までに、インフルエンザに関連したSARI症例は119例であり、このうち69例(58%)が死亡しています。

南半球の温帯地域

南米の温帯地域、オーストラリア、ニュージーランドでは、インフルエンザの活動性はシーズンオフレベルで、低いままです。

出典