世界におけるインフルエンザ流行状況(19)

2012年5月25日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

北半球の温帯地域のほとんどの国々では、2011年から2012年のインフルエンザシーズンは終わっています。南半球の国々では、まだ低いレベルか、シーズンオフレベルですが、チリでは非常に小さな増加が報告されています。サハラ以南のアフリカでは、若干の活動性が残っています。

北半球の2011年から2012年のインフルエンザシーズンは、優位を占めたウイルスが地域によって異なりました。北米では、カナダで、特にシーズン後半に、インフルエンザA(H3N2)よりもインフルエンザB型がわずかに優勢でした(インフルエンザA(H3N2)は67%、インフルエンザB型は33%)。しかし、その分布は国内で一定ではありませんでした。米国では、割合は逆で、インフルエンザA(H3N2)が優勢でした。メキシコでは、今シーズンは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢でした。ヨーロッパでは、インフルエンザウイルスの大部分がインフルエンザA(H3N2)であり、インフルエンザA(H1N1) pdm09とB型は少数でした。アジアでは、中国北部とモンゴルで、シーズンの初めはインフルエンザB型がほとんどでしたが、その後、インフルエンザA(H3N2)が出現しました。韓国と日本は、順序が逆で、シーズンの初めはインフルエンザA(H3N2)が優勢で、その後、インフルエンザB型が出現しました。

シーズン当初は、検査されたウイルスのほとんどが現在の3価の季節性ワクチンに含まれている株と抗原的に関連性がありました。しかし、シーズンの半ばに、米国とヨーロッパで検査されたA(H3N2)ウイルスに相違がみられました。最近の数か月間で検査されたA(H3N2)ウイルスのかなりの数で、2011年から2012年のインフルエンザシーズンのワクチン株ウイルスとの交差反応性が低下したことが示されています。インフルエンザB型ウイルスの検出は、ビクトリア系統と山形系統の2系統が検出されており、以前は、中国とヨーロッパの一部地域でわずかに優勢でした。

ノイラミニダーゼ阻害薬に対する耐性は、シーズンを通じて、低いか検出されませんでした。しかし、米国で検出されたインフルエンザA(H1N1)pdm09で、オセルタミビルに対する耐性が若干増加したと報告されています。これらの耐性の大部分(16株のうち11株)はテキサス州からの報告で、テキサス州では、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢なウイルスでした。

北半球の温帯地域

北半球の温帯地域でのインフルエンザの活動性は、全体的に減少し続けています。数か国では、2011年から2012年のインフルエンザシーズンは、例年に比べて穏やかでした。ヨーロッパやアジア北部の他の国では、インフルエンザの活動性は例年同様のレベルに達しました。

北米

北米では、2011年から2012年のインフルエンザシーズンは、例年よりも遅く始まり、インフルエンザの活動性は減少し続けています。今シーズンを通じて、カナダでは、インフルエンザB型が優勢なウイルスであり、米国では、インフルエンザA(H3N2)が優勢でした。

カナダでは、5月6日から12日の週に、インフルエンザの活動性は減少し続けました。インフルエンザ様疾患(ILI)の受診率は、前回の報告に比べて、かなり減少し、この時期に予想されるレベルを下回っています。5月6日から12日の週に検査された3,124検体のうち、10%がインフルエンザ陽性であり、前週の報告の15%から減少しました。新たに90例のインフルエンザ関連入院が報告され、前回の報告の67例に比べて増加しました。今シーズンは、予防接種監視活動(IMPACT)ネットワークによって、これまでに559例の小児のインフルエンザ関連入院例が報告されており、そのうちの36%は2歳未満の小児でした。サーベイランスシステムによる報告では、今シーズン当初から1,674例のインフルエンザ関連入院のうちの34%と、88例の検査確定死亡者のうちの80%は、65歳を超える成人でした。今シーズンの初めから、1,202株のインフルエンザウイルスの抗原解析が行われました。A(H3N2)ウイルスの202株のうち、90%はワクチン株のA/Perth/16/2009と抗原的に類似していましたが、10%のウイルスはこのワクチン系統に対して産生される抗血清との反応性が低下していました。解析された807株のインフルエンザB型ウイルスのうち、46%はワクチン株のB/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統)と抗原的に類似していましたが、解析された391株のうち1株で、B/Brisbane/60/2008に対して産生される抗血清への反応性が低下していました。残りの52%のインフルエンザB型ウイルスは山形系統に属するB/Wisconsin/01/2010と抗原的に関連がありました。

米国では、インフルエンザの活動性は、全国的に減少しており、インフルエンザに関するデータによれば、2011年から2012年のインフルエンザシーズンは例年に比べて穏やかであったようです。ILIの受診率(1.4%)は、減少し続けており、国の季節性の閾値(2.4%)を下回っています。すべての地域で、ILIの活動性は地域ごとのベースラインを下回っていると報告されました。インフルエンザ陽性となった呼吸器検体数は、3月中旬以降減少が続いており、5月6日から12日の週は13%でした。広範囲な活動性と報告された州は、前回の報告の2州から1州に減少しました。122市のサーベイランスシステムで報告された肺炎とインフルエンザによる死亡は6%で、流行閾値の7.5%よりも低い状態が続いています。今週は、インフルエンザに関連した小児の死亡例が2例報告され、2011年から2012年のシーズン中の小児の死亡例は、合計24例となりました。これは、2010年から2011年のシーズンに報告された122例と比べると、極めて少ない報告数です。5月上旬に検査されたインフルエンザ陽性検体288検体のうち、47%がインフルエンザB型で、53%がインフルエンザA型でした。亜型が解析されたインフルエンザA型ウイルスのうち、A(H3N2)が40%(61株)、A(H1N1)pdm09が8%(12株)でした。2011年10月1日以降、1,514株のインフルエンザウイルスが抗原解析され、現在の季節性の3価インフルエンザワクチンに含まれるウイルスに抗原的に関連性があったのは、インフルエンザA(H1N1)pdm09の98%、インフルエンザA(H3N2)の81%、インフルエンザB型の46%でした。オセルタミビルに対する耐性は、検査された1,147株のインフルエンザウイルスA(H1N1)pdm09のうち、1%(16株)と報告されましたが、先週の報告から新たな耐性例は報告されていません。インフルエンザA(H3N2)ウイルスとインフルエンザB型ウイルスには耐性はありませんでした。16例のオセルタミビル耐性例に関する詳細は、先々週の更新情報やCDCのウェブサイト(英文)で見ることができます。

メキシコでは、5月6日から12日の週に解析された検体(18検体)からは呼吸器感染症を起こすウイルスは検出されませんでした。

ヨーロッパ

2011年から2012年のインフルエンザシーズンは終わっていますが、ロシアでは、依然として、かなりの伝播が報告されています。5月6日から12日の週は、ILIと急性呼吸器感染症(ARI)の受診率は。ほとんどすべての国で、低いレベルに戻りました。検査される検体数は、インフルエンザ陽性検体の占める割合とともに、減少が続いていますが、特にトルコやギリシャでは、インフルエンザ陽性検体のうちインフルエンザB型ウイルスが占める割合が高くなっています。重症急性呼吸器感染症(SARI)による入院症例数は、インフルエンザ陽性率が若干増加しましたが、安定しており、ヨーロッパ西部では、5月6日から12日の週はインフルエンザに関連したSARI患者の報告はありませんでした。2011年から2012年のシーズン中、特に5週から11週の間に、65歳以上の高齢者の超過死亡が著しく増加し、この増加はヨーロッパでのインフルエンザの活動性に一致していましたが、現在は、死亡率は通常のレベルに戻っています。今シーズン当初から、定点と定点以外で採取されたインフルエンザウイルス42,644株の解析が行われ、91%がインフルエンザA型で、9%がインフルエンザB型でした。亜型が解析されたインフルエンザA型ウイルス21,110株のうち、96%はインフルエンザA(H3N2)ウイルスで、4%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。2011年から2012年のシーズン中、ヨーロッパでは、オセルタミビルに対する耐性は報告されていません。

アフリカ北部と地中海地域東部

地中海地域東部とアフリカ北部のインフルエンザの活動性は、2011年の年末にピークに達した後、減少が続いています。この地域では、現在、インフルエンザB型ウイルスが優勢ですが、非常に少数の報告です。先週の報告と同様、オマーンでは、5月6日から12日の週も、インフルエンザA(H1N1)pdm09の活動性が報告されました。

アジアの温帯地域

インフルエンザの活動性は、全体的に減少し続けており、2011年から2012年のシーズンは終わったようです。中国北部では、定点病院から報告されるILIの外来患者の割合は2.6%であり、最近数週間に報告されたレベルと同様でした。5月6日から12日の週には、181検体が検査され、4.%がインフルエンザ陽性であり、過去数週間に比べ、減少しました。伝播が減少するにつれ、インフルエンザB型に比べ、インフルエンザA型(ほとんどがA(H3N2))の割合が増加し続けており、5月6日から12日の週は、インフルエンザ陽性検体のうち86%を占めています。中国北部では、3月上旬に伝播のピークに達しましたが、その時点では、検出されるウイルスの大部分がインフルエンザB型でした。モンゴルでは、過去数週間と同様に、ILIは減少し続けています。ILIの活動性のほとんどは、1歳から4歳の小児で報告されています。最近の肺炎に関連した入院事例でインフルエンザに関連した事例はありませんでした。シーズン当初以降、優勢な亜型はインフルエンザB型からインフルエンザA型に移行しており、過去数週間は、A(H3N2)とA(H1N1)pdm09がともに検出されています。中国北部と同様に、モンゴルでも、過去数週間で、優勢なウイルスはインフルエンザB型からインフルエンザA(H3N2)に移行しています。韓国では、ILIの活動性は減少が続いています。中国とモンゴルとは対照的に、韓国では、シーズン当初はインフルエンザA(H3N2)が優勢でしたが、3月上旬以降、ほとんどすべてがインフルエンザB型です。日本では、ILI患者の報告は減少が続いています。シーズン後半にインフルエンザB型が少数報告されましたが、今シーズンはインフルエンザA(H3N2)が優勢なウイルスでした。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

カリブ海諸国では、ほとんどの地域で、インフルエンザの活動性は低い状態が続いています。ドミニカ共和国とエルサルバドルの2か国のみで、かなりのウイルス伝播が報告されています。ドミニカ共和国では、主に、インフルエンザA(H3N2)が検出されています。エルサルバドルでは、主に、インフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されています。その他の中米と南米の熱帯地域では、この時期の予想通り、インフルエンザの伝播が低いか検出されないレベルであると報告されています。

サハラ以南のアフリカ

サハラ以南のアフリカでは、インフルエンザの伝播が報告されている国は少数です。3月上旬に、主にインフルエンザA(H3N2)の伝播がピークを迎えましたが、それ以降は減少が続いています。ケニアでは、例年通り、一年中、ウイルスが検出されています。ルワンダとタンザニアは、比較的少数のインフルエンザA(H1N1)pdm09の検出を報告しています。マダガスカルでは、最近数週間は、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型の検出がともに増加しています。

アジアの熱帯地域

アジアの熱帯地域のインフルエンザの活動性は、ほとんどの地域で減少しました。中国南部では、定点病院から報告されたILI受診者の割合は、3.3%でした。検査された1,117検体が検査され、8%がインフルエンザ陽性であり、インフルエンザA型が優勢です。2011年から2012年のシーズン当初以降、抗ウイルス薬に対する耐性が検査されたウイルスでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09とA(H3N2)はすべてアダマンタンに耐性で、ノイラミニダーゼ阻害薬には感受性がありました。また、インフルエンザB型ウイルスはすべてノイラミニダーゼ阻害薬に感受性がありました。しかし、香港では、インフルエンザの活動性が、依然として高いレベルです。そして、インフルエンザに関連したICU(集中治療室)入院例または死亡例が17例報告されており、そのうち9例が死亡しました。シンガポールでは、インフルエンザB型と少数のインフルエンザA(H1N1)の検出は3月上旬にピークに達し、それ以降減少していますが、5月6日から12日に、ARIによる受診者数が通常よりも増加しました。他の熱帯地域の国々と同様、シンガポールでは、過去1年間、ほぼ毎週、ウイルスの検出が報告されています。ベトナムはシンガポールと同様の伝播様式で、3月上旬にインフルエンザB型の伝播のピークに達しましたが、インフルエンザA(H1N1)pdm09よりもA(H3N2)と同時流行していました。タイ、カンボジア、ラオスでは、インフルエンザの活動性は、低いか検出されないレベルです。

南半球の温帯地域

南米の温帯地域、アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドでは、インフルエンザの活動性とウイルスの検出状況は、全体的に低いです。しかし、チリでは、過去4週間でインフルエンザA(H3N2)の検出が増加したと報告されています。オーストラリアでは、夏季期間中、インフルエンザA(H3N2)とB型ウイルスが、ほぼ継続して低いレベルで検出されました。

出典

Influenza update25 May 2012- Update number 160

http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html