世界におけるインフルエンザ流行状況(24)

2012年8月3日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域のほとんどの国では、毎週のインフルエンザのデータ報告をやめているか、シーズンオフのサーベイランススケジュールに移りました。
  • 熱帯地域では、アメリカ大陸のブラジル、キューバ、エクアドル、エルサルバドル、パナマ(インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型)、サハラ以南のアフリカ大陸のガーナ、マダガスカル(インフルエンザA(H3N2))、アジアの中国南部、シンガポール、ベトナム(中国とベトナムではインフルエンザA(H3N2);シンガポールではインフルエンザA(H3N2)、インフルエンザA(H1N1)pdm09、インフルエンザB型)で著しいインフルエンザの活動性が報告されています。
  • 南半球の温帯地域のほとんどの国では、インフルエンザシーズンが続いています。チリと南アフリカでは、ピークに達したようで、最近、多くの指標が減少し始めています。対照的に、アルゼンチンでは、最近数週間の検出数は非常に少数です。オーストラリアとニュージーランドでは増加し続けています。
  • 南半球の温帯地域のチリ、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドで、最近数週間に検出された主な亜型はインフルエンザA(H3N2)でした。しかし、オーストラリアでは地域によってばらつきがあり、西オーストラリア州、ノーザンテリトリー、クイーンズランドで検出されるウイルスのかなりの割合をインフルエンザB型が占めています。パラグアイ、ブラジル南部、ボリビアでは、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されています。

北半球の温帯地域

北半球の温帯地域でのインフルエンザの伝播を報告しているすべての国で、インフルエンザの伝播は、ほぼシーズンオフの水準です。

最近、米国のインディアナ州で、豚由来の変異型インフルエンザA(H3N2)の集団発生があり、5人の確定患者が報告されました。いずれの患者も、豚との接触歴があり、回復しています。5人のうち4人のレポートはCDCのMMWRに掲載されています。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

中米、カリブ海諸国、南米の熱帯地域の数か国では、インフルエンザの伝播が活発になっていると報告されています。

中米では、エルサルバドルで、インフルエンザA(H1N1)pdm09が検出される水準が過去10週間、増加し続けています。インフルエンザB型も非常に少数ですが、7月中旬以降、検出されています。その他の国では、パナマで、6月上旬にインフルエンザウイルスの検出が著明に増加し始めたことを報告しており、ウイルスの検出数は少ないですが、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されています。

カリブ海諸国では、キューバとジャマイカでインフルエンザB型の検出報告が続いており、過去6週間で増加しています。

南米の熱帯地域では、主に、ブラジル、エクアドル、ボリビアでインフルエンザの伝播が報告されており、コロンビアとペルーでは、低い伝播が続いています。ブラジルでは、過去数週間、主に南部と東南部で、インフルエンザの活動性が増加していると報告されています。しかし、7月中旬以降、重症急性呼吸器感染症(SARI)の患者数やインフルエンザに関連した死亡者数、インフルエンザウイルスの検出数は減少しており、ピークに達したことを示しています。ブラジルは、今年、SARI患者の21%(11,232人中2,347人)からインフルエンザが検出されたと報告しており、そのうちの75%(1,762人)はインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスでした。また、SARIで死亡した患者の28%(860人中244人)でインフルエンザが検出されており、そのうちの86%(244人中210人)がインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスでした。外来のインフルエンザ様疾患(ILI)検体のうち、インフルエンザB型ウイルスの検出数は、インフルエンザA型ウイルスの検出数に比べて非常に少数です。インフルエンザB型は、主に15歳から59歳の年齢層で報告されており、他の年齢層ではほとんどありませんでした。エクアドルでは、過去6週間から8週間以上、インフルエンザB型の検出数が着実に増加しています。7月の第3週では、解析された検体の36%(45検体中16検体)から呼吸器疾患を起こすウイルスが陽性になり、ブラジルとは対照的に、ほとんどがインフルエンザB型でした(16検体中13検体)。エクアドルでは、2012年の年初以降、入院したSARI患者の29%(1,157人中330人)、集中治療を必要としたSARI患者の44%(67人中30人)、SARIで死亡した人の51%(39人中20人)でインフルエンザが検出されています。Cenetropのデータによれば、ボリビアのサンタクルスでは、ウイルスの伝播は6月にピークを迎えた後、減少していることを示しており、7月の第4週は21検体が解析されましたが、インフルエンザの陽性率は9.5%でした。この期間に検出された主なインフルエンザはインフルエンザA(H1N1)pdm09で、同定されたインフルエンザの90%以上を占めました。コロンビアとペルーでは、過去8週間以上、非常に少数のインフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型の検出が続いています。

サハラ以南のアフリカ

アフリカ西部では、ガーナで、6月上旬以降、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型の伝播が報告されています。インフルエンザA(H3N2)の伝播は、インフルエンザB型の出現よりも数週間先行しており、現在はピークに達したようです。マダガスカルでは、前回、高い水準でインフルエンザA(H3N2)の伝播を報告しましたが、最近数週間で減少し始めたようです。未確認の報道で、ジンバブエ保健省の担当官が、最近、インフルエンザA(H3N2)が広範囲に伝播していると示唆しています。

アジアの熱帯地域

アジアの熱帯地域では数か国で、最近、インフルエンザウイルスの伝播が著明であり、特に、中国南部、シンガポール、ベトナムで著しいです。インドでは、インフルエンザの伝播は3月から4月にピークに達した後、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がほぼ同じ割合で、少数検出されています。スリランカでも、3月から4月のピークはありませんでしたが、同様の割合で検出されています。中国南部では、7月16日から22日の週に、国の定点機関を受診したILIの患者の割合は3.5%であり、過去4週間増加傾向が続いています。全体的に、中国南部での過去8週間のILIの報告は、前年の同時期に比べて若干高いです。1,024検体が検査され、309検体(29.9%)がインフルエンザ陽性となっており、過去6週間から8週間にかけて増加傾向が続いています。インフルエンザが陽性になった検体のうち、306検体(99.0%)がインフルエンザAであり、すべてインフルエンザA(H3N2)でした。香港では、以前にインフルエンザの活動性が高い水準であると報告されましたが、最近数週間は減少し続けています。インフルエンザによる入院患者数、インフルエンザに関連した死亡者数、救急外来を受診したILI患者数、インフルエンザの集団感染事例数は、すべて低い水準となり、7月26日現在、衛生防護センター(Centre for Health Protection)は重症のインフルエンザに対する強化型サーベイランスをやめています。例年に比べて長いインフルエンザシーズンは終わり、入院患者数と死亡者数の水準は、過去2年間に比べて、著しく高い結果となり、主にインフルエンザA(H3N2)ウイルスに関連していました。東南アジアでは、ベトナムで、インフルエンザA(H3N2)の伝播が6月下旬にピークに達した後、減少し始めています。カンボジアとラオスは、ともに、ベトナムと同時期にピークを迎えた後、インフルエンザA(H3N2)の伝播は低い水準であると報告しています。シンガポールでは、7月15日から21日の週に、急性呼吸器感染症(ARI)の活動性が前週に比べて増加しており、警戒水準を超えています。総合病院のARI患者のうち、ILI患者の占める割合は1%と低いものの、過去4週間に検査された152検体のうち36%(暫定値)がインフルエンザ陽性でした。2012年6月に採取された検体で、インフルエンザが特定されたもののうち、インフルエンザA(H3N2) が46%、インフルエンザB型が30%、インフルエンザA(H1N1)pdm09が25%でした。

中国の国立インフルエンザセンターは、7月の第3週に、102株のインフルエンザA(H3N2)ウイルスの抗原解析を行い、すべて、A/Perth/16/2009-likeに抗原的に類似していました。しかし、2011年10月1日から2012年7月22日までに解析された2,350株のうち、1,764株(75%)はA/Perth/16/2009に抗原的に類似していましたが、586株(25%)はA/Perth/16/2009に対して産生される抗血清の力価が低下していました。同時期に亜型解析を行った50株のインフルエンザA(H1N1)pdm09のうち、45株(90%)がA/California/7/2009-likeに抗原的に類似していましたが、5株(10%)はA/California/7/2009-likeに対して産生される抗血清の力価が低下していました。7月の第3週にインフルエンザA(H3N2)2株とインフルエンザB型ウイルス21株の抗ウイルス薬に対する耐性検査が行われ、すべてノイラミニダーゼ阻害薬に感受性がありました。また、2011年10月1日以降検査されているインフルエンザA(H1N1)pdm09はすべてノイラミニダーゼ阻害薬に感受性がありました。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域では、ほとんどの国でインフルエンザの活動性が続いていると報告されています。

南米の温帯地域

南米の南回帰線以南の地域のインフルエンザの活動性は、チリではピークに達し、減少し始めており、アルゼンチンでは依然として低く、パラグアイで増加し続けています。

チリでは、7月上旬以降、初めてILIの活動性が減少したと報告しており、ILIの受診率は人口10万人あたり14.5でした。インフルエンザと確定診断されたSARIの患者数も二週間前の報告から減少しました。チリで検出されたインフルエンザウイルスはほとんどがインフルエンザA(H3N2)でした。チリでは、RSウイルスも著しく増加しており、ILIとSARI患者の大部分を占めています。アルゼンチンのインフルエンザの検出数は、依然として少数です。ILIとSARI患者数は高い水準にあり、RSウイルスの検出はピークに達し、6月上旬以降、減少しています。アルゼンチン北部で検出されるインフルエンザウイルスは少数ですが、その大部分はインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。パラグアイとブラジル南部との国境地域では、数週間、インフルエンザA(H1N1)pdm09が広範囲に伝播しています。パラグアイでは、ILIの受診率が著明に増加し、過去3年間に比べて増加していますが、多くはRSウイルスに関連しています。集中治療を必要としたSARI患者の割合は、7月上旬の前週に比べて著しく増加したと報告されました。SARI患者の検体で、呼吸器感染症を起こすウイルスが検出されたもののうち、インフルエンザA(H1N1)pdm09が20%を占め、インフルエンザB型が17%を占めました。2012年に呼吸器感染症を起こすウイルスが確認されたSARIによる死亡者(12人)のうち、9人(75%)からインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されました。

南アフリカの温帯地域

南アフリカでは、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型がともに流行しています。全体として、ウイルスの検出は6月中旬以降減少しています。インフルエンザが陽性になったSARI患者の検体のうち、多くはインフルエンザA(H3N2)ウイルスでした。ザンビアでは、インフルエンザB型とインフルエンザA型(亜型不明)が少数検出されました。

オセアニア、メラネシア、ポリネシア

オーストラリアとニュージーランドは、現在、インフルエンザシーズンに入っています。オーストラリアでは、最近の報告期間以降、インフルエンザの活動性は増加し続けており、すべてのサーベイランスシステムで、その傾向が反映されています。ほとんどすべての地域で、流行閾値を超えた広範囲の活動性が報告されています。国全体では、過去2週間に報告されたインフルエンザの確定患者は4,174人で、その前の2週間の報告に比べて約2倍になりました。例年に比べると(2009年を除く)、ILI患者の受診率は早期に増加しており、現在の受診率は2010年と2011年の季節性インフルエンザのピーク時より高くなっています。

2つのサーベイランスシステムにより、入院患者のデータが報告されています。FluCAN(インフルエンザの合併症を警戒するネットワーク)では、2012年4月7日以降、インフルエンザと確定された入院患者のうち、9%が集中治療室に入院しました。全体として、患者の20%がインフルエンザB型によるもので、ほとんどが、インフルエンザB型が主に検出されているノーザンテリトリーとクイーンズランド州から報告されました。一方、他の地域ではインフルエンザA型が多く検出されています。患者の約40%は65歳以上(中央値は55歳)で、約70%に合併症がありました。入院例の年齢分布は、0歳から9歳と、70歳以上にピークがある二峰性であると報告されています。

2012年は、これまで、NNDSS(国の届出疾患サーベイランスシステム)により、インフルエンザに関連した死亡は8人報告されており、年齢の中央値は76歳(年齢幅は51歳から90歳)でした。いずれの患者もインフルエンザA型(亜型不明)に感染していたと報告されており、おそらく、A(H3N2)によるものと考えられています。ニューサウスウェールズ州では、2012年6月15日までの死亡登録データで、人口10万人あたり1.63の肺炎またはインフルエンザに関連した死亡が報告されており、この時期は流行閾値の10万人対1.65をわずかに下回っています。

国全体では、インフルエンザA(H3N2)が優勢で、インフルエンザB型も流行しています。この報告期間にNNDSSに報告された4174人のインフルエンザ患者のうち、3,610人(86%)がインフルエンザA型で、519人(12%)がインフルエンザB型で、45人(2%)がインフルエンザA型とB型の重複感染または型別不明と報告されました。亜型の情報があるインフルエンザA型ウイルスのうち、797人(97%)がインフルエンザA(H3N2)、25人(3%)がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした(インフルエンザA型のうち2,788人は亜型不明です)。しかし、型や亜型の分布は、地域によって異なります。ノーザンテリトリーではインフルエンザB型が64%で、西オーストラリア州ではインフルエンザB型が41%でした。一方、タスマニア州ではインフルエンザが検出された検体のうち、インフルエンザA型が94%(172検体のうち162検体)を占めました。

2012年1月1日から7月9日までに、WHOの協力センターで亜型が解析されたオーストラリアのインフルエンザウイルスは441株でした。ほとんどのインフルエンザA(H3N2)は2012年に南半球で使用されている季節性インフルエンザワクチンに含まれるインフルエンザA(H3N2)の株とは異なる系統ですが、ワクチンはまだよく効くと考えられます。また、2つのインフルエンザB型の系統が同時に流行しています。インフルエンザB型の大部分はビクトリア系統で、現在使用されているワクチンに含まれる系統です。成人では、他の系統(山形系統)にもいくらかの交差免疫がありますが、小児ではほとんどありません。

ニュージーランドでは、ILIの受診率は、3週間連続で流行閾値を超えており、1週間の受診率は、人口10万人あたり108.5でした。国全体で、ILI患者の検体が702検体集められ、そのうち34%(241検体)でインフルエンザウイルスが陽性でした。そのうち、インフルエンザA(H3N2)が64%(155検体)を占めています。これとは対照的に、2012年7月15日から22日までの間にSHIVERS(南半球のインフルエンザとワクチンの効果の研究、サーベイランスの計画)によって検査されたSARI患者の49検体のうち、13検体(27%)がインフルエンザウイルスが陽性で、そのうち62%(8検体)をインフルエンザA(H1N1)pdm09が占めており、インフルエンザA(H3N2)は1検体で検出されたのみです。ニュージーランドで流行しているインフルエンザA(H3N2)は、大きな抗原連続変異を起こしてはいないようです。現在、抗原解析の結果では、南半球で使用されているワクチンに含まれているA/Perth/16/2009-likeと抗原的に類似しています。

出典

Influenza update3 August 2012- Update number 165

http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html