食品由来の吸虫症について(ファクトシート)
2012年8月 WHO(原文〔英語〕へのリンク)
要点
- 少なくとも5600万人が1種類以上の食品由来の吸虫症にかかっています。
- 人は、寄生虫の幼虫が付着している生の魚、甲殻類、野菜を食べることで感染します。
- 食品由来の吸虫症が最も多く発生しているのは、東南アジアと南米です。
- 食品由来の吸虫症は、重症の肝疾患と肺疾患を起こします。
- 食品由来の吸虫症の予防や治療には、安全で効果的な薬があります。
世界で、5600万人以上の人々が食品由来の吸虫症にかかっています。食品由来の吸虫症は、主に、Clonorchis、Opisthorchis、Fasciola、Paragonimusといった種類の吸虫によって起こります。
人は、小さな寄生虫の幼虫が付着している、生や加熱不十分な魚、甲殻類、野菜を食べることで感染します(表)。
感染経路
食品由来の吸虫症は動物由来感染症であり、脊椎動物から人、人から脊椎動物に感染します。また、通常、2つの中間宿主が介在する複雑な生活環を持っています。すべての吸虫症の第一中間宿主は、淡水中の巻貝です。第二中間宿主は、種によって異なり、ClonorchisとOpisthorchisでは淡水魚ですが、Paragonimusでは甲殻類です。最終宿主は、常に、哺乳類です。
人は、吸虫の幼虫に感染した第二中間宿主を摂取することで感染します。Fasciolaによって起こる肝蛭症は、第二中間宿主を介さずに感染し、吸虫が付着した水生野菜を摂取することで感染します。
表:食品由来の吸虫症の疫学的特徴
疾患名 | 病原体 | 感染源 | 自然界での最終宿主 |
---|---|---|---|
肝吸虫症 | 肝吸虫 (Clonorchis sinensis) | 魚 | 犬などの魚を摂取する肉食動物 |
タイ肝吸虫症 | タイ肝吸虫 (Opisthorchis viverrini) | 魚 | 犬などの魚を摂取する肉食動物 |
肝蛭症 | 肝蛭 (Fasciola hepatica) 巨大肝蛭 (Fasciolagigantica) | 水生野菜 | 羊、牛などの草食動物 |
肺吸虫症 | パラゴニムス属の吸虫 (Paragonimus spp.) | 甲殻類(カニ、ザリガニ) | 猫、犬などの甲殻類を摂取する肉食動物 |
疫学
2005年には、5600万人以上の人が食品由来の吸虫症に感染し、7000人以上が死亡しました。
食品由来の吸虫症患者は70か国以上の国で報告されていますが、東南アジアと南米で最も多く発生しています。これらの地域では、食品由来の吸虫症は重要な公衆衛生上の課題です。
患者が発生している国の中でも、伝播は、しばしば限られた地域でみられ、人々の食習慣や食料の生産方法や調理法、中間宿主の分布が反映されます。アフリカにおける食品由来の吸虫症の疫学的な状況に関する情報は、ほとんどありません。
食品由来の吸虫症による経済的な影響は重大で、主に、拡大している養殖産業に関連します。
症状
食品由来の吸虫症による公衆衛生上の疾病負荷は、主に、死亡率よりも罹患率によります。
感染早期であったり、感染した虫体数が少なかったりすれば、症状はないか、ほとんどないため、しばしば見過ごされます。反対に、感染した虫体数が多い場合には、全身倦怠感がよくみられます。また、肝蛭症の場合には、特に、腹部に激しい痛みが現れます。
慢性感染の場合には、重い症状が続きます。症状は、主に、臓器特異的で、体内で成虫が存在する部位によって異なります。
肝吸虫症
成虫は、肝臓の小胆管に寄生し、炎症を起こすほか、隣接組織の線維化を起こします。最終的には胆管癌を起こします。猫肝吸虫(O. felineus)以外の肝吸虫とタイ肝吸虫は、発癌性を有する病原体に分類されています。
肝蛭症
成虫は、太い胆管や胆嚢に寄生し、炎症、線維化、閉塞、疝痛、黄疸を起こします。肝線維症と貧血も、しばしばみられます。
肺吸虫症
肺吸虫は、最終的に肺に寄生します。症状は、結核の症状に似ており、血痰を伴う慢性の咳、胸痛、呼吸困難、発熱がみられます。体内を移行することがあり、脳に移行した場合が最も重症です。
予防と感染拡大防止
食品由来の吸虫症のコントロールは、感染リスクを減らし、関連した疾患を抑えることを目指しています。
WHOは、感染リスクを減らすために、獣医公衆衛生学的な方法や食品安全対策の実施を推奨しています。また、疾患を抑えるために、化学予防と、安全で効果的な駆虫薬による治療を受ける機会の向上も推奨しています。
化学予防は、個人が感染しているかどうかにかかわらず、地域の全住民に薬を投与するという、集団を対象とした取組を伴っています。感染していることが確定された患者や感染が疑われる患者に対しては、個別の患者管理が必要です。化学予防や治療には、プラジカンテルやトリクラベンダゾールが使用されます(国内では、人に使用できるトリクラベンダゾールは承認されていません)。
WHOの対応
WHOの食品由来の吸虫症に関する活動は、顧みられない熱帯病をコントロールするための総合対策の一環で、以下の活動を行っています。
- 戦略の方向性と推奨の進展
- 流行国における発生地域の分布図の作成支援
- 流行国における試験的な介入とコントロール計画の支援
- 行われた活動のモニタリングと評価の支援
- 食品由来の吸虫症の疾病負荷と実施された介入の効果に関する文書作成
WHOは、食品由来の吸虫症について、その対策の主流となる化学予防戦略を含め、確実に最悪の結果(胆管癌)を防ぐことができるように取り組んでいます。
また、WHOはノバルティス社と交渉し、同社から、肝蛭症と肺吸虫症の治療薬であるトリクラベンダゾールの寄贈の合意に至りました。この薬は保健省からの申請により、無償で出荷されます。WHOは、すべての流行国に、この寄贈計画を利用するように勧めています。
出典
WHO Foodborne trematode infections Fact sheet August2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs368/en/index.html