エボラ出血熱について(ファクトシート)

2012年8月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • エボラウイルスは、人に重症のウイルス性出血熱のアウトブレイクを起こします。
  • ウイルス性出血熱のアウトブレイクでは、致死率は90%にもなります。
  • エボラ出血熱のアウトブレイクは、主に、アフリカの中部と西部の熱帯雨林に近い僻村で発生します。
  • ウイルスは野生動物から人に感染し、人-人感染によって、人の間で広がります。
  • オオコウモリ科のコウモリがエボラウイルスの自然宿主であると考えられています。
  • 人にも、動物にも、特異的な治療やワクチンはありません。

エボラウイルスは、人に重症のウイルス性出血熱のアウトブレイクを起こし、致死率は90%にもなります。エボラ出血熱は、1976年の同時期に、スーダンのヌザラとコンゴ民主共和国のヤンブクの2か所で初めて発生しました。後者は、エボラ川の近くの村で発生し、疾患名は川の名前にちなんで名づけられました。

エボラウイルスには、ブンディブギョ、アイボリーコースト、レストン、スーダン、ザイールの異なる5種があります。

ブンディブギョ、スーダン、ザイールの3種は、アフリカで、エボラ出血熱の大きなアウトブレイクを起こしてきました。一方で、アイボリーコーストとレストンでは、これまで大きなアウトブレイクは起きていません。エボラ出血熱は、発熱性の出血性疾患で、患者の25%から90%が死亡します。レストンはフィリピンで発見されており、人に感染しますが、これまでのところ、発症者や死亡者は報告されていません。

感染経路

エボラ出血熱は、感染した動物の血液、分泌液、臓器、その他の体液に濃厚接触することで感染します。アフリカでは、熱帯雨林の中で発見された、感染して発症または死亡したチンパンジー、ゴリラ、オオコウモリ、サル、森林に生息するレイヨウ、ヤマアラシを扱ったことによって感染した事例が記録されています。

その後、感染した人の血液、分泌物、臓器、その他の体液に濃厚接触することにより、人-人感染が起こり、地域での感染が拡大します。会葬者が死亡者の身体に直接触る葬儀も、エボラ出血熱の感染伝播の一因となります。感染者が回復した後、7週間は精液からの感染が起こることがあります。

医療従事者が、エボラ出血熱の患者を治療する際に、しばしば感染しました。これは、感染予防対策やバリアナーシングが適切に行われずに濃厚接触したことによって起こりました。例えば、手袋、マスク、ゴーグルを着用しなかった医療従事者は患者の血液と直接接触することによって感染する危険があります。

レストンエボラウイルスに感染したサルやブタと接触のあった労働者で、数人の感染例が記録されていますが、症状はありませんでした。このように、レストンエボラウイルスは、他のエボラウイルスに比べて、人に病気を起こしにくいと考えられています。しかし、その根拠は健康な成人男性に限られたものです。免疫不全の人、基礎疾患を持つ人、妊婦、小児などのすべての人について、ウイルスが感染することによる健康上の影響を結論づけるには時期尚早です。レストンエボラウイルスの人に対する病原性や病毒性について、最終的な結論に達するまでには、更なる研究が必要です。

症状と所見

エボラ出血熱は、急性のウイルス性疾患で、しばしば、発熱、激しい衰弱、筋肉痛、頭痛、咽頭痛が突然現れることが特徴です。これらの症状に続いて、嘔吐、下痢、発疹、腎障害、肝機能障害がみられ、内出血と外出血がみられることもあります。検査所見では、白血球の減少、血小板の減少、肝臓の酵素の上昇がみられます。

感染した人の血液や分泌物にウイルスが存在する間は、他の人に感染する可能性があります。エボラウイルスは、実験室で感染した事例で、発症から61日目まで精液からエボラウイルスが分離された事例があります。

潜伏期間(感染から発症するまでの期間)は2日から21日です。

エボラ出血熱のアウトブレイクの致死率は25%から90%の間です。

診断

マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウイルス性出血熱との鑑別診断が必要です。

エボラウイルス感染の確定診断をつけられるのは、研究所で実施される、数種類の異なる検査のみです。その検査方法は、酵素免疫測定(ELISA)法、抗原検出法、血清中和試験、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、細胞培養によるウイルス分離です。

患者から採取した検体は、バイオハザードリスクが非常に高く、バイオセーフティーレベルが最も高い環境下でのみ取り扱うべきです。

治療とワクチン

重症例に対しては、集中的な支持療法が必要です。患者は、しばしば脱水症状を起こし、電解質を含んだ輸液や経口補水液の投与が必要です。

エボラ出血熱に対する特定的な治療やワクチンは、まだありません。新しい薬物療法は、実験室での研究では有望な結果が出ており、現在、評価が行われています。数種類のワクチンの試験が行われていますが、実用化までには、まだ何年もかかる見込みです。

エボラウイルスの自然宿主

アフリカでは、オオコウモリ科の、特にウマヅラコウモリ(Hypsignathus monstrosus)、フランケオナシケンショウコウモリ(Epomops franqueti)、コクビワフルーツコウモリ(Myonycteris torquata)がエボラウイルスの自然宿主と考えられています。結果として、エボラウイルスの地理的分布は、オオコウモリの生息域に重なると考えられています。

動物のエボラウイルス

人以外の霊長類が人の感染源になっていますが、その霊長類がウイルスの保有宿主なのではなく、むしろ、人間と同様に偶発的に宿主になったと考えられています。1994年以降、ザイールエボラウイルスとアイボリーコーストエボラウイルスによるアウトブレイクでは、チンパンジーとゴリラの感染がみられました。

レストンエボラウイルスは、1989年、1990年、1996年に、フィリピンで飼育され、米国に輸入されたマカクサル(カニクイザル)で重症のウイルスウイルス性出血熱のアウトブレイクが起こりました。また、1992年には、フィリピンからイタリアに輸入されたサルで発生しました。

2008年以降、レストンエボラウイルスは、ブタで致死的な疾患の集団発生を起こしています。ブタでは無症候性感染が報告されており、ブタは、実験的なウイルス接種では発症しない傾向にあります。

予防

家畜でのレストンエボラウイルスのコントロール

動物に使用できる、エボラレストンウイルスに対するワクチンがありません。ブタやサルの飼育場の日常的な清掃と消毒(次亜塩素酸ナトリウムや他の洗剤による)がウイルスの失活化に有効と考えられています。アウトブレイクが疑われた場合には、すぐに建物を隔離すべきです。動物から人への感染リスクを減らすために、死体の埋火葬を厳密に管理して、動物の殺処分が必要になることがあります。感染した動物が発見された農場の動物を他の地域に移動することを制限したり、禁止したりすることで、疾患の拡大を抑えることができます。

ブタとサルのレストンエボラウイルスのアウトブレイクは、人の感染に先行してきたので、獣医と人の公衆衛生当局に早期警報を提供するためには、新しい事例を発見するための積極的な動物健康監視システムの設立が欠かせません。

人でのエボラウイルス感染のリスクの減少

エボラ出血熱に対して、有効な治療法や人に使用できるワクチンがないので、人での感染と死亡を減らすためには、エボラウイルスに感染する危険因子の認識の向上と個人ができる予防対策を行うことしかできません。

アフリカでは、エボラ出血熱のアウトブレイクが発生している間、リスクを減らすために、公衆衛生学的な啓発メッセージはいくつかの要因に焦点があてられるべきです。

  • ・感染したオオコウモリやサルとの接触や、生肉を食べることによる、野生動物から人への感染リスクの減少。動物は、手袋や、その他の適切な防護服を着用して取り扱うべきです。その産物(血と肉)は、食べる前に完全に加熱調理すべきです。
  • ・感染した患者、特に患者の体液に直接または濃厚接触した人に感染者が発生している地域における、人から人への感染リスクの減少。エボラ出血熱の患者との身体的な濃厚接触は避けるべきです。自宅で病気の患者の世話をする時には、手袋や適切な個人防護具を着用するべきです。自宅で病気の患者の世話をした後と同様、病院に病気の親類を見舞った後にも、常に手洗いが必要です。
  • ・エボラ出血熱が発生している地域では、住民に、病気の性質や、死体の埋葬を含むアウトブレイクを封じ込めるための対策を伝えるべきです。エボラ出血熱の死亡者は、迅速かつ安全に埋葬すべきです。
  • ・アフリカでは、オオコウモリとの接触で養豚場が感染し、ウイルスを増幅してエボラ出血熱のアウトブレイクを起こすことを避けるために予防対策が必要です。

レストンエボラウイルスについての公衆衛生学的な啓発メッセージは、危険な畜産やと殺方法、危険な鮮血、生乳、動物の組織の飲食の結果として起こる、ブタから人への感染リスクを減らすことに焦点があてられるべきです。病気にかかった動物や、その組織を扱う時や、動物をと殺する時には、手袋や、その他の適切な防護服を着用するべきです。これまでに、ブタで、レストンエボラウイルスの感染事例が報告・検出された地域では、すべての動物の製品(血、肉、乳)は、飲食する前に、完全に加熱調理すべきです。

医療機関での感染予防

エボラウイルスの人から人への感染は、主に、血液や体液への直接接触と関連します。適切な感染予防対策が取られていなかった医療従事者の感染が報告されています。

エボラウイルスに感染したと確定された患者や、その疑いのある患者の診療をする医療従事者は、患者の血液や体液からの感染や、汚染された可能性のある環境に直接接触することによる感染を防ぐために感染予防策を実施するべきです。したがって、エボラウイルスに感染したと確定された患者や疑いのある患者の診療をする医療従事者は、特別な予防方法と標準予防策の強化、特に基本的な手指衛生や個人防護具の使用、安全な注射手技、安全な埋葬方法を実施することが必要です。

検査施設の勤務者もリスクはあります。エボラウイルス感染が疑われる人や動物から、診断のために採取された検体は、トレーニングを受けた職員が取り扱うべきであり、十分に設備が整った検査施設で処理すべきです。

WHOの対応

WHOは、疾患の調査や感染拡大防止を支援するために、専門的な知識や文書を提供することによって、過去のすべてのエボラ出血熱のアウトブレイクに関わってきました。

エボラ出血熱と確定された患者や疑いのある患者を診療する際に推奨する感染予防法は、2008年3月の「フィロウイルスによる出血熱(エボラ、マールブルグ)と確定された患者や、その疑いのある患者を診療する際に、暫定的に推奨する感染予防法(Interim infection control recommendations for care of patients with suspected or confirmed Filovirus(Ebola, Marburg)haemorrhagic fever)」の中で示しています。

WHOは、医療における標準予防策に関する覚書を作成しました。標準予防策は、血液に由来する感染や、他の病原体による感染のリスクを減らすためのものです。標準予防策が、常に実施されていれば、血液や体液からの感染のほとんどが予防できると考えられます。標準予防策は、感染状況にかかわらず、すべての患者の医療に推奨されます。標準予防策には、基本的な感染予防方法が含まれ、手指衛生、血液や体液との直接接触を避けるために個人防護具の使用、針刺しや鋭利な医療器具による傷の予防、環境管理が含まれます。

表:主なエボラ出血熱の発生(2012年5月現在)

ウイルス 患者数 死亡者数 致死率
2011 ウガンダ スーダンエボラウイルス 1 1 100%
2008 コンゴ民主共和国 ザイールエボラウイルス 32 14 44%
2007 ウガンダ ブンディブギョエボラウイルス 149 37 25%
2007 コンゴ民主共和国 ザイールエボラウイルス 264 187 71%
2005 コンゴ共和国 ザイールエボラウイルス 12 10 83%
2004 スーダン スーダンエボラウイルス 17 7 41%
2003
(11月-12月)
コンゴ共和国 ザイールエボラウイルス 35 29 83%
2003
(1月-4月)
コンゴ共和国 ザイールエボラウイルス 143 128 90%
2001-2002 コンゴ共和国 ザイールエボラウイルス 59 44 75%
2001-2002 ガボン ザイールエボラウイルス 65 53 82%
2000 ウガンダ スーダンエボラウイルス 425 224 53%
1996 南アフリカ
(ガボンからの輸入例)
ザイールエボラウイルス 1 1 100%
1996
(7月-12月)
ガボン ザイールエボラウイルス 60 45 75%
1996
(1月-4月)
ガボン ザイールエボラウイルス 31 21 68%
1995 コンゴ民主共和国 ザイールエボラウイルス 315 254 81%
1994 コートジボワール アイボリーコーストエボラウイルス 1 0 0%
1994 ガボン ザイールエボラウイルス 52 31 60%
1979 スーダン スーダンエボラウイルス 34 22 65%
1977 コンゴ民主共和国 ザイールエボラウイルス 1 1 100%
1976 スーダン スーダンエボラウイルス 284 151 53%
1976 コンゴ民主共和国 ザイールエボラウイルス 318 280 88%

出典

WHOEbola haemorrhagic fever Fact sheet August2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/index.html