B型肝炎について(ファクトシート)
2012年7月 WHO(原文〔英語〕へのリンク)
要点
- B型肝炎は肝障害を起こすウイルス感染症で、急性疾患と慢性疾患を起こします。
- B型肝炎は、感染者の血液や、その他の体液に接触することで感染します。
- 世界中で20億人が感染しており、毎年60万人がB型肝炎によって死亡しています。
- B型肝炎は、HIVよりも50倍から100倍感染力が強いです。
- B型肝炎は、医療従事者にとって、重要な職業上の危険です。
- B型肝炎は、現在、安全で効果的なワクチンによって予防できる疾患です。
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスによって起こる、致命的となり得る肝臓の感染症です。B型肝炎は、主要な世界的健康問題で、ウイルス性肝炎の中では最も重症な型です。慢性肝疾患を起こし、肝硬変や肝がんによる死亡の危険が高くなります。世界中で20億人が感染していると推計されており、2億4千万人以上が慢性の(長期にわたる)肝臓感染症にかかっていると推計されています。また、毎年60万人がB型肝炎の急性または慢性の経過によって死亡しています。
B型肝炎ワクチンは1982年から使用できるようになりました。B型肝炎ワクチンの感染と持続感染の予防効果は95%であり、人に起こる主ながんに対する初めてのワクチンです。
地理的分布
B型肝炎ウイルスは、数週間続く急性症状を起こすことがあり、皮膚や眼球結膜の黄染(黄疸)、褐色尿、激しい倦怠感、悪心、嘔吐、腹痛がみられることもあります。B型肝炎は、中国やアジアの他の地域にまん延しています。この地域のほとんどの人は、小児期にB型肝炎ウイルスに感染し、成人の8%から10%が持続感染しています。この地域では、B型肝炎によるがんは、男性の三大死因の一つであり、女性のがんの主な原因となっています。
アマゾンや、東部ヨーロッパと中央ヨーロッパの南部でも持続感染が高率です。中東やインド亜大陸では、全人口の2%から5%が持続感染していると推計されています。西ヨーロッパや北米では、持続感染しているのは人口の1%未満です。
感染経路
B型肝炎ウイルスは、感染した人との血液と血液の直接接触や、精液や膣分泌液によって感染します。感染経路はHIVと同じですが、B型肝炎ウイルスはHIVに比べて50倍から100倍感染力が強いです。また、B型肝炎ウイルスは、HIVと異なり、人の身体の外でも、少なくても7日間は生存することができます。この期間、予防接種を受けていない人の身体にウイルスが入った場合には、感染が成立することがあります。
開発途上国で、よくみられる感染経路には、以下の経路があります。
- 周産期(出生時の母から子への感染)
- 小児早期の感染(感染している家族との密接な人-人感染による不顕性感染)
- 安全でない注射器の使用
- 安全でない輸血
- コンドームを適切に使用しない性的接触
多くの先進国(例えば、西ヨーロッパや北米)では、感染経路は開発途上国と異なります。先進国では、主に、青年期の性交渉や注射薬物使用による感染です。B型肝炎は、医療従事者にとって、重要な職業上の危険です。
B型肝炎ウイルスは汚染された食物や水によって広がることはなく、通常、職場で感染が広がることはありません。
B型肝炎ウイルスの潜伏期間は平均90日ですが、30日から180日の幅があります。ウイルスに感染した後、30日から60日後にウイルスが検出されるようになり、検出される期間には幅があります。
症状
急性感染期には、ほとんどの人は症状が現れません。しかし、感染した人の中には、数週間続く急性症状を起こすことがあり、皮膚や眼球結膜の黄染(黄疸)、褐色尿、激しい倦怠感、悪心、嘔吐、腹痛がみられることもあります。
また、B型肝炎ウイルスは肝臓に持続感染することがあり、後に肝硬変や肝がんに進展することがあります。
リスクのある人
B型肝炎ウイルスの感染が慢性化する可能性は、感染した年齢によります。B型肝炎ウイルスに感染した小児が、最も感染が慢性化しやすいようです。
- 1歳以下で感染した乳児の90%で感染が慢性化します。
- 1歳から4歳の間に感染した小児の30%から50%で感染が慢性化します。
成人では次の通りです。
- 小児期に感染し、感染が慢性化した成人のうち、25%はB型肝炎に関連した肝がんか肝硬変で死亡します。
- B型肝炎に感染した健康な成人の90%は回復し、6か月以内にウイルスが完全に除去されます。
診断
B型肝炎の診断や患者の経過をみるために多数の血液検査が利用できます。その血液検査では、急性感染と慢性感染の鑑別が可能です。
B型肝炎感染の検査室診断は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs抗原)の検出によって行います。HBs抗原が陽性であるということは、現在の感染(急性または慢性のいずれか)を示しています。WHOは輸血による感染を避けるために、すべての献血者のHBs抗原を検査するように勧めています。
この他に、よく使用される検査は次の通りです。
- B型肝炎ウイルス表面抗原に対する抗体(HBs抗体)の検査
-この検査が陽性であるということは、急性感染から回復してウイルスが排除されたか、B型肝炎ワクチンを接種したことを示しています。その人は、その後のB型肝炎の感染に免疫を持っていて、もはや感染性はありません。 - B型肝炎ウイルスコア抗原に対する抗体(HBc抗体)の検査
-この検査が陽性であるということは、その人に最近の感染か過去の感染があったことを示しています。HBs抗原が陽性であり、HBc抗体が陽性の場合は、通常、持続感染を示しています。
治療
急性B型肝炎には特異的な治療法がありません。治療は症状の緩和と、嘔吐や下痢で失われた体液の補正を含む栄養バランスを維持することを目的としています。
慢性B型肝炎は、インターフェロンや抗ウイルス薬を含む薬物で治療することもできます。しかし、その治療には、年間で数千ドルの費用がかかり、開発途上国のほとんどの人は、薬物治療を受けることができません。
肝がんは、常に、ほぼ致命的であり、しばしば、最も生産性が高く、家族を養う責任がある世代の人々に起こります。開発途上国では、肝がんの患者のほとんどが、診断から数か月のうちに死亡します。高所得国では、外科治療や化学療法によって、数年、延命することが可能です。
肝硬変の患者は、時々、肝移植を受けますが、成功率には幅があります。
予防
B型肝炎ワクチンは、B型肝炎の予防の大きな柱です。WHOは、すべての幼児がB型肝炎ワクチンを受けるよう勧めています。
B型肝炎ワクチンは、定期の予防接種スケジュールの一部として、3回または4回接種されます。B型肝炎ウイルスの母子感染がよくみられる地域では、ワクチンの初回接種は、出生後可能な限り早期(すなわち24時間以内)に実施すべきです。
規定の接種回数で、乳幼児、小児、青少年の95%以上に、感染予防に必要な抗体ができます。その予防効果は少なくとも20年続き、おそらく生涯持続すると考えられます。
過去に、予防接種を受けたことがない18歳未満の小児と青少年は予防接種を受けるべきです。また、以下のハイリスクグループも予防接種を受けるべきです。
- リスクの大きい性行動をする人々
- 感染した人々のパートナーと同居家族
- 注射薬物使用者
- 輸血または血液製剤を頻繁に投与する必要がある人
- 臓器移植のレシピエント
- 医療従事者等、職業上、B型肝炎ウイルスに感染するリスクのある人
- B型肝炎が高率に発生している国への渡航者
ワクチンは、安全性と有効性が優れています。B型肝炎ワクチンは1982年以降、世界中で10億回以上接種されています。多くの国では、小児の8%から15%がB型肝炎ウイルスに持続感染していましたが、予防接種によって、予防接種を受けた小児における持続感染の割合が1%未満に減少しました。
2011年7月現在、B型肝炎ワクチンは179か国で、定期の予防接種として接種されています。世界保健総会が世界的にB型肝炎の予防接種を勧める決議を採択した1992年に定期の予防接種として実施していた国は31か国であり、当時と比べ、大きく増加しました。
WHOの対応
WHOは、ウイルス性肝炎の予防と感染拡大を抑えるため、下記の分野で活動しています。
- 意識の向上、パートナーシップの促進、資源の動員
- 根拠に基づく政策と行動するためのデータ
- 感染予防
- スクリーニング、管理、治療
WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日に世界肝炎デーと定めています。
出典
WHOHepatatits BFact sheet July2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs204/en/index.html