世界におけるインフルエンザ流行状況(26)

2012年8月31日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域のほとんどの国では、毎週のインフルエンザのデータ報告をやめているか、シーズンオフのサーベイランススケジュールに移りました。米国では、人のインフルエンザA(H3N2)vの新規感染例が発見されていますが、これまでに、人から人への持続的な感染は確認されていません。
  • 熱帯地域では、アメリカ大陸のブラジル、コスタリカ、キューバ、エクアドル、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、パナマ、ペルー、ボリビア(インフルエンザA(H1N1)pdm09、インフルエンザA(H3N2)、インフルエンザB型)、サハラ以南のアフリカ大陸のガーナとマダガスカル(インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型)、アジアのブータン、カンボジア、中国南部、香港、インド、ラオス、シンガポール、スリランカ、ベトナム(インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型)で著しいインフルエンザの活動性が報告されています。
  • 南半球の温帯地域の国ではインフルエンザの活動性が減少しています。オーストラリア、チリ、ニュージーランド、パラグアイ、南アフリカでは、インフルエンザの指標が減少し続けています。アルゼンチンは、今年、例年に比べて非常に少ない検出数が続いています。
  • チリ、南アフリカ、オーストラリアを含む南半球の温帯地域で、最近数週間に検出された主な型・亜型はインフルエンザA(H3N2)でした。しかし、中米では、以前はインフルエンザA(H1N1)pdm09の伝播が報告されていましたが、現在は、主にインフルエンザB型が優勢となっています。アジアの熱帯地域では、中国南部と東南アジアでは主にインフルエンザA(H3N2)が報告されていますが、ブータン、インド、スリランカでは、インフルエンザA(H1N1)とインフルエンザB型が流行しています。
  • ノイラミニダーゼに対する抵抗性の報告は非常に稀です。特に、オーストラリアでは、今シーズン、これまでに検査されたインフルエンザA(H3N2)ウイルスの大部分が、フェレットの抗血清を使用した赤血球凝集抑制試験で、現在、南半球で使用されているワクチンに含まれているウイルスに対して産生される抗血清の力価が低下していたと報告されています。

北半球の温帯地域

北半球の温帯地域でのインフルエンザの伝播を報告しているすべての国で、インフルエンザの伝播は最小で、シーズンオフの水準です。

米国では、豚由来のインフルエンザA(H3N2)vウイルスに感染した確定患者数は、2012年7月から8月23日までの間に276人に増加しました。新たな患者は、主に、報告された患者の周囲の積極的な患者発見の結果、発見されました。13人が入院しましたが、入院した患者はすべて回復しています。患者の大部分は、豚との接触に関連していますが、3人は、持続的ではなく、限られた人-人感染で感染したことが確認されています。持続的な人-人感染は確認されていません。さらに詳しい情報は、CDCのホームページに掲載されています。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

中米、カリブ海諸国、南米の熱帯地域のインフルエンザの活動性を報告している国では、現在、インフルエンザの伝播が非常に低い水準に減少したと報告されています。

中米の全域で、北半球の夏の間、インフルエンザA(H1N1)pdm09が検出された後、ウイルスの検出数は数週間で減少し、現在は非常に低くなっていますが、最も多く検出されているウイルスはインフルエンザB型となっています。エルサルバドル、コスタリカ、ニカラグア、パナマでは、少なくとも過去6週間、インフルエンザB型が優勢であり、インフルエンザA(H1N1)pdm09はほとんど検出されていないと報告されています。ホンジュラスでは、最近、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がともに検出されていると報告されています。ニカラグアでは、インフルエンザA(H3N2)が少数報告されています。カリブ海諸国では、キューバでインフルエンザウイルスの活動性が6月中旬にピークに達した後、低い活動性となっており、最も多く検出されているのはインフルエンザB型です。

南米の熱帯地域では、最近のインフルエンザの伝播は、主に、ブラジル、エクアドル、ペルー、ボリビアで報告されており、いずれの国でも非常に低い水準が続いています。

ブラジルでは、インフルエンザの活動性は8月中旬にピークに達した後、減少し続けていると報告されています。今年、重症急性呼吸器感染症(SARI)の患者の22%(15,613人中3,406人)からインフルエンザウイルスが検出され、そのうちの70%(3,406人中2,398人)はインフルエンザA(H1N1)pdm09で、残りの30%のほとんどがインフルエンザA(H3N2)でした。さらに、SARIで死亡した患者の28%(1,268人中363人)でインフルエンザが検出されており、そのうちの84%(363人中307人)がインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスでした。SARIで死亡した患者の50%(1,268人中638人)は、男性で、年齢の中央値は46歳(年齢幅は0歳から99歳)でした。また、SARIで死亡した患者の60%で、少なくとも1つ以上の合併症が記録されていました。

ブラジルとは対照的に、エクアドル、ペルー、ボリビアでは、最近数週間、主にインフルエンザB型が検出されていると報告されています。

サハラ以南のアフリカ

インフルエンザのデータを報告しているサハラ以南のアフリカの国では、ガーナだけが著明なインフルエンザの流行を報告しており、主にインフルエンザB型が流行しています。マダガスカルでは、6月にインフルエンザA(H3N2)の伝播のピークに達した後、減少し続けています。

アジアの熱帯地域

アジアの熱帯地域では数か国で、最近、インフルエンザウイルスの流行が著しく、特に、中国南部、ベトナムで著しい流行がみられています。

インド、スリランカ、ブータン、タイでは、7月上旬にインフルエンザの伝播のピークに達した後、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がほぼ同じ割合で、少数検出されています。

中国南部でもインフルエンザの活動性は減少が続いています。定点機関を受診したインフルエンザ様疾患(ILI)の患者の割合は、最近の報告週で2.9%であり、前週(3.0%)に比べて若干減少しました。検査されたILI患者の検体のうち、22%(884検体中198検体)がインフルエンザ陽性でした。インド亜大陸とは対照的に、中国南部では、97%(177検体のうち172検体)がインフルエンザA(H3N2)でした。

ベトナム、カンボジア、ラオスは、最近数週間、中国南部と同様の傾向です。7月中旬にインフルエンザA(H3N2)の伝播がピークに達した後、ウイルスの検出数は非常に少数です。

シンガポールでは、急性呼吸器感染症(ARI)の活動性は減少し、過去2週間は警戒水準を下回っています。総合病院のARI患者のうち、ILI患者の占める割合は1%と低いものの、過去4週間に採取されたILI患者の検体のうち41%(102検体中42検体)がインフルエンザ陽性でした。7月に検査された検体のうち、インフルエンザA(H3N2)が51%、インフルエンザA(H1N1)pdm09が35%、インフルエンザB型が14%を占めました。

中国の国立インフルエンザセンターは、8月13日から8月19日に261株のインフルエンザウイルスの抗原解析を行いました。インフルエンザA(H3N2)のうち96%(216株中207株)はA/Perth/16/2009(H3N2)-likeに抗原的に類似していましたが、4%(216株中9株)でA/Perth/16/2009(H3N2)に対して産生される抗血清の力価が低下(赤血球凝集抑制試験で8倍以下)していました。解析されたインフルエンザB型ビクトリア系統のウイルスのうち62%(39株中24株) はB/Brisbane/60/2008-likeに抗原的に類似していましたが、39%(39株中15株)はB/Brisbane/60/2008に対して産生される抗血清の力価が低下(赤血球凝集抑制試験で8倍以下)していました。また、解析されたインフルエンザB型山形系統のウイルス6株は、すべてB/Wisconsin/01/2010-likeに抗原的に類似していました。

2011年10月1日から2012年8月19日までに解析されたインフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザA(H3N2)は、すべて、ノイラミニダーゼ阻害薬に感受性がありました。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域では、ほとんどの国でインフルエンザの活動性が減少し続けています。

南米の温帯地域

南米の南回帰線以南の地域のインフルエンザの活動性は、ピークに達したようであり、アルゼンチン、チリ、パラグアイで減少しています。

チリでは、ILI患者の受診率は人口10万人あたり11.4であり、前週(10万人あたり11.7)に比べて若干減少しており、6月下旬にピークに達した後、減少傾向が続いています。インフルエンザに関連して病院の救急部門を受診した患者の割合は過去2週間で増加していますが、7月上旬の割合に比べると低い水準です。最近の報告週では、呼吸器感染症を起こすウイルスが検出された検体のうち、14%がインフルエンザA型であり、その大部分はインフルエンザA(H3N2)でした。同時期に検査されたSARI患者の検体のうち、10%(48検体のうち5検体)はインフルエンザA型であり、そのうち亜型の情報があるものは3検体で、いずれもインフルエンザA(H3N2)でした。

アルゼンチンでは、依然として、インフルエンザウイルスの検出数は少数であると報告されています。ILI患者とSARI患者数は、6月第1週以降、減少傾向が続いており、RSウイルスの検出数の減少に一致しています。検出されているインフルエンザウイルスは少数ですが、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がともに検出されています。

パラグアイでは、インフルエンザの検出数は7月中旬にピークに達した後、着実に減少し、ILI患者とSARI患者の割合は、過去2週間、減少し続けており、RSウイルス検出数の減少に一致しています。インフルエンザと確定されたSARI患者の8人のうち、インフルエンザB型が検出されたのは3人、インフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されたのは3人、インフルエンザA(H3N2)が検出されたのは1人でした。今年、呼吸器感染症を起こすウイルスが確認されたSARIによる死亡者(24人)のうち、16人(67%)がインフルエンザA(H1N1)pdm09と確定されました。

南アフリカの温帯地域

南アフリカでは、インフルエンザの検出数が減少した後、過去3週間、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型がともに流行した状態が続いています。インフルエンザが陽性になったSARI患者の検体のうち、多くはインフルエンザA(H3N2)ウイルスでした。

オセアニア、メラネシア、ポリネシア

オーストラリアでは、最近の報告週で、インフルエンザの指標のほとんどが減少したと報告されています。ニュージーランドでは、ILI患者の受診が6月以降、初めて減少したと報告されています。

オーストラリアでは、ほとんどすべての地域で、流行閾値を超えたインフルエンザ活動性が報告されています。しかし、ほとんどのサーベイランスシステムで、前週に比べて活動性が減少したと報告されており、インフルエンザの活動性は2週連続で減少しました。定点となっている一般開業医へのILI患者の受診率は、ピーク時には1,000受診者あたり22.1でしたが、8月19日までの週は1,000受診者あたり14.0と減少が続いています。全国では、過去2週間にインフルエンザと確定されたのは6,614人であり、わずかに減少しました。確定患者の約56%はクイーンズランド州から報告されています。クイーンズランド州だけは、インフルエンザの検出数が増加し続けており、他の地域の報告数は変わらないか、減少しています。今年はインフルエンザA(H3N2)が優勢で、年齢分布は、0歳から4歳と70歳以上にピークがある二峰性を示しています。30歳から44歳の年齢層にも小さなピークがみられます。

インフルエンザによる入院患者数は7月中旬にピークに達した後、減少し続けています。入院患者の75%に合併症がありました。入院患者の年齢分布は、0歳から9歳と70歳以上にピークがある二峰性を示していると報告されています。2012年4月7日以降、インフルエンザで入院した患者の9%の患者が集中治療室に入院しました。集中治療室に入院した患者のうち、16%がインフルエンザB型でした。しかし、インフルエンザB型の患者のうち40%は、他の地域に比べてインフルエンザB型の検出割合が多いノーザンテリトリーからの報告です。集中治療室に入院した患者のうち、約45%が65歳以上の患者(中央値は60歳)であり、75%に合併症がありました。

2012年7月1日から8月17日までの間にインフルエンザの重篤な合併症で入院した小児は17人で、そのうち5人が集中治療室に入院しました。この入院患者の60%以上はインフルエンザA型(亜型不明)に感染しており、残りはインフルエンザB型に感染していました。また、この入院患者の約半数には基礎疾患がありました。

今年は、これまで、NNDSS(国の届出疾患サーベイランスシステム)により、インフルエンザに関連した死亡は33人報告されており、年齢の中央値は75歳でした。ほとんどの患者はインフルエンザA型(亜型不明)に感染していたと報告されています。全国でのインフルエンザA(H1N1)pdm09の検出数は非常に少数なので、おそらく、インフルエンザA(H3N2)によるものと考えられています。

国全体では、インフルエンザA(H3N2)が優勢で、インフルエンザB型も流行しています。しかし、型や亜型の分布は、地域によって異なります。ほとんどの地域では、インフルエンザA(H3N2)が優勢ですが、西オーストラリア州ではインフルエンザB型が3分の1を占めています。この報告期間にNNDSSに報告された6,614人のインフルエンザ患者のうち、5,400人がインフルエンザA型(亜型不明のインフルエンザA型が4,568人、インフルエンザA(H3N2)が816人、インフルエンザA(H1N1)pdm09が16人)で、1,202人がインフルエンザB型で、12人がインフルエンザA型とB型の重複感染かインフルエンザC型、または型別不明と報告されました。

WHOのインフルエンザ研究協力センター(WHO Collaborating Centre for Reference& Research on Influenza)で解析されたインフルエンザA(H3N2)ウイルスのうち、ほとんどのウイルスが、南半球で今年使用されている季節性のインフルエンザワクチンに含まれるインフルエンザA(H3N2)の系統と異なった系統でした。しかし、依然として、ワクチンには著明な予防効果があると考えられます。さらに、2系統のインフルエンザB型が流行していますが、大部分はビクトリア系統であり、ワクチン株と同じ系統です。山形系統のインフルエンザウイルスに対する交差免疫は成人では、ある程度あると考えられますが、小児では成人よりも少ないと考えられます。

2012年1月1日から8月21日までに、WHOのインフルエンザ研究協力センターで検査された762株のウイルスのうち1株がノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルに耐性を示しました。このウイルスはインフルエンザA(H1N1)pdm09で、オセルタミビルへの耐性を与えることが知られているノイラミニダーゼ遺伝子のH275Y変異がありました。

ニュージーランドでは、ILI患者の受診率が過去2か月間で初めて減少しました。ILIの受診率は著明に減少しましたが、7週連続で流行閾値を超えています。1週間の受診率は、人口10万人あたり85.5であり、過去2週間減少が続いています。ILI患者の受診率は減少していますが、インフルエンザが陽性になる検体の割合は、わずかに増加しました。

国全体で、ILI患者の検体が538検体集められ、そのうち36%(196検体)でインフルエンザウイルスが陽性でした。そのうち、インフルエンザA(H3N2)が67%(131検体)、インフルエンザA型で亜型不明が17%(34検体)、インフルエンザB型が9%(17検体)、インフルエンザA(H1N1)pdm09が7%(14検体)でした。

ニュージーランドでは、SARIの患者数と人口10万人あたりのSARI患者の発生率はわずかに増加しました。今年7月29日から8月5日までの間にSHIVERS(南半球のインフルエンザとワクチンの効果の研究、サーベイランスの計画)によって検査されたSARI患者の72検体のうち、18検体(25%)がインフルエンザウイルス陽性で、そのうちインフルエンザA型で亜型不明が44%(8検体)、インフルエンザA(H3N2)が22%(4検体)、インフルエンザB型が22%(4検体)、インフルエンザA(H1N1)pdm09が11%(2検体)でした。4月30日以降に採取されたSARI患者の971検体のうち、21%(207検体)がインフルエンザ陽性でした。

出典

Influenza update31 August 2012- Update number 167
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html