ハンセン病について(ファクトシート)

2012年9月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • ハンセン病は、らい菌という細菌によって起こる慢性疾患です。
  • 2012年の年頭に感染している患者の公式患者数は約18万2千人で、主にアジアとアフリカで発生しています。2011年の1年間に約21万9千人の新規患者が報告されました。
  • らい菌の分裂速度は非常に遅く、疾患の潜伏期間は約5年です。症状が出現するまでに20年かかることもあります。
  • らい菌の感染性は高くありません。治療されていない患者と濃厚かつ頻回な接触で、鼻や口からの飛沫によって伝播します。
  • ハンセン病は、治療しなければ、皮膚、神経、手足、眼に、進行性で永続する障害が起こることがあります。
  • 早期診断と多剤併用療法は、公衆衛生上の懸念であるハンセン病を排除するために、依然として、重要な要素です。

ハンセン病は、抗酸性の桿菌であるらい菌によって起こる慢性感染症です。この疾患は、主に皮膚、末梢神経、上気道粘膜、眼を侵します。

ハンセン病は治療可能な疾患であり、早期に治療することで、障害を防ぐことができます。

多剤併用療法は、1995年以降、WHOによって、世界中のすべての患者が無料で受けることができるようになっており、ハンセン病のすべての病型に、簡単ですが、効果的な治療が提供されます。

現在のハンセン病

ハンセン病のコントロールは、ほとんどの流行国で、国または地方自治体の取組によって、著明に改善しました。既存の一般的な保健サービスの中に初期のハンセン病の保健サービスを統合したことで、疾患の診断と治療が容易になりました。世界ハンセン病戦略2011年~2015年の国のハンセン病計画の実施は、現在、サービスが行き届かない集団とアクセスが容易でない地域で、アクセスと治療率を改善することに焦点が当てられています。コントロールの戦略は制限されているので、国の計画は患者発見、接触者調査、モニタリング、照会、記録の管理を積極的に改善しています。

105か国・地域からの公式報告によると、2012年の年頭のハンセン病の全世界での罹患者数は、18万1,941人に達しました。2011年に発見された患者数は21万9,075人で、2010年の22万8,474人と比較すると減少していました。

ブラジル、インドネシア、フィリピン、コンゴ民主共和国、インド、マダガスカル、モザンビーク、ネパール、タンザニアの一部の地域では、依然として、高い流行がみられています。すべての流行国は、依然として、疾患の排除に取組を進めており、ハンセン病をコントロールするための活動を強化し続けています。

略史-疾患と治療

ハンセン病は、中国、エジプト、インドの古代文明で認められました。ハンセン病について、最初に書物に記されたのは紀元前600年です。歴史を通して、患者は、しばしば、地域や家族から排斥されました。

ハンセン病は、過去には様々な方法で治療されましたが、最初の進展は、1940年代にハンセン病を抑えたダプソンの開発でした。しかし、治療期間は何年にもわたり、生涯続くこともあり、患者が治療を継続することが困難でした。1960年代に、らい菌は、当時、世界でらい菌に対する唯一の薬と知られていたダプソンに耐性を持ち始めました。1960年代の初期に、リファンピシンとクロファジミンの他、2種類の成分の併用を推奨する多剤併用療法が発見されました。

1981年にWHOの研究グループは多剤併用療法を推奨しました。多剤併用療法は、ダプソン、リファンピシン、クロファジミンの3種類の薬を組み合わせることによって、病原体を殺し、患者を治療します。

1995年以降、WHOは世界中のすべての患者に無料で多剤併用療法を提供しています。当初は、日本財団からの基金によって提供し、2000年以降は、ノバルティスとノバルティス持続可能開発財団からの基金で提供しています。

公衆衛生学的問題としてのハンセン病の排除

1991年、WHOの最高意思決定機関である世界保健総会は、2000年までにハンセン病を排除する決議を採択しました。ハンセン病の排除は、人口1万人当たりの罹患率が1人未満と定義されます。目標は予定通りに達成され、多剤併用療法の使用によって、疾病負荷が劇的に減少しました。

  • 過去20年間以上で1,400万人以上、2000年以降で約400万人のハンセン病患者が治癒しました。
  • 疾患の罹患率は、人口1万人当たり21.1から、2000年には人口1万人当たり1未満と、90%減少しました。
  • 全世界での疾病負荷は劇的に減少しました。1985年には520万人の患者が発生していましたが、1995年には80万5千人、1999年の年末には75万3千人、2011年の年末には18万1,941人と減少しました。
  • ハンセン病は、1985年に公衆衛生上の問題として考えられていた122か国のうち119か国から排除されています。
  • これまでに、多剤併用療法を用いた治療で、ハンセン病治療に耐性を示す事例は報告されていません。
  • 現在の取組は、依然として流行している国では国のレベルで、それ以外の国では自治体のレベルで、ハンセン病排除に焦点が当てられています。

求められる行動と資源

ハンセン病の治療が、すべての患者に行き届くようにするためは、治療は、一般的な保健サービスに完全統合する必要があります。さらに、ハンセン病が、依然として公衆衛生上の問題となっている国では、政治的な関与も継続される必要があります。ハンセン病を排除するために関係機関も、人的資源や財政資源の利用を確保し続ける必要があります。

疾患による長年にわたる症状は、依然として、自己申告と早期治療の障害となっています。ハンセン病のイメージは、世界レベルでも、国家レベルでも、地方自治体レベルでも変えなければなりません。患者が、どの医療施設でも、躊躇せずに診断と治療を受けられるような新しい環境を作らなければなりません。

WHOの対応

WHOのハンセン病排除のための戦略は、下記の内容から構成されています。

  • 柔軟で患者にやさしい薬物供給システムによって、すべての患者がアクセスでき、継続的な多剤併用療法サービスの確保
  • ハンセン病の保健サービスを一般の保健サービスに統合し、一般の医療従事者がハンセン病を治療する能力を確立することによる、多剤併用療法サービスの継続性の確保
  • 地域での注意喚起とハンセン病のイメージを変えるための普及啓発によって、自己申告と早期治療の励行
  • 多剤併用療法サービスの実施状況、患者ケアの質、国の疾患サーベイランスシステムによる排除に向けた進捗状況のモニタリング

国や国際的な関係機関からの支援を受けた国の計画に基づく、持続的で献身的な努力によって、世界でのハンセン病の疾病負荷は減少しました。保健サービスや地域の一層の関与によって、疾患にかかった人の権利が拡大することで、ハンセン病のない世界が近づきます。

出典

WHO  LeprosyFact sheetSeptember2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs101/en/index.html