チェコでヒトスジシマカが発見されました
2012年10月25日Eurosurveillance(原文〔英語〕へのリンク)
概要
2012年7月から9月の間に、チェコの南モラヴィア州にある主要道路2本の出口付近に設置された研究地点4か所のオビトラップ60個を使用した調査で、侵入したヒトスジシマカの幼虫17匹が発見されました。これは、チェコでヒトスジシマカの輸入例の初めての報告です。この結果は、西ヨーロッパや中央ヨーロッパ全域でヒトスジシマカを監視するための定期的なサーベイランスプログラムが非常に必要であるということを示しています。
背景
最近、ヨーロッパで発見される蚊のうち、アジアンタイガーモスキートと呼ばれるヒトスジシマカは公衆衛生上の大きな脅威となっています。この種は、歴史的には東南アジアに起源を発していますが、アメリカ大陸、アフリカの一部、オーストラリアの北部に広がっており、ヨーロッパでは、過去10年の間に19か国(アルバニア、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、フランス、ドイツ 、 ギリシャ、イタリア、マルタ、モナコ、モンテネグロ、オランダ、サンマリノ、セルビア、スロベニア、 スペイン、スイス、バチカン)にまで広がっています。この種は、現在、広い地域で定着し、イタリア、フランスの一部、スペインでは有害な蚊と報告されています。ヒトスジシマカは、世界的に、チクングニア熱やデング熱のほか、犬糸状虫属に代表されるフィラリア線虫といった人の病原体を媒介する重要な媒介蚊です。また、東部ウマ脳炎、ベネズエラウマ脳炎、ラクロス脳炎、日本脳炎、ウエストナイル熱やその他の数種類のウイルスを媒介することが実験的に証明されています。
ヒトスジシマカの卵は、しばしば、古タイヤの取引や萬年竹の輸入によって運ばれます。しかし、ヨーロッパで、最近10年間におけるヒトスジシマカの長距離拡散の最も重要な形式は、南ヨーロッパからの車両の地上車両(トラック、車、トレーラー)による輸送のようです。
南モラヴィア州で、チェコと南ヨーロッパ諸国を結ぶ、交通量の多い2本の主要道路では、これまで、侵入する蚊の体系的なサーベイランスは行われていませんでした。このため、本研究者らはオビトラップを用いて、いわゆる“モラヴィアの玄関口”で侵入する蚊の定期的な監視を行いました。
蚊の捕獲
ヒトスジシマカの存在を監視するために、本研究者らは伝統的なオビトラップを使いました。オビトラップは容量が800mlの濃い青色のプラスチックカップで、そこに汲み置きして脱塩素化した水500mlを入れました。そして、ヒトスジシマカが確実に産卵できるように、荒い木綿生地を巻いた木製の舌圧子を水面に浮かべました。オビトラップは駐車場付近の低木、柱、公共施設用照明器具に、地上から約50cmの高さで設置されました。木製の舌圧子と水は、定期的に(7日ごとに)取り替えられ、閉鎖容器で研究施設に輸送されました。舌圧子は湿った環境中で、3日間、25度に保たれ、その後、さらに12日間、表面の温度が25度に保たれた水に浸されました。また、オビトラップの水は、研究施設で、1週間、25度で保たれました。舌圧子と水は、ともに連日、産みつけられた卵や幼虫の存在を調べられました。幼虫と、幼虫から育った成虫は、最近の昆虫学的な知見によって、形態学的に特定されました。
研究場所と結果
2本の主要道路の出口付近に設置された4か所の研究地点(駐車場)にオビトラップが設置されました。スロバキアとチェコを結ぶ主要道路(E65)に2か所の研究地点(地点1、地点2)が設置され、オーストリアとチェコを結ぶ主要道路(E461)にも2か所の研究地点(地点3、地点4)が設置されました。2012年7月の初めから9月末までに、合計60個のオビトラップが設置されました。
研究者らは、地点4で、ヒトスジシマカの幼虫16匹を発見しました。そのうち、第4期の幼虫8匹は種を特定するために安楽死させ、残りの8匹(雌5匹、雄3匹)は成虫になるまで育て、その後に特定されました。興味深いことに、2回連続(8月20日と8月27日)で設置したオビトラップで、すべての幼虫が育ちました。また、9月10日に地点3に設置されたオビトラップからヒトスジシマカの幼虫が1匹発見されましたが、この期間には、地点1と地点2では産卵が発見されませんでした。
結論
南モラヴィア州は温暖な気候であるため、チェコの中で、蚊の生息や繁殖に最も適した生息地となっています。蚊の大群(主にヤブカ属)が、この地域のディイェ川(ターヤ川)やモラヴァ川の川沿いで周期的に発生しています。この地域は、長い間、蚊が媒介する数種類のウイルスの自然感染巣として知られており、主に、ヴァルティツェ熱(Valtice fever)の原因ウイルス(Ťahyňavirus)、また、1997年からはウエストナイルウイルスの第3系統(Rabensburg系統)が知られていました。チェコで発生している蚊の多く(例えば、ハマダラカ属のAnopheles atroparvus、An. hyrcanus、An.labranchiae、ヤブカ属のAedes nigrinus、チビカ属のUranotaenia unguiculata、イエカ属のCulex martinii)は、この地域で記録されるだけでした。本研究者らは、この地域を、中央ヨーロッパの中で、侵入してくる蚊が持ち込まれ、その後、定着するのに適した地域として、考慮に入れなければならないとしています。本研究者らは、この研究結果は、ヒトスジシマカがこの地域で、生活環を維持させることができるかもしれず、暖冬の場合には、卵の段階でも生き残るかもしれないことを示唆しているとしています。また、この研究結果は、オビトラップが、ヒトスジシマカが産卵に適した水が利用できないような主要道路のそばの駐車場で、侵入する蚊を監視するための適切な用具であることを示しているとしています。
結論として、研究者らは、チェコでのヒトスジシマカの輸入例の初めての根拠を提供するとしています。興味深いことに、ヒトスジシマカは、近隣の中央ヨーロッパ諸国のオーストリア、スロバキア、ハンガリー、ポーランドからは、まだ報告されていません。
出典
Eurosurveillance, Volume17, Issue 43, 25 October 2012
Rapid communications
An invasive mosquito species Aedes albopictus found in the Czech Republic,2012
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20301