髄膜炎菌性髄膜炎について(ファクトシート)(更新1)

2012年11月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 髄膜炎菌性髄膜炎は細菌性髄膜炎で、脳や脊髄周囲を覆っている薄い被膜に生じる重篤な感染症です。
  • サハラ以南のアフリカで、西のセネガルから東のエチオピアに渡って広がる髄膜炎ベルトでは、この疾患が最も高率です。
  • A群髄膜炎菌は、髄膜炎ベルトの全症例の80~85%の原因となっていると推計されており、7~14年の周期で流行が起こっています。
  • 2009年の流行期には、アフリカの14か国でサーベイランスが強化され、5,352人の死亡者を含む88,199人の疑い患者が報告され、1996年の流行以来、最多の患者数でした。
  • この疾患を予防するために数種類のワクチンがあります。Aコンジュゲートワクチン、Cコンジュゲートワクチン、4価(A、C、Y、W135)コンジュゲートワクチンと髄膜炎菌多糖体ワクチンです。

髄膜炎菌性髄膜炎は細菌性髄膜炎で、脳を覆っている膜に影響を及ぼす重篤な髄膜の感染症です。重篤な脳の障害を引き起こし、治療しなければ、患者の50%が死亡します。

数種類の細菌が髄膜炎を起こします。髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は大流行を起こすことのある細菌の一種です。髄膜炎菌は12種類の血清型に分類され、その中の6種類(A、B、C、W135、X、Y)が流行を起こします。地理的分布や流行を引き起こす可能性は血清型により異なります。

伝播

細菌は、保菌者の呼吸器から出る飛沫や咽頭分泌物を介して人から人に感染します。この疾患は、キス、くしゃみ、咳のほか、宿舎での生活(寮に居住したり、食器などの共用)など、緊密又は長期にわたる感染者(保菌者)との接触によって、容易に広がります。平均潜伏期間は4日ですが、2日から10日まで幅があります。

髄膜炎は人だけに感染します。他の動物は宿主となりません。細菌は咽頭に定着することができ、理由は完全にはわかっていませんが、時に、体の抵抗力に打ち勝って感染し、血流に乗って脳に達します。解明されていない点もありますが、10~20%の人の咽頭に髄膜炎が常在していると考えられています。しかし、流行時には、その割合はさらに高いかもしれません。

症状

最もよく見られる症状は、頚部硬直、高熱、光過敏症、錯乱、頭痛、嘔吐です。早期に診断され、適切な治療が開始されても、患者の5~10%は死亡します。典型的には、発症後24~48時間以内に死亡します。細菌性髄膜炎は、生存者の10~20%に、脳障害、聴覚障害、学習障害をもたらします。頻度は低いものの、さらに重篤(しばしば致死的)な髄膜炎菌性疾患は髄膜炎菌性敗血症であり、これは出血性発疹や急激な循環虚脱が特徴です。

診断

髄膜炎菌性髄膜炎の初期診断は診察の後、腰椎穿刺で化膿性髄液を確認します。髄液の顕微鏡検査で、時に、細菌が見られることがあります。髄液や血液検体からの細菌培養、凝集試験、PCRで診断が確認、または確定診断されます。血清型の同定、抗生剤の感受性試験は感染拡大防止の手段を明確にするために重要です。

治療

髄膜炎菌性疾患は死亡する可能性があり、常に、医学的緊急事態として扱われるべきです。医療機関に入院する必要がありますが、隔離は必要ありません。理想的には、迅速な腰椎穿刺ができれば、穿刺の後、できるだけ早期に適切な抗生剤治療を開始しなければなりません。腰椎穿刺よりも先に治療が開始されると、髄液中の細菌を培養し、確定診断するのが困難になります。

ペニシリン、アンピシリン、クロラムフェニコール、セフトリアキソンなどの様々な抗生剤がこの感染症の治療に使用されます。保健に関する基盤や資源の限られるアフリカ地域での流行時には、単回投与で髄膜炎菌性髄膜炎に効果があることが示された油性クロラムフェニコールやセフトリアキソンが選択されます。

予防

3つのタイプのワクチンが利用可能です。

  1. 1.多糖体(ポリサッカライド)ワクチンは、この疾患を予防するために、30年以上に渡って使用されてきました。髄膜炎菌多糖体ワクチンは2価(A、C)、3価(A、C、W)、4価(A、C、Y、W135)があります。
  2. 2.B群の多糖体はヒトの神経組織の多糖体と抗原的に類似しているので、多糖体ワクチンは開発されていません。そのため、特に、キューバ、ニュージーランド、ノルウェーで使用されているB群に対するワクチンは、特定の流行を制御するために、特定の株に特化した外膜タンパク(OMP)です。一般的に使用する目的で開発されているB群に対するタンパクワクチンは、開発の後期段階に入っています。
  3. 3.1999年からC群に対するコンジュゲートワクチンが使用できるようになり、広く使用されています。4価(A、C、Y、W135)コンジュゲートワクチンが2005年に認可され、カナダ、米国、ヨーロッパの小児と成人で使用されています。

2010年12月、髄膜炎菌A群に対する新たなコンジュゲートワクチンがブルキナファソの国全体、マリとニジェールの一部の地域に導入され、1歳から29歳の住民2,000万人がワクチン接種を受けました。その結果、2011年には、これらの国々では流行期に記録されたA群髄膜炎の確定患者数が最も少なかったと報告されました。マリとニジェールでは、2011年10月から12月にかけて、さらに3,500万人にワクチンが接種され、国全体のキャンペーンが終了しました。また、カメルーン、チャド、ナイジェリアの3か国では、国全体でのキャンペーンが始まりました。今年、アフリカの髄膜炎ベルトのベナン、ガーナ、セネガル、スーダンの4か国で、ワクチンの導入に向けた準備が進められています。

このワクチンは、既存の多糖体ワクチンに比べ、いくつかの利点があります。A群髄膜炎菌に対して、より高く長期間持続する免疫反応を誘導します。そして、細菌が咽頭に定着することを減少させ、伝播を低減させます。また、ワクチンを受けた人だけではなく、その家族や髄膜炎に曝露された人にも長期防御効果を与えると期待されます。さらに、他の髄膜炎ワクチンに比べて安価で使用できるほか、特に、従来の多糖体ワクチンに反応しない2歳未満の小児に対しても効果が期待できます。

2016年までに、アフリカの髄膜炎ベルトにある26か国全てがこのワクチンを導入することが望まれます。1~29歳の対象年齢層における接種率が向上すれば、アフリカのこの地域から髄膜炎を排除することができると期待されます。

流行傾向

髄膜炎菌性髄膜炎は、世界中で、季節的に変動する小さな集団発生を起こし、流行性の細菌性髄膜炎の割合が変化する原因となっています。

髄膜炎菌性疾患の疾病負荷が最も大きいのは、髄膜炎ベルトとして知られているサハラ以南のアフリカ地域で、西はセネガルから、東はエチオピアまで広がっています。12月から6月の乾期には、ほこりが舞い、夜は冷え込み、上気道感染が重なって鼻咽頭粘膜を損傷し、髄膜炎菌性疾患のリスクを高くします。同時に、髄膜炎菌の伝播は、建物内での人混み、聖地巡礼や伝統的な市場など、地域レベルでの、大きな人の移動によって加速されるかもしれません。これら要因が組み合わさることにより、髄膜炎ベルトで乾期に大流行が起こります。

世界的公衆衛生対応

髄膜炎菌A群に対する新たなコンジュゲートワクチンを導入することで、WHOは、流行への事前準備、予防、対応で構成される戦略を展開します。事前準備としては、症例の探知から調査と検査室診断までのサーベイランスに焦点を当てています。予防は、アフリカの髄膜炎ベルトに住む1歳から29歳までの全ての人にこのワクチンを接種することです。WHOは、流行に直面している国に対して、現地での技術的支援を定期的に行っています。

流行への対応は、油性クロラムフェニコールやセフトリアキソンを使った、迅速かつ適切な患者管理を行い、ワクチンを接種していない人々に集団予防接種を行うことです。

アフリカの髄膜炎ベルトでの髄膜炎の流行は、公衆衛生上の大きな負荷です。WHOは、公衆衛生上の問題として、髄膜炎菌性疾患の排除に取り組んでいます。

出典

WHOMeningococcal meningitisFact sheet N°141 November 2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs141/en/index.html