デング熱と重症型のデング熱について(ファクトシート)

2012年11月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症です。
  • 感染によりインフルエンザ様の症状が出ます。また、時には、重症型のデング熱と呼ばれる、死亡する可能性のある合併症を起こすことがあります。
  • 世界的に見て、最近の数十年間で、デング熱の罹患率が劇的に増加しています。
  • 現在、世界人口の約半数にリスクがあります。
  • デング熱は、世界中の熱帯及び亜熱帯地域でみられます。そして、そのほとんどが都市部、準都市部でみられます。
  • アジアやラテンアメリカの数か国では、重症型のデング熱が、小児に起こる重篤な疾患や死亡の主な原因となっています。
  • デング熱や重症型のデング熱に特異的な治療法はありませんが、早期発見と適切な医療機関を受診することにより、死亡率を1%未満に低下させることができます。
  • デング熱の予防と制御は、もっぱら、効果的なベクターコントロールに依存しています。

デング熱は蚊が媒介する感染症で、世界中の熱帯及び亜熱帯地域で見られます。近年、都市部や準都市部での伝播が著明に増加しており、国際的な公衆衛生上の大きな問題となっています。

重症型のデング熱(以前はデング出血熱として知られていました)は、1950年代、フィリピンとタイでデング熱が流行した際に、初めて認識されました。現在では、重症型のデング熱は、アジアやラテンアメリカのほとんどの国で発生しており、これらの地域では、小児の入院や死亡の主な原因となっています。

デング熱を起こすウイルスには4種類の血清型(DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4)があります。それぞれ、近縁ではありますが、異なるものです。ある血清型のウイルスに感染して回復すると、その血清型への免疫がついて、一生続きます。しかし、回復後、他の血清型への交差免疫は部分的かつ一時的です。他の血清型のウイルスに感染すると重症型のデング熱になるリスクが増加します。

デング熱の世界的な疾病負荷

世界的に見て、デング熱の罹患率は、最近の数十年間で劇的に増加しています。現在、25億人以上(世界人口の40%以上)にデング熱のリスクがあります。現在、WHOは、世界中で毎年5000万人から1億人がデング熱に感染していると推計しています。

1970年以前は、重症型のデング熱の流行がみられたのは9か国のみでした。この疾患は、現在、アフリカ地域、アメリカ地域、東地中海地域、東南アジア地域、西太平洋地域の100か国以上で流行しています。アメリカ地域、東南アジア地域、西太平洋地域で、最も深刻な影響が出ています。

アメリカ地域、東南アジア地域、西太平洋地域では、2008年に120万人以上、2010年には230万人以上の患者数(加盟国からの公式報告に基づく数)です。最近、報告される患者数が増加し続けています。2010年、アメリカ地域だけで160万人のデング熱患者が報告され、そのうち4万9千人が重症型のデング熱でした。

この疾患が新しい地域に拡大するにつれて、患者数が増加するだけではなく、爆発的な流行が発生しています。現在、ヨーロッパでもデング熱が流行する可能性があり、2010年にはフランスとクロアチアで初めてデング熱の地域内での伝播が報告され、ヨーロッパの他の3か国で輸入例が確認されました。最近(今年)はポルトガルのマデイラ島でデング熱が発生し、1,800人を超える患者が報告され、ポルトガル本土から離れているヨーロッパの5か国で輸入例が確認されました。

入院が必要な重症型のデング熱患者は、毎年50万人発生していると推計されており、その大部分が小児です。重症型のデング熱患者の約2.5%が死亡しています。

伝播

Aedes aegypti(ネッタイシマカ)がデング熱の主な媒介生物です。ウイルスは感染した雌蚊の刺咬によって人に感染します。4日から10日のウイルス増殖期間の後、感染蚊はその生涯にわたってウイルスを伝播させることができます。

感染した人はウイルスの主たるキャリアであり、ウイルス増殖宿主であり、未感染の蚊への感染源となります。デングウイルスに感染した人は、発症後シマカを介してデングウイルスを感染伝播することができます(4日から5日、最長12日)。

ネッタイシマカは都市部に生息し、多くが人工の容器で繁殖します。他の蚊とは異なり、ネッタイシマカは日中吸血します。刺咬する時間帯のピークは早朝と夕暮れ前です。雌のネッタイシマカは産卵期毎に複数の人を刺咬します。

Aedes albopictus(ヒトスジシマカ)は、アジアでは2番目に主要なデング熱のベクターですが、古タイヤ(繁殖環境)やその他の物(萬年竹など)の国際貿易に伴って、広く北米やヨーロッパへ拡がっています。ヒトスジシマカは適応性に優れており、そのため、ヨーロッパの冷涼な地域でも生存できます。ヒトスジシマカの拡大は、零度以下の温度に対する耐性、冬眠、微生息場所に潜むことができることなどによるものです。

特徴

デング熱は重篤なインフルエンザ様疾患で、乳児、幼児、成人が罹りますが、滅多に死亡はありません。

高熱(40℃/104°F)を伴い、激しい頭痛、眼の奥の痛み、筋痛と関節痛、悪心、嘔吐、リンパ節の腫脹、発疹のうち2つ以上の症状がある場合にはデング熱を疑うべきです。症状は、感染蚊に刺された後4~10日の潜伏期を経て出現し、通常2~7日間持続します。

重症型のデング熱は、血漿漏出、体液貯留、呼吸促迫、重度の出血、臓器不全などの致死的な症状を併発する可能性があります。危険な兆候は、初発症状が出現してから3~7日後に起こり、同時に体温低下(38℃/100°F以下)のほか、激しい腹痛、連続する嘔吐、呼吸促迫、歯肉出血、倦怠感、不穏、吐血といった症状がみられます。危篤状態の24~48時間後に死亡することがあり、合併症や死亡するリスクを避けるために適切な医学的治療が必要です。

治療

デング熱には特異的な治療法はありません。

重症型のデング熱は、疾患の影響や進展に関して経験のある医師と看護師による医療により救命でき、20%以上の致死率を1%未満に減少させることができます。重症型のデング熱の治療では、患者の体液量の管理が非常に重要です。

予防接種

デング熱を予防するワクチンはありません。デング熱と重症型のデング熱に対するワクチン開発は、最近進展がみられましたが、まだ開発中です。WHOは、ワクチンに関する研究と評価を支援するために、各国や民間の関係者に技術的助言やガイダンスを提供しています。数種類のワクチン候補が臨床試験の各段階にきています。

予防と制御

現在、デングウイルス伝播の制御と予防の唯一の方法は、媒介蚊の除去に努めることです。以下のような方法があります。

  • 環境の管理と改善により産卵環境から蚊を閉め出す。
  • 固形廃棄物を適切に廃棄し人工的にできる生育場所を取り除く。
  • 週毎に家庭での貯水容器を交換し、空にし、清掃する。
  • 屋外の貯水容器に適切な殺虫剤を添加する。
  • 網戸、長袖の衣服、殺虫剤で処理した物、蚊取り線香、噴霧器など、家庭での防護対策を実施する。
  • ベクターコントロールを継続するために、地域社会の参加と動員を向上させる。
  • 流行時期には、緊急ベクターコントロールの一方法として、殺虫剤の空中散布を行う。
  • 制御介入の効果を評価するために、積極的なベクター監視とベクターサーベイランスを行うべきである。

WHOの対応

WHOは、下記のような方法でデング熱に対応しています。

  • 検査施設の共同研究ネットワークを通して、各国の流行状況の確認を支援する。
  • デング熱の流行に効果的に対応するために、技術的支援やガイダンスを提供する。
  • 地域事務局単位では、数か所の共同センターで、臨床管理、診断、ベクターコントロールについての訓練を行う。
  • 根拠に基づいた戦略や政策を構築する。
  • 殺虫剤や技術の応用などを含めた新しいツールを開発する。
  •  100か国以上の加盟国からデング熱と重症型のデング熱の公式記録を収集する。
  • 加盟国のために、デング熱の患者管理、予防と制御に関するガイドラインやハンドブックを発行する。

出典

WHO:Fact sheetDengue and severe dengue
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs117/en/index.html