世界におけるインフルエンザ流行状況(34)

2012年12月21日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域の多くの国、特に北米では、インフルエンザウイルスの検出数が増加していると報告しています。
  • ヨーロッパでは、インフルエンザの活動性は、依然として低く、インフルエンザA型ウイルスとインフルエンザB型ウイルスがともに伝播しています。しかし、多くの国で、インフルエンザ様疾患(ILI)の報告は、これまでの週に比べて増加したと報告されています。
  • アフリカ北部と地中海東部では、インフルエンザの活動性は低いですが、増加しています。また、東アジアでは散発的に検出されています。
  • 中米、カリブ海、南米の熱帯地域のインフルエンザは減少し続けており、主にインフルエンザA(H3N2)が低い水準で伝播しており、若干インフルエンザB型ウイルスもみられます。キューバとペルーは例外で、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢でした。
  • サハラ以南のアフリカでは、インフルエンザの活動性は低い水準に減少しており、主にインフルエンザB型が伝播していますが、ガーナではインフルエンザA(H1N1)pdm09が報告されました。
  • 東南アジアのほとんどの国では、インフルエンザは減少していますが、スリランカとベトナムは例外です。
  • 南半球の温帯地域では、インフルエンザの活動性はシーズンオフの水準です。

北半球の温帯地域

北半球の温帯地域の多くの国では、インフルエンザの検出数が増加し続けており、ILIの割合や検査された検体のインフルエンザ陽性率も増加していると報告されています。特に北米で増加しました。

北米

北米では、インフルエンザの活動性が過去数週間から急激に増加し続けており、カナダと米国のインフルエンザの伝播が広範囲であると報告しています。

カナダでは、最近の報告週で、ILIの受診率は2.9%から4%に増加しました。受診率が最も高かったのは、0歳から5歳の小児でした。また、インフルエンザウイルスが陽性となった検体の割合も、前週の11.7%から17.8%に増加しました。インフルエンザの活動性が広範囲であると報告された地域はオンタリオ州のみです。インフルエンザの集団発生は、先週は8件でしたが、22件発生しました(12件は長期療養施設、5件は学校、5件はその他の施設)。先週、検査で確定診断されたインフルエンザに関連した入院患者は112人報告されています(アルバータ州で12人、オンタリオ州で100人)。このうち、インフルエンザB型が3人で、インフルエンザA型が109人でした。インフルエンザA型の109人のうち、46%(109人中50人)がH3亜型で、残りは亜型が不明です。インフルエンザに関連した入院患者の約半数(49.5%、111人中55人)が65歳以上で、22.5%(111人中25人)が45歳から64歳の成人でした。オンタリオ州では、9人の死亡者が報告されており、すべてインフルエンザA型の患者でした。死亡者は、1歳から4歳までの小児で亜型不明が1人、20歳から44歳までの成人で亜型不明が1人、65歳以上の高齢者が7人(3人はH3亜型、4人は亜型不明)でした。

カナダでは、これまでに最も多く検出されているインフルエンザウイルスはインフルエンザA(H3N2)であり、インフルエンザA(H1N1)pdm09やインフルエンザB型はほとんど検出されていません。先週、インフルエンザが陽性となった816検体のうち、96%がインフルエンザA型であり、4%がインフルエンザB型でした。亜型の情報が得られた378検体のインフルエンザA型のうち、96%がインフルエンザA(H3N2)で、4%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。シーズン当初から、国立微生物学研究所で71株のインフルエンザウイルスの抗原解析が行われました。インフルエンザA(H3N2)の51株は、すべて季節性の3価ワクチンに含まれるA/Victoria/361/2011に類似しており、インフルエンザA(H1N1)pdm09の10株は、すべて季節性の3価ワクチンに含まれるA/California/7/2009に類似していました。インフルエンザB型ウイルスのうち、7株はワクチン株のB/Wisconsin/01/2010(山形系統)に類似しており、3株はB/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統で、2011年から2012年の季節性インフルエンザワクチンに含まれていた株)に類似していました。ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビルまたはザナミビルに対する抵抗性が認められた検体はありませんでした(オセルタミビルに対する抵抗性は70検体で検査、ザナミビルに対する抵抗性は69検体で検査)。

米国では、例年に比べて早く、インフルエンザの活動性が過去数週間から急激に増加し続けています。ILIの受診率は2.2%から、最近の報告週では2.8%に増加し、インフルエンザが陽性となった検体の割合も15.2%から28.3%に増加しました。地域別にみると、インフルエンザの活動性がもっとも高い地域は東部で、10地域のうち7地域でILIの受診率が上昇したと報告されており、中西部の1地域では、検査された検体の47%でインフルエンザが陽性であったと報告されました。肺炎やインフルエンザ(P&I)による死亡の割合は季節性の閾値を下回っていますが、インフルエンザB型ウイルスに関連した小児の死亡が1人報告されています。

米国では、インフルエンザ陽性検体のうち大部分がインフルエンザA(H3N2)ですが、カナダに比べてインフルエンザB型の検出割合は高くなっています。先週、インフルエンザが陽性となった2,172検体のうち、76%がインフルエンザA型で、24%がインフルエンザB型でした(カナダでは、96%がインフルエンザA型で、4%がインフルエンザB型)。亜型の情報が得られたインフルエンザA型ウイルスのうち、98%がインフルエンザA(H3N2)でした。10月以降、米国疾病予防管理センター(CDC)は、287株のインフルエンザウイルスの抗原解析を行いました。インフルエンザA(H1N1)pdm09の10株は、いずれも、A/California/7/2009-likeに類似しており、インフルエンザA(H3N2)の182株のうち99%は、A/Victoria/361/2011-likeでした。解析された95株のインフルエンザB型ウイルスのうち、66%(95株中63株)は今シーズンに使用されている3価の季節性インフルエンザワクチンに含まれるB/Wisconsin/1/2010-like (山形系統)であり、34%(95株中32株)はビクトリア系統でした。10月以降に検査されたインフルエンザA(H3N2)の257株、インフルエンザA(H1N1)pdm09の118株、インフルエンザB型ウイルスの17株では、ノイラミニダーゼ阻害薬に対する抵抗性は認められませんでした。

11月下旬にミネソタ州でインフルエンザA(H3N2)vに感染した者が1人報告されました。この患者は、最近、豚への接触歴があったと報告されました。今年7月以降、11州から合計312人の感染者が報告されています。インフルエンザA(H3N2)vに関するさらに詳しい情報は、CDCのホームページに掲載されています。

メキシコでは、インフルエンザが検査された検体(140検体)の陽性率は依然として高く(25%)、過去数週間と同様です。最近の報告週で、最も検出数が多いのはインフルエンザB型であり、インフルエンザA(H3N2)が続きます。

ヨーロッパ

ヨーロッパのインフルエンザの活動性は、第49週(12月2日から8日)では、依然として低い水準ですが、様々な地域で、インフルエンザウイルスの検出が増加したと報告している国が増えています。

ILIの定点医療機関で検出された954検体のうち、8.5%(954検体中81検体)がインフルエンザ陽性であり、前週の2%から増加して、3週連続で増加しました。北米とは対照的に、インフルエンザの検出数は依然として少ないものの、インフルエンザB型がインフルエンザA型よりも若干多く検出されています。48%(81検体中39検体)がA型ウイルスで、52%(81検体中42検体)がB型ウイルスでした。亜型が解析されたA型ウイルスのうち、32%(34検体中11検体)はインフルエンザA(H1N1)pdm09で、68%(34検体中23検体)はインフルエンザA(H3N2)でした。

欧州連合(EU)と欧州経済領域(EEA)の国々では、インフルエンザウイルスが陽性となった臨床検体の割合が13.3%で、2週連続で増加しており、大部分の国では、先週、地域的または散発的な拡大と報告されています。しかし、全体的にみると、強さは依然として弱いです。

定点医療機関の重症急性呼吸器感染症(SARI)による入院率は低く、変化はありませんでした。ロシアで、0歳から4歳の小児3人(いずれもインフルエンザA(H3N2))の入院が報告されたのみです。

第49週にEU 及びEEA の国では、検査で確定診断されたインフルエンザB型ウイルス感染による入院例が1人報告されました。検査で確定診断されたインフルエンザによる入院患者は、第40週以降、フランス、アイルランド、スロバキア、スペイン、スウェーデンから、合計8人が報告されています。2人はインフルエンザB型が検出さており、残りの6人からはインフルエンザA型が検出されています。インフルエンザA型が検出された患者のうち、2人はA(H1)pdm09、2人はA(H3)、2人は亜型不明でした。

9月下旬以降、5か国(デンマーク、英国、ドイツ、ポルトガル、ルーマニア)で43株のインフルエンザウイルスの抗原解析が行われ、1株がインフルエンザA(H1N1)pdm09で、A/California/7/2009(H1N1)-like(現在使用されている3価の季節性ワクチンに含まれる)に抗原的に類似していました。28株はインフルエンザA(H3N2)で、A/Victoria/361/2011-like(ワクチン株)に抗原的に類似していました。また、1株は、B/Estonia/55669/2011-like(山形系統)、7株がB/Wisconsin/1/2010-like(山形系統、ワクチン株)、6株がB/Brisbane /60/2008-like(ビクトリア系統)に抗原的に類似していました。この時期に、25株のインフルエンザA(H1N1)pdm09、22株のインフルエンザA(H3N2)、7株のインフルエンザB型ウイルスが検査されましたが、いずれも、ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルとザナミビルに対する抵抗性は認められませんでした。

アフリカ北部と地中海東部

北アフリカと地中海東部では、インフルエンザの活動性がいくらか増加していると報告されていますが、全体的な活動性は依然として低い水準です。アルジェリアとヨルダンではインフルエンザB型ウイルスが多少伝播していると報告されています。バーレーンでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が検出され続けており、インフルエンザA(H3N2)も若干検出されていると報告されています。オマーンとカタールでは、3種類の亜型がいずれも検出されていると報告されています。イランでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型が報告されています。パキスタンでは、インフルエンザA(H3N2)が低い水準で報告されています。

アジアの温帯地域

アジアの温帯地域全体では、インフルエンザの活動性は、依然として低い水準が続いています。中国北部では、ILIで定点医療機関を受診した外来患者の割合は、先週は3.1%でしたが、今週は3.2%であり、ほぼ変わりませんでした。また、インフルエンザが陽性になった呼吸器検体の割合は、先週は10.5%でしたが、今週は10.3%でした。しかし、この割合は、ウイルスの検出数が増加したことによって、全体的にみると過去4週間で増加しました。インフルエンザが検出された検体のうち、94%(97検体中91検体)がインフルエンザA型で、6%がインフルエンザB型でした。亜型が解析されたインフルエンザA型のうち、83%がインフルエンザA(H3N2)で、17%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。モンゴルでは、主にインフルエンザA(H3N2)が検出されていますが、3週連続で検出数が減少しているのにもかかわらず、ILIの受診率は増加し続けています。最近のILIのほとんどは、RSウイルス、ライノウイルス、ヒトコロナウイルスなどの他の呼吸器感染症を起こすウイルスに関連していました。韓国と日本のインフルエンザの活動性は、依然として低い状態が続いており、季節性の閾値の水準です。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

カリブ海では、インフルエンザの検出は、夏の終わりにピークに達した後、低い水準に減少しました。最も広範囲に検出されたウイルスは、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型ですが、キューバは例外で、インフルエンザA(H1N1)pdm09が多く検出されていると報告されています。

中米では、インフルエンザの活動性は、過去数週間、減少しました。しかし、ニカラグアでは、主にインフルエンザB型が依然として検出されており、ホンジュラスでは、主にインフルエンザA(H3N2)が依然として検出されています。

南米の熱帯地域では、インフルエンザの活動性は減少し続けており、ほとんどの国では、ウイルス検出数も少数であると報告されています。しかし、ボリビアの熱帯地域では、インフルエンザが陽性となる割合は、10月上旬には3%でしたが、過去数週間に60%に増加しており、主にインフルエンザA(H3N2)が増加しました。この地域では、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型が最も広範囲に検出されていると報告されていますが、ペルーは例外で、インフルエンザA(H1N1)pdm09も報告されています。

サハラ以南のアフリカ

サハラ以南のアフリカのほとんどの国では、インフルエンザの検出は減少しています。ガーナでは、比較的高い伝播が継続していると報告されており、ほとんどすべてがインフルエンザA(H1N1)pdm09です。一方、カメルーンでは、10月にピークに達した後、伝播は減少しています。カメルーンでは、流行期に伝播したインフルエンザは、ほとんどすべてがインフルエンザA(H3N2)でしたが、11月の後半3週間では、インフルエンザB型が最も多く検出されました。アフリカの東部では、ザンビアとマダガスカルで、主にインフルエンザB型が検出されていると報告されています。

アジアの熱帯地域

東南アジアのほとんどの国では、インフルエンザの伝播は減少し続けており、非常に低い状態が続いていますが、スリランカとベトナムは例外です。

インドは、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が伝播し、9月中旬にピークに達した後、インフルエンザが陽性となる検体も減少していると報告されています。スリランカでは、依然として、インフルエンザの3種類の亜型すべてが伝播していると報告されていますが、カンボジアとタイでは、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型が低い水準で検出されています。ベトナムでは、先週と同様ですが、近隣諸国とは対照的に、インフルエンザB型が伝播し、インフルエンザA(H3N2)は非常に少数であり、現在、インフルエンザの伝播のピークに達しているようです。

シンガポール、香港を含む中国南部では、インフルエンザの活動性は、依然としてシーズンオフの水準です。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域のすべての国で、インフルエンザの活動性はシーズンオフの水準です。

出典

Influenza update21December2012 - Update number 175
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html