マラリアについて (ファクトシート)(更新1)

2012年12月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • マラリアは、寄生虫によって起こる、生命に危険のある疾患で、感染した蚊に刺されることにより人に感染します。
  • 2010年には、推計で66万人(61万人から97万1000人までの不確実性の範囲があります)がマラリアで死亡し、そのほとんどがアフリカの小児でした。
  • マラリアは予防ができ、治療できる疾患です。
  • マラリア予防と制御対策が進み、多くの場所でマラリアによる負荷が劇的に減少しています。
  • マラリアが常在していない国から渡航する免疫のない人が感染すると、非常に脆弱です。

最近の推計によりますと、2010年のマラリア患者数は、約2億1900万人(1億5400万人から2億8900万人までの不確実性の範囲があります)で、推計66万人(61万人から97万1000人までの不確実性の範囲があります)が死亡しました。マラリアによる死亡者は、2000年以降、世界で25%以上減少し、アフリカでは33%減少しました。死亡者のほとんどはアフリカに住む小児で、アフリカでは1分に1人の小児がマラリアで死亡しています。2010年の国レベルの負荷の推計では、マラリアの死亡者の80%は、わずか14か国で発生しており、マラリア患者の80%は17か国で発生しています。また、コンゴ民主共和国とナイジェリアにおけるマラリアの死亡者数は、全世界で推計されている死亡者数の40%以上を占めています。

マラリアはマラリア原虫(Plasmodium)という寄生虫によって引き起こされる疾患です。この寄生虫は、「マラリアベクター」と呼ばれる、感染したハマダラカ(Anophelesmosquitoes)に刺されることで人に感染が広がります。ハマダラカは、主に夕暮れから明け方に吸血します。

人のマラリアの原因になる原虫には、以下の4種類があります。

  • 熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparum
  • 三日熱マラリア原虫Plasmodium vivax
  • 四日熱マラリア原虫Plasmodium malariae
  • 卵形マラリア原虫Plasmodium ovale

熱帯熱マラリアと三日熱マラリアがよくみられます。熱帯熱マラリアは最も致死的です。

近年、東南アジアの特定の森林地帯で発生するサルのマラリアの原虫であるPlasmodium knowlesiによるマラリア患者も数例発生しています。

伝播

マラリアは、もっぱらハマダラカに刺されることによって伝播します。伝播の程度は、寄生虫、媒介蚊、人と環境に影響されます。

世界では、特定の場所で、約20種類のハマダラカが重要です。重要な媒介蚊は、すべて夜間に吸血します。ハマダラカは水中に産卵し、種によって産卵様式は特徴的であり、例えば、水田、蹄の跡などの浅い新鮮な水たまりに好んで産卵する種があります。蚊の寿命の長い場所(そのため、蚊の体内で原虫が成育するのに十分な時間があります)や他の動物よりも人の血液を好んで吸血する蚊がいる場所では、マラリアの伝播がより深刻です。例えば、アフリカでは、媒介蚊は寿命が長く、人の血液を好んで吸血するため、世界のマラリア死亡者の90%以上が発生しています。

伝播は、降雨パターン、気温や湿度など、蚊の個体数や生息に影響を与える気候の状況にも影響を受けます。多くの場所では、伝播は季節性で、ピークは雨期とその直後にみられます。人々がマラリアに対してほとんどまたは全く免疫を持たない地域で、気候や他の条件がマラリアの伝播に突然有利に働いたとき、マラリアの流行が起こることがあります。また、免疫の低い人々が、マラリア伝播の高い地域で、仕事を探したり、難民となったりして、移り住んだときにもマラリアが起こることがあります。

人の免疫も、もう一つの重要な要因となり、特にマラリア伝播が中等度から高い地域の成人の免疫が重要です。何年にもわたり暴露されることで部分的な免疫はつきますが、その免疫により完全に予防できるものではなく、重症化するリスクを低減するものです。このため、アフリカでマラリアによる死亡は、ほとんどが小児で発生しています。一方、伝播が低く、免疫が低い地域では、すべての年齢層にリスクがあります。

症状

マラリアは急性熱性疾患です。免疫のないヒトでは、感染した蚊に刺されてから、7日以上(通常は10~15日)後に発症します。初発症状(発熱、頭痛、悪寒、嘔吐)は軽く、マラリアと気づくのは困難です。熱帯熱マラリアは、24時間以内に治療しなければ重症化し、死亡することもあります。小児の重症マラリアでは、しばしば、高度の貧血、代謝性アシドーシスに伴う呼吸窮迫、脳マラリアのうち1つ以上の症状が発生します。成人では、しばしば、多臓器不全がみられます。マラリア常在地では、部分的な免疫ができ、不顕性感染が起こることがあります。

三日熱マラリアと卵形マラリアでは、初感染後、マラリア常在地を離れていても数週間から数か月後に再発することがあります。この再発症状は、原虫が肝臓での休眠期(熱帯熱マラリア原虫や四日熱マラリア原虫では存在しません)から、再び増殖を始めることによって起こり、完治するためには、肝臓感染ステージを標的とする特異的な治療法が必要です。

リスクのある人

世界人口の約半数にマラリアのリスクがあります。マラリア患者と死亡者のほとんどが、サハラ以南のアフリカで発生しています。しかし、アジアやラテンアメリカ、また、より少ないですが、中東やヨーロッパの一部でもリスクがあります。2011年には99の国と地域でマラリアの伝播がみられました。

特にリスクのあるグループは以下の人々です。

  • 小児;伝播が日常的に起きている地域の小児は、マラリア重症化に対する免疫がほとんどないのでリスクがあります。
  • 免疫のない妊婦;マラリアは高率に流産を起こし、妊産婦の死亡も起こることがあります。
  • 部分的に免疫を持つ妊婦;伝播の高い地域では、流産や低出生体重児の原因となり、特に、初回の妊娠時と二度目の妊娠時に発生することがあります。
  • 部分的に免疫があり、HIVに感染している妊婦;伝播が起こっている地域では全妊娠期間を通してリスクがあります。マラリアの経胎盤感染は、新生児がHIVに感染するリスクも高くなります。
  • HIV/AIDS感染者
  • 非流行地からの渡航者;免疫がないためリスクがあります。
  • 流行地からの移民と小児;非流行地に移住した人が祖国の友人や親戚を訪れる時は、免疫が低下しているか、免疫がないため、同様に感染リスクがあります。

診断と治療

マラリアの早期診断と早期治療が患者数と死亡者数を減少させ、さらに、マラリア感染の減少につながります。

最も良い治療法は、特に熱帯熱マラリアでは、アルテミシニン併用療法(ACT)です。

WHOは、マラリアが疑われる症例は、全例、治療の前に寄生虫学的検査(顕微鏡検査または迅速診断検査)を用いて確定診断することを推奨しています。寄生虫学的検査は15分以内で結果が得られます。症状のみで診断して治療することは、寄生虫学的検査ができないときに限定するべきです。さらに詳しい推奨内容は、マラリア治療のガイドライン(第2版)に記載されています。

薬剤耐性

抗マラリア剤への耐性は常に問題となっています。熱帯熱マラリアに対するクロロキンやスルファドキシン-ピリメサミンのような前世代の薬剤耐性は、1970年代と1980年代に広がり、マラリアを制御するための取り組みを阻害し、小児の死亡を増加させました。

近年、アルテミシニンに対する耐性が大メコン圏のカンボジア、ミャンマー、タイ、ベトナムの4か国で報告されています。薬剤耐性が発生して広がることには多くの要因があるようですが、経口アルテミシニン単剤療法の使用が重要な要因であると考えられています。経口アルテミシニン単剤療法では、マラリアの症状が急速に改善するので、治療が完了する前に患者が服薬をやめてしまうことがあります。その結果、不完全な治療となり、そのような患者の血液中には原虫が残存し続けることになります。アルテミシニンと第2薬剤を併用して治療されなかった場合、耐性を獲得した原虫は残存し、蚊を介して他の人に感染することができます。

アルテミシニンに対する耐性化が進み、地理的に拡大すると、少なくとも5年間は、代わりの抗マラリア剤がないので、公衆衛生上、悲惨な結果となるでしょう。

WHOは、日常的な抗マラリア剤耐性モニタリングを推奨しており、モニタリングが重要な地域の取り組みを強化するために、対象の国々を支援しています。

さらに包括的な推奨は、2011年に公表された、アルテミシニン耐性抑制計画(GPARC)でみることができます。

予防

コミュニティーレベルで、マラリア伝播を減少させる主な方法はベクターコントロールです。それが非常に高いマラリア伝播をゼロに近づけることができる唯一の介入方法です。

個人のマラリア予防は、蚊に刺されないようにすることが第一です。

広範囲な環境下では、2つのベクターコントロールの方法が効果的です。

  • 殺虫剤処理された蚊帳(ITNs)長期作用型殺虫剤含浸蚊帳(LLINs)は公衆衛生普及計画のためのITNsとして好まれます。WHOは、リスクのあるすべての人と多くの環境に分配されることを推奨しています。誰もが毎晩、LLINの中で寝ることができるように、LLINを無償支給することは、最も費用対効果が高い方法です。
  • 屋内での残留殺虫剤噴霧屋内残留殺虫剤噴霧(IRS)はマラリアの伝播を急速に制御するために威力のある方法です。標的とする地域で、少なくとも80%の家屋で噴霧した場合に、その威力が最大になることが確認されています。屋内での噴霧は、使用される殺虫剤や噴霧される表面の形状にもよりますが、3~6か月間効果があります。DDTでは9~12か月間効果が続くこともあります。IRSの計画で使用するための新しい種類の殺虫剤と同様に、効果がより長いIRS殺虫剤の開発が続けられています。

マラリアを予防するために、抗マラリア剤が使用されることもあります。渡航者では、血中のマラリアを抑制して発症を予防するための予防内服によって、マラリアを予防することができます。また、WHOは、高伝播地域に住む妊婦に対して、妊娠中期、後期に、サルファドキシン・ピリメサミンを間欠的に予防投与することを推奨しています。同様に、アフリカの高伝播地域に住む乳幼児にも、定期の予防接種と並行して、サルファドキシン・ピリメサミンを間欠的に3回予防投与することを推奨しています。2012年、WHOは、アフリカのサヘル地域に対し、マラリア予防のさらなる戦略として、季節性の抗マラリア薬の予防内服を推奨しました。この戦略では、5歳未満の小児すべてに、伝播が高率に起きる季節の間、アモジアキンとサルファドキシン・ピリメサミンを月単位で投与することが含まれています。

殺虫剤耐性

現在まで、マラリアを制御することにおける成功のほとんどは、ベクターコントロールによるものです。ベクターコントロールは、主に、ピレスロイドによって行われています。現在、ピレスロイドは、ITNsやLLINsで使用が推奨されている唯一の殺虫剤です。近年、多くの国でピレスロイドに耐性を獲得した蚊が出現してきました。地域によっては、公衆衛生上使用される4種類の殺虫剤すべてに耐性を獲得した蚊も発見されています。幸いなことに、この耐性は、極めてまれに有効性の減少と関連するのみであり、LLINsとIRSは、ほとんどすべての環境で、依然として高い有効性を保っています。

しかし、サハラ以南のアフリカとインドでは、非常に懸念されています。これらの国は、マラリアの伝播が高く、殺虫剤に対する耐性も広範囲に報告されているのが特徴です。新たな代替の殺虫剤を開発する優先度は高く、いくつかの有望な製品開発が進行中です。蚊帳に使用する新しい殺虫剤の開発は特に優先度が高いです。

殺虫剤耐性の確認は、最も効果的なベクター制御を行うために、国のマラリア制御対策において必須です。IRSに使用する殺虫剤の選択は、標的となるベクターの直近の、その地域での感受性データの情報に基づくべきです。

殺虫剤耐性の脅威に対して、世界的に、迅速かつ協調した対応を行うために、WHOは広範囲な関係者とともにマラリアのベクターにおける殺虫剤耐性管理の世界計画(GPIRM)の策定を進め、2012年5月に公表しました。GPIRMでは、世界のマラリア常在地に求める、以下の5つの柱から成る戦略を提唱しています。

  • マラリア常在国で、殺虫剤耐性の管理戦略を計画し、実行すること。
  • 適切かつ迅速な昆虫学的モニタリングと耐性モニタリングを確実に実施すること。また、効果的なデータ管理を確実に実施すること。
  • 新しく革新的なベクターコントロールの方法を開発すること。
  • 殺虫剤耐性の仕組みと現在の殺虫剤耐性管理手法の影響に関する知見を収集すること。
  • 効果的な仕組み(アドボカシー、人的資源、財源)を確保すること。

サーベイランス

追跡調査を進めることは、マラリアの制御において大きな課題です。マラリアのサーベイランスシステムで発見される患者は、世界で推計された患者数の約10%のみです。常在地での迅速で効果的なマラリア対策を行い、新興や再興を防ぎ、追跡調査を進め、各国政府と世界のマラリア常在地域が責任を持って行動するために、より強力なマラリアのサーベイランスシステムが、緊急に必要です。2012年4月、WHOの事務局長はマラリアの管理と排除のために、新しい世界的なサーベイランスマニュアルを公表し、常在国にマラリアのサーベイランスシステムを強化するように力説しました。これは、WHOのT3(Test、Treat、Track initiative)として知られるマラリアの検査診断、治療、サーベイランスを拡大するという大規模な要求の一部でした。

排除

マラリアの排除は、特定の地域で、蚊が媒介するマラリアの伝播がない、つまり、その地域での発生がないということと定義されています。マラリアの根絶は、特定のマラリア原虫種によって起こるマラリア感染の発生が世界的にないことと定義されています。

多くの国々、特に温帯地域や亜熱帯地域の国々では、マラリアの排除に成功しています。1955年にWHOが展開した世界的なマラリア根絶キャンペーンは、いくつかの国では成功しましたが、最終的には全体目標に達することができず、20年経過しないうちに中断し、規模を縮小したマラリア制御の目標が設定されました。しかし、最近、長期的なマラリア根絶のゴールが再び注目されてきています。

WHOが推奨する戦略の大規模な展開、現在使用可能な方法、確固たる国家責任、関係者との協力態勢で臨めば、より多くの国が(特にマラリアの伝播が低いか変動している国では)マラリアの排除へと進むことができるでしょう。最近では、2007年にアラブ首長国連邦、2010年にモロッコとトルクメニスタン、2011年にアルメニアの4か国が、WHOの事務局長にマラリアを排除したと認められました。

マラリアワクチン

現在、マラリアや人に感染する他の寄生虫に対して認可されたワクチンはありません。RTS,S/AS01として知られている熱帯熱マラリア原虫に対するワクチンの研究が最も進んでいます。このワクチンは、現在、アフリカの7か国で大規模臨床試験の評価中です。このワクチンの使用に関するWHOの推奨は、大規模臨床試験の最終結果によります。最終結果は2014年後半にまとまる予定であり、既存のマラリアを制御する方法に加えて、このワクチンを使用するかどうかについての推奨は2015年になる予定です。

WHOの対応

WHOの世界マラリア計画はマラリアの制御と排除の課程を以下の方法で示す責任があります。

世界マラリア計画は、公開の推薦手続で任命された世界中のマラリア専門家15人で構成されている、マラリア政策の諮問委員会(MPAC)の事務局です。マラリア政策の諮問委員会は、年2回開催され、マラリアの制御と排除のために推奨される政策をWHOに助言します。諮問委員会の役割は、透明で迅速かつ信頼性のある政策決定過程の一部として、戦略的な助言と技術的な考え方を提供することで、マラリアの制御と排除に関することのすべてに及びます。

WHOは、マラリアに対し共同で行動する世界的な組織であるロールバック・マラリア・パートナーシップ(Roll Back Malaria partnership)の共同創立者であり主催者でもあります。この組織は行動や資源を動員し、合意形成します。マラリア流行国、開発関係者、民間関係者、非政府団体、共同体単位の組織、基金、研究機関、学術団体を含む500以上のパートナーで構成されています。

出典

WHO:Fact sheetMalariaDecember2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs094/en/index.html