世界におけるインフルエンザ流行状況 (更新2)

2013年1月31日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北米のインフルエンザの活動性は高いままですが、ほとんどの指標が減少し始めました。北米ではインフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されている亜型でした。米国では、65歳以上の高齢者で肺炎の患者数とインフルエンザに関連した死亡者数が急増していると報告されました。
  • ヨーロッパでは、全体的に、過去数週間でインフルエンザウイルスの検出が増加していると報告されましたが、北西部の数か国では活動性が減少し始めました。ヨーロッパで最も多く検出されているウイルスはインフルエンザA(H1N1)pdm09ですが、西ヨーロッパの数か国ではインフルエンザB型ウイルスが優勢です。
  • アジアの温帯地域では、インフルエンザウイルスの検出は過去数週間で増加しましたが、アジアの熱帯地域のほとんどの国では依然として低い状態にあります。
  • アフリカ北部と地中海東部のインフルエンザの活動性は、過去数週間で全体的に減少しましたが、数か国では増加したと報告されました。この地域で、最も多く検出されたウイルスはインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。
  • 熱帯地域のほとんどの国では低い水準の活動性と報告されましたが、ボリビアとパラグアイでは若干の増加がみられています。
  • 現在、南半球では、インフルエンザの活動性はシーズンオフの水準です。

北半球の温帯地域

北米

北米では、第3週(1月13日から19日)におけるインフルエンザの活動性は依然として高い状態にあります。数か所の地域では活動性が減少しましたが、カナダと米国はいずれもインフルエンザの広範囲な伝播を報告しました。

カナダでは、検査で確定されたインフルエンザの患者数は第3週に連続して減少しましたが、多くの地域では依然として広範囲で局地的な活動性と報告されました。国全体でのインフルエンザ様疾患(ILI)の受診率は、第2週の54.0/1,000人から、第3週には43.8人に減少し、4週連続で減少しました。インフルエンザウイルスが陽性となった検体の割合も、同時期で30.8%から27.1%に若干減少し、昨年末から持続的に減少しています。過去4週間の国全体のILI受診率は15年の平均受診率の90%信頼区間をわずかに上回りました。インフルエンザの集団発生は、1月第2週に、病院、長期療養施設、学校で130件が報告されましたが、これは、過去2シーズンのピーク時の2倍以上の件数です。また、総合サーベイランスシステムによって、2,212人のインフルエンザに関連した入院患者が報告されましたが、既に、前シーズンの合計1,777人を超えています。年齢が把握できた入院患者2,209人の半数以上(57.6%)が65歳以上で、13.3%が0歳から4歳でした。シーズン当初からインフルエンザに関連した死亡は146人と報告されましたが、その81.5%が65歳以上でした。シーズン当初から、予防接種監視活動(IMPACT)ネットワークによって、16歳未満のインフルエンザに関連した入院患者は461人と報告されましたが、その45.1%は24か月未満でした。

1月第3週に、2,840株のインフルエンザウイルスが検出されましたが、97.9%がインフルエンザA型であり、2.1%がインフルエンザB型でした。亜型が解析されたインフルエンザA型のうち、90.6%がインフルエンザA(H3N2)で、9.4%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。型と亜型の相対的な割合はシーズンを通して同様でした。シーズン当初から報告された小児のインフルエンザに関連した入院患者461人のうち、96.3%(461人中444人)がインフルエンザA型に関連し、3.7%(461人中17人)がインフルエンザB型に関連していました。インフルエンザA型ウイルスのほとんど(84.7%)は亜型解析されていませんが、亜型のデータが得られたもののうち、89.7%(68人中61人)がインフルエンザA(H3N2)で、10.3%(68人中7人)はインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。成人の入院患者の型と亜型の割合は小児の入院患者のものと同様でした。

シーズン当初から、国立微生物学研究所で285株のインフルエンザウイルスの抗原解析が行われました。285株のうち、201株がインフルエンザA(H3N2)で、37株がインフルエンザA(H1N1)pdm09で、47株がインフルエンザB型でした。インフルエンザA(H3N2)はワクチン株のA/Victoria/361/2011に抗原的に類似しており、インフルエンザA(H1N1)pdm09はワクチン株のA/California/7/2009に類似していました。インフルエンザB型ウイルスのうち、37株はワクチン株のB/Wisconsin/01/2010(山形系統)に抗原的に類似しており、10株はB/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統で、2011年から2012年の季節性インフルエンザワクチンに含まれていた株)に類似していました。今シーズンは、これまでのところ、274株のインフルエンザウイルスで薬剤感受性試験が行われましたが、ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビルまたはザナミビルに対する耐性が認められた検体はありませんでした。

米国では、1月第3週のインフルエンザの活動性は高い水準が続いていますが、いくつかの地域では減少しました。国全体の活動性は昨年12月末の2週間でピークに達したようです。国全体では、ILIの外来受診率は、昨年の最終週に6.1%とピークに達した後、4週連続で減少し、4.3%でした。インフルエンザが陽性となった検体の割合も、昨年12月最終週の37.6%から26.1%と減少しました。最近の報告では、47州でインフルエンザの活動性が広範囲であると報告しています。122都市の死亡報告システムを通して報告された肺炎とインフルエンザによる全死亡の割合は、1月第3週に9.8%に急増し、流行閾値の7.3%を上回りました。過去10年間では、2007年から2008年のシーズンで報告された9.1%が最高でした。その年は、肺炎とインフルエンザによる死亡は8週連続で流行閾値を超えました。一方、これまでにインフルエンザに関連した小児の死亡は34人報告されました。インフルエンザンに関連した死亡は、2011年から2012年のシーズン中に37人、2010年から2011年のシーズン中に122人、2009年から2010年のシーズン(パンデミック)中に282人が報告されました。シーズン当初から、検査で確定診断されたインフルエンザに関連した入院患者は6,191人と報告されており、人口10万人当たり22.2でした。入院患者はピークに達していませんが、過去2シーズンに比べると高いですが(2011年から2012年のシーズンは8.6、2010年から2011年のシーズンは21.4)、2009年から2010年のシーズン(29.0)ほど高くはありません。しかし、65歳以上では人口10万人当たり97.7であり、2009年から2010年の25.3、2010年から2011年の64.0、2011年から2012年の30.5に比べ高くなっています。

カナダとは対照的に、米国では、検出されたインフルエンザウイルスのうちインフルエンザB型の割合が高くなっています。シーズン当初から報告されたインフルエンザウイルス40,962株のうち、80.1%がインフルエンザA型で、19.9%がインフルエンザB型でした。しかし、カナダと同様、亜型のデータが得られたインフルエンザA型のうち、98%はインフルエンザA(H3N2)でした。シーズン当初から、疾病予防管理センター(CDC)は751株のインフルエンザウイルスの抗原解析を行いました。インフルエンザA(H1N1)pdm09の54株は、いずれも、A/California/7/2009-likeで、インフルエンザA(H3N2)の99.6%(465株中463株)は、A/Victoria/361/2011-likeでした。いずれも、北半球で今シーズンに使用されている3価の季節性インフルエンザワクチンに含まれるものです。解析された232株のインフルエンザB型ウイルスのうち、69%(232株中160株)は今シーズンに使用されている3価の季節性インフルエンザワクチンに含まれるB/Wisconsin/1/2010-like (山形系統)であり、31%(232株中72株)はビクトリア系統でした。

シーズン当初から検査された、762株のインフルエンザA(H3N2)、274株のインフルエンザB型ウイルスでは、ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルとザナミビルに対する耐性は認められませんでした。インフルエンザA(H1N1)pdm09は119株が検査され、1月第3週に初めてオセルタミビル耐性株が報告されました。

ヨーロッパ

ヨーロッパの1月第3週におけるインフルエンザの活動性は、過去の報告に比べて、大部分の国で増加しましたが、特に北西部の数か国では若干の減少も報告されました。インフルエンザの活動性は、前回の報告では19か国でしたが、17か国で報告されました。減少傾向を報告したのは、前回の報告では2か国のみでしたが、5か国(デンマーク、アイルランド、オランダ、ノルウェー、英国)でした。ILIと急性呼吸器感染患者の検体のインフルエンザ陽性率は約40%で、3週連続でほぼ同様となりましたが、西部では、昨年12月末にピークに達した後、若干減少しました。

各国のILI患者の報告数は昨シーズンと同様です。英国では、報告された呼吸器疾患による死亡者数と全死亡者数は昨シーズンと同様でした。ヨーロッパ死亡率監視プロジェクトに参加している13か国から報告された全死亡者数も過去の平均値に近い数でした。

ヨーロッパで最も多く検出されている亜型はインフルエンザA(H1N1)pdm09でしたが、国によって割合は異なり、シーズン当初から変化しました。シーズン当初には、定点及び定点以外から報告されたインフルエンザウイルス16,457株のうち、69%がA型で31%がB型でした。しかし、チェコ、ドイツ、ポーランド、ロシアを含む東ヨーロッパの多くの国ではインフルエンザA型の割合が増加したと報告されたのに対し、アイルランド、イタリア、英国を含む西ヨーロッパの数か国ではインフルエンザB型の検出が増加しました。インフルエンザA(H1N1)pdm09は、シーズン中に増加し、1月第3週に亜型のデータが得られたインフルエンザA型ウイルスのうち80%を占めました。しかし、シーズン全体では、インフルエンザA(H1N1)pdm09の割合は68%に留まっており、インフルエンザA(H3N2)が32%を占めました。注目すべきこととして、英国では、外来患者で検出されたウイルスはインフルエンザB型が多く、全年齢の入院患者から検出されたウイルスは、インフルエンザA(H1N1)pdm09とA(H3N2)が多くを占めます。ヨーロッパの定点機関のデータでは、ILIや急性呼吸器感染症(ARI)患者の検体から検出されるウイルスの割合と入院患者の検体から検出されるウイルスの割合は同様です。

シーズン当初から、解析されたウイルスの大部分は、現在の北半球で使用されている季節性インフルエンザワクチンに含まれるウイルス株と抗原的に類似していました。

シーズン当初から、7か国で196株のウイルスに対してノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビルとザナミビル)の感受性検査が行われましたが、すべて感受性がありました。

アフリカ北部と地中海東部

アフリカ北部と地中海東部では、過去5週間以上にわたり陽性検体数は減少しましたが、増加を報告した国もあります。現在の報告では、アルジェリア、イスラエル、イラン*1、パキスタンでインフルエンザの活動性が増加しました。アフリカ北部では、チュニジアも伝播が増加したと報告しました。イランとカタールではインフルエンザの活動性が減少しています。多く検出されたウイルスは国によって異なりました。パキスタンとカタールでは、インフルエンザB型が多く検出されましたが、アルジェリア、イラン*1、イラクでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が多く検出されました。イスラエルでは、インフルエンザA(H3N2)とA(H1N1)pdm09がほぼ同数と報告されました。

*1:出典通りに仮訳しています。

アジアの温帯地域

中国北部、モンゴル、韓国を含むアジアの温帯地域のほとんどで、1月第3週はインフルエンザの活動性が増加し続けました。中国北部では、国内定点機関から報告されたILIの割合は5.1%で、前回の報告(4.2%)と同様でした。この地域ではインフルエンザA(H1N1)pdm09の割合が増加し、インフルエンザA(H3N2)の割合に近づいています。検出されたインフルエンザウイルスの99.2%(390株中387株)がインフルエンザAでした。亜型が解析されたインフルエンザA型のうち、54.3%がA(H3N2)、45.6%がA(H1N1)pdm09でした。

中国国家インフルエンザセンターで昨年10月から亜型が解析されたインフルエンザウイルスのうち、インフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスの99%(101株)はA/California/7/2009-likeで、インフルエンザA(H3N2)ウイルスはすべて(397株)はA/Victoria/361/2011(H3N2)-likeでした。また、インフルエンザB/Victoriaウイルスの96%(121株)はB/Brisbane/60/2008-like、B/Yamagata ウイルスはすべて(19株)B/Wisconsin/01/2010-likeでした。検査されたインフルエンザ検体でノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルとザナミビルに耐性のあるものはありませんでした。

モンゴルでは、外来患者の受診率に基づくILIの活動性は若干増加しました。最近数週間のILI患者の多くは、RSウイルス、ライノウイルス、ヒトコロナウイルスなどの他の呼吸器感染症を起こすウイルスに関連していました。

韓国でのインフルエンザの活動性は増加し続けており、インフルエンザA(H3N2)とA(H1N1)pdm09が検出されました。日本でのインフルエンザの活動性は依然として低く、優勢な亜型はインフルエンザA(H3N2)でした。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

中米とカリブ海では、1月第3週のインフルエンザの活動性は前週と比較し、ほぼ同じか減少し、晩夏のピークから減少し続けました。最も多く検出されるウイルスはインフルエンザA(H3N2)とB型であり、例外的にキューバではインフルエンザA(H1N1)pdm09が見られました。フランス領のマルティニークとグアドループでは例年に比べ、ILIの受診者数が多くなっていますが、インフルエンザウイルスの報告はありませんでした。

南米全体では、インフルエンザの活動性は検出されないか、低い水準でしたが、パラグアイとボリビアでは例外的に、わずかに増加しました。パラグアイではA(H3N2)とインフルエンザB型が循環し、ボリビアではインフルエンザA(H3N2)のみの循環が中等度に増加したと報告されました。

中部アフリカ

中部アフリカのほとんどの国ではインフルエンザの検出は減少しました。以前にコンゴ民主共和国とガーナで循環していたインフルエンザA(H1N1)pdm09は、現在シーズンオフの水準まで減少しました。カメルーンとマダガスカルでは、依然として、インフルエンザB型が低い水準で報告されました。

アジアの熱帯地域

東南アジアのほとんどの国では、インフルエンザの活動性は前週と同様でした。カンボジア、スリランカ、タイ、ベトナムでは低い水準での循環が続いています。

インドでのインフルエンザ活動性はシーズンオフの水準で、低い検出数で、検出されたウイルスは主にインフルエンザA(H1N1)pdm09で、インフルエンザBも少数検出されました。スリランカでは、依然として、3種類の型・亜型が循環していますが、タイでは、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型が検出されました。カンボジアとベトナムでは、主にインフルエンザB型ウイルスの伝播が報告されました。

シンガポールと、香港を含む中国南部でのインフルエンザの活動性は、依然として、シーズン閾値より低い水準です。中国南部では、インフルエンザA(H1N1)pdm09の割合が増加し、インフルエンザA(H3N2)の割合を上回りました。検出されたインフルエンザウイルスのうち、97.5%(157161株中157株)がインフルエンザA型でした。亜型が判明したインフルエンザA型のうち、47.2%がA(H3N2)、52.7%がA(H1N1)pdm09でした。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域のすべての国で、現在、インフルエンザの活動性は、シーズンオフの水準です。

出典

Influenza update1February2013 - Update number 178
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html