住血吸虫症について (ファクトシート)

2013年3月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 住血吸虫症は寄生虫によって起こる慢性疾患です。
  • 2011年には少なくとも2億4,300万人に治療する必要がありました。
  • 2011年に住血吸虫症の治療を受けた人は2,810万人でした。
  • 感染リスクがあるのは、汚染された水に暴露する機会のある農業、家事、娯楽活動を行う人々です。
  • 特に、小児では、衛生習慣がなく、日常の遊びの中で感染する機会が高くなります。
  • 清潔な飲料水を確保し、適切な健康教育を行うことにより、汚染された水に接触することや水源の汚染を減少させることができると考えられています。
  • 住血吸虫症の感染制御はプラジカンテルを用いて、定期的に大規模な治療を行うことによる疾患の減少に焦点が当てられています。

住血吸虫症は慢性の寄生虫疾患で、住血吸虫属(Schistosoma)属の寄生虫が原因です。2011年には少なくとも2億4,300万人に治療する必要がありました。治療期間は年々にもわたります。住血吸虫症の伝播は78か国で報告されていますが、最も感染リスクの高い国は52か国です。

伝播

汚染された水に接触し、淡水の貝から放出された寄生虫の幼虫が皮膚から侵入することによって感染します。

体内で幼虫は成虫へと成長します。成虫は血管内に生息し、そこで雌は産卵します。便中や尿中に排泄され、寄生虫の生活環を維持する虫卵もあれば、体内組織に留まり、免疫反応を誘導し、組織障害を悪化させる虫卵もあります。

疫学

住血吸虫症は熱帯、亜熱帯地域でよくみられ、特に安全な飲料水が手に入らず、適切な衛生状態が欠如している貧しい国々で多くみられます。住血吸虫症の治療の必要な人の少なくとも90%がアフリカに住んでいます。

住血吸虫症には主に5種の住血虫が原因となり、大別して腸管に寄生する住血吸虫と泌尿生殖器に寄生する住血吸虫の2つに分けられます(表参照)。

表:住血吸虫の種と地理的分布

地理的分布
消化管に寄生する住血吸虫マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoniアフリカ、中東、カリブ海諸国、ブラジル、ベネズエラ、スリナム
日本住血吸虫(Schistosoma japonicum中国、インドネシア、フィリピン
メコン住血吸虫(Schistosoma mekongiカンボジアとラオスの一部地域
インターカラーツム住血吸虫近縁種(Schistosoma guineensis and related S.intercalatum中部アフリカの多雨林地域
泌尿生殖器に寄生する住血吸虫ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobiumアフリカ、中東

住血吸虫症は特に農業、漁業従事者に影響を与えます。汚染された水で洗濯などの家事をする女性にもリスクがあります。また、小児も衛生習慣がなく、日常の遊びの中で感染を受けやすくなります。

都市部への移住や難民の移動によって、新たな地域に疾患が持ち込まれています。人口の増加とそれに伴う電力と水の需要がしばしば開発計画と環境変化につながり、それらが伝播を増加させます。

エコツーリズムや“人里離れた”旅行の増加に伴い、多くの旅行者が住血吸虫症に罹患しています。時には、重症の急性感染を起こし、麻痺などの通常はあまりみられない症状を起こす旅行者もいます。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症は、特に女性で、HIV感染のリスク・ファクターになると考えられています。

症状

住血吸虫症の症状は寄生虫の虫体によるものではなく、虫卵に対する身体の反応によって起こります。

腸管に寄生する住血吸虫症では、腹痛、下痢、血便がみられます。進行すると肝腫大がみられ、それに伴いしばしば腹腔内に腹水が貯留し、腹部血管の圧が高まります。そのような場合には、脾腫大も起こることがあります。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症の古典的な症状は血尿です。進行すると膀胱尿管線維症と腎障害がみられます。後期合併症として膀胱がんを起こす可能性もあります。女性では、泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症で、生殖器病変、膣出血、性交痛、外陰部結節がみられることがあります。男性では、泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症で、精嚢、前立腺、その他の臓器に病変を起こすことがあります。この疾患は、不妊など長期にわたる不可逆性の結果をもたらすことがあります。

住血吸虫症によって生じる経済と保健への影響は重大です。小児の住血吸虫症では、貧血、発育障害、学習能力の減退を引き起こすことがありますが、通常これらの影響は治療により回復します。慢性住血吸虫症では就業能力に影響を与える可能性があり、死亡することもあります。サハラ以南のアフリカでは、毎年、住血吸虫症で20万人以上が死亡しています。

診断

住血吸虫症は、便または尿中の虫卵を検出することで診断されます。血液や尿から抗原を検出することでも診断されます。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症の診断には、ナイロン、紙、ポリカーボネイトのフィルターを使う濾過法が標準的です。小児のビルハルツ住血吸虫感染では、ほぼ常に尿中の顕微鏡的血尿が認められ、これは化学試験紙で確認できます。

消化管に寄生する住血吸虫症の虫卵は、グリセリンかスライドグラスに載せたメチレンブルーで染色したセロハンを使って、糞便中に確認することができます。

住血吸虫症が常在していない地域や伝播の少ない地域では、血清学的検査と免疫学的検査が感染確認と完全な検査と治療が必要とされる場合に有用でしょう。

予防と感染制御

住血吸虫症の予防と制御は、リスクのある集団への大規模な治療、安全な飲料水へのアクセスの確保、衛生状況の改善、健康教育、貝のコントロール、によって行われます。

WHOの住血吸虫症に対する感染制御戦略は、プラジカンテルを用いた定期的に、対象を絞った治療で、疾患を減少させることに焦点を当てられています。これはリスクのあるすべての人に対する通常の治療にも関係します。

対象を絞った治療の対象となる集団は、以下の通りです。

  • 常在地域の学童
  • 常在地域でリスクがあると考えられる成人、漁師、農夫、灌漑作業従事者などの汚染された水に接触する仕事をする人、家事で汚染した水に接触する女性
  • 患者が多く発生している常在地域に住むすべての人

治療の頻度は罹患率または学童の肉眼的血尿(泌尿生殖器に感染する住血吸虫症の場合)の発生率によって決定されます。高度に伝播が起こっている地域では、数年間は毎年繰り返し治療する必要があるかもしれません。感染制御の影響をみるためにモニタリングが必須です。

目的は疾患の減少です。リスクのある人を定期的に治療することで、軽い症状が治り、感染した人が重症化して慢性の後期症状に進展するのを防ぎます。しかし、住血吸虫症に対する感染制御の大きな障害になっているのは、プラジカンテルの確保です。データによると、2011年に治療の必要な人のうちわずか10%がプラジカンテルによる治療を受けました。

プラジカンテルは、すべての住血吸虫に推奨される治療法です。有効で安全で低価格です。治療後に再感染が起こったとしても、重症化するリスクは少なくなり、小児期に治療が開始され、その治療が反復されれば回復します。

住血吸虫症に対する感染制御は、過去20年以上にわたり、ブラジル、カンボジア、中国、エジプト、サウジアラビアなど数か国で成功しました。また、モロッコでも住血吸虫症の伝播が止まったという根拠もあります。数か国で伝播の状態の評価が行われています。

サハラ以南のアフリカでは、過去10年以上にわたり、治療キャンペーンが拡大され、ブルキナファソ、ニジェール、ウガンダでは、国全体で実施されました。

2011年には、24か国から住血吸虫症に対する予防投与に関して報告されました。住血吸虫症の治療を受けた人は、2006年は1,240万人であり、2010年には3,350万人に増加しました。しかし、2011年は前年に比べて20%減少し、2,810万人でした。これは物流調達に関係する理由や、財源確保が困難であったことのほか、契約者の変更、国の対応能力が不十分であったこと、データを報告した国が減少したこと、数か国の報告データでの治療人数が減少したことによります。

WHOの対応

WHOの住血吸虫症に対する業務は、顧みられない熱帯病を制御するための統合的アプローチの一部です。顧みられない熱帯病は、医学的には様々な疾患の総称ですが、貧困状態を継続させ、集団発生を起こし、重複感染がしばしば起こるという共通の特徴があります。

WHOは共同センターのほか、大学、研究所、民間団体、非政府組織(NGO)、国際機関、国連機関の他組織といったパートナーと協議し、化学予防法の戦略を調整しています。また、各国の制御計画で使用する技術的なガイドラインとツールを開発しています。

WHOは、パートナーや民間団体と連携し、プラジカンテルが容易に入手できるよう、またそのための資金の拠出を呼びかけました。民間団体とパートナーは、毎年1億人以上の学齢期の子どもを治療するために大量のプラジカンテルの提供を誓約しました。

出典

WHO
Schistosomiasis Fact sheet N°115 Updated March 2013
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs115/en/index.html