世界におけるインフルエンザ流行状況 (更新9)

2013年5月10日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

北米、ヨーロッパ、北アジアのほとんどの地域ではインフルエンザのシーズンは、シーズンオフの水準で、徐々に終息しつつあります。しかし、数か国では、依然として、低い水準の伝播が続いていると報告されました。

北半球の温帯地域における伝播の持続は、北米とヨーロッパの数か国で、シーズンの終わりに出現したインフルエンザB型ウイルスの増加に関連しています。それまでは、北米ではインフルエンザA(H3N2)、ヨーロッパではインフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢でした。北アジアでは、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出され、その割合は国によって異なりました。

熱帯地域のインフルエンザの活動性は低い水準であり、南半球のインフルエンザの活動性は、依然としてシーズンオフの水準です。

今シーズンに解析されたインフルエンザA型は、大部分が今シーズンに北半球で使用されている3価ワクチンに含まれている株に抗原的に類似していました。解析されたインフルエンザB型のうち、山形系統は3価ワクチンに推奨されたウイルス株に抗原的に類似していましたが、B型ウイルスのうち10%から30%がビクトリア系統でした。今シーズンは、これまでに、
オセルタミビルとザナミビルに耐性を示すウイルスは、非常に少数ですが検出されました。

中国では、これまでに、インフルエンザA(H7N9)に感染した患者が131人報告されており、
このうち32人が死亡しました。詳細はWHOのホームページに掲載されています。WHOホームページ(英語)

北半球のインフルエンザシーズンのまとめは、5月31日付のWHOの疫学週報(WorldEpidemiological Report)に掲載される予定です。

北半球の温帯地域

北米

北米のインフルエンザシーズンは、カナダと米国では1月上旬にピークに達し、メキシコは両国より2週間遅れてピークに達した後、活動性は低い水準となりました。

カナダでは、集団発生の件数と州に報告される著しい呼吸器疾患の活動性は低い水準となりましたが、シーズンオフの水準にまでは至っていません。国全体でのインフルエンザ様疾患(ILI)の受診率は、4月第2週は患者1,000人当たり23.8でしたが、直近の報告週は15.2に減少しました。インフルエンザウイルスが陽性となった割合は、ピーク時には35%でしたが、最近数週間は比較的変化がなく、12%と若干増加しました。インフルエンザ陽性検体のうち、インフルエンザB型が検出される割合は増加しており、1月第3週は2.1%でしたが、4月最終週は81.7%でした。今シーズンは、インフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されており、昨年8月26日以降に亜型解析されたインフルエンザウイルス(11,107株)のうち70.2%を占めています。

5月第1週に、予防接種監視活動(IMPACT)ネットワークによって、インフルエンザと確定された小児の入院患者は新たに15人が報告され、そのうち12人がインフルエンザB型に関連していました。同じ週に、インフルエンザ研究ネットワーク(PHAC/CIHR Influenza Research Network)の重篤な転帰に至った事例のサーベイランスネットワークによって、インフルエンザと確定された成人の入院患者は4人が報告されました。このうち3人がインフルエンザB型に関連し、1人がインフルエンザA(H1N1)pdm09に関連していました。

シーズン当初から、国立微生物学研究所で1,145株のインフルエンザウイルスの抗原解析が行われ、189株がインフルエンザA(H1N1)pdm09で、565株がインフルエンザA(H3N2)で、391株がインフルエンザB型でした。インフルエンザA型は、すべて、今シーズンに北半球で使用されているワクチン株に抗原的に類似しており、インフルエンザB型ウイルスのうち、313株は、今シーズンに北半球で使用されているワクチン株であるB/Wisconsin/01/2010(山形系統)に抗原的に類似していましたが、78株はB/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統)に類似していました。今シーズンは、検査された1,078株のウイルスのうち、インフルエンザA(H3N2)の1株がオセルタミビルとザナミビルに耐性を示しました。

米国では、インフルエンザの活動性は12月下旬から1月上旬にかけてピークに達した後、5月第1週の活動性は減少し続けており、季節性の閾値を下回っています。国全体では、ILIの外来受診率は、国の閾値である2.2%を下回り、1.0%でした。ILI患者の検体でインフルエンザが陽性であった割合は、昨年最終週に38%とピークに達した後、4月最終週は6.5%(2,746検体中177検体)と減少しました。

122都市の死亡報告システムを通して報告された肺炎とインフルエンザによる全死亡の割合は、1月第4週に9.8%とピークに達した後に、6.6%まで減少し、流行閾値の7.2%を下回りました。シーズン当初からの肺炎とインフルエンザによる全死亡者数は、最近のシーズンに比べ、比較的高いです。検査で確定診断されたインフルエンザに関連した入院患者は人口10万人当たり44.2であり、過去3シーズンに比べて高くなっていますが、特に65歳を超える年齢層で高く、全報告数の50%を占めました。入院患者のうち、9,757人(79.2%)はインフルエンザA型に関連し、2,476人(20.1%)はインフルエンザB型に関連していました。

シーズン当初から、疾病予防管理センター(CDC)は2,317株のインフルエンザウイルスの抗原解析を行いました。このうち234株がインフルエンザA(H1N1)pdm09、1,268株がインフルエンザA(H3N2)、815株がインフルエンザB型でした。インフルエンザA型は、すべて、今シーズンに北半球で使用されているワクチン株に抗原的に類似していましたが、インフルエンザA(H3N2)のうち0.3%(1,268株中4株)はA/Victoria/361/2011に対して産生される抗血清との反応力価が低下しており、インフルエンザA(H1N1)pdm09のうち1.3%(234株中3株)はA/California/7/2009に対して産生される抗血清との反応力価が低下していました。解析されたインフルエンザB型のうち、33.0%(815株中269株)は、今シーズンに使用されている3価ワクチンに含まれていないB/Victoria/02/87 –likeの系統でした。シーズン当初から、インフルエンザA(H1N1)pdm09は511株が検査され、オセルタミビル耐性株が2株報告されました。インフルエンザA(H3N2)は2,051株が検査され、オセルタミビル耐性株が2株報告されました。インフルエンザB型は783株が検査され、耐性株は検出されませんでした。

メキシコのインフルエンザの活動性は、シーズンオフの水準に達し、インフルエンザが陽性となった検体数も減少し続けており、検出されたウイルスの大部分はインフルエンザA(H3N2)でした。メキシコのインフルエンザの活動性は、1月下旬にピークに達した米国よりも約2週間遅れてピークに達したようです。

ヨーロッパ

ヨーロッパでは、インフルエンザシーズンが終息したようです。5月第1週におけるインフルエンザの活動性は、ほとんどの地域で減少し続けており、季節性の閾値に戻り、ほとんどの国で伝播は減少し、低い水準と報告しています。東部の数か国、特にロシア、スロベニア、ウクライナでは、活動性は減少したものの、持続しており、ヨーロッパの北部や西部の国に数週間遅れているようです。ILIや急性呼吸器感染症(ARI)の受診率は、ヨーロッパのほとんどの国で低くなっています。ILIやARI患者の検体のうちインフルエンザが陽性になった検体の割合は2月中旬以降減少しています。4月最終週に、ヨーロッパ死亡率監視プロジェクトへデータを報告した13の国・地域の総死亡率は、65歳以上の年齢層で、最高値が続いています。高齢者の累積超過死亡率は、過去3年に比べて高い水準でした。若年層の総死亡率は例年同様でした。

ヨーロッパ全体で、シーズン当初からインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されています。特に、アイルランドやスペインなど、数か国では、インフルエンザB型が多く検出されたと報告されています、しかし、過去数週間では、北米と同様に、ヨーロッパ全域でインフルエンザB型が占める割合が増加し、多くの国で、高頻度に検出されるようになっています。

ヨーロッパでは、シーズン当初から、5,300株のインフルエンザウイルスの抗原解析が行われました。2,832株のインフルエンザA型ウイルスのうち99%と、2,468株のインフルエンザB型のうち26%は、今シーズンに北半球で使用されているインフルエンザワクチンに含まれる株に抗原的に類似していました。シーズン当初から、ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルとザナミビルの感受性検査が12か国で1,394株について行われました。インフルエンザA(H1N1)pdm09は、695株のうち13(2%)株がH275Yのアミノ酸変異を有するオセルタミビル耐性株でした。294株のインフルエンザA(H3N2)は、すべて、オセルタミビルとザナミビルの両者に感受性がありました。405株のインフルエンザB型のうち1株は、ザナミビルに感受性がありましたが、オセルタミビルによる阻害効果が減少していました。

アフリカ北部と中東

アフリカ北部では、インフルエンザ陽性検体数は、2月下旬にピークに達した後、減少し続けており、非常に低い水準です。全体的には、検出されるインフルエンザウイルスのタイミングやパターンは、ヨーロッパと同様で、インフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されましたが、エジプトは例外で、検出されたウイルスは、主にインフルエンザA(H3N2)でした。

中東でも、インフルエンザ陽性検体数は、非常に低い水準です。この地域のほとんどの国では、シーズン全体を通して、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されていますが、オマーンとパキスタンでは、特に過去数週間、インフルエンザB型が主に検出されたと報告されています。また、カタールでは、過去数週間に比べ、インフルエンザ陽性検体数が増加し、インフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されています。

北アジアと東アジア

アジアの温帯地域では、ほとんどの地域で、インフルエンザの活動性は1月末にピークに達した後、過去数週間にわたって減少しました。しかし、中国と韓国のインフルエンザの活動性は、依然として注目に値する高い水準です。この2か国は、この地域の他の国より数週間遅れてピークに達しました。中国北部と日本では、インフルエンザの活動性と、ILI患者の検体のうちインフルエンザが陽性となった検体の割合は、1月下旬にピークに達した後、過去数週間にわたって減少しました。一方、モンゴルでは、インフルエンザウイルスの検出数の増加との関連はありませんが、肺炎による入院患者数が増加し、全国の患者1,000人当たりのILI死亡率は2月にピークに達した後に減少し続けていると報告されました。

前回の報告に示された通り、北アジアでのほとんどの国では、今シーズンはインフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されています。しかし、多くの国で、インフルエンザ陽性検体中に占めるインフルエンザA(H1N1)pdm09の割合が多少増加しました。また、中国北部では、シーズン後半はインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されました。

シーズン当初から中国国家インフルエンザセンターで亜型が解析されたインフルエンザウイルスのうち、インフルエンザA(H1N1)pdm09の99.1%(248株中226株)はA/California/7/2009-likeに類似しており、インフルエンザA(H3N2)はすべて(577株)A/Victoria/361/2011(H3N2)-likeに類似していました。また、インフルエンザB型では、山形系統はすべて(25株)B/Wisconsin/01/2010-likeに類似しており、ビクトリア系統の96.7%(152株中147株)はB/Brisbane/60/2008-likeに類似していました。昨年10月以降に検査されたインフルエンザウイルスはすべて、ノイラミニダーゼ阻害薬に感受性がありました。

中国では、インフルエンザA(H7N9)に感染した患者が報告されており、5月8日時点で、131人の患者が報告され、このうち32人が死亡しました。詳細な情報と更新情報はWHOのホームページに掲載されています。

WHOホームページ(英語)

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域(中米、カリブ海諸国)

中米とカリブ海諸国では、インフルエンザの活動性は低い水準で、特にニカラグアでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09、インフルエンザA(H3N2)、インフルエンザB型の伝播が低い水準で続いています。カリブ海諸国では、特に、キューバ、ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、ドミニカ共和国で、インフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されています。しかし、ILIと急性呼吸器疾患の患者のほとんどが、RSウイルスやアデノウイルス、ライノウイルスなど、インフルエンザ以外のウイルスに関連していると報告されています。

南米の熱帯地域では、ほとんどの国で、ARIが増加傾向にありますが、基準値内の水準です。エクアドルでは、インフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されたと報告されています。一方、ブラジルではインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されており、インフルエンザ陽性検体数は過去数週間に比べ、減少したと報告されています。両国とも、インフルエンザの活動性が低かったシーズン初期にはインフルエンザB型が主に多く検出されていました。

中部アフリカ

中部アフリカの数か国で、過去数週間にわたって、インフルエンザの検出数は低いですが、インフルエンザの伝播が続いており、3種類のインフルエンザウイルスが様々な割合で検出されています。コートジボワールでは、先週に比べ、インフルエンザ陽性検体数が増加し、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がともに検出されています。カメルーンでは、過去数週間、インフルエンザ陽性検体数は減少し続けていますが、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がともに検出されています。マダガスカルでは、インフルエンザ陽性検体数が増加し、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されています。

アジアの熱帯地域

南アジアのインフルエンザの伝播は、過去数週間に比べて若干高い水準で、3種類のインフルエンザウイルスが同時に伝播しています。インドでは、インフルエンザの伝播は3月下旬にピークに達したようで、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されており、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型も少数検出されています。スリランカのインフルエンザの活動性は、今シーズン中で最も高い水準に達し、インフルエンザA(H3N2)に比べ、インフルエンザB型とインフルエンザA(H1N1)pdm09が流行しています。

中国南部のインフルエンザの伝播は3月中旬にピークに達し、検出されたウイルスは、インフルエンザA(H1N1)pdm09がほとんどでした。香港では、インフルエンザの活動性は同時期にピークに達したようですが、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出され、インフルエンザA(H3N2)も少数検出されました。香港で定点となっている一般外来診療所におけるILIの平均受診率は、受診1,000回当たり3.8でした。北米とは異なり、病院への入院が最も高かったのは0歳から4歳の年齢層でした。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域のすべての国で、現在、インフルエンザの活動性は、シーズンオフの水準で、活動性の増加が報告された国はありません。

出典

Influenza update10 May 2013 - Update number 185

http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html