結核について (ファクトシート)

2013年10月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

概要

  • 結核(TB)は単一の感染症としては、HIV/AIDSに続き、世界で2番目に死亡者数が多い疾患です。
  • 2012年には860万人が結核に罹患し、130万人が結核で死亡しました。
  • 結核による死亡の95%以上は低所得国と中所得国で発生しており、15歳から44歳までの女性の三大死因の一つです。
  • 2012年には53 万人の小児が結核を発症し、HIV陰性の小児の7万4,000人が結核で死亡したと推計されました。
  • 結核は、HIV感染者の主な死因となっており、HIV感染者の死因の4分の1を占めています。
  • 多剤耐性結核(MDR-TB)は、薬剤耐性の調査がされているほとんどの国に存在しています。
  • 結核に罹患している患者数の推計値は、非常にゆっくりとではありますが、毎年減少しており、2015年までに結核の発生を食い止め、その後、発生率を減少させるというミレニアム開発目標の達成が順調に進んでいることを示しています。
  • 結核の死亡率は1990年から2012年の間に45%減少しました。
  • WHOが推奨する直接服薬確認療法(DOTS)やストップ結核戦略の導入によって、2,200万人の生命が救われたと推計されました。

結核(TB)は細菌(結核菌)によって起こり、多くの場合、肺を冒します。結核は治療と予防が可能な疾患です。

結核は、空気感染によって、人から人に広がります。肺結核の人が咳やくしゃみをしたり、つばを吐いたりする時に、人は空気中に結核菌を出します。 人は、少量の結核菌を吸い込むだけで感染します。

世界の総人口の約3分の1は、結核菌に感染していても、発症しておらず、他の人にうつさない潜在性結核感染症に罹患しています。

結核菌に感染している人が、生涯で結核を発症するリスクは10%です。 しかし、HIV感染者、栄養失調の人、糖尿病患者、喫煙者などの免疫抑制宿主では、発症するリスクがさらに高くなります。

人が活動性結核を発症すると、症状(咳、発熱、寝汗、体重減少など)は数か月間、軽症で経過することもあります。このため、受診の遅れや、他の人に結核が伝播することになります。結核を発症した人は、1年以上の間に、濃厚接触者の10人から15人を感染させることができます。適切な治療を受けなければ、結核を発症した人の3分の2までの人が死亡します。

リスクの高い人

結核に冒されるのは、大部分が生産年齢人口の青少年です。しかし、すべての年齢層にリスクがあります。患者と死亡者の95%以上は、開発途上国で発生しています。

HIVと結核に重複感染している人は、結核を発症するリスクが21倍から34倍高くなるようです(「結核とHIV」の項を参照)。活動性結核になるリスクは、他の免疫不全状態にある人でも高くなります。

2012年には、約50万人の小児(0歳から14歳)が結核に罹患し、HIV陰性の小児の7万4,000人が結核で死亡したと推計されました。喫煙は結核を発症するリスクと死亡するリスクをさらに高めます。世界の結核患者の20%以上は喫煙に起因しています。

世界に与える影響

結核は、世界中で発生しています。2012年に、新規結核患者数が最も多かったのはアジアで、世界の新規結核患者数の60%を占めました。しかし、2012年の人口あたりの新規患者数が最も多かったのはサハラ以南のアフリカであり、人口10万人対255以上でした。

2012年に報告された結核患者の約80%は、22か国で発生しました。患者数が大きく減少した国もあれば、患者数の減少が非常に緩やかな国もあります。たとえば、ブラジルと中国は、過去20年以上にわたって、結核の患者数が持続的に減少した22か国に入っています。また、カンボジアでは、この10年間で、結核の有病率が約45%減少しました。

症状と診断

活動性肺結核の一般的な症状は、痰やときには血痰を伴う咳、胸痛、脱力感、体重減少、発熱、寝汗です。

多くの国では、依然として、結核の診断は、長く使われてきた顕微鏡による喀痰塗抹検査と呼ばれる検査に頼っています。訓練された検査技師が、顕微鏡で喀痰検体中に結核菌が存在するかどうかを見ます。3回の検査を行い、1日以内に診断することができます。しかし、この検査では、感染菌数の少ないタイプの結核の患者の多くを発見することができません。

多剤耐性結核(「多剤耐性結核」の項を参照)やHIV合併結核の診断は、さらに複雑な場合があります。現在、結核の診断と薬剤耐性の有無の確認が非常に効果的に検査できると証明された、2時間で実施できる新しい検査方法が多くに国に広がっています。

小児結核は、特に診断が困難です。

治療

結核は治療可能な疾患です。活動性で薬剤耐性のない結核は、4種類の抗菌薬を6か月間使用するとともに、医療従事者または訓練されたボランティアが、患者への情報提供、患者管理、患者支援を行う標準療法で治療されます。患者管理と患者支援がなければ、薬の服用を遵守することが困難なことがあり、疾患が広がるおそれがあります。結核患者の大部分は、薬が提供されて、適切に服用すれば治ります。

1995年以降、WHOが推奨するDOTS(直接服薬確認療法)とストップ結核戦略を導入することによって、5,600万人以上の患者が治療に成功し、推計約2,200万人の生命を救うことができました(DOTSとストップ結核戦略については後述)。

結核とHIV

活動性結核に進展していなくても、世界中でHIVに感染している人のうち、少なくとも3分の1は結核菌に感染しています。HIV感染者で、結核菌にも感染している人は、HIVに感染していない人に比べて、活動性結核を発症するリスクが30倍高くなるようです。

HIVと結核の重複感染は致命的で、双方の疾患が他方の疾患の進行を早めます。HIVと結核に重複感染している人は、活動性結核になりやすいようです。2012年には、約32万人がHIVに関連した結核で死亡しました。HIV感染者の死亡の約25%は、結核によるものです。2012年に、HIV陽性の新規結核患者が110万人発生したと推計されており、そのうちの75%はアフリカに住んでいました。

後述の通り、WHOは、結核とHIVに総合的に対応するため、感染と発症の予防及び治療と死亡を減らすための行動を含む、12項目の取組を推奨しています。

多剤耐性結核

数十年もの間、標準的な抗結核薬が使用されており、薬剤耐性も進んでいます。単一の抗結核薬に耐性を持つ菌株は、薬剤耐性の調査がされているすべての国で記録されています。

多剤耐性結核(MDR-TB)は、少なくとも、最も強力な第一選択薬(標準療法に使用される薬)であるイソニアジドとリファンピシンに耐性を示す結核菌による結核です。

MDR-TBの主な原因は不適切な治療です。抗結核薬の不適切な使用や誤った使用のほか、品質の悪い薬剤の使用は、いずれも薬剤耐性の原因になります。

耐性菌による疾患の場合、従来の第一選択薬による治療に反応しません。MDR-TBは、第二選択薬を使用することにより治療可能です。しかし、第二選択薬による治療は、選択肢が限られ、推奨された薬が常に使用できるとは限りません。長期にわたる化学療法(最大2年間の治療)が必要であり、高額になり、患者に重い副作用が発生することがあります。

場合によっては、薬剤耐性がさらに進むことになります。超多剤耐性結核(XDR-TB)は、使用できる薬剤が極めて少なく、第二選択薬の抗結核薬のうち最も効果的な薬剤も含む複数の薬剤に抵抗性を示す結核です。

2011年に、全世界で報告された肺結核患者のうち、約45万人がMDR-TBでした。そのうちの半数以上は、インド、中国、ロシア連邦で発生していました。MDR-TBの約9.6%がXDR-TBであったと推計されています。

WHOの対応

WHOは結核に対処するために、6項目の中核的な取組を進めています。

  1. 1.結核に関する重要な問題に世界的なリーダーシップを提供すること
  2. 2.根拠に基づく政策を推進すること。また、結核の予防・治療・制御のための戦略と標準対処法を推進すること。さらに、それらの実施状況のモニタリングを推進すること。
  3. 3.加盟国に技術的な支援を行い、変化を起こし、持続可能な対応能力を構築すること。
  4. 4.結核の世界的な状況をモニタリングすること。また、結核の治療、制御、財政状況に関する進展を評価すること。
  5. 5.結核に関する研究課題をまとめ、貴重な知見を見出し、翻訳し、普及すること。
  6. 6.結核対策のための関係機関との協力を促進し、関与すること。

WHOがすべての国と関係機関に実施を推奨しているストップ結核戦略は、国レベルや地域レベルで官民が以下のように行動することで、結核を劇的に減少させることを目指しています。

  1. 1.質の高いDOTSの発展と強化を続けること。DOTSは以下の5項目の要点から成る総合対策です。
    1. a.適切で継続性のある財政基盤のある安定した政治的な関与
    2. b.精度が保証された細菌学的検査による、患者の早期発見・早期診断の確保
    3. c.患者管理と患者支援のある標準療法の提供
    4. d.効果の高い薬剤の供給と管理の確保
    5. e.実績と効果のモニタリングと評価
  2. 2.結核とHIVの重複感染者、MDR-TB患者、社会的弱者のニーズを伝えること。
  3. 3.プライマリ・ヘルス・ケアに基づく保健システムの強化に関与すること。
  4. 4.すべての医療従事者が関与すること。
  5. 5.協力することで、結核患者の地位を向上させ、地域の権限を向上させること。
  6. 6.研究が容易にできるようにし、推進すること。

出典

WHO:Tuberculosis Fact sheet N°104 Updated October2013

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs104/en/index.html