性感染症について (ファクトシート)

2013年11月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 毎日100万人以上の人が性感染症(STI)に罹患しています。
  • 年間5億人が、クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒、トリコモナス症の4種類のうちのいずれかの性感染症に罹患していると推計されています。
  • 5億3,000万人以上の人が、単純ヘルペスウイルス2型(HSV‐2)による性器ヘルペスウイルス感染症に罹患しています。
  • 2億9,000万人以上の女性が、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しています。
  • 性感染症の多くが無症候性です。
  • 性感染症には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染リスクを3倍以上に高めるものもあります。
  • 性感染症自体の影響は中等度ですが、母子感染や慢性疾患を起こすことにより、重大な結果をもたらすことがあります。
  • 性感染症の薬剤耐性は、特に淋菌で問題であり、世界が受ける性感染症の影響を減少させるのに大きな脅威となっています。

性感染症とはどのような疾患で、どのように感染するのか?

性感染症は、30種類以上の細菌、ウイルス、寄生虫によって起こります。主に、膣性交、オーラルセックス(口腔性交)、アナルセックス(肛門性交)を含む性的接触によって感染が拡大します。

性感染症の中には、性的な接触によって、皮膚から皮膚に感染するものもあります。性感染症を起こす病原体は血液製剤の投与や組織移植など、性的接触以外でも起こることがあります。クラミジア、淋菌、B型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、梅毒を含む多くの性感染症は、妊娠時と出産時に母子感染することもあります。

性感染症に罹患していても無症候性のことがあります。このため、性感染症(sexually transmitted infection;STI)は性病(sexually transmitted disease;STD)よりも広義の用語です。性病の主な症状は、膣分泌物、男性の尿道分泌物、陰部潰瘍、腹痛です。

性的接触によって感染することが知られている30種類以上の病原体のうち、8種類の病原体に感染している人が最も多いです。その8種類のうち、梅毒、淋菌感染症、クラミジア感染症、トリコモナス症の4疾患は、現在、完治することが可能です。このほかの4疾患はウイルス性疾患で、B型肝炎、ヘルペス感染症、HIV感染症、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症ですが、完治することはできないものの、治療によって、軽減させたり、調整したりすることができます。

問題の広がり

性感染症は、世界の性と生殖に関する健康に重大な影響を及ぼしており、成人が医療機関を受診する5つの主要な疾患カテゴリーに含まれています。

毎日100万人以上の人が性感染症に罹患しています。 毎年、年間5億人が、クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒、トリコモナス症の4種類の性感染症のうち、1つに罹患していると推計されています。5億3,000万人以上の人が、単純ヘルペスウイルス2型(HSV‐2)に感染しています。2億9,000万人以上の女性が、最もよくみられる性感染症の1つであるヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しています。

性感染症自体の影響は中等度ですが、重大な結果をもたらすことがあります。

  • 性感染症には、HIVの感染リスクを3倍以上に高めるものもあります。
  • 性感染症の母子感染によって、死産、新生児死亡が起こることや、低出生体重児や未熟児での出産、敗血症、肺炎、新生児結膜炎と先天性奇形が起こることがあります。
    妊娠中の梅毒によって、胎児死亡及び新生児死亡が毎年約30万5,000人発生しています。また、未熟児、低出生体重児、先天性疾患によって、死亡するリスクの高い小児も21万5,000人発生しています。
  • HPVの感染によって、毎年、子宮頸がんの患者が53万人発生しており、1年間に子宮頸がんで死亡する患者は27万5,000人です。
  • 淋菌感染症やクラミジア感染症は、骨盤内炎症性疾患を起こす主要な原因となっており、周産期の合併症や不妊症が起こることがあります。

性感染症の予防

カウンセリングと行動科学的アプローチ

性感染症(HIV感染症を含む)と望まない妊娠の予防は、主にカウンセリングと行動科学的介入によって行われます。カウンセリングと行動科学的介入には、下記の内容が含まれます。

  • 包括的性教育、性感染症とHIV感染症の検査の実施前及び実施後のカウンセリング
  • 安全な性行為(セーファーセックス)とリスクを軽減するためのカウンセリング、コンドームの使用の推進
  • 若年者、性風俗に係る者(セックスワーカー)、男性間で性行為を行う者(men who have sex with men;MSM)、注射薬物使用者といった、重要で感染を受けやすい標的集団への介入

さらに、カウンセリングは、人が性感染症の症状を認識する能力を向上させ、医療機関を受診したり、性行為の相手の受診を促したりする可能性を高めます。STIの徴候を認める人々の能力を向上させることができて、彼らが世話を求めるか、性的パートナーがそうするのを奨励するという見込みを増やすことができます。残念なことに、市民の認識不足、医療従事者のトレーニング不足、性感染症を取り巻く長期間続く広範囲に及ぶ汚名が、介入の偉大でより効果的な利用に対する障害となったままです。

バリア法

コンドームは、正しく継続して使用すれば、HIVを含む性感染症に最も有効な方法の1つです。女性用コンドームも効果的で安全ですが、国の予防計画として男性用コンドームほど広く使用されていません。

性感染症の診断

高所得国では、性感染症を正確に診断するための検査は広く行われています。このような検査は、無症候性感染の診断に特に有用です。しかし、低所得国や中所得国では、診断のための検査の大部分が利用できません。検査が利用できる場所であっても、検査の費用はしばしば高価で、地理的に遠い場所で実施されており、患者は結果を受け取るために長時間待たなければなりません(または、戻ってこなければなりません)。その結果、経過観察ができなかったり、治療が不十分になったりすることがあります。

現在、性感染症の検査で、安価で迅速な血液検査が行えるのは梅毒のみです。この検査は、既に、資源が限られた状況の中でも使用されています。検査は正確で、15分から20分で判明し、最低限のトレーニングで使用できる簡単な検査です。梅毒の迅速検査によって、梅毒の検査を受けた妊婦の人数は増加しました。しかし、低所得国や中所得国のほとんどで、すべての妊婦が梅毒の検査を受けることができるように、一層の取組みが必要です。

他の性感染症の迅速検査が開発中で、特に資源が限られた状況において性感染症の診断及び治療を改善する可能性があります。

性感染症の治療

性感染症には、現在、効果的な治療法がある疾患があります。

  • 細菌による3種類の性感染症(クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒)と、寄生虫による1種類の性感染症(トリコモナス症)は、一般的には、既存の効果的な抗菌薬の単回投与で治癒します。
  • ヘルペスとHIVに対しては、疾患の経過を調節することができる抗ウイルス薬が最も有効な治療法ですが、疾患を治癒させることはできません。
  • B型肝炎に対しては、免疫を調節する作用のある薬(インターフェロン)と抗ウイルス薬によってウイルスの増殖や活動を抑制し、肝障害の進行を遅らせることができます。

性感染症、特に淋菌の薬剤耐性は、近年、急速に増加し、治療法の選択肢が減少しました。既に、ペニシリン、スルホンアミド、テトラサイクリン、キノロン、マクロライドに耐性を示していましたが、最後の選択肢(セファロスポリンの経口薬及び注射薬)に感受性が低下した淋菌の出現によって、多剤耐性淋菌となりました。淋菌よりも頻度は低いものの、他の性感染症における抗菌薬に耐性を示す菌も存在し、予防と迅速な治療が重要です。

性感染症患者の管理

低所得国と中所得国は、症状が一致した集団と容易に認識できる所見(症候群)を確認することによって、検査を行わずに治療する症候群の管理に頼っています。この手法は、しばしば臨床的アルゴリズムに頼り、医療従事者が観察された症候群に基づいて特異的な感染症を診断します。

症候群の管理は単純で、迅速で、診断当日の治療が確保され、高価または利用できない診断検査がなく行えます。しかし、この手法は、世界中で性感染症に罹患している大部分の感染者である無症候性感染者を見逃します。

ワクチンと他の生物医学的介入

性感染症のうち、B型肝炎とHPVの2疾患には、安全で大変効果的なワクチンがあります。この2疾患に対するワクチンは、性感染症の予防において、大きな前進でした。B型肝炎ワクチンは、世界の国の93%で小児の予防接種計画に含まれ、既に、慢性肝疾患とがんによる死亡を130万人防いだと推計されています。

HPVワクチンは45か国で定期の予防接種の一部に含まれており、導入している国のほとんどが高所得国と中所得国です。今後10年間で、子宮頸がんの患者のほとんどが発生している低所得国と中所得国においてHPVワクチンの接種率が70%に達することが可能であれば、400万人以上の女性の死亡を防ぐことができます。

ヘルペスとHIVに対するワクチンを開発するための研究が進められていますが、どちらのウイルスに対しても有効性が期待できるワクチンの候補はありません。クラミジア、淋菌、梅毒、トリコモナスに対するワクチンの研究は初期の段階にあります。

他の生物医学的介入には成人男性の包皮の環状切除や医薬品があります。

  • 男性の包皮の環状切除は、男性において、異性間の性的接触によってHIVに感染するリスクを約60%低下させ、ヘルペスやHPV等の他の性感染症にもある程度の予防効果があります。
  • 抗ウイルス薬であるテノフォビルのゲルは、女性のHIV感染を予防する可能性があり、2010年に臨床試験の早期段階であるPOC(proof of concept)試験の段階に到達しました。安全性と有効性の承認を得るための更なる臨床研究が進められています。

性感染症の広がりを封じ込めるためには現在の取組では不十分である

行動変容は複雑である

リスクの高い性行動を減らすことができる簡単な介入方法を確認するために相当の取組が行われていますが、行動変容は依然として複雑な課題です。研究では、慎重に限定された集団に焦点をあて、標的集団に広く協議し、標的集団を計画、実施、評価に関与させる必要性が示されています。

性感染症のスクリーニングと治療に関する保健サービスは依然として脆弱である

性感染症の検査と治療を求めている人々は、多数の問題に直面します。その問題には、限られた資源、汚名、質の悪いサービス、性的パートナーの経過観察がほとんどできないか、あるいはまったくできないということが含まれます。

  • 多くの国では、性感染症に関するサービスは分けられて提供されており、プライマリー・ヘルス・ケアや家族計画、その他の通常の保健サービスの中で提供されていません。
  • 多くの環境では、トレーニングや検査耐性のほか、適切な医薬品の供給不十分であり、しばしば無症候性感染者にスクリーニング検査を提供することができません。
  • 性風俗に係る者、MSM、注射薬物使用者、受刑者、移民、若年者等の性感染症の罹患率が高く阻害された集団は、しばしば適切な保健サービスを利用しません。

WHOの対応

WHOは、性感染症の治療と予防について国際標準化し、サーベイランスとモニタリング(薬剤耐性淋菌の監視を含む)を強化し、性感染症に関する世界的な研究課題の設定を行います。

WHOが行う業務は、「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals;MDGs)」において示された3つの目標(4乳幼児死亡率の削減、5妊産婦の健康の改善、6HIV・エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止)、2006年の世界保健総会で採択された「性感染症の予防と制御に関する世界戦略」、2010年に国連事務総長が示した「女性と子どもの健康の実現に向けたグローバル戦略(HIVや他の性感染症の予防に関する情報やサービスを含む重要な介入方法の総合的・包括的な施策の必要性が強調された戦略)」に従っています。

WHOは、以下の項目について、加盟国と連携しています。

以下の項目を含む効果的な性感染症に関するサービスの拡大

  • 性感染症の患者管理とカウンセリング
  • 特に妊婦に対する梅毒の検査と治療
  • B型肝炎ワクチンとHPVワクチン

性感染症予防効果を強化する戦略の推進

  • 既存の保健システムにおける性感染症に関するサービスを統合すること
  • 性の健康(セクシャル・ヘルス)の推進
  • 性感染症の疾病負荷の計測
  • 性感染症に使用される抗菌薬の耐性のモニタリングと対応

性感染症の予防のための新たな技術開発の支援

  • 性感染症のポイント・オブ・ケア検査(患者の身近な場所で実施可能な検査)
  • 淋菌に対する代替治療薬
  • 性感染症に対するワクチンや他の生物医学的介入

出典

WHO Sexually transmitted infections(STIs)Fact sheet N°110
Updated November2013

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs110/en/index.html