リーシュマニア症について (ファクトシート)

2014年1月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • リーシュマニア症には3種類の主な病型があります。内臓リーシュマニア症(カラ・アザールとしても知られ、最も重篤な病型です)、皮膚リーシュマニア症(最も頻度が高い病型です)、皮膚粘膜リーシュマニア症があります。
  • リーシュマニア症は、寄生虫のリーシュマニア原虫によって起こり、感染したサシチョウバエに刺されることで感染します。
  • この疾患は、世界で最も貧しい人々に影響を与え、栄養失調、人口の移動、貧しい住宅、免疫機能の低下、資源の欠如と関連します。
  • リーシュマニア症は、森林伐採、ダムの建設、灌漑計画、都市化などの環境変化に関連します。
  • 1年間に130万人の新たな患者が発生し、2万人から3万人が死亡していると推計されています。

リーシュマニア症は、20種を超えるリーシュマニア原虫によって起こり、感染した雌の吸血性サシチョウバエに吸血されることで感染します。リーシュマニア症には3種類の主な病型があります。

  • 内臓リーシュマニア症(カラ・アザールとしても知られています)
    治療しなければ致死的です。不規則な発熱期がみられるほか、体重減少、肝脾腫、貧血が特徴的です。インド亜大陸と東アフリカで多く常在しています。世界では1年間に20万人から40万人の新たな患者が発生していると推計されています。新たな患者の90%以上は、バングラデシュ、ブラジル、エチオピア、インド、南スーダン 、スーダンの6か国で発生しています。
  • 皮膚リーシュマニア症
    最も頻度が高い病型です。感染した部位に潰瘍が生じ、生涯に渡って瘢痕が残り、重篤な障害が起こります。患者の約95%は、アメリカ大陸、地中海沿岸地域、中東、中央アジアで発生しています。新たな患者の3分の2以上は、アフガニスタン、アルジェリア、ブラジル、コロンビア、イラン、シリアの6か国で発生しています。世界では、1年間に70万人から130万人の新たな患者が発生していると推計されています。
  • 皮膚粘膜リーシュマニア症
    鼻、口、咽喉の粘膜の一部または全部が破壊されます。患者の約90%は、ボリビア、ブラジル、ペルーで発生しています。

伝播

リーシュマニア症は、感染した雌のサシチョウバエに吸血されることで感染します。リーシュマニア症の疫学は、原虫の特徴、伝播が起きている地域の生態学的特徴、現在及び過去における集団の原虫への暴露、人間の行動によって異なります。

地中海沿岸地域

地中海沿岸地域では、内臓リーシュマニア症が主な病型です。農村部や山岳地帯の村のほか、都市周辺部でも発生しており、リーシュマニア原虫は犬や他の動物に寄生しています。

東南アジア

東南アジアでは、内臓リーシュマニア症が主な病型です。一般的に、伝播は海抜600m未満の農村部で発生し、1年を通して多雨であり、平均湿度は70%以上、気温は15℃から38℃の地域であるほか、植物や地下水、沖積土が豊富な地域で発生しています。土壁や土間のある家が多く建設され、牛やその他の家畜が人間の近くで生きている農村で最もよくみられます。

東アフリカ

東アフリカでは、北部のアカシアやバラニテスが生えているサバンナ、南部のサバンナ、森林地帯において、シロアリの塚の周辺でサシチョウバエが生息し、内蔵リーシュマニア症の集団発生が頻繁に起こっています。皮膚リーシュマニア症は、東アフリカのエチオピア高原やその他の場所で発生しており、ハイラックス(イワダヌキ)の自然生息地である岩の丘や川岸の村で、人とハエの接触が増加した場所で発生しています。

アフロ・ユーラシア大陸

アフロ・ユーラシア大陸では、皮膚リーシュマニア症が主な病型です。農業計画や灌漑計画は、疾患に対して免疫のない人々がその計画に従事するので、皮膚リーシュマニア症の有病率が増加することがあります。

人口が密集した市でも、特に戦争中や大規模な人口の移動がある時に、大規模な集団発生が起こります。

皮膚リーシュマニア症を起こす寄生虫は、主に人やげっ歯類に寄生しています。

アメリカ大陸

アメリカ大陸におけるカラ・アザールの発生状況は、地中海沿岸地域と非常に似ています。家の中で犬や他の動物を飼う習慣によって、人への感染を助長していると考えられます。

アメリカ大陸における皮膚リーシュマニア症の疫学は複雑で、伝播のサイクル、保有宿主、媒介するサシチョウバエ、臨床症状、治療への反応性が異なり、同じ地域に複数のリーシュマニア種が流行しています。

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症

カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症は、内臓リーシュマニア症の後遺症で、通常、顔、上腕、体幹や他の部位に、斑、丘疹、結節が出現します。これは、主に東アフリカやインド亜大陸で発生しています。東アフリカではカラ・アザールの患者のうち最高で50%、インド亜大陸では5%から10%の患者で、この後遺症が進行します。通常、カラ・アザールが治ったように見えた後、6か月から1年以上経過して起こりますが、それよりも早期に起こることもあります。カラ・アザール後皮膚リーシュマニア症になった人は、カラ・アザールの潜在的な感染源であると考えられています。

リーシュマニアとHIVの重複感染

リーシュマニアとHIVに重複感染した人は、臨床症状が最も悪化する場合が多く、再発率と死亡率も高いです。抗レトロウイルス薬による治療は、重複感染した人の疾患の進行を抑え、再発を遅延させ、生存率を増加させます。

主なリスクファクター

社会経済的な状況

貧困によって、リーシュマニア症のリスクが高まります。住宅が貧しく家庭内の衛生状況が不十分(例えば廃棄物の管理が不十分、排泄物が密閉されていないなど)であると、サシチョウバエの繁殖場所と生息場所が増え、人間に近寄りやすくなるかもしれません。サシチョウバエは、良い吸血源である混雑した住宅に引きつけられます。屋外や地面の上で寝るといった人間の行動はリスクを高めるかもしれません。殺虫剤で処理された蚊帳を使用することでリスクが低下します。

栄養失調

タンパク質、鉄、ビタミンA、亜鉛が不足している食事は、感染してカラ・アザールに進展するリスクを高めます。

人口の移動

リーシュマニア症の主な2種類の病型は、既存の伝播サイクルの中に免疫を持たない人々が移動することと、しばしば関連します。森林伐採と同様に、職業的な暴露は依然として重要な要因となっています。例えば、森林であった地域に住む人々は、サシチョウバエの生息地の近くに移動しているのかもしれません。この移動によって、患者数の急激に増加することがあります。

環境の変化

リーシュマニア症の罹患率に影響を与える環境の変化には、都市化、家畜の伝播サイクル化、農場への進入、森林地帯での開拓が含まれます。

気候の変化

リーシュマニア症は気候に敏感で、降雨量、気温、湿度の変化に強く影響されます。地球温暖化と土地の退廃は、いずれもリーシュマニア症の疫学に影響を及ぼします。

  • 気温、降雨量、湿度の変化は、媒介するサシチョウバエと保有宿主の分布を変え、生存と集団の大きさに影響を及ぼすため、大きく影響します。
  • 気温の小さな変動は、サシチョウバエの中のリーシュマニア原虫の前鞭毛型の発育周期に大きな影響を及ぼし、以前にはこの疾患が常在していなかった地域で、寄生虫が伝伝播することが可能となります。
  • 気候の変化による干ばつ、飢饉、洪水は、リーシュマニア症が伝播している地域への人の大規模な移動を招き、栄養失調で免疫機能が低下することがあります。

診断と治療

内臓リーシュマニア症は、臨床所見と寄生虫学的検査または血清学的検査(迅速診断検査やその他の検査)を組み合わせることによって診断されます。皮膚リーシュマニア症と皮膚粘膜リーシュマニア症では、血清学的検査の価値は限られています。皮膚リーシュマニア症は、臨床症状と寄生虫学的検査によって診断が確定されます。

リーシュマニア症の治療は、病型、寄生虫の種類、地理的な位置を含むいくつかの要因に依存します。 リーシュマニア症は治療可能な病気です。内臓リーシュマニア症と診断されたすべての患者は、速やかに治療を完了する必要があります。さまざまな病型の地理的な位置による治療に関する詳細な情報は、WHOテクニカル・レポート・シリーズ949「リーシュマニア症の制御」に示されています。

予防と制御

リーシュマニア症の伝播は、人、寄生虫、媒介するサシチョウバエ、いくつかの動物の保有宿主が関与する複雑な生態系の中で起こっているため、リーシュマニア症の予防と制御は、介入戦略を組み合わせる必要があります。重要な戦略は以下の通りです。

  • 早期発見と効果的な患者管理によって、疾患の有病率を減少させ、障害と死亡を防ぐ。現在、特に内臓リーシュマニア症に対して非常に効果的で安全な抗リーシュマニア薬があり、これらの薬の入手しやすさは改善されています。
  • ベクターコントロールは、特に家の中でサシチョウバエを制御することによって、疾患の伝播を減らしたり阻止したりするのに有用です。制御の方法には、殺虫剤の噴霧、殺虫剤で処理された蚊帳の使用、環境管理、個人予防が含まれます。
  • 効果的な疾患のサーベイランスは重要です。患者の早期発見と早期治療は、疾患の伝播を減らし、拡大や疾病負荷の監視に有用です。
  • 保有宿主制御は複雑であり、地域の状況に合わせなければなりません。
  • 社会的な動員と関係強化-地域に合わせたコミュニケーション戦略による効果的な行動変容の介入を伴う地域の動員と教育。各段階において、様々な関係者やその他のベクター媒介性の疾患の制御計画と関係及び連携が重要です。

WHOの対応

WHOはリーシュマニアを制御するために、以下の対応を行っています。

  • 国におけるリーシュマニア症の制御計画を支援する。
  • リーシュマニア症の世界的な負荷に関する注意喚起と普及啓発を行う。疾患の予防と患者管理のために医療サービスの公平な利用を推進する。
  • リーシュマニア症の予防と制御に関する根拠に基づく政策の指針、戦略、基準を発展させ、予防と制御の実施を監視する。
  • 加盟国に対し、持続可能で効果的なサーベイランスシステムと、流行時への備え及び対応計画を構築するための技術的支援を提供する。
  • 関係者やその他の団体における連携及び協力を強化する。
  • リーシュマニア症の世界的な状況、傾向を監視し、疾患の制御の進展と財政を評価する。
  • 安全で効果的で入手可能な薬、診断方法、ワクチンの分野を含む、効果的なリーシュマニア症の制御に関する研究を推進する。研究結果の普及を促進する。

出典

WHOLeishmaniasisFact sheet N°375Updated January2014

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs375/en/index.html