黄熱について(ファクトシート)

2014年3月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 黄熱は感染蚊により伝播される急性ウイルス性の出血性疾患です。“イエロー(黄色)”の名称は患者の一部で黄疸を来すことに由来しています。
  • 治療しなければ重症者の50%が黄熱で死亡します。
  • 世界中(90%はアフリカでの発生)で毎年20万人の患者が発生しそのうち3万人が死亡していると推定されています。
  • アフリカとラテンアメリカの熱帯地域で地域流行しており、両地域には9億人以上の住民がいます。
  • 黄熱の患者数は、感染へ免疫のある人口の減少、森林伐採、都市化、人口移動と気候変動で過去20年にわたり増加しました。
  • 黄熱に特異的な治療法はありません。治療は対症的に行われ、患者の症状を緩和することを目指します。
  • 予防接種は黄熱に対し、最も重要な予防方法です。ワクチンは安全で、手ごろな価格であり、非常に効果的です。、そして1回の黄熱ワクチン接種で黄熱に対し十分な免疫が獲得され、生涯免疫を維持することができ、追加接種(ブースター)を行う必要はありません。ワクチンにより接種した人の99%が30日以内に効果のある免疫を得ます。

所見と症状

感染すると3-6日の潜伏期間後、1期または2期の症状が続きます。第1期は「急性」期で通常発熱、背部に顕著な筋肉痛、頭痛、悪寒、食欲減退、嘔気、嘔吐が出現します。ほとんどの患者は回復し、3-4日後に症状は消退します。

しかし患者の15%は最初の寛解の24時間以内に、より中毒期である第2期に移行します。再び高熱となり、いくつかの器官が冒されます。患者は急速に黄疸が出現し、嘔吐を伴う腹痛を訴えます。口、鼻、目や胃から出血することがあります。出血が起こると、嘔吐物や便に血液が混じります。腎機能が悪化します。中毒期に入った患者の半数は10-14日以内に死亡し、残り半数は重大な臓器障害を伴わずに回復します。

黄熱は、特に初期には、診断するのが困難です。重症マラリア、デング出血熱、レプトスピラ症、ウイルス性肝炎(特に劇症型のB型とD型肝炎)、他の出血熱(ボリビア、アルゼンチン、ベネズエラ出血熱や、ウエストナイル、ジカウイルスなどの他のフラビウイルスによるもの)、そして中毒等の他の疾患と混同されることがあります。血液検査で感染応答として作られる黄熱抗体を検出できます。いくつかの他の技術が、血液検体や死後採取された肝組織中のウイルスを同定するために用いられています。これらの検査には、高度に訓練された検査職員や専門的機器と試薬が必要です。

リスクのある人々

アフリカとラテンアメリカの44の地域流行国の9億人以上住民が(感染の)危険に晒されています。アフリカでは31か国に住む、推定5億800万人が危険に晒されていると推定されています。残りのリスクのある人々は、ラテンアメリカの13カ国の住民で、最もリスクの高いのはボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルーです。

WHOの推定によると、1990年代の初めから、毎年全世界で3万人の死亡者を伴う20万人の黄熱患者が発生し、そのうち90%はアフリカで発生しています。今年後半に出版されることになっているアフリカのデータの最近の分析でも同じような数値が推定されていますが、2013年のアフリカにおける黄熱症例は8万4000人から17万人の重症例と2万9000人から6万人の死亡例と、わずかに少なくなっています。予防接種をしなければ、数値はずっと高値でしょう。

黄熱の常在しない国ではわずかな輸入症例があります。

アジアで黄熱の報告はされていませんが、感染流行に必要な条件が存在しているため、リスクはあります。

過去(17-19世紀)には、北アメリカ(チャールストン、ニューオーリンズ、ニューヨーク、フィラデルフィアなど)やヨーロッパ(イギリス、フランス、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン)で黄熱の発生が報告されています。

伝播

黄熱ウイルスはフラビウイルス属のアルボウイルスであり、蚊が最も重要な媒介物です。

蚊は宿主から他へとウイルスを伝搬し、最も重要なのはサルの間によるものですが、サルからヒトへ、そしてヒトからヒトへ伝搬します。

Aedes属(シマカ)とHaemogogus属のいくつかの異なる種の蚊がウイルスを媒介します。蚊は家屋周辺(domestic)か密林湿地帯(wild)か、または両方の生息地(semi-domestic)で繁殖します。3つのタイプの伝搬サイクルがあります。

  • 森林(または密林湿地帯)型黄熱:熱帯雨林で、野生の蚊から感染したサルで黄熱が発生します。感染したサルから吸血した蚊がウイルスに感染します。感染した蚊が森林に入ったヒトを刺し、黄熱の偶発症例が発生します。感染の多くは森林で働く(例えば伐木)若い男性に起こります。
  • 中間型黄熱:アフリカの湿地地域、または半湿地地域で、小規模の流行が起こります。集落の周囲(semi-domestic)に生息する蚊(野外と家屋の周りに生息する)はサルとヒトの両方を感染させます。ヒトと感染した蚊の接触が増加すると伝搬につながります。

同じ地域にある離れた多くの村で同時に症例が発生し得ます。これはアフリカにおける最も多い発生形式です。家屋周辺に蚊が生息しており、ワクチンを受けていない人々が住んでいる地域に、もし感染が伝搬したら、発生はより厳しい流行になりえます。

  • 都会型黄熱:免疫のない人が大勢居住し、シマカが生息している人口密度の高い地域に、感染した人がウイルスを持ち込むと大流行が起こります。感染蚊がヒトからヒトへウイルスを伝搬します。

治療

黄熱に特異的な治療法はなく、脱水、呼吸不全、発熱に対する支持療法があるだけです。細菌感染があれば抗生剤での治療が行われます。支持療法は重症患者の予後を改善するかもしれませんが、より貧困な地域ではめったにされません。

予防

1.予防接種

予防接種は黄熱を予防するたった1つの最も重要な方法です。予防接種の普及率の低いハイリスクの地域では、迅速な認識と予防接種による発生の制御は流行を回避するために重要です。感染地域全域での発生を避けるため、予防接種の普及率は、リスクのある住民の少なくとも60%-80%に到達すべきです。アフリカにおいて、最近の集団予防接種キャンペーンを実施した地域流行国でこのレベルの普及率がある国はほとんどありません。

リスクのある国では、小児の定期予防接種と予防接種の普及率を上げるための一回集団接種キャンペーンを通じて予防的なワクチン接種を提供することができ、黄熱流行地域への旅行者へも予防接種を提供することができます。

WHOは、リスクのある地域の子供たちに対して定期黄熱予防接種を強く推奨します。

黄熱ワクチンは安全で手頃な価格であり、80-100%の人で10日以内に黄熱に対する効果的な免疫がつき、30日以内では99%に免疫がつきます。1回の黄熱ワクチンで黄熱に対し十分な免疫が獲得され、生涯予防するのに十分な免疫を得ることができ、黄熱ワクチンの追加接種(ブースター)を行う必要はありません。

重篤な副反応は極めて稀です。稀にいくつかの地域流行域での予防接種後や接種を受けた旅行者(例えばオーストラリア、ブラジル、ペルー、トーゴ、アメリカ合衆国)で重篤な副作用が報告されています。科学者は原因を調査しています。

60歳を越える人での黄熱ワクチンの使用に関しては、60歳以上の黄熱ワクチン関連内臓疾患のリスクは若い世代よりは高いが、全体としてのリスクは低いと指摘されています。黄熱に感染するリスクと、以前予防接種をうけたことがなく、ワクチンが推奨される60歳以上の人に対する予防接種後の重篤な副作用のリスクを比較して、予防接種は注意深いリスク-受益性評価後に接種されるべきです。

黄熱による死亡のリスクは、ワクチンに関連するリスクよりずっと大きいです。ワクチンを推奨されない人は以下の通りです。

  • 9か月未満の幼児(またはワクチンの副作用より疾患リスクの高い地域での流行時には6-9か月);
  • 妊婦-感染のリスクが高い黄熱発生期間を除く
  • 卵タンパクの重度のアレルギーの人;そして
  • HIV/AIDSまたは他の原因で重症の免疫不全状態の人、または胸腺疾患がある人

旅行者、特にアフリカやラテンアメリカからアジアへの旅行者は黄熱予防接種証明書がなければなりません。

もし予防接種をしない医学的根拠がある場合、国際保健規則は適切な当局によりこれを証明されなければならないと言明しています。

2.蚊のコントロール

ある状況においては、予防接種が効果を発揮するまで蚊のコントロールはきわめて重要です。

都会での黄熱伝搬のリスクは、蚊の生息場所の除去と最も初期の段階で繁殖する水に駆虫剤を投与することで低減できます。都会で流行期間中、成虫の蚊を殺すためのスプレー殺虫剤の使用と緊急予防接種キャンペーンの組み合わせは、黄熱の伝搬を低減したり阻止することができ、接種された住民に免疫ができるまでの「時間稼ぎ」になります。

歴史的に、蚊のコントロールキャンペーンは、都市型黄熱を媒介するネッタイシマカを中南米本土のほとんどの国から排除するのに成功しました。

しかし、この蚊はその地域の都市部で確認され、都市型黄熱の新たなリスクが再燃しています。

森林地域を対象とした蚊のコントロール計画は密林湿地帯(または森林)の黄熱伝搬を防ぐためには現実的ではありません。

3.流行への備えと対応

黄熱の迅速な探知と緊急予防接種キャンペーンによる迅速な対応は発生をコントロールするためにきわめて重要です。しかし、実際より少ない報告が懸念されています。-本当の症例数は今報告されている数の10倍から250倍であると推定されています。

WHOは、各リスク国が基本的な黄熱血液検査のできる国立検査センターを少なくとも一カ所持つことを推奨しています。

検査で確定診断された症例が、予防接種を受けていない住民の中で発生すれば流行発生が考えられますが、どのような背景での確定症例も、特にほとんどの住民が予防接種を受けているような地域での発生は、十分に調査されるべきです。調査チームは、緊急対応と長期の予防接種計画の両方をもって、流行発生を評価し対処しなければなりません。

WHOの対応

WHOはInternational Coordinating Group for Yellow Fever Vaccine Provision(ICG)(黄熱ワクチン供給国際調整グループ)の事務局です。

ICGは、ハイリスク国での流行発生へ迅速に対応をするため、黄熱ワクチンの緊急用備蓄を保存しています。

黄熱イニシアチブはユニセフと各国政府の支援の元、WHOが行っているワクチンによる予防的制御戦略です。黄熱が顕著なアフリカの最も高流行国に特に力を入れています。

イニシアチブは小児の定期予防接種(9か月で開始する)に黄熱ワクチンを入れること、ハイリスク地域の9か月以上のすべての年齢の住民に対する集団予防接種キャンペーンを行うこと、サーベイランスと流行発生対応を維持することを推奨しています。

2007年-2012年の間に12か国で黄熱予防接種キャンペーンが実施されました:ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、コートジボワール、ガーナ、ギニア、リベリア、マリ、セネガル、シエラレオネ、トーゴです。

黄熱イニシアチブは財政的にGAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)、EC人道援助局(ECHO)、Central Emergency Response Fund(CERF)(中央緊急対応基金)、保健省、国家レベルのパートナーにより支援されています。

参考

WHO.Yellow fever.FactsheetN°100.Updated March2014.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs100/en/