メジナ虫症(ギニア虫症)について (ファクトシート)
2014年3月 WHO (原文[英語]へのリンク)
要点
- メジナ虫症は、根絶途上にある重症の寄生虫症であり、2013年に報告された患者数は148人だけでした。
- この疾患は、もっぱら、安全な飲料水を確保することができない人か、ほとんどできない人が、寄生虫に感染したミジンコに汚染された水を摂取することで感染します。
- 1980年代中頃には20か国に常在していましたが、2013年に患者の報告があったのはわずか4か国のみで、いずれもアフリカの国でした。
- 大部分の患者(患者の76%)は南スーダンで発生しました。
- 感染してから、成虫が体外に出るまでの生活環が完了するまで、10か月から14か月かかります。
メジナ虫症(ギニア虫症)は長い糸状のメジナ虫(Dracunculus medinesis) によって起こる重症の寄生虫症です。この疾患は、もっぱら、寄生虫に感染したミジンコで汚染された水を摂取することで感染します。
メジナ虫症で死亡することは稀ですが、感染した人は数ヶ月間障害のため働けなくなります。農村の貧しく孤立した地域に住む、飲料水を主に池の水などに依存している人々に感染します。
問題の展望
1980年代中頃には20か国で350万人の患者が発生していたと推計されており、そのうち17か国はアフリカの国でした。報告される患者数は、1990年代に減少し、2007年には1万人未満になりました。患者数はさらに減少し、2010年には1,797人、2011年には1,058人、2012年には542人、2013年には148人でした。
2013年時点で、1年間の罹患率は、1980年代中頃に比べて99%以上減少しました。現在、患者の発生が報告されているのは、チャド、エチオピア、マリ、南スーダンで、南スーダンとの国境のスーダンでは3症例が発生したと報告されました。
伝播・生活環・潜伏期間
感染してから約1年で、有痛性の水疱が生じます。水疱の90%は下肢にみられます。そして、灼熱感を伴って、1匹以上の虫が体外に出てきます。灼熱感を和らげるため、患者はしばしば感染部位を水に浸けます。その虫から、何千もの幼虫が水の中に放出されます。幼虫は、小さな甲殻類やカイアシ(ミジンコ)に摂取された後、感染性を有するようになります。
人は感染したミジンコで汚染された水を摂取することによって感染します。ミジンコは胃の中で死にますが、感染性のある幼虫は放出され、腸壁を貫き、体内に移行します。受精した雌虫(60cmから100cm)は皮下組織を移動し下肢へ達します。そこで水疱又は腫瘤を形成し、機会を待って体外へ出ていきます。感染してから成虫が体外に出るまで10か月から14か月かかります。
予防
この疾患を予防するワクチンや治療薬はありません。しかし、根絶途上にあるこの疾患の予防戦略によって予防することはできます。戦略には、下記の対策があります。
- メジナ虫が体外にでてから24時間以内に患者を発見するためにサーベイランスを強化する
- 成虫が完全に体外に出るまでの間、症状の見られた部位を定期的に処置し、清潔にし、包帯をする
- 成虫の伝播を防止するため、患者に対し水中を歩いて渡ることを避けるよう助言し、それにより、飲料水の汚染を防止する
- 感染を予防するために、飲料水の供給を改善し、広く提供できるようにする
- 池などの水は飲む前に濾過すること
- 幼虫駆除剤であるテメフォス(temephos)によるベクター
- コントロールの実施
- 健康教育や行動を改めることの啓発
根絶への道のり
1981年5月、「国際飲料水供給と衛生の10年(1980年~1990年)」のために協調した行動を行うための関係機関の運営委員会は、この10年の達成目標の指標として、メジナ虫の排除を盛り込むことを提案しました。同年、WHOの意思決定会議である保健総会(WHA)において、「国際飲料水供給と衛生の10年」がメジナ虫症の排除の機会を示したことを認識する決議(WHA34.25)が採択されました。これは、WHOと米国疾病予防管理センター(CDC)が主導し、根絶キャンペーンのために戦略や技術的指針を作成しました。
1986年、カーターセンターがこの疾患との戦いに参加し、根絶活動の最前線にいたWHOや国連児童基金(UNICEFF)と協力しました。2011年には、この取り組みをさらに推進するために、世界保健総会で、メジナ虫が常在するすべての加盟国に対し、伝播の阻止を推進し、メジナ虫の根絶を証明するための全国的なサーベイランスの強化が要請されました。
国の証明
メジナ虫症が根絶されたことを宣言するためには、国は伝播がないことを報告し、その後、最低3年間は積極的なサーベイランスを維持する必要があります。
その後、根絶を証明するための国際的なチームがその国を訪問し、サーベイランスが適切に行われているかを評価し、メジナ虫の患者ではないかと噂された事例の調査記録や講じた対策を再調査します。
感染が起こっていた地域の飲水源が改善されているかなどの指標が調査され、伝播がないことを確定するために、村落で評価が行われます。また、再度、疾患が持ち込まれるリスクも評価されます。最終的に評価をするため、メジナ虫症根絶証明国際委員会(International Commission for the Certification of Dracunculiasis Eradication; ICCDE)に報告書が提出されます。
1995年以降、ICCDEは9回開催され、その推奨に基づき、WHOは197の国と地域(185の加盟国が所属している)でメジナ虫症の発生がないと認定しました。
進行中のサーベイランス
WHOは、最近になってメジナ虫の伝播がなくなった国では、最低3年間、積極的なサーベイランスが継続されることを推奨しています。これは、見逃された症例がないことを確認し、疾患の再興がないことを保証するために重要です。
この疾患の潜伏期間は10か月から14か月なので、見逃された患者が1人いると、根絶への取り組みが1年以上後退することになります。疾患が再興する事例が出ており、エチオピアでは、国の根絶計画が、伝播が阻止されたと声明を出しましたが、2008年に再興しました。また、最近の事例として、チャドでは約10年間、患者発生はありませんでしたが、2010年に再興しました。
14か月間以上連続して患者の発生が報告されていない国では、伝播が阻止されたと考えられます。その後、根絶証明の前段階として、最低3年間、サーベイランスを強化し続ける必要があります。根絶が証明された後も、世界での根絶が宣言されるまでは、サーベイランスを継続する必要があります。
課題
最後に残っている患者は通常、遠隔地で、頻繁には訪れることができない農村部で発生するため、その患者の発見と感染拡大防止は、根絶までの課程において最も困難で費用がかかる段階となることがあります。
特に、依然として患者が発生しているチャドやエチオピア、マリ、南スーダンでは、感染流行地域に到達できないことが大きな制限になっています。
チャドでは、シャリ川流域でイヌの中で疫学的に通常ではない疾患が発生していると報告がありました。何頭かのイヌで、一般的にはヒトでみられるような虫の体外への放出が確認され、それは2012年、2013年のリスク地域と同じ地域でした。集中的な疫学調査とさらなる研究が現在行われています。
同時に、症例数が減少すると自己満足により財政支援や興味の減少につながり、また明らかな効果の見えないサーベイランス期間にもそれらが縮小することがあります。
WHOの対応
WHOは、技術的な指針を提供し、根絶活動を調整し、メジナ虫症の発生のない地域のサーベイランスを強化し、根絶のための啓発を行っています。
WHOは、ICCDEの推奨に基づき、メジナ虫症の発生がない国を認定する唯一の期間です。ICCDEは9人の公衆衛生専門家で構成されています。この委員会はメジナ虫症の根絶証明を求めた国の伝播の状況を評価し、特定の国を伝播がない状態として認定するかどうかを推奨する必要がある場合に開催されます。
出典
Fact sheet N°359 (Revised)Updated March2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs359/en/