土壌伝播蠕虫感染症について (ファクトシート)

2014年4月 WHO (原文[英語]へのリンク)

要点

  • 土壌伝播蠕虫感染症はさまざまな種類の寄生虫によって起こります。
  • 土壌伝播蠕虫感染症はヒトの糞便中の虫卵によって伝播されます。その糞便は衛生施設の悪い地域で土壌を汚染します。
  • 世界でおよそ20億の人々が土壌伝播蠕虫に感染しています。
  • 感染した小児は身体的障害、栄養障害、そして認知障害を受けます。
  • 制御は以下のようにして行われます。
    • 感染虫を排除するための定期的な駆除
    • 再感染を防ぐための健康教育
    • 感染卵をもつ土壌汚染を減らすための衛生改善
  • 安全で効果的な薬剤が感染を制御するために利用することができます。

土壌伝播蠕虫感染症は世界で最もありふれた感染症です。そして、それらは最も貧しいそして最も恵まれない地域に影響を与えます。土壌伝播蠕虫感染病はヒトの糞便中の虫卵によって伝搬され、その糞便は次々に衛生施設の悪い地域で土壌を汚染します。ヒトに感染する主な種は、回虫 (Ascaris lumbricoides)、鞭虫(Trichuris trichiura)、鉤虫 (Necator americanusAncylostoma duodenale)です。

世界的な分布と罹患率

世界中で15億人以上の人々、あるいは世界人口の24%が土壌伝播蠕虫に感染しています。感染症は熱帯と亜熱帯地域に広く分布し、その大多数がサハラ以南のアフリカ、アメリカ、中国と東アジアで起きています。

2億7,000万人の就学前小児と6億人以上の学童児が、これらの寄生虫が集中して伝搬される地域に住んでおり、治療と予防の介入を必要としています。

伝播

土壌伝播蠕虫感染症は感染者糞便を通過した虫卵によって起こされます。成虫は腸に寄生し、毎日何千という卵を産みます。適切な衛生設備を欠いた地域では、これらの虫卵は土壌を汚染します。これにはいくつかの経路があります。

  • 野菜が十分に料理、洗浄、皮むきをされていない場合に、野菜に付着した虫卵が摂取されます。
  • 虫卵は汚染された水源からも摂取されます。
  • 子どもが土遊びをした後、手を洗わず口に入れた場合に虫卵が摂取されます。

鉤虫の虫卵は土の中で孵化して、活動的に皮膚に侵入成熟した幼虫となります。多くはヒトが裸足で汚染された土の上を歩くことで鉤虫に感染します。

糞便から出た虫卵は感染性を持つ前に土の中でおよそ3週間成熟が必要なので、ヒトからヒトへの直接感染、あるいは新鮮な糞便からの感染はありません。蠕虫はヒトの体内では繁殖しないので、再感染は環境内の感染性をもつ段階での接触の結果です。

有症率と症状

有症率は寄生する虫の数と関係します。わずかな感染数なら無症状です。より重度の感染では、消化器症状(下痢、腹痛)、全身倦怠感や脱力、認知障害や身体の発達障害を含む様々な症状を起こします。鉤虫は貧血をもたらし得る慢性の腸管出血を起こします。

栄養学的影響

土壌伝播蠕虫は様々な面で感染者の栄養状態を害します。

  • 寄生虫は、血液を含む宿主の組織を栄養源とするので、鉄とタンパク質の喪失につながります。
  • 寄生虫は栄養の吸収不良を増大させます。加えて、回虫は腸でビタミンAを奪い取る可能性があります。
  • いくつかの土壌伝播蠕虫ではまた食欲不振をきたし、そのため栄養摂取量と体力の低下が起こります。特に、

.trichiura(鞭虫)は下痢や血便を起こすことがあります。

土壌伝播蠕虫によって引き起こされた栄養障害は成長と発達に深刻な影響を与えることが認められています。

制御のためのWHOの戦略

土壌伝播蠕虫感染症の制御のための戦略は、流行する地域に住んでいるリスクのある人々を定期的に治療することを通して有症率を制御することです。
リスクのある人々とは;

  • 就学前の小児;
  • 学童;
  • 出産可能年齢の女性 (妊娠第2期、3期の妊婦や授乳中の女性を含む);
  • 茶摘みや鉱山労働者のようなリスクの高い職業の成人

WHOは流行地域に住んでいるリスクのあるすべての人々に、個別の事前診断なしに定期的な薬物療法(駆虫)を行うことを勧めています。

治療は土壌伝播蠕虫感染症の罹患率が20%を超える地域で年一回、土壌伝播蠕虫感染症の罹患率が50%を超える地域で年二回行われるべきです。

この介入で、感染虫体数を減らし有症率を軽減します。
加えて;

  • 健康と衛生教育は、健康的な行動を奨励することで、伝播と再感染を減らします。
  • 適切な衛生設備の供給も重要ですが、財源に乏しい状況では常に可能なわけではありません。

制御活動の目的は有症率の制御です。リスクのある住民への定期的な薬物療法が感染の重篤度を低減し、感染者の有症率を抑制することにつながるでしょう。

定期的な駆虫は就学前児童の健康診断または栄養補充プログラムと、あるいは学校の中での健康プログラムへ組み込むことができます。

2011年には、流行地域の国々に住む3億人以上の就学前児童と就学児童(リスクのある子どもの30%に相当します)が、駆虫薬を使って治療されました。

学校は、手洗いの普及活動や衛生設備の改善促進などの保健衛生教育機材の供給を容易に行えるので、駆虫活動の非常によい介入ポイントとなります。

WHOの推薦する薬剤

推薦される薬 - アルベンダゾール (400 mg)とメベンダゾール (500 mg) - は効果的で、高価ではなく、非医療関係者(例えば教師)でも容易に投与できる薬です。この薬剤は(これまでに)大規模な安全性試験を経験しており、何百万もの人々に使われましたが、副反応はほとんどないかあっても小さな副作用でした。

アルベンダゾールとメベンダゾールはともにWHOを介してそれぞれの国の保健当局へ寄付されています。

世界的な目標

世界的な目標は、2020年までに子どもたちにおける土壌伝播蠕虫による有症率を排除することです。
これは、流行地域の子どもたちの少なくとも75%(推定8億7,300万人)が定期的に治療を受けることで達成することができる予定です。

WHOの対応

2001年の世界保健総会で、代表者は流行地域の国に、特に住血吸虫症と土壌伝播蠕虫の寄生虫に真剣に取り組み始めることを促す決議(WHA54.19)を満場一致で支持しました。

土壌伝播蠕虫感染症の制御のための戦略は、リスクのある地域の住民の定期的な治療を通して症状を防ぎ、そして制御することです。
リスクのある人々とは:

  • 就学前児童;
  • 就学児童;
  • 出産可能年齢の女性 (妊娠第2期、3期の妊婦や授乳中の女性を含む)

定期的な駆虫は、就学前児童の健康診断または栄養補充プログラムや学校の中での健康プログラムへ組み込むことができます。

学校は、手洗いの普及活動や衛生設備の改善促進などの保健衛生教育機材の供給を容易に行えるので、駆虫活動の非常によい介入ポイントとなります。

駆虫薬の入手

駆虫薬の寄付は、WHOを通してすべての流行地域の国の保健当局が入手可能で、すべての学童年齢の小児の治療のため使われます。

対象

2012年に、土壌伝搬蠕虫感染症の治療が必要な2億8500万人の子供たちが駆虫薬を投与されました。これは世界で必要とされる人々の32.6%に相当します。

出典

WHO Fact sheet N°366
Soil-transmitted helminth infections Updated April 2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs366/en/