抗微生物薬耐性について(ファクトシート)

2014年4月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

  • 抗微生物薬耐性(Antimicrobial resistance ; AMR)は、増加の一途をたどる細菌、寄生虫、ウイルス、真菌による感染症に対する有効な予防と治療の脅威です。
  • これは、すべての政府部門と社会全体の行動が必要な、世界公衆衛生上の増え続ける深刻な脅威です。
  • AMRは世界中のすべての地域に存在します。新しい耐性のメカニズムが出現しており、世界中に広がっています。
  • 2012年には、約45万人の新たな多剤耐性結核(multidrug-resistant tuberculosis; MDR-TB)の患者が発生しました。広域薬剤耐性結核(extensively drug-resistant tuberculosis; XDR-TB)は92か国で確認されています。MDR-TBは非耐性結核に比べ非常に長い治療が必要になり、効果の低い経過をとります。
  • 前世代の抗マラリア薬に対する耐性は、ほとんどのマラリア常在国で広がっています。マラリアのアルテミシニン耐性株のさらなる広がりや、他の地域での出現は、疾患の制御において重要な最近の進展を危険にさらす可能性があります。
  • 世界のすべての地域で、一般的な感染症(例えば、尿路感染症、肺炎、敗血症)を起こす細菌での抗生剤耐性(antibiotic resistance; ABR)は、高い比率で見られます。院内感染症の大部分を、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcus aureus; MRSA)や多剤耐性グラム陰性菌のような高度耐性菌が占めています。
  • 淋病の耐性による最終手段の治療(第三世代セファロスポリン)の不成功は、現在10か国で報告されています。淋病はワクチンや新薬が開発されていないため、まもなく治療できなくなるかもしれません。
  • 薬剤耐性菌の感染患者は非耐性の同じ細菌の感染患者より、一般的に臨床転帰が悪化したり死亡する危険が高く、医療資源をより多く消費します。

抗微生物薬耐性とは何でしょう?

抗微生物薬耐性(AMR)とは、その微生物によって起こる感染症の治療に元来有効だった抗微生物薬に対する微生物の耐性です。

耐性微生物(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫を含みます)は、抗菌薬(例えば抗生物質)、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗マラリア薬などの抗微生物薬の攻撃に耐えることができ、そのため標準的な治療は無効になり、感染症は持続し、他の人へ広がる危険性が高まります。

耐性株の進化は、微生物が誤って自分自身を複製するときや、耐性の形質が微生物間で交換されるときに発生する自然現象です。抗微生物薬の使用や誤用は薬剤耐性株の出現を加速させます。貧弱な感染制御の実践、不十分な衛生状態や不適切な食品の取り扱いはAMRの広がりをさらに進めます。

抗生剤耐性と抗微生物薬耐性の違いは何ですか?

抗生剤耐性は感染症を起こす一般的な細菌に起こる特に抗生剤に対する耐性を言います。抗微生物薬耐性は、寄生虫(例えばマラリア)、ウイルス(例えばHIV)、真菌(例えばカンジダ)のような、他の微生物によって起こる感染症の治療薬剤の耐性を含む、広い用語です。

なぜ抗微生物耐性は世界的関心事なのでしょう?

新しい耐性のメカニズムが現れて世界中に広がり、一般の感染症を治療する私たちの力が脅かされており、その結果、最近まで通常の人生を送ることのできた個人の死亡と障害を起こしています。

有効な抗感染症治療がなければ、多くの標準的な医学的治療が不成功だったり、非常にリスクの高い方法に置き換えられるでしょう。

AMRで死亡します

耐性微生物によって起こる感染症は、多くの場合標準的な治療に反応せず、その結果、病気は長期化し、医療費は高騰し、死亡する危険が増します。

一例として、病院で処置した一般の細菌による重症感染症の患者の死亡率は、同一の非耐性菌の感染症患者の約2倍になるでしょう。例えば、MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌、社会や病院で重症感染症のひとつの一般的な原因)の患者は、非耐性型感染症の患者よりも64%死亡する確率が高いと推定されています。

AMRは感染症の制御を妨げます

AMRは治療の有効性を低下させます。このため患者は、より長期間感染が続き、他の人に耐性微生物を広めるリスクが高まります。例えば、メコン川流域でアルテミシニン耐性熱帯熱マラリア原虫の出現は、マラリアの負荷を下げる世界的取り組みを脅かす緊急の公衆衛生上の懸念です。

MDR-TBが懸念されていますが、まだ実際より報告がだいぶ少なく制御の取り組みを損なっています。

AMRは医療費を増やします

感染症が第一選択薬に耐性になったとき、より高価な治療法を使用する必要があります。疾患や治療が長引くと家庭や社会に経済的付加がかかるのと同様、しばしば病院でも医療費が増えます。

AMRは社会の健康管理の向上を危うくします

現代医学の成果はAMRによって危険にさらされています。感染症の予防と治療に対し有効な抗微生物薬がないと、臓器移植、癌化学療法、大手術の成功は減じるでしょう。

AMRは健康の安全保障を脅かし、貿易と経済に損害を与える可能性があります

世界的な貿易や渡航の増加で、耐性微生物はヒトと食品を通して遠くの国や大陸に急速に広がります。AMRは国内総生産の1%以上の損失を与え、社会に与える間接的なコストは直接医療費の3倍以上かもしれないと推計されています。それは先進国より比例的に発展途上国経済に影響します。

現状

細菌の耐性

2014年のWHOの抗微生物薬耐性の世界的サーベイランスの報告は、抗生剤耐性はもはや将来に起こることではないことを示しています。それは世界中でまさに今起こっていますし、社会と医療機関で通常の感染症に対処する力が危険にさらされています。緊急の協調行動なしでは、世界は、何十年も治療ができた通常の感染症と軽い傷が再び死を招く可能性のある、後-抗生剤時代に向かって進みます。

  • 淋病の最終手段の薬剤-第三世代セファロスポリン-の治療の不成功は数か国で確認されています。治療不可能な淋菌感染症は罹患率や、不妊症、有害な妊娠転帰、新生児の失明のような合併症の割合を上昇させ、この性感染症の制御における進展を逆転させる可能性があります。
  • 大腸菌尿路感染症の経口薬として最も広く使用されている抗菌薬の一つ-フルオロキノロン-に対する耐性は非常に広がっています。
  • 黄色ブドウ球菌-医療機関と地域社会の両方で起こる重症感染症の一般的な原因です-の感染症治療の第一選択薬に対する耐性もまた、広がっています。
  • 一般的な腸内細菌によって起こる生命を脅かす感染症の最終手段の治療薬-カルバペネム系抗生剤-に対する耐性は世界のすべての地域で広がっています。抗生剤耐性に対処する重要なツール、このような問題を追跡し、監視する基本的なシステムにかなりのギャップがあることが明らかになりました。多くの国で、そのツールは存在していないようです。

結核の耐性

2012年に、世界で推計45万人のMDR-TBの新規患者がいました。世界的には、国の間で多剤耐性結核の頻度は大幅に違いますが、新規結核患者の6%と既治療結核患者の20%が多剤耐性結核であると推定されています。広範囲薬剤耐性結核(XDR-TB、多剤耐性結核で、どんなフルオロキノロンやセカンドラインの注射剤にも耐性を示すと定義されています)は、世界のすべての地域の92か国で確認されています。

マラリアの耐性

メコン川流域でアルテミシニン耐性熱帯熱マラリア原虫の出現は、マラリアの負荷を軽減する継続的な世界的取り組みを脅かす、緊急の公衆衛生上の懸念です。治療効力の日常的なモニタリングは、治療方針を指導し調整するのに重要です。また、抗マラリア薬に対する熱帯熱マラリア原虫の感受性の変化を早期に検出する助けになります。

HIVの耐性

近年抗レトロウイルス薬へのアクセスが急速に拡大し、耐性がHIV感染症の治療の新たな懸念になっています。全国調査が耐性を検出し、監視するために進行中です。

2011年の終わりに、800万人以上の人がHIVを治療するために低・中所得国で抗レトロウイルス治療を受けていました。よいプログラムの実践を通して最小化することができますが、HIVを治療するための使用薬に対する耐性が、ある程度出現すると予想されます。

最近HIVに感染した人を対象としたWHO調査のデータ分析は、HIVを治療するために使う非ヌクレオシド逆転写酵素(NNRTI)クラスの薬剤に対する耐性レベルが上がっていることを示しています。この上昇は特にアフリカで顕著で、2009年にNNRTIの耐性率は3.4%(95%信頼区間;1.8-5.2%)に達しました。

他のクラスのHIV薬に対する耐性レベル上昇の明確な証拠はありません。2004年から2010年の間に行われたHIV薬剤耐性の伝搬に関する72の調査のうち、20件(28%)で中等度(5%-15%)の耐性率があると分類されました。

利用可能なデータは、抗レトロウイルス治療の普及が高いレベルになればHIV薬剤耐性のレベルが上昇するという関連性があることを示唆しています。

インフルエンザの耐性

過去10年で、抗ウイルス薬はインフルエンザの流行やパンデミックインフルエンザの治療に重要なツールになっています。いくつかの国ではその使用に関する国の指針を作り、パンデミック対策のための薬剤を備蓄しています。インフルエンザの常に進化する性質は、抗ウイルス薬に対する耐性が連続して出現することを意味しています。

2012年までに、事実上、ヒトを循環しているすべてのA型インフルエンザウイルスはインフルエンザの予防に頻繁に使用された薬(アマンタジンとリマンタジン)に対し耐性でした。しかし、ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビルに対する耐性率は低いままです(1-2%)。抗ウイルス感受性は絶えずWHO世界サーベイランスと応答システム(the WHO Global Surveillance and Response System)を通じて監視されています。

なにが抗微生物薬耐性の出現と広がりを加速させているでしょうか

AMRの進行は自然な現象です。しかし、人の特定の行動は、AMRの出現と広がりを加速させます。畜産を含めた抗微生物薬の不適切な使用は、耐性株の出現と選択を支持し、貧弱な感染予防と制御の実践はAMRのさらなる出現と広がりの一因となります。

協調行動の必要性

AMRは、多くの相互関連要因に左右される複雑な問題です。単一の孤立した介入それ自体ではほとんど影響を与えません。協調行動がAMRの出現と広がりを最小限にするのに必要です。

以下は個人が耐性に取り組む助けになります。

  • 資格のある医療従事者により処方された時のみ、抗生剤を使用する。
  • 軽快したと感じても、治療コースを完全に終える。
  • 決して他の人と抗生剤を共有したり、残っている処方薬を使用しない。

以下は医療従事者と薬剤師が耐性に取り組む助けになります。

  • 感染症の予防と管理を強化する。
  • 本当に必要なときにだけ抗生剤を処方し投与する。
  • 病気を治療するために正しい抗生剤を処方し投与する。

以下は政策立案者が耐性に取り組む助けになります。

  • 耐性の追跡と検査室受容力を強化する。
  • 感染制御予防策を強化する。
  • 医薬品の適切な使用を管理し、推進する。
  • すべての利害関係者間の協力と情報共有を推進する。

以下は政策立案者、科学者、産業界が耐性に取り組む助けになります。

  • 新しいワクチン、診断、感染症治療の選択肢、他のツールの研究、開発、革新を促進する。

WHOの対応

WHOは、AMRを緩和する行動と戦略を見いだすために、多くの部門のパートナーと共同で取り組んでいます。WHOはすでに国際獣疫事務局(the World Organization for Animal Health; OIE)と国連食糧農業機関(the Food and Agriculture Organization of the United Nations; FAO)とともに、ヒトと動物の両方で抗生剤の最適な使用を含め、抗生剤耐性の出現と広がりを避ける最適な実践を推進するために緊密に働いています。

2011年、世界保健デーのテーマは「抗微生物薬耐性:今日何もしなければ、明日の治癒はない」で、6点の政策パッケージは、抗微生物薬耐性と戦うツールとして各国を支援するために出版されました。

2014年、WHOは114か国から提供されたデータにより、抗微生物薬耐性のサーベイランスに関する最初の世界的な報告を発表しました。

以下はWHOが助言するAMRに対する対応です。

  • すべての利害関係者がともに集まり、協調的対応に同意しともに行動する。
  • AMRに取り組むための国の管理責務と計画を強化する。
  • 政策指針を作り上げ、加盟国に対する技術支援を提供する。
  • 積極的に技術革新、研究開発を奨励する。

出典

WHO Fact sheet N°194
Antimicrobial resistance, Update April2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs194/en/