A型肝炎について (ファクトシート)
2014年6月 WHO (原文[英語]へのリンク)
要点
- A型肝炎はウイルスによる肝疾患です。症状は軽症から重症まで幅があります。
- 毎年、世界中で140万人のA型肝炎の患者が発生していると推計されています。
- A型肝炎はウイルスに汚染された食品や水を摂取したり、感染した人に直接接触したりすることで感染します。
- A肝炎は安全な水の不足や不十分な衛生状態に関連します。
- 流行は、爆発的に進展することがあり、大きな経済損失を生じることがあります。
- この疾患と戦うためには、衛生状態の改善とA型肝炎の予防接種が最も効果的な方法です。
A型肝炎は、A型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。このウイルスは、主に、感染を受けたことのない(そして、予防接種を受けていない)人が、感染した人の便で汚染された食物や水を摂取することで感染します。この疾患は、安全な水の不足や、不十分な衛生状態、個人の衛生状態が保たれていないことと密接に関連します。
A型肝炎の感染は、B型肝炎やC型肝炎とは異なり、慢性肝炎を起こすことはなく、死亡することは稀ですが、身体を衰弱させる症状や、劇症肝炎(急性肝不全)を起こすことがあり、この場合には死亡率が高くなります
A型肝炎は、世界中で、散発的に発生したり、流行を起こしたりしており、周期的に再発する傾向があります。毎年、世界中で140万人のA型肝炎の患者が発生していると推計されています。
A型肝炎は食品由来の感染症として、最も高頻度にみられる疾患のひとつです。 汚染された食品や水に関連した流行は爆発的に発生することがあり、1988年には上海で約30万人の感染者が発生しました。A型肝炎ウイルスは環境中に残存し、細菌の病原体を不活化または増殖を抑制するために通常行われる食品生産過程に抵抗することができます。
この疾患は、地域に著しい経済的影響や社会的な影響をもたらすことがあります。感染した人が回復して、仕事や学校に行ったり、日常生活ができるようになったりするまでに、数週間から数か月かかることがあります。一般には、ウイルスが確認された食品関係の施設や地域の生産性への影響は相当に大きくなることがあります。
地理的分布
A型肝炎感染の地理的分布は、高・中・低の3つの水準に分けることができます。
感染が高水準の地域
衛生状態が非常に不十分で、衛生対策の実施も非常に不十分な開発途上国では、小児のほとんど(90%)が10歳になるまでにA型肝炎に感染しています。小児で感染した場合には、顕著な症状は現れません。一般に、年齢の高い小児や成人は免疫を持っているので、流行が起こることは稀です。このような地域での有症率は低く、アウトブレイクは稀です。
感染が中等度の水準の地域
経済の移行期にあり開発途上国で、衛生状態が変化しやすい地域の小児は、しばしば幼少期の感染を免れます。皮肉にも、こういった経済や衛生状況の改善によって、年齢が高い集団の感受性が高くなり、青年や成人になって感染することで有病率も高くなり、大きなアウトブレイクが起こることがあります。
感染が低水準の地域
衛生状態の良い先進国の感染率は低いです。疾患は、注射薬物使用者、男性同性愛者、高まん延地域への渡航者、閉鎖的な宗教コミュニティのように孤立した集団などの、高リスクグループの青年や成人に起こることがあります。
感染経路
A型肝炎ウイルスは主に、糞口感染で伝播します。つまり、感染していない人が、感染した人の便で汚染された食物や水を摂取することで感染します。発生は稀ですが、水系感染によるアウトブレイクが起こることがあり、これは通常、下水による汚染や、水の不適切な処理に関連しています。
人と人の軽度の接触ではウイルスが広がることはありませんが、濃厚な身体接触で感染することもあります。
症状
A型肝炎の潜伏期間は、通常、14日から28日間です。
A型肝炎の症状は、軽症から重症まで幅があり、発熱、倦怠感、食欲不振、下痢、悪心、腹部の不快感、褐色尿、黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染)がみられます。感染した人のすべてが、これらすべての症状を発症するわけではありません。
成人は小児よりも所見や症状がよくみられ、高齢者では、疾患の重症度と死亡率が高くなります。6歳未満の小児が感染した場合には、通常は、顕著な症状が現れず、黄疸が現れるのは10%のみです。それよりも年齢が上がると、通常は、症状はより重症になり、70%を超える患者で黄疸が現れます。
リスクのある人
A型肝炎のワクチン接種を受けておらず、過去にA型肝炎にかかったことのない人は、誰でも感染するリスクがあります。ウイルスが広範囲に存在する地域(高まん延地域)では、A型肝炎の感染は、ほとんどが小児の早期で起こっています。
リスクファクターには、次のような要因があります。
- 不十分な衛生状態
- 安全な水の不足
- 注射薬物使用者
- 感染した人と同居している人
- 急性A型肝炎に感染している人の性的パートナー
- 予防接種を受けずに、高まん延地域に渡航する人
診断
A型肝炎の症例は他のタイプの急性ウイルス性肝炎と臨床的に区別できません。特異的診断は血中特異抗体であるIgM-HAV抗体とIgG-HAV抗体の検出によります。追加試験には、A型肝炎ウイルスRNAを検出する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)がありますが、この分析には特殊な検査設備が必要になるでしょう。
治療
A型肝炎には特異的な治療法がありません。感染後の症状が回復するのは遅く、数週間から数か月かかることがあります。治療は症状の緩和と、嘔吐や下痢で失われた体液の補正を含む栄養バランスを維持することを目的としています。
予防
この疾患と戦うためには、衛生状態の改善とA型肝炎の予防接種が最も効果的な方法です。
A型肝炎の感染拡大は、以下の方法で減らすことができます。
- 安全飲用水の適切な供給
- 地域での適切な下水処理
- 安全な水を使った日常的な手洗いを含む個人衛生対策の実施
数種類のA型肝炎ワクチンが国際的に使用できます。すべてのワクチンはウイルスから身を守る有効性と副反応は同じです。1歳未満に承認されたワクチンはありません。
ワクチンを1回接種して1か月以内に、接種を受けた人のほぼ100%で、ウイルスに対する抗体価が感染を防ぐレベルになります。また、ウイルスに暴露した後であっても、接触から2週間以内に1回接種を受けることで感染予防効果があります。しかし、ワクチン製造業者は接種後5年から8年の長期予防効果を確実にするために2回接種を推奨しています。
世界中で、何百万人もの人々がワクチンを接種していますが、重篤な副反応は起こっていません。ワクチンは小児の定期の予防接種の一部として接種でき、また、渡航者への予防接種として接種することもできます。
予防接種を実施する努力
A型肝炎の予防接種は、ウイルス性肝炎の予防と感染拡大を防止するための、総合的な計画の一部であるべきです。大規模な予防接種計画を策定する際には、慎重に経済評価を行うべきで、衛生状態の改善や衛生対策の向上のための健康教育など、予防接種に代わる予防方法や、追加の予防方法の検討もするべきです。
小児の定期予防接種にA型肝炎ワクチンを含めるかどうかは、集団における感受性者の割合やウイルスへの暴露レベルなどの地域状況によります。アルゼンチン、中国、イスラエル、トルコ、米国を含む数か国では、小児の定期予防接種に導入されました。
多くの国では、不活化A型肝炎ワクチンの2回接種が行われていますが、国によっては、予防接種のスケジュールとして1回の不活化A型肝炎ワクチン接種の導入を検討するかもしれません。数か国では、以下のA型肝炎に感染するリスクの高い人々にもワクチン接種を勧めています。
- ウイルスの高まん延地域への渡航者
- 男性同性愛者
- 慢性肝疾患にかかっている人(A型肝炎に感染すると、重篤な合併症のリスクが増加するため)
アウトブレイクに対応するために予防接種を実施することについて、A型肝炎ワクチンの接種の推奨は、迅速に広範囲な予防接種の実現可能性を含め、特定の地域で実施すべきです。
地域に広がったアウトブレイクを抑えるための予防接種は、小さな地域の中で、早期に開始され、多年齢層の集団で高い接種率が達成できた場合に、最も成功しています。予防接種を実施する努力は、衛生状態の改善、衛生対策の向上、食品安全の向上のための健康教育で補完すべきです。
WHOの対応
WHOは、ウイルス性肝炎の予防と感染拡大を抑えるため、下記の分野で活動しています。
- 意識の向上、パートナーシップの促進、資源の動員
- エビデンスに基づく政策と行動するためのデータ
- 感染予防
- スクリーニング、管理、治療
WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デーと定めています。
出典
WHO.Hepatitis A.Fact sheet N°328.Updated June2014.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs328/en/