E型肝炎について (ファクトシート)

2014年6月 WHO (原文[英語]へのリンク

要点

  • 毎年、2,000万人がE型肝炎に感染しており、300万人以上が急性E型肝炎を発症しており、56,600人がE型肝炎に関連して死亡しています。
  • E型肝炎は、通常、自然に治りますが、劇症肝炎(急性肝不全)に進展することがあります。
  • E型肝炎ウイルスは、主に、汚染された水を介した糞口感染によって伝播します。
  • E型肝炎は世界中で発生していますが、高頻度に発生しているのは東アジアと南アジアです。
  • 中国では、E型肝炎ウイルス感染を防止するための初のワクチンが生産され、承認されましたが、世界的にはまだ利用できません。

E型肝炎はE型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。E型肝炎ウイルスは、エンベロープを持たない、プラス鎖の一本鎖RNAウイルスです。

E型肝炎ウイルスは、主に、汚染された飲料水を介して伝播します。通常は自然に治る感染症で、4~6週間以内に回復します。しかし、時々、劇症肝炎(急性肝不全)に進展し、死亡することもあります。

世界的には、毎年、約2,000万例のE型肝炎感染事例があります。

地理的分布

E型肝炎の集団発生や散発例は世界中で発生しています。これらの集団発生は、不可欠な水、衛生設備、衛生、保健サービスへのアクセスが制限された、資源が限られた国々で頻繁に起こり、数百人から数千人に影響する場合があります。近年では、これらの集団発生の中には、紛争地域や戦争地帯のような人道的緊急事態である地域で起こったものや、難民や国内避難民(internally displaced populations: IDP)のキャンプで起こったものがあります。推計2,000万人の感染者と330万人の急性症例が世界中で毎年発生し、推計56,600人が死亡しています。

E型肝炎は世界中で発生しています。そして、E型肝炎ウイルスは、ジェノタイプ(遺伝子型)によって疫学が異なります。例えば、ジェノタイプ1は、通常、開発途上国でみられ、地域レベルで集団発生を起こします。一方、ジェノタイプ3は、通常、先進国でみられて、集団発生は起こしません。

血清有病率(集団の中でその疾患に対する検査が陽性となった人の割合)が最も高くみられるのは、低い衛生水準で、ウイルスが伝播するリスクが高い地域です。E型肝炎に感染した人の60%以上と、E型肝炎による死亡の65%は、東アジアと南アジアで起こっており、この地域では一部の年齢層で、血清有病率が25%になることがよくみられます。エジプトでは、5歳を超える母集団の半数で、E型肝炎ウイルスが血清学的に陽性です。

感染経路

E型肝炎ウイルスは、主に、便に汚染された飲用水を介した糞口感染によって伝播します。他の感染経路も確認されており、以下の感染経路があります。

  • 感染した動物に由来した製品の摂取による食品由来感染
  • 感染した人の血液に由来する輸血や血液製剤の投与
  • 妊婦から胎児への垂直感染

人は、E型肝炎ウイルスの自然宿主と考えられますが、E型肝炎ウイルスやその近縁のウイルスに対する抗体は、霊長類や他のいくつかの動物種で検出されています。

E型肝炎は水系感染症であり、汚染された水や食物の供給が大きな集団発生に関係しています。生または加熱が不十分な甲殻類の摂取も、流行地域での散発例の感染源になることが確認されました。

E型肝炎の危険因子は、世界の広い地域での衛生状態の低さと糞便中にE型肝炎ウイルスが排泄されることに関連します。

症状

E型肝炎ウイルスの潜伏期間は3週間から8週間と幅があり、平均40日間です。感染性を有する期間は不明です。

E型肝炎ウイルスは、急性の散発的または流行するウイルス肝炎を起こします。症状が現れる感染は、15歳から40歳の若年成人に最もよくみられます。小児の感染はしばしば起こりますが、ほとんどが無症状か、黄疸が出ない(無黄疸性の)非常に軽い症状を起こすのみなので、診断が確定されないことになります。

肝炎の典型的な所見と症状は、以下のとおりです。

  • 黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染、褐色尿、白色便)
  • 食欲不振
  • 大きくなり、圧痛を伴う肝臓(肝腫大)
  • 腹痛と腹部の圧痛
  • 悪心、嘔吐
  • 発熱

これらの症状の大部分は、どの肝疾患でも急性期に起こる症状であり、鑑別できません。また、これらの症状は、典型的には1週間から2週間続きます。

急性E型肝炎は、稀に、劇症肝炎(急性肝不全)を起こして死亡することもあります。劇症肝炎は、妊娠中に最も高率に起こります。妊婦はE型肝炎による産科の合併症と死亡するリスクがより高く、妊娠第三期における死亡率は20%になります。

E型肝炎の慢性感染の症例は、免疫抑制状態にある人で報告されています。E型肝炎感染の再活性化も、免疫抑制状態にある人で報告されています。

診断

E型肝炎の症例は、他の型によって起こる急性ウイルス性肝炎と臨床的に鑑別できません。したがって、E型肝炎感染の診断は、通常、血液中のウイルスに特異的なIgMとIgG抗体の検出によって行います。追加試験には、血中と/または糞便中のE型肝炎ウイルスRNAを検出する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcriptase polymerase chain reaction: RT-PCR)がありますが、この分析検査は特殊な検査室設備が必要かもしれません。

開発途上国で、水系感染による肝炎の集団感染が起こった時、特に妊婦で重症化していたり、A型肝炎が除外された時は、E型肝炎を疑わなければなりません。

治療

急性肝炎の経過を変えることができる治療はありません。疾患に対して、最も効果的なのは予防です。

E型肝炎は、通常、自然に治り、一般的には入院は必要ありません。しかし、劇症肝炎の患者は入院が必要であり、症状のある妊婦は入院を考慮するべきです。

予防

感染と伝播のリスクは下記のことによって減らすことができます。

  • 一般に供給される水の水質基準の維持
  • 排泄物を除去するための適切な下水処理システムの確立
    個人のレベルでは、感染のリスクは下記のことによって減らすことができます。
  • 特に食品を取り扱う前の安全な水を使った手洗いといった個人衛生対策の継続
  • 汚染されているかどうかわからない飲用水や氷の摂取を避けること
  • WHOの食品安全実践の順守

2011年、中国では、E型肝炎ウイルス感染を防止するための初のワクチンが登録されました。世界的には利用できませんが、他の数か国でも使用できるようになる可能性があります。

流行時に対応するためのガイドライン

流行時には、WHOは以下のことを推奨しています。

  • 伝播様式の特定
  • 特に高い感染リスクのある集団の特定
  • 共通の感染源の排除
  • 食品や水への便汚染を排除するための衛生状態や衛生対策の改善

WHOの対応

予防接種に関するWHO戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts: SAGE)は2013年にE型肝炎のワーキンググループを設立し、E型肝炎の負荷の現在のエビデンスや、承認されたE型肝炎ワクチンの安全性、免疫原性、有効性、費用対効果の現在のエビデンスのような多くの問題を報告しました。SAGEは2014年10月に開催され、局長に勧告を行うためにワーキンググループの報告書を評価します。

世界肝炎ネットワークE型肝炎ワーキンググループは、E型肝炎の集団発生に対応するマニュアルを作成するため加盟国のグループと協力してきました。このマニュアルの発表は2014年後半と思われます。

上記の点に加えて、WHOは、ウイルス性肝炎の予防と感染拡大を抑えるため、下記の分野で活動しています。

  • 意識の向上、パートナーシップの促進、資源の動員
  • エビデンスに基づく政策と行動するためのデータ
  • 伝播予防
  • スクリーニング、管理、治療

WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デーと定めています。

出典

WHO.Hepatitis E.Fact sheet N°280.Updated June2014.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs280/en/