B型肝炎について (ファクトシート)
2014年7月 WHO (原文[英語]へのリンク)
要点
- B型肝炎は肝障害を起こすウイルス感染症で、急性疾患と慢性疾患を起こします。
- このウイルスは、感染者の血液や、その他の体液に接触することで感染します。
- 毎年78万人以上の人がB型肝炎によって死亡しています。
- B型肝炎は、医療従事者にとって、重要な職業上の危険です。
- B型肝炎は、現在、安全で効果的なワクチンによって予防できる疾患です。
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスによって起こる、致命的となり得る肝臓の感染症です。B型肝炎は、主要な世界的健康問題です。持続感染症と慢性肝疾患を起こし、肝硬変や肝がんによる死亡の危険が高くなります。
2億4千万人以上が慢性の(長期にわたる)肝臓感染症にかかっていると推計されています。毎年78万人以上の人がB型肝炎の急性または慢性の経過によって死亡しています。
B型肝炎ワクチンは1982年から使用できるようになりました。B型肝炎ワクチンの感染と持続感染の予防効果は95%であり、人に起こる主要ながんに対する初めてのワクチンです。
地理的分布
B型肝炎ウイルスは、数週間続く急性症状を起こすことがあり、皮膚や眼球結膜の黄染(黄疸)、褐色尿、激しい倦怠感、悪心、嘔吐、腹痛がみられることもあります。B型肝炎は、サハラ以南のアフリカや東アジアでまん延しています。この地域のほとんどの人は、小児期にB型肝炎ウイルスに感染し、成人の5%から10%が持続感染しています。
アマゾンや、東部ヨーロッパと中央ヨーロッパの南部でも持続感染が高率です。中東やインド亜大陸では、全人口の2%から5%が持続感染していると推計されています。西ヨーロッパや北米では、持続感染しているのは人口の1%未満です。
感染経路
高率に流行している地域では、HBVは出産時の母子感染や幼児期のヒト-ヒト感染が最も一般的です。
流行が低率の地域では、性行為と汚染された針の使用が、特に注射薬物使用者の間では主要な感染経路ですが、そこではまた、周産期や幼児期の感染が持続感染の1/3以上を占めている可能性があります。
B型肝炎ウイルスは、ヒトの身体の外でも、少なくても7日間は生存することができます。この期間、予防接種を受けていないヒトの身体にウイルスが入った場合には、感染が成立することがあります。
B型肝炎ウイルスは汚染された食物や水によって広がることはなく、通常では職場で感染が広がることはありません。
B型肝炎ウイルスの潜伏期間は平均75日ですが、30日から180日の幅があります。ウイルスに感染した後、30日から60日後にウイルスが検出されるようになり、検出される期間には幅があります。
症状
急性感染期には、ほとんどの人は症状が現れません。しかし、感染した人の中には、数週間続く急性症状を起こすことがあり、皮膚や眼球結膜の黄染(黄疸)、褐色尿、激しい倦怠感、悪心、嘔吐、腹痛がみられることもあります。
また、B型肝炎ウイルスは肝臓に持続感染することがあり、後に肝硬変や肝がんに進展することがあります。
B型肝炎ウイルスに感染した健康な成人の90%以上は回復し、6か月以内にウイルスが完全に除去されます。
持続感染(慢性化)のリスクのある人
B型肝炎ウイルスの感染が慢性化する可能性は、感染した年齢によります。6歳未満でB型肝炎ウイルスに感染した小児が、最も感染が慢性化しやすいようです。
- 1歳以下で感染した乳児の80%から90%で感染が慢性化します。
- 6歳未満で感染した小児の30%から50%で感染が慢性化します。
成人では次のとおりです。 - B型肝炎に感染した、他は健康な成人の5%未満の人が慢性化します。
- 小児期に感染し、感染が慢性化した成人のうち、15%から25%はB型肝炎に関連した肝がんか肝硬変で死亡します。
診断
臨床的根拠に基づいて、他のウイルスによる肝炎とB型肝炎を区別することはできず、そのため検査室的診断が不可欠です。B型肝炎の診断や患者の経過をみるために多数の血液検査が利用できます。その血液検査では、急性感染と慢性感染の鑑別が可能です。
B型肝炎感染の検査室診断は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs抗原)の検出によって行います。WHOは輸血による感染を避けるために、すべての献血者のHBs抗原を検査するように勧めています。
- 急性HBV感染はHBs抗原およびコア抗原、HBc抗原に対する免疫グロブリンM (IgM)の存在によって特徴づけられます。感染初期の間に、患者はまた、HBe抗原に対し血清反応陽性になります。
- 持続感染はHBs抗原の持続(>6か月)によって(HBe抗原が同時に存在してもしなくとも)特徴づけられます。HBs抗原の持続はその後の人生で慢性肝疾患と肝細胞がん(hepatocellullar carcinoma: HCC)に進展する危険の主要なマーカーです。
- HBe抗原の存在は、感染者の血液や体液に高い感染力があることを示しています。
治療
急性B型肝炎には特異的な治療法がありません。治療は症状の緩和と、嘔吐や下痢で失われた体液の補正を含む栄養バランスを維持することを目的としています。
慢性B型肝炎は、tenofovirやentecavirなどの経口抗ウイルス薬を含む薬物、またインターフェロンの注射で治療することもできます。治療は肝硬変の進行を遅らせ、HCCの発生率を低減し、長期生存を向上させることができます。しかし、治療には、多くの場合物資制約のため容易にアクセスすることができません。
肝がんは、常に、ほぼ致命的であり、しばしば、最も生産性が高く、家族を養う責任がある世代の人々に起こります。開発途上国では、肝がんの患者のほとんどが、診断から数か月のうちに死亡します。高所得国では、外科治療や化学療法によって、数年、延命することが可能です。
肝硬変の患者は、時々、肝移植を受けますが、成功率には幅があります。
予防
B型肝炎ワクチンは、B型肝炎の予防の大きな柱です。WHOは、すべての幼児が出生後可能な限り早く、できれば24時間以内にB型肝炎ワクチンを受けるよう勧めています。
出生時投与に2回か3回の追加投与をして、初回の一連接種を完結するべきです。ほとんどの場合、次の選択肢のうちの一つが適切と思われます。
- B型肝炎ワクチンの3回投与スケジュール。第一回目の投与(一価)は出生時に行い、DPTワクチンの第一回目と第三回目投与と同時期に、第二回目、第三回目投与(一価または混合ワクチン)を行う。または
- 4回投与、出生時に一価を投与し、続いて3回の一価または混合ワクチンの投与を行う。通常は他の小児定期ワクチンと同時に接種される。
規定の接種回数で、乳幼児、小児、青少年の95%以上に、感染予防に必要な抗体ができます。その予防効果は少なくとも20年続き、おそらく生涯持続すると考えられます。
過去に、予防接種を受けたことがなく、感染率の低いまたは中等度の国々に住む18歳未満の小児と青少年は予防接種を受けるべきです。そのような国では、ハイリスクグループではより多くの人々が感染するかもしれず、彼らもまた、ワクチン接種されるべきです。ハイリスクグループには以下の人が入ります。
- 頻繁に輸血や血液製剤を投与する必要がある人、透析患者、臓器移植を受けた人。
- 刑務所拘留者
- 注射薬物使用者
- HBV持続感染者の性的パートナーと同居家族
- 医療従事者と仕事を通じて血液や血液製剤にさらされる可能性のある人々、複数の性的パートナーがいる人々
- 流行地域に出発する前に、されるべき一連のB型肝炎ワクチン接種が完了していない渡航者
ワクチンは、安全性と有効性が優れています。B型肝炎ワクチンは1982年以降、世界中で10億回以上接種されています。多くの国では、小児の8%から15%がB型肝炎ウイルスに持続感染していましたが、予防接種によって、予防接種を受けた小児における持続感染の割合が1%未満に減少しました。
2012年の時点で、183の加盟国においてB型肝炎に対する乳幼児予防接種は定期接種の一部として行われており、79%の子どもがB型肝炎ワクチンを受けました。世界保健総会が世界的にB型肝炎の予防接種を勧める決議を採択した1992年に定期の予防接種として実施していた国は31か国であり、当時と比べ、大きく増加しました。 さらに、2012年の時点で、94の加盟国で出生時B型肝炎ワクチン接種を導入しています。
加えて、輸血に使用されるすべての献血血液と血液製剤の品質保証スクリーニングなどの血液安全戦略の実施によりHBVの感染を防ぐことができます。安全な注射-危険な注射と同じように不要な注射を行わない-この実践によりHBV感染を防御することができます。さらに、パートナーの数を最小限に抑え、防御予防手段(コンドーム)を使用するなどの、より安全なセックスの実践は感染を防ぎます。
WHOの対応
WHOは、ウイルス性肝炎の予防と感染拡大を抑えるため、下記の分野で活動しています。
- 意識の向上、パートナーシップの促進、資源の動員
- エビデンスに基づく政策と行動するためのデータ
- 感染予防
- スクリーニング、管理、治療
WHOは、ウイルス性肝炎に対する意識と理解の向上のため、毎年7月28日を世界肝炎デーと定めています。
出典
WHO. Hepatitis B. Fact sheet N°204. Update July 2014.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs204/en/