チクングニア熱について (ファクトシート)

2014年10月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • チクングニア熱は蚊によって人に広がるウイルス性疾患です。チクングニア熱では発熱と激しい関節痛が現れます。その他の症状には、筋肉痛、頭痛、悪心、倦怠感、発疹があります。
  • この疾患の所見はデング熱に類似しており、デング熱の発生地域では誤ってデング熱と診断されることもあります。
  • 治療法はなく、対症療法が中心です。
  • 人が居住する場所と蚊の繁殖場所が近いことが、チクングニア熱に感染する大きなリスクファクターです。
  • この疾患は、アフリカ、アジア、インド亜大陸で発生しています。最近数十年間で、チクングニア熱の媒介蚊はヨーロッパ及びアメリカ大陸に広がりました。2007年には、イタリアの北東部で、チクングニア熱の伝播が初めて報告され、局地的な集団感染が発生しました。

チクングニア熱は蚊によって媒介されるウイルス性疾患です。1952年にタンザニアで初めて報告されました。チクングニアウイルスは、トガウイルス科アルファウイルス属のRNAウイルスです。「チクングニア」という名前は、マコンデ語(アフリカで使われる言語)で、この疾患に罹かった人が関節痛のために身体を「屈めた状態にする」ことを表す言葉に由来しています。

所見と症状

チクングニアの症状は、突然生じる発熱が特徴です。高頻度に関節痛を伴います。その他によくみられる所見及び症状には、筋肉痛、頭痛、悪心、倦怠感、発疹があります。関節痛は、人を著しく衰弱させ、通常は数日間、ときに数週間続くこともあります。

ほとんどの患者は完全に回復しますが、ときに関節痛が数か月から数年間続くことがあります。消化器症状に加えて、眼、神経、心臓に合併症が生じることも報告されています。重症の合併症は稀ですが、高齢者では死亡原因になることもあります。多くの感染者は軽症で、感染したことの自覚がないことがあります。また、デング熱が発生している地域ではデング熱と誤って診断されるかもしれません。

感染の伝播

チクングニア熱は、アジア、アフリカ、ヨーロッパの約40か国、加えてアメリカ大陸でも確認されています。

チクングニア熱は、ウイルスをもった雌の蚊に刺されることによって、人から人に伝播します。ほとんどがネッタイシマカとヒトスジシマカによる感染で、この2種類の蚊はその他の蚊媒介性ウイルス感染症(デング熱など)も伝播します。これらの蚊の活動性のピークは早朝と午後の遅い時間ですが、日中に人を刺すこともあります。この2種類の蚊は屋外で人を刺しますが、ネッタイシマカは屋内でも変わりなく人を刺します。

ウイルスをもった蚊に刺されてから発症までの期間は、通常4日から8日ですが、2日から12日と幅があります。

診断

診断にはいくつかの方法が使われます。ELISA(酵素免疫測定)法などの血清検査でIgM抗体やIgG抗体を検出するものです。IgM抗体は発症後3週間から5週間で最も高くなり、約2か月間持続します。発症から1週間以内に採取された検体は血清学的検査と逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法を実施すべきです。

感染後の数日間は、血液中からウイルスが分離できる可能性があります。たくさんのRT-PCR法がありますが、感度も様々です。臨床診断に頼る場合もあります。RT-PCR法によって臨床検体から得られた生成物はウイルスの遺伝子解析にも利用できて、様々な地域で採取されたウイルス検体を比較することができます。

治療

チクングニア熱には特異的な抗ウイルス薬療法はありません。治療は、関節痛に対する鎮痛剤、解熱剤、補液などの対症療法が中心です。販売されているワクチンもありません。

予防と制御

他の蚊媒介性ウイルス感染症と同様に、蚊の繁殖場所が人間の居住場所と近いことが、チクングニア熱に感染する重要なリスクファクターです。感染の予防と制御は、主に蚊の繁殖場所となる、水がたまった容器(天然のものも人工ものも含む)の数を減らすことに依存しています。これは、流行地域の協力を必要とします。集団感染が発生している間は、飛んでいる蚊を殺すために噴霧したり、蚊が止まる容器やその周囲の表面に噴き付けたり、未熟な幼虫を殺すために容器の中の水を処理することに、殺虫剤を使用します。

チクングニア熱の集団感染が発生している間は、予防のために、日中、蚊に刺されないように皮膚の露出を最小限にする衣服が勧められます。虫除け剤は、ラベルに表示された指示を厳守した上で、露出した皮膚または衣類に使用さるものです。虫除け剤には、DEET (N, N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)、IR3535 (3-[N-アセチル-N-ブチル]- アミノプロピオン酸エチルエステル) 、ピカリジン (1-ピペリジンカルボン酸、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル)が選択されるべきです。日中に寝る場合、特に小児、病人、高齢者では、殺虫剤で処理された蚊帳を使用するのが良い予防方法です。蚊取線香やその他の殺虫剤用噴霧器も屋内で蚊に刺される機会を減らしてくれます。

感染の危険のある地域への渡航者は、虫除け剤の使用、長袖と長ズボンの着用、蚊の進入を防止するための網戸が備えられている部屋の確保、を含む基本的な予防方法をとるべきです。

集団感染

チクングニア熱は、アフリカ、アジア、インド亜大陸で発生しています。アフリカではこの何年間は人への感染は比較的低い水準ですが、1999年から2000年にはコンゴ民主共和国で大規模な集団感染が、2007年にはガボンで集団感染が発生しました。

2005年2月に初めて、インド洋の島々でチクングニア熱の大規模な集団感染が発生しました。ヨーロッパでの輸入例の多くは、この集団感染に関連したもので、特にインド洋での流行がピークに達した2006年では、ほとんどがこの集団感染と関連がありました。インドでは、2006年と2007年にチクングニア熱の大規模な集団感染が発生しました。東南アジアの数か国でも流行しました。 2005年以降、インド、インドネシア、タイ、モルディブ、ミャンマーでは、190万人以上の患者が報告されています。2007年には、イタリア北東部で、チクングニア熱の局地的な集団感染が発生し、チクングニア熱の伝播が初めて報告されました。この集団感染では、197人の患者が報告され、ヒトスジシマカによって媒介される疾患がヨーロッパ大陸で発生したことが確認されました。

2013年12月にフランスは、セントマーチンのカリブ海の島のフランスの一部サンマルタン[セント·マーチン島]で検査確認されたチクングニア熱2例を報告しました。それ以降、局所での感染の伝播はオランダ領セント·マーチン島、アンギラ、英領バージン諸島、ドミニカ、フランス領ギアナ、グアドループ、マルティニークとサン・バルテルミーで確認されています。アルバだけは輸入例が報告されています。

これはアメリカ大陸での国内伝播によるチクングニア熱の集団発生の初めての記録です。
2014年10月の時点で、カリブ海の島々、ラテンアメリカ諸国と一部の南米諸国で776,000人を越えるチクングニヤ熱疑いの症例が報告されました。同時期にこの病気に起因して152人が死亡しています。メキシコと米国では輸入例に記録されています。10月21日に、フランスはモンペリエで局所の国内感染によるチクングニア熱4症例を確認しました。

チクングニア熱を媒介する蚊について

ネッタイシマカとヒトスジシマカがチクングニア熱の大規模な集団感染に関与しています。ネッタイシマカは熱帯及び亜熱帯地域に限局して生息しますが、ヒトスジシマカは温帯地域や寒冷地域でも発生します。ヒトスジシマカは、最近数十年間で、アジアからアフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸にまで広がりました。

ヒトスジシマカは、水がたまった生息場所で成長しますが、生息場所はネッタイシマカに比べて広範囲で、ココナッツの皮、カカオの実、竹の株、木の穴、岩の水たまりに加えて、車両のタイヤや植木鉢の受け皿のような人工の容器でも成長します。このような生息場所の多様性によって、ヒトスジシマカは農村部だけでなく都市周辺部や公共の公園でも多く発生しています。

ネッタイシマカは、さらに密接に人間の居住場所と関係しており、花瓶、水の保管容器、コンクリート製の浴槽のほか、ヒトスジシマカと同様に、屋外の人工的な生息場所でも成長します。

アフリカでは、別の媒介蚊(A. furcifer-taylori属やA.luteocephalus)が疾患の伝播に関与しています。霊長類以外の動物を含む数種類の動物が保有宿主である可能性を示唆する根拠があります。

WHOの対応

WHOはチクングニア熱に対して、以下の対応を行っています。

  • 根拠に基づいた集団感染の管理計画の取りまとめ
  • 患者個々人と集団感染の効果的な管理のための各国への技術的支援と指針の提供
  • 報告システムを改善するための各国への支援
  • 数か所の協力センターとの協力による、地域レベルでの臨床管理、診断、ベクター・コントロールの訓練機会の提供
  • 加盟国に対する患者管理とベクター・コントロールに関する指針と手引きの開示

WHOは、患者を見つけ出し、確認し、管理する受容力を発展、維持すること、そして蚊の媒介の存在機会を減らすための社会的な情報交流戦略を実行すること、のために各国を奨励しています。

出典

WHO.Chikungunya.Fact sheet N°327.Updated October2014.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs327/en/index.html