レジオネラ症について (ファクトシート)

2014年11月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • レジオネラ・ニューモフィラは、1976年にアメリカ合衆国の会議センターで重症肺炎を起こした原因菌として、1977年に初めて確認されました。
  • レジオネラのもっとも一般的な感染経路は、水しぶき、噴射水、散布霧に含まれる細菌を含んだ微粒子(エアロゾル)を吸うことです。感染は免疫力の弱った入院患者では細菌を含む水を誤嚥することででも起こり得ます。
  • 在郷軍人病の潜伏期間は2~10日(最近の明確に記録された書類での報告でも16日以内)です。
  • 呼吸不全や多臓器不全をともなう進行性の肺炎を起こすために、死に至ることがあります。
  • 通常、在郷軍人病は無治療の状態では、最初の1週間で悪化します。
  • 報告された症例のうち、75~80%が50歳以上、60~70%が男性です。

背景

 レジオネラ症は重症度が軽度の発熱状態から深刻で時には死に至る肺炎にまで重症度に幅があります。この病気は水中や腐葉土で見つかるレジオネラ種に曝されることによって起こります。

 世界的に、水が媒介となるレジオネラ症は、流行を含む症例発生の最も多い原因です。レジオネラ症および関連菌種は、湖、川、排水路、温泉、その他の体を洗う水の中から当たり前のように見つかっています。L.longbeachaeを含む他の菌種は腐葉土の中から見つかっています。

 レジオネラ・ニューモフィラは、1976年にアメリカ合衆国の会議センターで重症肺炎が起きた原因として、1977年に初めて確認されました。レジオネラ・ニューモフィラとそれに関連する菌種は管理が不十分な人工の水まわり、特に、空調設備や工場の冷却に関連する冷却塔や蒸発を利用した凝縮器、公共および民間施設の温水および冷水の水まわり、循環型のジェット・スパと関連して流行が幾度となくみられてきました。

 感染が成立する細菌量はわかっていません。しかし、この疾患は短時間の暴露さらには、発生源から最大3.2キロも離れた場所でも流行が発生していることから、細菌量は極めて少なくても感染すると考えることができます。発症の可能性は、水源におけるレジオネラ菌の濃度、エアロゾルの生成と拡散、年齢および感染前の健康状態などの宿主因子、レジオネラの特別な菌株の病原性に影響される。ほとんどの感染は、病気を起こさない。

原因

 原因物質は、水または腐葉土からのレジオネラです。病気の最も一般的な原因菌は、世界中の自然の淡水環境で発見されるL.pneumophilaです。しかし、レジオネラの増殖と拡散の助けとなる環境を提供する人工の水まわりのシステムが、感染の最も可能性の高い場所です。

 細菌は20~50℃程度(最適温度35℃)の温度の水まわりに棲み、増殖します。レジオネラは自由生活原虫に寄生し、水まわりで作り上げたバイオフィルム内で生き残り、増殖することができます。この細菌は、原虫に寄生するのと同じメカニズムでヒトの細胞に感染し、感染症を引き起こします。

伝播

 レジオネラの伝播の最も一般的な形態は、細菌の入ったエアロゾルを吸引することです。レジオネラの伝播と関連をもつエアロゾルの発生源は、空調機の冷却塔、温水と冷水の水まわり、加湿器、ジェットバス・スパです。感染は、特に感染に弱い入院患者では細菌を含んだ水を誤嚥することにより起こることもあります。ヒトからヒトへの直接感染はありません。

分布

 在郷軍人病は世界中に広く分布すると考えられています。

疾患の拡大

 市中での在郷軍人病の発生率は、調査と報告のレベルによって大きく変化します。多くの国では、感染を診断する適切な方法又は十分な調査体制を欠いているので、発生率は不明です。ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカ合衆国では発症率は人口100万人あたりおよそ10~15例です。

 報告されている患者の75~80%が50歳以上、60~70%が男性です。市中および旅行に関連したレジオネラ症の危険因子には、これ以外にも、喫煙、大量飲酒、肺疾患、免疫抑制剤、慢性の呼吸不全や腎不全などがあります。

 院内での肺炎の危険因子は、手術直後、挿管と気管にチューブを留置するその過程、人工呼吸器、吸引、経鼻胃管、および呼吸器系の治療装置です。もっとも感染に弱い人は、臓器移植を受けた患者、癌患者およびコルチコステロイド治療を受けている間はを含む免疫不全状態の患者です。

 診断と適切な抗生物質による治療の遅れ、加齢および合併症の存在が、在郷軍人病による死亡の予測因子になります。

症状

 レジオネラ症は、レジオネラ細菌よる肺炎と非肺炎性の感染様式を示す総称です。

 非肺炎性疾患(ポンティアック病)は、急性で、自分に限定された(他に感染させない)インフルエンザ様の疾患で、通常2~5日間続きます。潜伏期間は数時間から48時間です。主な症状は、発熱、悪寒、頭痛、倦怠感や筋肉痛(筋肉痛)です。このタイプの感染は死に至ることはありません。

 在郷軍人病は、潜伏期間が2~10日です(確りと記録されたものの流行でも16日以内)。症状は発熱、食欲不振、頭痛、倦怠感や無気力など始まります。一部の患者は、筋肉痛、下痢、昏迷を起こします。通常、感染初期には軽度の咳を起こしますが、約半数の患者は痰も伴います。約3分の1の患者が血液混じりの痰や血痰を起こします。疾患の重症度は軽度の咳から急速に致命症に至る肺炎まで幅があります。呼吸不全や多臓器不全をともなう進行性の肺炎を起こすために、死ぬことがあります。

 通常、在郷軍人病は無治療の状態では、最初の1週間で悪化します。重症肺炎を起こす危険因子の共通点として、呼吸不全、ショックや急性腎不全および多臓器不全が最も頻繁にみられる合併症です。回復には抗生物質による治療が不可欠であり、治癒までには数週間から数ヶ月を要します。稀ではありますが、重度進行性の肺炎や効果のない肺炎への治療が脳に後遺症を起こすことがあります。

 在郷軍人病の死亡率は、疾患の重症度、最初の抗生物質の適切な選択、レジオネラに感染した状況、患者側の因子(通常、疾患は、免疫力の弱い患者でより重症となります)に依存します。死亡率は、免疫抑制中の患者が無治療の場合40~80%の高さになり、適切な患者管理と臨床徴候および症状に依存して5~30%まで減少します。通常、全体での死亡率は5~10%の範囲内にあります。

 在郷軍人病は暴露のタイプに基づいて、市中、旅行、院内に分類されます。

対策

 在郷軍人病に対して現在効果のあるワクチンはありません。

 非肺炎性疾患を呈する患者は、抗生物質による治療を必要とせず、対症療法で十分です。在郷軍人病の患者には、常に、診断を検査で確認し、抗生物質で治療する必要があります。

 レジオネラ症が引き起こす公衆衛生上の脅威は、建物の安全性および水道・配管設備の安全性に対して規制する行政が定める水の安全性計画を実施することによって対処できます。これらの計画は、建物や水道・配管設備に対して具体的あり、レジオネラ菌などの特定されるリスクに対する管理方法の導入や定期的な点検をもたらすものである必要があります。感染源をなくしてしまうことは不可能ですが、実質的にリスクを低減することはできます。

 在郷軍人病の予防対策はレジオネラの増殖とエアロゾルの拡散を最小限に抑える管理と対策を適用することに依存します。これらの対策は、定期的な清掃と消毒、および増殖を最小限に抑えるためのその他物理的(温度)対策または化学処理(殺菌)対策を当てはめること含めた、装置の良好なメンテナンスを含んでいます。その例は以下のとおりです

  • 頻回または連続添加の殺菌を行う冷却塔の定期的なメンテナンス、清掃、消毒
  • ジェット・スパ・プールにおける塩素などの殺菌剤の適切なレベルの維持と、少なくとも週1回の水まわりの配管系全体の完全な排水と清掃
  • 温水は60℃以上、冷水は20℃以下、もしくは代わりに増殖を抑えることに適した殺菌剤でこれらを処理することによる温水・冷水システムの清潔の維持

 このような管理を適用すれば、大幅にレジオネラの感染リスクを低減し、散発的な患者の発生および流行を防ぐことになります。一時的には、病院での特に感染に弱い患者には対して、提供される水や氷に含まれる細菌を誤嚥する可能性を考え予防措置が必要となることもあります。

 管理と予防の対策は、患者を発見するために一般開業医や地域保健サービスの中で適度な警戒感をもって行われなければならない。

出典

WHO.Legionellosis.Fact sheet N°285.Updated November2014.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs285/en/