エボラウイルス病流行に対応した個人防護具(PPE)についての緊急推奨ガイドライン

2014年10月に、WHOはエボラ対策に合わせて医療現場に則したガイドラインの見直しを行いました。本文は、その緊急推奨ガイドライン P.6、4.Recommendations以下の部分訳です。

http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/137410/1/WHO_EVD_Guidance_PPE_14.1_eng.pdf?ua=1&ua=1[PDF形式:420KB]

(註1:原文は、エボラウイルスではなく、より広くエボラウイルス属を含むフィロウイルス科を対象としていますが、ここでは、エボラウイルス(EV)あるいはエボラウイルス病(EVD)という言葉を当てます。)
(註2:この記事は成田空港検疫所医療専門職有志による翻訳です。公式の見解ではなく、あくまで個人の理解を深めるための参考情報です。正確な内容については原文をお確かめください)

前文
専門家の一致した見解として、「粘膜(口腔、鼻腔、目)を(ウイルスで)汚染された飛沫や液体から防護することがもっとも重要である。」と述べている。手は体のほかの部位や顔、他の人に病原体を伝播させる可能性のあることがわかっている。そのため、医療従事者を保護し、他者への伝播を防ぐために、手指の衛生と手袋の装着は重要である。同時に、医療従事者への伝播を防ぐためには、フェイスカバー、防護効果のあるフットウェア、ガウンあるいはカバーオール(註:タイベックのようなもの)、ヘッドカバーも重要であると考えられる。

WHOの推奨事項[P.6 4.Recommendations以下]

a. 目、鼻腔、口腔粘膜の保護
推奨1
EVD患者の医療ケアを行う際に、医療従事者はEVへの暴露予防のために、目、口腔、鼻腔の粘膜が完全にPPEで被われていなければならない。

強い推奨:粘膜を保護しない状態と、保護した状態との間に差があることについては、高いレベルのエビデンスがある。

推奨2
EVD患者の医療ケアを行う際に、すべての医療従事者はEVへの暴露予防のために、フェイスシールドもしくはゴーグルを着用しなければならない。

強い推奨:医療従事者へのEV伝播を防ぐために、フェイスシールドとゴーグルのいずれがよいかについて、効果の比較に関するエビデンスのレベルは非常に低い(註:どちらがよいのか決定することは困難である。)。

根拠およびコメント
粘膜(口腔、鼻腔、目)の保護は、標準的な予防処置また患者と接触する場合の予防処置として必要不可欠である。おそらく、粘膜の(ウイルス)汚染がEVの伝播様式のなかで最も重要なものである。このため、粘膜の保護のためにPPEを使用することは非常に重要である。これらを保護する装具は、不用意に粘膜への暴露が生じることを防ぐために、(一連の)PPEを脱ぐ際にできるだけ後で、可能ならば最後に取り外すべきである。

医療従事者へのEV伝播を防止するため、フェイスシールドと、適切なヘッドカバーとともに用いたゴーグル(推奨11および12を参照のこと)との間で、効果を比べた科学的なエビデンスは現在のところ存在しない。これらの効果は等しいと考えられており、どちらの装具を使用するかは、医療従事者の好みや、それぞれに提供される仕様書に見合った品質のものの現地での入手しやすさといった、その他の要因によって決めることができる。ただし、フェイスシールドとゴーグルを一緒に用いるべきではない。

考慮すべき点は以下のとおり
・視野くもり:フェイスシールドにもゴーグルにも視野くもりの影響が出るが、フェイスシールドの場合、視野くもりの影響をより少なくできる可能性がある。視野くもりによって視界が制限され、医療従事者が患者のケアに支障が出たり、医療従事者の安全性に問題が生じたりする可能性がある。産業用のくもり止めが役に立つかもしれないが、高温多湿な気候では効果は弱い可能性がある。換気装置つきのゴーグルは視野くもりを減らす助けになるかもしれない。しかし、換気によって血液や体液がゴーグルの内側や目を汚染しないようにしなければなければならない。
・視界:フェイスシールドの場合、医療従事者の顔がより広く患者に見えるので、医療従事者と患者の間のコミュニケーションと相互の会話をとりやすくなる。フェイスシールドの方が、医療従事者の視界が広くとれることから、通常は安全性が高いと考えられる。全景がみえるゴーグル(panoramic goggle)にも同様の利点がある。
・めがね(眼科処方による):めがねをかけている医療従事者に対しては、ゴーグルもしくはフェイスシールドのどちらかの選択肢が与えられるべきである。この場合、しっかりと装着して視野くもりが生じないことを確認しなければならない。

推奨3
医療従事者は、EVへの暴露予防のため、EVD患者の医療ケアを行う際に、口につけた際に型崩れのしない(例として、アヒルのくちばし型(duckbill)やコップ型のもの)型取りされた(with a structured design)耐水性(fluid-resistant)の医療用/外科用マスクをつけなければならない。

強い推奨: EV感染を受ける可能性について、(耐水性を前提としたとき)医療用/外科用マスクと微粒子阻止機能(particulate respirator)が付いた医療用/外科用マスクを使用した場合と比較した場合に関するエビデンスのレベルは低い。

推奨4
医療従事者は、EVへの暴露予防のため、EVD患者の医療ケアにおいて体液がエアロゾール状(霧状)になる処置を行う場合には、耐水性の微粒子用マスクを着用しなければならない。

強い推奨: 他の病原体でエアロゾールが生じる状況について考慮した場合、エビデンスのレベルは中等度である。

根拠およびコメント
医療用/外科用マスクを使用する目的は、飛沫となった(splashes and droplets註:日本で言う「飛沫」に相当すると思います。小さいものとやや大きいものを指すのでしょう。)感染性の物質から鼻粘膜、口腔粘膜を防御することにある。EVはヒトにおいては空気感染(airborne)による伝播は起こさないことから、微粒子用の対策を施した防護具は必要とされない。呼吸や汗で湿った際に口に装着して型崩れ(たとえばアヒルのくちばし型やコップ型)がしない成型された医療用/外科用マスクの方が、実際に使用する側にとっては微粒子用のマスクよりも快適と考えられる。マスクや微粒子用マスクは、必ず適切な目の防護器具(フェイスシールドもしくはゴーグル → 推奨1および2を参照)と対で装着しなければならない。ゴーグルを用いる場合、医療用/微粒子用マスクは必ず耐水性でなければならない。フェイスシールドを用いる場合には、耐水性である必要性はない。2枚以上のマスクを同時に着用しても、防護機能が増すことはなく、推奨されない。

すべてのN95微粒子用マスクが耐水性であるとは限らない。「外科用N95マスク(surgical N95respirator)」と呼称されている(labelled)もののみが、耐水性に関する検査を受けたものである。

b. グローブ(手袋)
推奨5
EVD患者の医療ケアを行う際に、すべての医療従事者はEVへの暴露予防のためにグローブを二重にして着用しなければならない。

強い推奨:グローブ1枚に比較してグローブを二重にすることについて、エビデンスのレベルは中等度である。

根拠およびコメント
グローブを二重にすることは、グローブの穴や塩素のような消毒薬によるグローブのダメージから生じうる医療従事者へのウイルスの伝播リスクを減らすことから、グローブ1枚よりも推奨される。同時に、グローブを二重にすることにより、針刺しによるけがのリスクやPPEを脱ぐ際に生じうる汚染のリスクを減らせる可能性がある。HIVや肝炎ウイルスなどの他の血液で感染する病原体に関して蓄積されたエビデンスに基づき、二重グローブのもたらす効果の信頼性については中等度と評価された。グローブを二重にすることで多少触覚が鈍くなり、細かい作業が難しく、煩わしく感じられるが、研究では、ほとんどの場合、数日でこのような触覚の鈍さは気にならなくなり、細かい外科手技を行う場合でも問題とならないことが示されている。

外側に着用するグローブは、裾(cuff)部分が長く手首より十分に上までを覆ることが、理想的には前腕の中間部まで覆ることが望ましい。手首周囲の汚染を避けるためには、内側のグローブはガウン/カバーオールの袖の下を通して(袖口についている指にかけるループの下に)着用しなければならない。一方、外側のグローブはガウン/カバーオールの袖の上を覆うように着用しなければならない。

ガウン/カバーオールにグローブを付けるためにテープを使用することは、これによって余分な操作を加え、ガウン/カバーオールが裂ける危険が生じ、汚染を起こす可能性を生じさせ、その結果安全にガウン/カバーオールやグローブを脱ぐ際に邪魔になる可能性があるため避けなければならない。グローブを三重にして手につけても一層の保護効果があるというエビデンスはない。グローブを三重にすることは、手先の動きの邪魔になり、またグローブを外す手技が複雑になり、安全であるとは考えられない。

IPC(感染防御及び予防)を実践する際、最良の方法として患者ごとにグローブを交換することが規定されている。しかし、患者の治療および隔離エリア内に清潔なグローブや医療廃棄設備を手配できるかという運用上の問題が危惧される。このために、ガイドライン作成グループ(GDG)内では診療エリアにおいて患者ごとにグローブを交換すべきかどうかに関する推奨事項の合意に至っていない。患者間ごとにグローブを交換することに、9名の委員は賛成し、2名は反対、2名は意見を保留した。EV患者に臨床ケアを行う際に、以下の2つのステップを踏むことがグローブを安全かつ簡単に交換することの助けとなる可能性がある。1) 外側のグローブを安全に外すために、外す前に消毒すること、2) 新しい外側のグローブを着用する前に、内側のグローブを着用したまま消毒する。手指やグローブをはめた手を消毒する場合には、アルコールを基剤とした手指消毒薬を使用することが好ましい。グローブの片方に問題が生じた場合には、上記の手順を踏んで交換しなければならない。

標準的なIPCの推奨により、無菌的な処置を行う場合を除いて、滅菌グローブは必要とされない。特定の外科的あるいは産科的処置に際して、上述したようなグローブの扱いが必要となるかもしれない。

推奨6
医療従事者は、EVへの暴露予防のため、EVD患者の医療ケアを行う際に、ラテックス製のグローブよりもニトリル製グローブを使用した方がよい。

強い推奨:ラテックス製のグローブよりもニトリル製グローブの方が、効果的かつ安全であるというエビデンスのレベルは中等度である。

根拠およびコメント
ニトリル製グローブは、塩素などのある種の消毒薬を含む化学薬品に抵抗性があり、ラッテックスよりも環境に優しい。医療従事者のラテックス・アレルギーや接触性皮膚炎が高率にみられる。しかし、ニトリル製グローブが入手できない場合にはラテックスグローブを使用してもよい。パウダー付きのグローブよりもパウダーなしのグローブの方が望ましい。

c. ガウン/カバーオール
推奨7
医療従事者は、EVへの暴露予防のため、EVD患者の医療ケアを行う際に、通常業務で使用する衣服(たとえば手術着など)に加えて、体を防護するための衣服を身に着けなければならない。

強い推奨:EVと同様の伝播様式をとる他の感染症から得られたエビデンスの蓄積に基づき、防護服を着ない場合に対して防護服を用いる場合が有利であるというエビデンスのレベルは高い。

推奨8
他の身体防護服と比較して、衣服を覆うPPEを選択する場合には、ディスポのガウンとエプロンという選択か、ディスポのカバーオールとエプロンという選択にしなければならない。ガウンあるいはカバーオールは、試験を受けた上で血液や体液あるいは血液媒介性の病原体が浸透しないことが証明されている繊維で作られたものでなければならない。

条件付き推奨:ガウンとカバーオールの効果を比べたときのエビデンスのレベルは非常に低い。

推奨9
エプロンを選択する場合には優先順に以下を選択する。
1.ディスポで水が浸透しないもの
2.ディスポのエプロンが入手できない場合、患者と患者の間で適切にクリーニングされ消毒される場合には、頑丈で再使用可能な水の浸透しないエプロンを使用することができる。

強い推奨:ディスポと再使用可能なエプロンの間での効果比較に関してはエビデンスのレベルは非常に低い。

根拠およびコメント
エビデンスに基づいて、身体防護服(Protective body wear)は接触感染に対応する予防措置の一環として推奨されており、EVDについても同じく適用可能である。カバーオールとガウンのどちらが医療従事者への伝播を減らす効果があるか、比較したエビデンスはないため、どちらも同等に使用可能と考えられる。ガウンは着用が簡単で、特に容易に脱ぐことができると考えられる。これがPPEを脱ぐ際にガウンがより安全な選択肢としてあげられる理由となっている。ガウンは医療従事者にとって使用経験がより豊富であり、このため好んで用いられる傾向があり、正しく脱ぐことができるようである。また、これらの点から、正しい使用のために訓練することが容易である。ガウンの方が明らかに暑さに対するストレスが少なくてすみ、一般にEVDの流行が起きている地域でも入手しやすい。その他にも、特定の文化背景では、女性が使用する際に、カバーオールよりもガウンの方が受け入れられやすいと考えられるかもしれない。

耐水性の身体防護服は、感染力をもつ体液が浸透し、防護具の下の衣服や皮膚を汚染し、その結果、手指を介して目、鼻腔、口腔粘膜に気づかぬ間に伝播させてしまう可能性を低くするために推奨される。

エプロンはガウンやカバーオールの上に着用しなければならない。ガウンやカバーオールに比べて汚染されたエプロンを脱ぐのは簡単である。通常、エプロンは医療従事者が治療エリアにいる間、ずっと身に着けていることになる。エプロンがみるからに汚染されている場合には、ディスポのエプロンを脱ぎ、交換しなければならない。隔離エリアの中で新しいエプロンが調達できること、使用済み物品を廃棄できることの問題については、検討しておかなければならない。再利用可能なエプロンを着用している医療従事者は、病棟を退出する際にエプロンをクリーニング、消毒し、脱がなければならない。

d. 足回り
推奨10
医療従事者は、EVへの暴露予防のため、EVD患者の医療ケアを行う際に、耐水性の長靴(たとえばゴム製/ラバー製の長靴)をはかなければならない。

強い推奨:その他のタイプの素材でできた長靴との比較に関してはエビデンスのレベルは非常に低い。

根拠およびコメント
密封型(closed shoes:つま先が袋状になったタイプ)の靴を履くよりも、耐水性の長靴が優先される。これは、このタイプの長靴の方が洗浄および消毒がしやすく、また床が濡れている場合でも防護機能が非常に高いからである。加えて、ゴム製の長靴は突起物によるけがを防ぐことができる。長靴が入手できない場合には、(ひも付きのものではなく、そのまますべらせてはき、足甲部と踵が完全におおわれる)密封型の靴をはかなければならない。理想を言えば、汚染を簡単に除去できる(註:シューズカバーを捨てることを指している。)ように、滑らず、できる限り液体が浸透しないシューズカバーを、密封型の靴の上に使用すべきである。

長靴は、洗浄され消毒を終えている場合には、PPEを脱ぐエリアを離れる際、脱ぐ必要はない。その日の業務が終了するまで、あるいはシフト勤務が終了するまで同じ長靴を履き続けることは可能である。

e. ヘッドカバー
推奨11
EVへの暴露予防のため、EVD患者の医療ケアを行う間、医療従事者は頭と頸部がおおわれているヘッドカバーを着用すべきである。

条件付き推奨:ヘッドカバーの使用によって、伝播を防止する効果があるかどうかについてのエビデンスは、低いレベルである。

推奨12
ヘッドカバーはガウンやカバーオールからは分離したものが勧められる。これによりヘッドカバーをガウンやカバーオールとは別に脱ぐことが可能となる。

条件付き推奨:種々のタイプのヘッドカバー間の比較を行ったエビデンスは低いレベルである。

根拠およびコメント
ヘッドカバーをつける目的は、頭部および頸部の皮膚、髪がウイルスに汚染され、後で、目、鼻腔、口腔粘膜へ気づかない間に伝播することを防ぐことにある。髪およびヘアーエクステンション(エクステ)はヘッドカバーの中におさめる必要がある。

推奨11は条件付きのものである。その理由として、感染伝播の防止のために、肩まで覆うフードあるいはキャップの上にヘッドカバーを使用することが有利であることを支持するエビデンスがないからである。GDGの会合では、頸部後ろ側を含め皮膚表面をすべて覆う必要があるかどうかについて、詳細に検討された。しかし、GDGでは合意には至らず、9名の専門家が皮膚表面はすべて覆うべきであるという意見であり、3名はこれに反対であった。1名は投票時に欠席であった。

推奨12は条件付きである。その理由として、ヘッドカバーが別個に(分離されたタイプ)なっているものと、カバーオールと一体になっているものの間で伝播を防止する効果がどうであったかを比較したエビデンスがないからである。分離型のヘッドカバーが入手できなければ、フードつきのカバーオールを使用することが可能であるが、その場合フードつきのカバーオールを脱いだ際に粘膜の保護が担保されるように、目、鼻腔、口腔を防護した後にフードをかぶるという手順を守らなければならない。

原文

WHO, Personal Protective Equipment in the Context of Filovirus Disease Outbreak Response
Rapid advice guideline:October 2014
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/137410/1/WHO_EVD_Guidance_PPE_14.1_eng.pdf?ua=1&ua=1[PDF形式:420KB]