単純疱疹ヘルペス、性器ヘルペス (ファクトシート)
2015年1月 WHO (原文[英語]へのリンク)
要点
- (一般に)ヘルペスと呼ばれるウイルスには、単純ヘルペス1型と単純ヘルペス2型の2つがあります。
- 単純ヘルペス1型(HSV-1)は、口から口への接触によって伝染します。口唇ヘルペス/口唇疱疹、また英語圏では“COLD SORE”とも呼ばれています。性器ヘルペスの原因にもなります。
- 単純ヘルペス2型(HSV-2)は、主に性交渉中の皮膚どうしの接触によって広がります。性器ヘルペスの原因ウイルスです。
- HSV-1、 HSV-2ともに極めて高い感染力を持ちます。
- 世界中で、およそ4億人の人がHSV-2に感染しています。
- HSV-2への感染は、HIVへの感染リスクを増大させます。
- HSV-1、 HSV-2ともに、新生児にも感染します。まれなことですが、死に至ることもあります。
註:本文は原文を的確に伝えるために再編集しています。内容の詳細は原文をお確かめください。
概要
「ヘルペス」として知られる単純ヘルペスウイルスは、単純ヘルペス1型(HSV-1)と単純ヘルペス2型(HSV-2)の2つの型があります。HSV-1は、主に口と口との接触によって口唇に疼痛のある水疱を作ります。口と性器との接触によって痛みを伴う性器潰瘍も起こします。HSV-2は、性行為感染症で性器潰瘍を起こします。
口唇ヘルペス/口唇疱疹、 “COLD SORE”
症状
HSV-1は、繰り返し口の周りで痛みを伴う潰瘍を起こします。感染した人の多くは、潰瘍を起こす前に、口の周りにうずき、かゆみ、灼熱感などを経験します。 HSV-1は、稀なことですが、脳炎や角膜炎のような重症合併症も引き起こします。
感染経路
HSV-1は、主に、口唇のただれ、唾液、および口唇の表面に現れるウイルスとの接触によって伝染します。
HSV-1感染症の大半は小児期に起こります。一般的に、症状や発生の頻度は時間とともに減少しますが、感染は生涯持続します。
予防
HSV-1は、口唇ヘルペス症状が現れた時が最も感染力が高くなりますが、自覚症状、目に見える症状がないときでも感染力を持ちます。HSV-1に感染している人は、唾液が触れた物品の共有や他人との口唇の接触を避けるべきです。
免疫不全状態でのHSV-1感染
免疫が低下した人では、HSV-1は症状が重くなり、再発も頻繁となります。中でもAIDS患者でのHSV-1感染は、稀に、ウイルス血症、脳炎、失明に至る眼疾患など、さらに深刻な合併症を起こすことがあります。
性器ヘルペス/性器潰瘍
症状
性器ヘルペスは、主にHSV-2による感染症で、しばしば痛みを伴う性器潰瘍として現れます。主に、HISV-2による感染ですが、HSV-1によっても起こります。性器ヘルペスは、しばしば無症状もしくは気づかない程に軽い症状です。ほとんどの感染者が感染に気づいていません。しかし、感染は生涯持続し、治るものではありません。
症状が現れたときには、性器ヘルペスは複数の水疱や性器潰瘍と呼ばれるただれを特徴とします。性器潰瘍に加えて、初期感染では発熱、全身痛、リンパ節腫脹を伴います。
初期感染の後に、通常は症状の再燃が起こりますが、ほとんどは最初の感染よりも軽度です。再燃の頻度は、時間とともに減少します。再燃時に性器潰瘍が現れる前には、足、腰、お尻に穏やかなうずきや特発的な痛みを感じることもあります。
感染経路
感染は、主に性交渉時に性器の表面、皮膚、ただれや、ウイルスを含む体液が付着した物との接触によって成立します。正常に見える性器や肛門部の皮膚からも伝染します。性器ヘルペスに感染している妊娠女性は、分娩時にHSV-2またはHSV-1による新生児ヘルペスを引き起こす可能性があります。稀なことですが、死に至ることもあります。
口唇ヘルペス(HSV-1)感染者自身は、後から性器ヘルペスを起こすことは稀です。
新生児ヘルペス
新生児ヘルペスは出産時に産道でHSV-1やHSV-2に曝されることによって引き起こされます。新生児ヘルペス自体の感染は稀ですが致死率が高く、感染時には後遺症を残す合併症となります。治療できなかった場合の感染新生児の死亡率は60%と推定されています。新生児ヘルペスの大半は出産時に産道でHSV-1やHSV-2に曝されることによって引き起こされます。
新生児ヘルペスは死亡率と罹患率を予防できるものです。出産時の新生児ヘルペス発生の確率を減らすために、妊娠女性では抗ウイルス治療を行うことができます。また、分娩時にHSV病変が存在する場合には、帝王切開によって新生児への伝染を避けることもあります。
免疫不全状態でのHSV-2感染
HSV-2とHIVは互いに影響し合うことが分かっています。HSV-2は、HIV感染者の中で最も一般的な感染症で、HIV感染者の60から90パーセントが感染しています。 HSV-2感染は、新たにHIV感染症にかかるリスクが約3倍も高くなります。また、HIVとHSV-2に重複感染している人は、他者にもHIVを感染させる可能性が高くなります。
HIV感染者(さらに他の免疫不全を持つ者)の中で、性器ヘルペスを患う人は、多くの場合、症状がより深刻になり、再発がより頻繁となります。AIDS患者でのHSV-2は、稀に、髄膜脳炎、食道炎、肝炎、肺炎、網膜壊死、または播種感染など、より深刻な合併症を起こすことがあります。
予防
性器ヘルペスの感染者は、症状発現時には性交渉を控えるべきです。HSV-1、HSV-2ともには皮膚にただれが生じているときに感染力が高くなりますが、自覚症状、目に見える症状がないときでも感染力を持ちます。
口唇ヘルペス感染者は性交渉相手への性器ヘルペス感染を避けるために、再燃時には口での性交渉を控えるべきです。
コンドームを正しく使用することは、性器ヘルペスの拡散防止に役立ちます。しかし、コンドームで覆われない部位では感染力を持つので、感染のリスクを減らすだけのものと考える必要があります。医学的な男性の割礼は、性器ヘルペスウイルス、HIV、およびヒトパピローマウイルス(HPV)に対して生涯にわたり部分的に保護できる可能性があります。
治療
HSV-1にも、HSV-2にも、抗ウイルス薬(Acyclovir、Famciclovir、Valacyclovir)が最も効果のある治療法です。これらは、症状の重症度と再燃の頻度を減らします。しかし、HSV感染症を(完全に)治すものではありません。
WHOのHSV-1およびHIV-2に対する対策
2012年にHSV感染症患者数の新しい推計が出されました。HSV-1と新生児ヘルペスの新しい世界統計は2015年に出されるべく集計の途中です。
世界では推定4億人が性器ヘルペス(HSV-2感染症)に感染しています。 2012年での有病率は、アフリカ(31.5%)で最も高く、続いてアメリカ(14.4%)が高くなっています。新たな感染者は青年で最も多いものの、その数は年齢とともに増加することも示されています。毎年、およそ2000万人の人が新たにHSV-2に感染していると推定されています。
男性よりも女性の方がHSV-2に多く感染しています。2012年には女性で2.67億、男性で1.50億人が感染症していると推定されています。
さらに、性器潰瘍性疾患が引き起こす原因として、HSV-2はHIVの感染率の上昇にも影響しています。特に、サハラ以南の地域では影響が顕著です。
WHOとその支援者は新生児ヘルペスと性器ヘルペスの予防および制御に対する新しい戦略を展開するための調査を加速させています。この調査には、HSVワクチンの開発、局所的殺菌剤も含まれています。いくつかの候補ワクチンと局所的殺菌剤(性感染症から保護するために膣または直腸の内側に使用できる化合物)が現在研究されているところです。
出典
WHO.Herpes simplex virus.Fact sheet N°400.
Update January2015.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs400/en/